東北の人と「消費税」を語る

構成/文・鎌田浩宮

この
好評連載
も、
とりあえず
最終回
です。

 

最後に東北の人とお喋りするのは「消費税増税決定」についてです。
消費税と東北と、何が関係あるの?って。
被災してお金のない人々も、一律に負担しなくっちゃいけない消費税増税なんて、どう思っているかなあ、ってね。

お相手は、最終回も福島県相馬市在住、杉本敏之君のお父さん・紀男さん
さあ、電話でじっくり語ってもらったど。

 

相馬で、
孫を、
育てる。

 

「消費税増税は困るなあ。公的年金は減額されたし、俺のような高齢者は痛いよ」

えっ?お父さん、年金しか収入がないのに、大変じゃない!

高齢者にダブルパンチ 上がる税金、下がる年金…

公的年金は10月から1%減額された後、来年4月に1%、平成27年4月に0・5%減り、現在の支給額から計2・5%少なくなる見通しだ。予定通りに引き下げが進めば、標準世帯で基礎年金は年額2万100円、厚生年金は同7万800円減少する。

(産経ニュースより抜粋 2013.10.2)

 

なるほどお。

「高齢者の医療費も、上がるかも知れないしなあ」

お年寄りにばかりしわ寄せ。ひどいねえ。誰が今までの日本を支えてきたと思ってるんだろう?

医療費、高齢者に負担増求める 政府の国民会議

政府の社会保障制度改革国民会議は2日、高齢者にも応分の負担増を求める最終報告書案をまとめた。医療では70~74歳の患者の窓口負担を1割に抑える特例を廃止。介護では症状が軽い高齢者を保険給付の対象から外す案も盛り込んだ。

(日本経済新聞より抜粋 2013.8.2)

 

うむうむ。

「食べ物だけでも、消費税は据え置きにしてくれないかなあ」

そういう部分課税してる国って、いっぱいあるんだよね。

「そういや最近仙台から、漢方薬のセールスがうちに来るんだけど、うちの1歳の孫を見て『放射線量が高いから、相馬で子供を育てるのは危ない』って言うんだよ。でもな、宮城だって高いんだぞ」

原子力規制委員会 放射線モニタリング情報

このサイトを見ると、相馬市各地のの放射線量は、0.067~0.416μSv/hとばらつきがある。
環境省では、放射性物質汚染対処特措法に基づく汚染状況重点調査地域の指定や、除染実施計画を策定する地域の要件を、0.23μSv/h以上の地域であることとしている。
それで言えば、確かに相馬市の一部は安全とは言い難い。
一方、仙台市は0.048μSv/hと低い数値だが、相馬市の北西に位置する宮城県丸森町は0.214μSv/hもある。

(2013年9月28日現在の数値です)

 

でもさあ、福島の子供の甲状腺ガンは増えてるんだよ。

「あんなの、原発とは関係ないよ」

そうかなあ。不安になって福島から移住する家族も多いよね。でも、自分の何代も前から福島で生きてきた人に、故郷を捨てろと言われて頭に来るのも、全くよく分かるよ。これは、故郷を持たないで都会で生活している者には分からない感覚だと思うよ。

「太陽光発電のセールスも来るなあ。今後電気代が高くなるから、ソーラーをつけた方がいいって。そんななるまで生きてないっつうの。もう70歳だぞ」

そらそうだわ。ローン払い終わらないって。それに、今現在も原発は稼働していないけれど、電気代はそんなに上がってないじゃない!にしても、いろんなセールスが来て大変だねえ。

「でも、家が流されないでよかったあ。津波にやられてたら、家を造り直す金なんてないんだから」

そりゃあ、東京のうちらもそうだよ。家を失ったら、俺も一文無しだよ。

「農家の人も可哀想なんだぞ。震災で壊れた機械を買い直すのに、全く同じ機種を買わないと補助が出ないんだ。そんなこと言ったって、古い機械を使っていた場合は、もうそんなの売ってないだろ?じゃあ部品を買って直せだってよ。それももう手に入らないんだって」

頭に来るね。

「だから農家の人も、5~6人で集まって組織にしてるんだ。法人だと金が下りるんだよ」

そうやって余計な手間をかけないといけないなんて、ひどいよ。子供を持つ家族も、農家の人も、毎日放射能の不安や震災の後処理に追われてるんだね。マスコミが報道しないようなつぶさなことも話してくれて、お父さん、本当にありがとうね。1時間以上も長話になっちゃったね。家族の皆さんによろしくね。

続いてこちらも最終回、仙台を中心に復興支援の仕事に携わるワオ君(仮名)
正確に書きますと、元々ワオ君の職場は別の仕事がメインだったんですが、震災後、復興支援の仕事が多くなりました。
ちなみに彼は震災時、東京にいたんですが、その後、仙台に転勤となりました。

ですので、復興事業にのみ取り組んでいる人々を代表する意見でもなく、彼個人としての意見なんですね。

ちなみに彼が住み働く仙台市は、被災地ではありましたが、ワオ君が住んでいる所は現在、快適な都市部です。
僕も彼の住まいに行ったことが何度もあるんですが、被災の爪痕は全くと言っていいほど残っていませんでしたねえ。
ですので、被災区域に住んでいるわけではありません。

彼に、電話インタビュー。

 

低所得者

救い
を。

 

「社会福祉に将来金がかかるのは分かっているから、増税は仕方ないと思ってるよ。ただ、消費税は累進課税じゃないからね、そこは懸念材料だけど

そこで僕が増税に反対なのは、被災者にもさらに負担が増すってことなんだけど。

「被災者にどうかというよりは、低所得者にとってどうかなんだと思うよ」

ああ、それはその通りだね。

「低所得者の人には、消費税の増税分を払う相当の還元が必要だと思う」

でもさあ、あれだけ復興予算が無駄遣いされているって報道があると、何だ、税金は余ってるんじゃないかって怒りたくなるよ。

「でも、復興予算が無駄に使われているというシナリオありきで報道されて困ってるんだよ」

そうだったね、ワオ君の団体も、些細な事柄で無駄遣いをしていると一部のマスコミから報道されて、大変だったんだよね。

「経験したことのない大震災で、行政もノウハウを持ってないし、人手はないし、だけど時間はかかるで、予算がうまく分配されないこともあるんだよ。いちいち目くじらを立てないで、温かい目で見てほしいんだ…」

そうだねえ。被災地の役場で、過労などで自殺された職員の方の報道を聞く度に、胸が張り裂けそうな思いだよ。

「例えばNHKが、がれき処理費用に関して、岩手県石巻市と東松島市とで10倍もの開きがあるのはおかしいとテレビで報じたんだけれど、石巻市だって不正をしたわけじゃないんだよ。何もかもがひっちゃかめっちゃかだったあの時に、懸命になってやった結果なんだ」

こちらのブログにその報道が分かり易く書かれているね。何も知らない人が観ると、石巻市はただの悪者になるね。正義を振りかざすマスコミは怖いよ。でも、ワオ君に教えられないでこの番組を観たら、僕も石巻市を悪として見たかも知れないもんね。

「行政のエリアの広さや、被害の規模の差、行政のダメージの差に一切言及しないである一部分だけクローズするのはおかしいと思うんだ」

がれき処理「自治体の取り組みでコストに10倍もの差」

被災地で最も多い426万トン余りのがれきが発生した宮城県石巻市は、
1トン当たりの処理費用が7万1000円と3番目に高くなっています。

石巻市では、解体現場などから十分に分別しないままがれきを集めたことで、多額の費用がかかったうえ、
分別を待つがれきから発生した大量のハエを駆除する費用などもかかり、
がれき置き場の管理費用だけで昨年度、およそ40億円がかかっています。

さらに震災発生直後、入札を行わず、処理業者と随意契約を結んでいた石巻市は、
業者からの請求を十分、チェックできていませんでした。

これに対し、27の自治体の中で最も低く費用を抑えていた宮城県東松島市は、
419万トン余りのがれきが発生しました。
がれきの量は石巻市に次ぐ多さでしたが、処理費用は石巻市の7分の1にとどまっています。

東松島市は、9年前に起きた震度6強の地震の際、
がれきの分別を後回しにしたことで処理費用が当初の予想の1.5倍に膨れあがったということです。
東松島市では市と業界団体が連携してコストダウンに努めてきました。
このため、解体現場で分別を済ませたことで、
がれき置き場の管理にかかる費用が、およそ5億円と石巻市の8分の1に抑えられています。

(NHK総合より抜粋 2012.9.9)

もちろん同じ相馬や仙台の人でも、違う意見は多々あるだろう、それは4回の連載で分かったことです。
福島の人でも「あまちゃん」のファンはいるし、今なお東京五輪に反対の人だって、いますよね。

それは分かりつつ、2人の話は面白かった。
自分の意見を押し付けず、他者の話をじっくり聞くのは、いいことでした。

紀男さんとワオ君の将来に、幸多からんことを願いつつ…。



2013.10.04