エプスタ編集長による『そして父になる』

写真/文・鎌田浩宮

おじさんへ

また、
いい映画に
出逢いました。

今年の、
3本の指に
入る映画です。

11/1の映画の日、新宿の数百人入るシネコンは満員です。
この映画は9/28に封切りされたので、1月以上経ってもこの人気なんです。
この日の僕は、3本ハシゴするうちの1本でした。

3本ハシゴなんて、子供の時以来ですよ。
厳密に書くと、子供の頃は、3本立ての上映がメインだったんですよね、二番館では。
そういうの、沢山、観たわけです。
全部観終わった後は、さすがに偏頭痛が、ちぃとしました。

http://soshitechichininaru.gaga.ne.jp/

野々宮良多(福山雅治)と妻みどり(尾野真千子)の間には6歳になる一人息子・慶多(二宮慶多)がおり、家族は幸せな日々を過ごしていた。

そんなある日、慶多を出産した病院から「重要なお知らせがある」と呼び出される。出生時に子どもの取り違えが起き、実の息子は慶多ではなく、斎木家の琉晴(黄升炫)だというのだ。

ショックを受ける良多とみどりだが、取り違えられたもう一組の家族、斎木雄大(リリー・フランキー)・ゆかり(真木よう子)と対面した良多とみどりは、「子どもの将来のために結論を急いだ方がいい」という病院の提案で斎木家と交流を始め、病院を相手取って裁判を起す。

6年間愛してきた他人の子どもと、血の繋がった実の息子。子どもを交換するべきか、このまま育てていくべきか、葛藤の中で良多はそれまで知らなかった慶多の思いに気づくのだが・・・。

 

観客

タイムマシーン

戻れる
映画。

 

映画の中で、實おじさんによく似た人を見つけました。
リリー・フランキー演ずるお父さんです。
彼は、稼ぎも悪く、病院からいくら慰謝料をふんだくってやろうか、なんてことを先に考える人です。
でも、彼は、子供と遊ぶ時、心から楽しそうなんです。
一緒になって取っ組み合って、転げ回って。
自分の血の繋がった子供とも、取り違えた子供とも。

一方、福山雅治演ずるお父さんは、自分の幼少の経験から、早く自立してほしいために、子供には風呂も1人で入れさせ、寝る時も部屋は別です。
一流企業で活躍し、ホテルの様な高級マンションに住む、ヤング・エグゼクティブです。

實おじさんは、20代の時に、僕と弟を預かりました。
自分にも、妻と息子がいました。
でも、銭湯に行く時も、江戸川で遊ぶ時も、日曜日にサッポロ一番塩ラーメンを作ってくれる時も、ビートルズを聴かせてくれる時も、分け隔てなく楽しそうでした。
そこに大人としての笑顔はなく、寅さんのように、ガキ大将になって一緒にすごしているようでした。

そんなことを思い出して、リリーと子供たちを観て、涙が止まらなくなりました。
リリーは俳優ではありませんが、天才的な演技だと思いました。
タイムマシーンに乗ることができて、實おじさんとの日々に戻れたら、こんな風にすごしていたんじゃないか。
再現フィルムのような映画。
Visual Studio プロダクトキー

だから、人によっては、自分の両親を思い出したり、おばあちゃんおじいちゃんを思い出したりするんでしょうね。

 

メロン騒動。
パパイヤ騒動。

 

實おじさんは僕らをどんな思いで育てていたんだろうと思い出させられ、涙が止まらなくなったんですが、周りのお客さんも、あちこちで鼻をすすっているんです。
皆、僕のような体験があったのではあるまいに、なぜ泣いているんだろう?
不思議な気持ちになりました。
皆、子供の立場になって感情移入しているんでしょうか。

僕も、實おじさんの家に預けられた時、僕の意見などは訊かれさえしませんでした。
この映画でも、子供の意見は全く聞かずに、親だけで決めていこうとします。

だから僕は、おじさん家に預けられている時、1度だけわがままを言いました。
当時、時々母が会いに来てくれるんですが、冬の季節に、パパイヤを買ってきてくれと言って聞かなかったんです。
あの頃はパパイヤなんて高級な果物、夏でさえ売ってやしません。
でも、僕は譲らなかった。
何時間も探してやっと買って来たパパイヤを、僕は無表情で食べました。

寅さんが「メロン騒動」なら、キャマダは「パパイヤ騒動」でした。
両親と暮らしたい気持ちを、裏返しにして出したのでした。

 

ぼく

うち

どこ?

 

僕が實おじさんやおばさんの素晴らしさをどんどん理解していったように、映画の中でも、交換し合った子供は、徐々に新しい家庭に馴染んでいきます。
福山の家で、血の繋がった実の子供と3人で、流れ星を見ます。
「何か願い事した?」
と訊かれた子供は、初めて泣くのです。
前のおうちに帰りたい、と願ったと言って。

僕はあんなに寂しそうな眼をして、實おじさんに、何か言ったことがあったでしょうか。
そんなことがあったとしたら申し訳なかったな、と思うと、涙が止まらなくなりました。
周りのお客さんもです。

福山演ずるは良多は、そして父になっていくのです。

 

父性

本能
じゃない。

 

父性や母性というものは、実は本能ではなく、学習して身についていくものです。
多くの学者がそれを証明しています。
例えば、幼児虐待をしてしまう親は、自分もそうされたつらい経験を持つ場合が多いのです。
どうやって子供を育て、導いたらいいか分からない。
気づくと自分がされたように、いつの間にか手をあげていた、というケースです。

良多は、孤独な家庭に育ちました。
であれば温かい家庭を作ろうと心掛けるのかというと、そうでもなかったりするのです。
孤独に打ち克つ子供に育てようと、小学1年の息子に、風呂に1人で入れさせ、部屋を与え1人で寝るようにさせるのです。

 

そして
おじさん

なる。

 

僕がもし親になることがあったら、どんな父になるでしょう?
僕は父性というものを、實おじさん以外の人から学んだことがありません。
ならば、實おじさんの様に、温かい家庭を築けるか?
しかし、そうとも言い切れません。
僕の実の父のように、家庭を顧みない、ろくに働かず、浮気しては家出をする父になるかも知れません。

僕には、旦那が浮気して家出してしまった友達がいます。
彼女の子供達と遊ぶ時、僕は、まるっきり實おじさんの振る舞いでした。
子供達はすぐになついてくれました。
實おじさんから学んだことを感謝しました。

どうやって「そして父になる」のか、さらには子供や妻から学習していくものでもあればいいなと思います。

調べたら、二番館どころじゃなく、まだロードショウ館で上映されています。
人気、あるんですね。
奄美大島でこの映画が上映されることがあったら、よかったら観に行ってみて下さいね。

追伸
12/20は、實おじさんの1周忌です。
それまでにこの原稿を書き上げられて、よかったです。


2013.12.16