「知ろうとすること。」を読んで

構成・鎌田浩宮

昨日、
川内原発が
再稼働された。

 

今1度、2011年3月11日に、頭をタイムスリップさせてほしいんです。
計画停電があり、電車が部分運休になり、家でエアコンをつけられなかった、苦痛の日々。
そして、今年の夏までずっと、原発がなく生活できた日々。
再生エネルギー事業はどんどん発展しているのに、あの手この手でそれを妨げようとする政府。

僕は以前、東芝で原子炉の開発をしていた人の勉強会に出席した。
彼は言った。
福島第一原発は、津波によってメルトダウンしたのではなく、地震そのものによってなってしまった可能性が圧倒的に高い。
つまりは、川内原発を始め、この先再稼働する原発も、震度の高い地震が起これば、福島同様の事故になるのだ。

そこで、再稼働容認派の人も、反対派の人も、読んでもらえるような本を見つけました。

 

知ろうとすること。
早野龍五 糸井重里 著
2014年10月1日発行

http://www.1101.com/shiroutosurukoto/

早野龍五
1952年岐阜県生れ。物理学者。東京大学大学院理学系研究科教授。専門はエキゾチック原子。世界最大の加速器を擁するスイスのCERN(欧州合同原子核研究機関)を拠点に、反陽子ヘリウム原子と反水素原子の研究を行う一方で、2011(平成23)年3月以来、福島第一原子力発電所事故に関して、自身のTwitterから現状分析と情報発信をおこなう。

僕は今から約35年前、糸井重里に夢中だった。
「不思議、大好き。」
「おいしい生活。」
ヘンタイよいこ新聞。
追い打ちかけるように、NHKの「YOU」。
中学生、僕の友達は、みんなイトイになりたかった。

糸井さんが、ほぼ日を始めた。
興味津々だった。
でも、面白くなかった。
ジーパンとか腹巻きとかジャムとかを、作って売ってた。
ああ、彼も社長さんになりたかったのね。
僕は、ほぼ日になりたくなくて、エプスタインズを始めた。

キヨシローがパンク君が代を歌った時、糸井さんはほぼ日で強烈に非難した。
2人の間には、深い溝が、できた。
僕と糸井さんとの間にも、できた。

震災の後も、糸井さんはNHKのやさい通信とかに出演してて、呑気な隠居爺になったんだなあと、諦めた。

その糸井さんが、原発事故に関する本を出した。
最初は読む気がしなかったが、大好きなアッコちゃんがレコメンドしてたりして、読んでみる事にした。
読み終え、いい本だと思った。
なぜかというと、2人が主観を極力取り除き、事実のみを述べようという姿勢からだった。

以下、皆に読んでほしい箇所を、抜書きしました。
お読み下さい。

糸井
本屋で週刊誌を買うときに、一番上にあるものじゃなくて、ついその下の2冊目を手に取っちゃうじゃないですか。(中略)明らかにきれいな本が上にあるときも、ぼくは2冊目を取ってしまう。(中略)そのような行動こそが、知らず知らずに風評被害みたいなことにつながってるのかもしれない。(中略)「科学的には福島産でも大丈夫なんだろうけど、まぁ、違う方を買っておこう」という行動と、すごく似てると思うんですよ。

糸井
原発事故直後、ネット上でいろんなことを声高に主張している人がたくさんいて、ちょっと怖いくらいでしたよね。そんな中で、早野さんは冷静に事実だけをツイートしていて。ああ、この人は信頼できる人だ、と思ったんです。
何か大きな問題が起こったときに、大きい声を出したり泣いたりして伝える、っていう手法は、歴史的にずっとあったわけです。戦争中もあったし、学園紛争の中でもあった。(中略)「大変だぞ!」「死んじゃうぞ!」って、デカい声を出している人は、何か落ち着いて説明できない不利なことがあるのに、それはひとまず置いといて、とりあえず大声出せばみんなが来ると思ってやっているんじゃないかと思う。(中略)「どんな非常事態であっても、叫ばないでちゃんと説明してくれる人を見つけなきゃならない」ということを、ぼくは過去の経験の中で学んでいたんです。だから、早野先生のツイートを見つけたときは、心からうれしかった。

早野
食べ物による内部被ばくをいちばん手っ取り早く知るためには、給食を測るのがいいんじゃないか。給食を調べれば、福島だけじゃなく日本の割と広い地域がどういう実態にあるかということを調べることができるし、1年くらい続けて測ることによって、汚染された食品が流通しているかどうかという確認もできる。
2011年当時、リスクが高いと思われる地域の方々から測定していたので、事故の直後、放射性のセシウムを吸い込んでしまった人は、確かにいたんです。だけど、その後にセシウムが追加された形跡がなかった。体に取り込まれたセシウムって、(小便などで)ちゃんと体から排出されていくんです。
大人の場合は、100日くらいで体の中の量が半分になり、また次の100日で半分になり…という感じで減っていきます。子どもはもっと早い。だから、同じ方のデータを時系列に見て行くことで、初期の被ばくがどの位か、その後の食べ物による被ばくがどの位なのか、というのがわかるんです。
南相馬で1万人近くの方々を3カ月後、半年後、と追跡して測定しましたが、内部被ばくの量が増えている人はいませんでした。つまり、事故の後、ひどく汚染されたものを食べてる人はいないということです。それがわかったのが2011年の終わり頃ですね。

早野
大元にあるのは、国が定めた「年間の内部被ばくを1ミリシーベルト以内にする」という基準です。内部被ばく1ミリシーベルトっていうのは、セシウムの量として大体1年間に5万ベクレル食べる、という値なんです。国が定めた一般食品の放射性物質の基準値は1キログラムあたり100ベクレルなんですが、これも「年間1ミリシーベルト」の基準から算出されたもので、1年間に1ミリシーベルトを超えないというのは一つの大きな目標なんですね。これを大雑把にベクレルになおすと、1年間に5万ベクレル。言い換えると、1年間に5万ベクレルは使ってもいい、と。
1キログラムあたり100ベクレルぐらい汚染されたお米を毎日食べてる農家があったとします。そうすると、人間はお米を1日に平均200グラム程度食べるから、200グラムだと1日20ベクレル、それを1年間食べ続けると大体6000ベクレルぐらいになります。
5万から6000引くと、まだ4万4000残ってる。だから、過度に心配する必要はない。

糸井
1キログラムあたり100ベクレルというのは、知ってる人にとっては、驚くほど低い数字ですか。

早野
世界的に見ても、とても低い規定値です。ちょっと勉強された方なら、わかる低さです。
2012年度福島県産の玄米で100ベクレルを超えたのは、0.0007%。1000万袋以上測って71袋です。もちろん、このお米は流通していません。
しかも、その99.8%のお米が25ベクレル以下です。

糸井
もし、早野先生の前に女の子がやって来て、「私は子どもを産めるんですか」って、質問してきたとしたら、どう答えますか?

早野
まずは、自信を持って「はい。ちゃんと産めます」と答えます。躊躇しないで。間髪を入れずに。
放射線は、とにかく人間の体に悪影響を及ぼすとみんな思っています。それはもちろんそうなんですけど、大事なのは「量の問題」なんです。福島の人々の内部被ばくや外部被ばくの量は、幸いなことにかなり低い。原爆、チェルノブイリの事故、それから1960年代の核実験による放射性降下物からの汚染、さらに自然被ばく量が多い地域の放射線量など、さまざまなデータと比較しても、これは明らかです。
今、外部被ばく量は追加分として年間1ミリシーベルト以下、というのが目標になっていますが、世界的に見れば、それを遥に超えるところに普通に暮らして、普通に子供を産んで育てている人の数というのは、とても多いんです。
インドのケララ州やイランのラムサールは、もともと自然放射線量の高い地域として知られていますが、それらと比較しても低く、アメリカのコロラドなどに住んだ場合の平均被ばく量よりも低くなるというレベルです。

早野
個人的には、「甲状腺ガンというのは、大人数の子どもを丁寧に検査していると見つかるものなんだ」という結論になるだろうと思ってるんです。
世界で一番甲状腺ガンが発生している国はどこだと思いますか?
圧倒的に多い国、それは韓国なんです。なぜかというと、乳ガンのエコー検査をするときに、道具が同じだから、ついでに甲状腺も検査しましょう、ということを大々的に行ったんです。で、結果的に他の国とは比べものにならないほど大勢の甲状腺を検査した。その結果、人口当たりの甲状腺ガンの患者数が、5倍以上に跳ね上がったんです。
ですから、そういうデータを知ってた方は、わりと早い時期から、「甲状腺のガンというのは、探せば出るんだ」って言ってたんです。ただし、韓国で検査しているのは大人の女性で、福島の場合は子どもですから、一概に「探せば出る」と結論づけるのは早計だという見方もあります。
チェルノブイリの場合、甲状腺ガンは事故の4~5年後に発生してるんですね。もしも、福島で同じようなことが起こったのだとしたら、時間を置いた2度目の検査で発見される甲状腺ガンは増えるはずです。
しかし、甲状腺ガンというのは非常に進行の遅いガンで、ガンの中では危険度が低いんです。わかりやすくいうと、ほぼ、命に別条がない。見つからないまま過ごして、他の病気で亡くなる保持者の方がとても多いと言われているんです。

早野
大人の方がセシウムの代謝が遅く、体内に残りやすいので、子供より検出されやすい。ですから科学的には、同じ食事をしている家族を測って検出されないなら、一緒に暮らしている乳幼児の内部被ばくの心配をする必要はありません。

早野
カリウムは、人間の必須元素です。人体だけじゃなくて、とにかく生き物すべてにとってカリウムは必要です。そのカリウムの中には、放射性物質であるカリウム40も含まれていて、それを生き物は区別して摂取することができない。だから、人間の体の中には、必ず微量のカリウム40が存在する、というわけです。大人であれば1年間に0.2ミリシーベルトぐらい内部被ばくしてるんです。(中略)だから、食品なんかの放射線量を考えるときに「1ベクレルでも危ない!」というのは、ちょっとおかしな考え方なんです。

川内原発が再稼働した。
そこで働く、孫請けのさらに下請けの原発作業員の被ばくは免れない。
その犠牲の上に、川内原発周辺の住民の経済が、潤うのだ。

福島の被災地の友人家族を追ったドキュメンタリー映画「鎌田浩宮 福島・相馬に行く」
2015年8月21日(金) 北海道・二風谷アイヌ文化博物館ポロチセ
2015年8月23日(日) 札幌市教育文化会館
にてロードショウ。
詳細はこちらをご覧下さい。


2015.08.12