都知事選を井戸端会議しましょ。#7「福島の人に訊く」

写真/構成・鎌田浩宮

僕は今、相馬にいる。
大雪のおかげで
放射線量は
いつもより、低い。

都知事選は、
終わった。
原発がある地域の、
放射能の恐怖は
終わらない。

だから、
この連載を
もう少しだけ
続けてみよう
と、思う。

エプスタに
何度も登場してもらっている
福島県相馬市在住の
杉本紀男さん(72)に
都知事選を
訊ねてみた。

 

都知事選に興味はあった?

杉「まあ、新聞とかは読んでたけどな」

-原発が争点になったのはどう思った?

杉「駄目かもなあと思ったよ。だって都民はずるいんだもん。関心がないんだろ?だったら夢の島にでも原発造ればいいんだよ。安全だって言うんならこっちに押し付けないで造ればいいんだよ。再生エネルギーだって、やる気になればできるはずだよ。東電からカネもらってるからできないんだ」

-誰が都知事になればいいと思った?

杉「共産党のあの、宇都宮さんがなればいいと思ったよ」

-細川さんは応援したくなかった?

杉「駄目だなあと思ったよ。総理大臣になった人がしゃしゃり出てくるのがおかしいよ。出戻りは駄目。組織だって1度会長になった人が辞めてまた会長になるっておかしいだろう?」

-それにしても細川さんは票が入らなかったねえ。

杉「演説聞いててもいまひとつピンとこなかったなあ。自民党が後押ししたらもうかなわないよ。細川だってかなわない。舛添だって自民が後押ししなかったら駄目だと思ったよ。投票率が低ければ自民が勝つの」

-田母神が「原発は安全だ、動物は元気よく走ってる」ってのを聞いて腹は立たなかった?

杉「あんなの受かる訳ないと思ってたから何にも思わないよ。動物だって逃がしてあげたから自然交配して増えてるだけだし」

-それにしても田母神は票が入ったね。

杉「自衛隊の人達が入れたんじゃないの?親戚とかも入れるだろうし」

-宇都宮さんか細川さんが当選してたら福島の人は喜んだだろうねえ。

杉「そうだなあ。こっちの人は皆、東京に原発造れと思ってるから」

-宇都宮さん、原発以外の政策はどう思った?

杉「政策云々じゃなくって、弁護士だってところがよかったの。何でもきちっとやってくれると思ったんだよ」

今回の旅で
多くの相馬の人と出会ったが、
おそらく、
皆が、怒りを持って
同じ考えだろう。

「東京に原発を」。

明らかに
原発事故は
風化しちまっている。

これが
311の直後だったら
ウツケンや
細川さんに
もっと票が
入ったはずだろう。

原発を廃炉にしたら
経済が停滞するという
情報操作に
感嘆に騙される、
愚かな都民。

命より、カネが大事なのだろう。

杉本さんは
穏和な人柄だが
明らかに
怒っていた。

そう、
福島は
怒っているのだ。

舛添は
原発推進派なんだから
ぜひとも
東京に原発の建設を
実現してほしい。

再び「脱原発」結集 選挙で分裂、修復へ

脱原発を掲げた候補二人が敗れた東京都知事選から一週間がたった十六日、東京・渋谷で「脱原発・出直しDEMO(デモ)」が催された。選挙では脱原発票が分かれる結果となったが、参加者は「選挙が終わればノーサイド。再び手を取り合おう」と運動の継続を誓い合っていた。

日が傾き、空気が冷え込み出した午後四時すぎの代々木公園。子供からお年寄りまで約百二十人の男女が太鼓やプラカード、チラシなどを持って集結した。

「右とか左とか、考えはいろいろあると思う。でも、今日は脱原発で一つになりましょう」。マイクを手に力強く宣言したのは、インターネットでデモを呼び掛けた団体職員加室徹さん(44)だ。「火炎瓶テツ」の名でこれまでも反原発集会を開いてきた。

「原発いるって思ってますか。渋谷の皆さんどうですか」。シュプレヒコールを上げながら、積雪が道端のそこかしこに残る渋谷の道路上をにぎやかに練り歩いた。道行く買い物客らは足を止め、携帯電話で撮影する外国人の姿もあった。

都知事選では前日本弁護士連合会長の宇都宮健児氏(67)と元首相の細川護熙(もりひろ)氏(76)とがともに「原発即時ゼロ」を掲げて立候補。二人の合計票は、元厚生労働相の舛添要一氏(65)の獲得票二百十一万票に十七万票差まで迫った。

一方で懸念されたのが脱原発派の「分裂」だ。共産、社民の両党が推した宇都宮氏の支持者と、小泉純一郎氏が支援した細川氏の支持者の間に溝が生じた。告示前後には複数回にわたり、一部の文化人が脱原発候補の一本化を模索。両陣営は「政策の優先順位が違う」などとして拒絶したが、支持者の間でかえって亀裂を深める結果になっていた。

投開票日の夜には両候補が、今後も脱原発の世論を盛り上げることをそれぞれ表明。

細川氏は「二人の得票を足すと当選した舛添氏に迫る数だ。政府の政策にも影響を与える」と強調し、宇都宮氏も「引き続き脱原発運動を進め、飛躍的に広げていく。選挙が終わればノーサイドだ」と呼び掛けていた。

この日はデモの参加者からも、「団結」を願う声が上がった。宇都宮氏に投票した渋谷区の無職大河内睦さん(66)は「きちんと最初にまとまってほしかったが、仕方がない。これをいい教訓にして運動を続けていきたい」と力を込める。

悩んだ末に細川氏に票を投じたというのは、長女(3つ)を抱え、長男(7つ)の手を引いていた三鷹市の主婦杢大(もくだい)美根子さん(42)。「分裂はしたが、そのおかげでそれぞれの候補がより多くの支持者を増やせたと思う。結果的には今後につながる一歩になった。私たちも頑張りたい」と話した。

(東京新聞 2014年2月17日月曜日朝刊1面及び社会面より)


2014.02.17