福島の人と安倍政権を語る

写真/構成・鎌田浩宮

新国立競技場
を騒ぐ間に、
戦争法案
可決。
福島の人は
どう見ているか。

 

戦争法案?
その前にやらなくっちゃならない重要な事があるのに、隠蔽してるでしょ?
遅々として進まない、復興工事。
漏れ続ける、福島第一原発の放射能。
子供が食べる魚は、本当に安全なの?

エプスタインズで、この戦争法案をどのように取り上げようか、とても悩みました。
すごく悔しいけれど、既に国会は消化試合になっている。
可決は、目前です。
これを招いた一因は、戦争に駆り出される若年層の、選挙の投票率の低下です。

福島で知り合った方に、今何を感じているか、訊いてみる事にしました。
その方は、福島県生まれ 福島県在住 現在は除染作業員として働く、棒さん(仮名)。
中年の男性です。
皆さんもご存じの通り、田畑や家屋の土壌の表面を数十㎝取り除いたり、家屋の表面の汚れを水流で洗い流すことにより、放射線量を減らす作業をしています。
それでは、お読み下さい。

― 戦争法案が可決されそうです。

 安倍は元々改憲論者です。ならば憲法を変えて戦争に行けるようにするのが筋ですが、彼は憲法の解釈を変え「これは違憲ではない」と訴えています。彼自身が彼本来の主義主張を変えてしまっているのです。

― その通りですね。節操がない。

 「これは違憲ではない」で通用するのなら、なんでもありですよね。

― でも棒さんは、2012年の衆院選では自民に投票したそうですね。

 震災直後で、経済復興を最優先すべきだと、敢えて原発推進の党に入れました。しかし反省し、翌年の参院選では自民に入れませんでした。

― アベノミクスを含め、経済復興はできたとお思いですか?

 消費税増税で、経済成長は止まったままだと思っています。しかし、民主党では日銀にあそこまで金融緩和をさせる事はできなかったでしょう。ある程度アベノミクスは成功したと思っています。自民は、戦争法案も原発再稼働も辺野古基地移設も、悪い事しかしていません。しかし、例えそれを予測できたとしても、経済復興のために私は自民に入れていたと思います。

― 僕の周囲でも、給料が上がったという話は聞いた事がありません。ただ、世界経済と連動しているので、ギリシャ事情の壁も乗り越え、株価はまだ上昇するでしょう。東京オリンピックで潤う業種が現れ、2020年まではバブルが続くかも知れませんが、五輪終了と共にアベノミクスは嘘だったと気づくでしょうね。

 私の住む近くの海岸の護岸工事は、震災以降まだ終わってませんが。

― 僕も福島には数回行っていますが、あんなに広い海岸を、クレーン車がたった1台、作業員も数人しかいない情景を多々見ました。五輪工事の方がよほど旨味があるのでしょう。

 津波の被害に遭った住居地域は、皆高台に引っ越してしまったので、ほとんどが更地のままです。

 

原発の
再稼働
について。

 

― 戦争法案の陰でこそこそと、原子力規制委員会が、伊方原発の再稼働を認めました。

 もちろん全ての原発が廃炉になるのが理想ですが、安全が保障されるのならいいのではないかとも思います。

― 規制委を信用しているんですね。

 はい。

― 僕は、以前東芝で原子炉を造っていた元技術者の勉強会に出た事があります。その人が言うには、原発事故は津波で起きたのではなく、地震の震度の強さで起きたというのです。津波が到達した時刻と、水素爆発した時刻を計算すると、どうしてもデータが合わないというのです。地震の起きた時刻だと、整合性が取れるんです。つまり、規制委の主張は全く間違っているのです。

 それは知りませんでした。もっと勉強しないといけませんね。

― 僕も映画を完成させた以上、正しい情報を集めるのに懸命ですよ。

 ただ、原理主義者のように、なんでもかんでも再稼働反対とは言えないと思っています。それでは原子力ムラを説得はできないと思っています。

― その中には、原発作業員のおかげで潤っている民宿などの、地元住民も含まれていますか?

 はい。

― 現在、地方創生大臣というフシギなおじさんがいます。彼は何をやっているんでしょう?僕は真っ先に原発立地地域へ行き、原発に代わる、原発に頼らなくともいい事業を興し、そうした地域が一人立ちしていくようにすべきなんです。もっと言ってしまえば、その地域に、再生エネルギーを大々的に事業として展開していけば、その地域は潤うはずなんです。でも、自民は原発推進派ですから、死んでもそんなアイデアは公言しないでしょうが。

 福島にも仕事が増えれば…。

 

除染に、
ついて。

 

― 除染の作業はいかがですか?

 最近は猛暑なので、作業員も熱中症で倒れたりするんですよ。

― 気温はどのくらいですか?

 34~5℃ですね。

― 東京と変わりませんね!

 熱中症で倒れるのは、60~70代のアルバイトの方です。週に1~数回来られます。

― ご高齢ですね。被災して金銭的に困窮して来られるのですか?

 いえ、普通に年金暮らしをされている方で、経済的に困っているわけではありません。

― 県内に仕事が不足しているからですか?

 いえ。東京からもこの仕事に従事しに来ている人がいます。

― 職のない県内の人を優先的に従事させている訳ではないのですね。

 除染作業員には偏見もあります。他の仕事にありつけないからやっているとか、土まみれになってみっともないとか、もちろん放射能にもまみれるので危険視されます。なので、近所には内緒でこの仕事をしている人もいます。なので、決して人気のある仕事ではないのです。

― 今はどの地域を除染しているのですか?

 小高地区です。原発から20㎞圏内です。現在、住民は昼の立ち入りは許されていますが、泊まる事はできません。

― 避難指示解除準備地域ですね。

 来年の4月には、住民が元に戻れるようになります。

― 今、線量はどのくらいですか?

 作業しているのは、低い所で0.375μSv/hです。地面に近い所や土壌は0.63~1.25μSv/hある所もあります。

― 1日に積算すると相当な被曝ですね。やはり危険な所で作業しているのですね。

参考サイト:南相馬市内環境放射線測定結果

― 0.23μSv/hを越えると危険とされていますから、相当な値ですね。そんなに高い所へ帰れと言われても、拒否する人が出てくるのは当然ですね。しかも解除されたのだから補償金は出なくなるだなんて、馬鹿げて呆れ返ってしまいます。

 平日は住民の方もあまり帰ってきていません。休日が多いですね。

― 一方で、危険を承知で帰宅を望む人も多いはずです。その人々の命を守る行政は行われるのでしょうか…?

 そのためにも選挙には行ってほしいのですが、特に若い人は選挙に行きません。彼らの意思を行政に反映させるためにも、強制的にでも行かなくてはならないような法制度改革をも、やむを得ないと思います。


2015.07.20