ありがとう三軒茶屋シネマ

撮影/文・鎌田浩宮
一部写真・たいしゅん

三茶から
映画館が
消えた日。

2014年7月20日。

60年前から、あった。
改築して今の形になったのは、約40年前。

 

僕が
生まれてから
なくなったものの
多さ。

 

僕は45年生きて来たけれど、こんなにも目まぐるしく、ものは消えていくんだろうか。
白黒フィルムがなくなり、カラーになった。
僕は高校生の頃、8㎜フィルムで映画を創った。
VHSはあったけれど、それで映画を撮る人はいなかった。
僕が若かった頃、なくなった映画館と言えば、日劇やテアトル東京、渋谷パンテオンなどがあった。
そして今、フィルムというものが、なくなった。
使い捨てカメラなんていうものも、覚えている人は少ないんだろう。
写真屋さんは、どうやって食っているんだろう。
三軒茶屋にあった、珍しき屋内式釣り堀も、なくなった。
友達のお母さんがやっていた、三軒茶屋小学校の前の文房具屋さんも、なくなった。
駄菓子屋さんも、なくなった。
三軒茶屋にあった、3つの映画館が、順々に消えていく。
映画館はデジタル上映になり、フィルム上映しかできない、街の小さな映画館は、どんどん消えていく。
だって、デジタルへの設備投資は、1200万円もかかるのだ。
あと数年すると、日本にはシネコンしかなくなるだろう。
映像はCGで、何が本物で、何が嘘か、見分けがつかない。

ここは、本当は、どこなんだろう?
本当に、僕が45年生きてきた所なのかい?
映画館の入口があるけれど、それもなくなるのかい?
憲法だって、なくなるくらいだ。
戦争のできる国に、なっちまうくらいだ。

この3週間の特別上映、全てを観に行きました。
6/28~7/4 「ひまわり」「ニュー・シネマ・パラダイス」
7/5~7/11  「街の灯」「アーティスト」
そして7/12~7/20の最終上映。

「のぼうの城」       12:20 17:05
「そして父になる」 10:10 14:55 19:40

最終日、16時半頃の様子の映像。
写真を撮る人、多い。
右向かいにある旧三軒茶屋中央劇場とセットで撮る人、多かった。

なんと淋しい「本日限り」だろう。

僕は、最後の割引券を使って、200円引きで入りました。

この券は、屋上のバッティングセンターに置かれていて、ビンボーな子供の頃は、そこで割引券を仕入れてから入場したんです。
時には、お金払って、バットを振り回したりしてね。

 

小さな、入口。
大きく、膨らむ、心。

 

さあ、最後の扉を開けて、子供の頃から登り続けた、2階へ上っていく。

いつも三軒茶屋シネマをご利用いただき、誠にありがとうございます。この度、三軒茶屋シネマは、2014年7月20日をもちまして閉館致します。当館は1954年の開館以来60年間に亘り、邦画、洋画を幅広く上映して参りました。しかしながら、設備の老朽化、近年の市況の厳しさ等、諸般の状況から長期的な展望の見通しが立たず、誠に残念でございますが、閉館を決定した次第でございます。60年のご支援ご愛顧を賜りましたことを、従業員一同心より御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

東興映画株式会社 三軒茶屋シネマ

昔から1つも変わらない、受付。
もう、涙が出てくる。

そこには花が。
8㎜フィルムにこだわって創る映像作家・栗原みえさんから。

阪本順治監督じゃなかか。
今年の4月、三軒茶屋シネマに「人類資金」の舞台挨拶で来たんだって。
二番館で舞台挨拶、すごいなあ。

受付の向かいにある飲料の自販機も、殆どが、売り切れ。
時は、一刻と、近づいているんだなあ。

2週続けて名画座としての上映だったのに、なぜ最終上映がこの番組なのか?
代表の人に訊ねたら、娯楽作として「のぼうの城」、華のある映画として「そして父になる」を選んだそうです。

この2本とも、デジタル上映された作品だけれど、二番館や名画座に降ろす時は、フィルムに焼き直すそうだ。
ただ、ロードショウ公開された作品全てがフィルムに焼き直される訳ではない。
限られた映画だけが、降りてくるのだ。

子供の頃、最終上映の時が来るなんて、思いもよらなかった。

このコヤで、ドルビーらしさを感じたことは、なかったのではあるが。
「観覧車入口」の書体がちょっと古めかしくて、今は見ないタイプだ。

じぇ!
ロビーが一杯になってしまい、通路に整列となった。
Uの字になって、折り返し列を作る僕ら。
こんな出来事、初めてなんじゃないだろうか。

 

お年寄り
だけじゃ
ない。
皆、
いるよ。

 

長い時間並んで、ようやく場内に。
カップルも、親子連れも、老若男女、様々で嬉しい。
反原発デモや、集団的自衛権反対デモも、これだけ若い男女がいればいいのにね。

結果、155席は満席。
このコヤ独特の、1番後ろの壁に長い板が貼りついていて、ベンチ席と呼ばれている所も、満席。
立ち見も、出た。

こんな景色が、映画界の最盛期には、頻繁に見られたんだろうなあ。
そんなに遠い昔の話では、ないのだ。
今はなき三軒茶屋映画劇場でも、その昔ブルース・リーをかけた時は満員だったそうだ。

銀幕を背にして、僕のように客席を撮影する人、とっても多い。

そして定刻。
上映後ではなく、敢えて上映前に、最後の挨拶があった。

 

予告編
は、
もう
ない。

 

上映後は映画自体の余韻を味わってほしいから、上映前に挨拶をします、と代表。
30代前半と見える彼は、5年前からここで働いているそうで。
じゃあ、天井が腐って一部がはげ落ちたこと、知らないな?
僕、その場にいたんだぞ。
いいだろう!

僕が「これまでよく頑張ったよ!」と声援を送ると、皆から拍手が起こった。
さらに、時々話が途切れるので、その度に「嗚咽するんじゃないか」と構える観客。
それでも彼は、10分近く喋った。

「それでは最後になりますが、携帯電話はお切りいただき…」
でお客さんの温かい笑い声、そしてさらに
「それでは予告編に続き本編の上映と…あ!最後に大きな間違いを言ってしまいました」
で、館内温かな大爆笑。

そして、最後の上映が始まった。

「のぼうの城」は全く興味がなかったのもあって、前半寝なかったのが不思議だったが、まあまあ楽しく観られた。
この時外は物凄い雷で、場内にもその音が鳴り響いていた。
昔からこのコヤは、外の音が漏れ聞こえたんだよなあ。
合戦のシーンと相まって、まるでサラウンド上映。
今さら設備投資したの?と、皆驚いたんじゃないかな。

「そして父になる」はロードショウの時に観ていて、素晴らしい作品だった。
その時の感想はエプスタのこちらにも書いたけれど、實おじさんを思い出させるものだった。

映画が、終わりに近づいていく。
映画の中の親子が、ある「完結」に近づいていく。
實おじさんは、もう、この世にいない。
映画館は、今日、消える。

涙が、止まらない。

席のあちこちで、鼻をすする音が、聞こえる。
椅子が古くって、ぎいこぎいこ鳴る音も、聞こえる。

後ろを、向いた。
映写室から、まっすぐにこちらを見つめる映写技師さんが見えた。
万感の思いが伝わってくる。

とてつもなく大きな拍手と共に、映画が終わった。
終わって、しまった。

名残惜しそうに、場内から離れない人の多さ。
僕も、その1人だった。

35㎜フィルム映写機を撮影する人が群がる。
これも、あと数年で見られなくなる機械だ。

受付のおばさんにお礼を言って、階段を下りる。
すると、もぎりのお嬢さんが立っていて、お別れの挨拶をしてくれた。
僕も、お礼を言う。

昔からあった、この看板。
もう、ここから出ないといけないのだ。
僕ら地元の者が、もっとかつてからここに足を運んでいれば、こんな事にはならなかったのか。

扉を出ると、スタッフの女性と、代表が待っていてくれて、1人1人に挨拶をしてくれる。
僕は、お疲れ様でしたと、深々とお辞儀をした。

殆どの客が、帰らずにいた。
素通りする人が、ああ今日が最終日か、とか、福山雅治でも出てくるの?とかつぶやきながら去っていく。
中には、代表にねぎらいの声をかけて素通りする、地元の人もいる。

 

コヤを、
どうやって、
遺していくか。

 

映画が終わって小1時間経ち、ようやく全ての客が外に出た。
代表が、近所迷惑になるからと、マイクなしで小声でもう1度、感謝の挨拶をした。
でも、僕らの拍手と声援は、とてもとても大きかった。

ありがたいことに、僕は今、小諸で35㎜フィルムでの映画上映の、スタッフを務められている。
これは、とっても幸せなことだ。
彼らは、もう映画の仕事を、辞めてしまうのか。
時代の流れが速すぎて、恐ろしい。
特に、映写技師さんは、かつて手に職をつけ熟練した技を持っているのに、これから路頭に迷うのだ。

小諸のように、各々個人が立ち上がって、フィルム上映の灯を絶やさずに行くしか、道はないのかも知れない。
数年前までは、シネコンの方が少なかったのだ。
小さな映画館が、少しでも生き残れるよう願いつつ…。

 

 

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皆様へ

三軒茶屋シネマは、2014年7月20日をもちまして、閉館致しました。
長い間ご愛顧いただき、誠にありがとうございました。

東興映画株式会社 三軒茶屋シネマ


2014.07.21