エプスタ編集長による『2012年映画ベストテン』

一部写真/文・鎌田浩宮

去年は僕にしては多く、18本の新作映画を観ることができまして。
最愛の息子、愛猫・浪の死で家に閉じこもっていた僕は
大友太郎くんに付き添ってもらって映画館へ行くことで
徐々に、外出できるようになったんです。

幸い、今年は観たい映画が、沢山ありました。
だから、見逃しちゃった映画も、多々あります。
なので、あくまでも観た範囲でのランキングなんだけど。

それでは、栄冠のベストテン、発表します!

1位
青いソラ白い雲
監督・金子修介
出演・森星、大沢樹生、渡辺裕之

1位から3位までは、どれも全く同列の傑作。
1位と2位は、正に今日的な映画になったけれども、それは僕が「社会派」なわけではなく、映画として素晴らしいからですよ。

「青いソラ白い雲」についてはエプスタのここで存分に賛辞を書きまくったど。
今よりももっと原発事故を扱うことがタブーであり、スポンサーも上映館もつかない震災直後に、これだけの物語を構築したことは、奇跡。
「希望の国」よりも僅差で1位に選んだのは、この映画が今後も現れそうにない原発事故を扱ったコメディーであり、ラストシーンにて「この国に対しての救い」をしっかりと提示しているところなんです。

 

 

2位
希望の国
監督・園子温
出演・夏八木勲、大谷直子、村上淳、神楽坂恵

日本に住む全ての人が観るべきこの傑作も、エプスタのここで書きまくり、スタッフの方からもお褒めいただいきました。
1位の作品と異なる優れた点は、物語のほとんどが綿密な取材による事実によるタペストリーであり、国内外の評価が減ることを覚悟であのラストシーンを描いた点です。

 

 

3位
スケッチ・オブ・ミャーク
監督・大西功一
出演/整音・久保田麻琴

僕は、よかった映画には、観終わった後で拍手をすることにしてるんです。
つられて一緒に拍手してくれるお客さんも、時々いますね。
しかしこの映画は!僕、上映中に、拍手しちゃいました。

その感動もエプスタのここここに書きなぐったです。
スタッフの方からもお褒めいただいたです。

お正月には神社へ行き、教会で結婚式を挙げ、寺で葬式をする僕たちが、いかに阿呆か。
自然を崇とび、自然に向かい歌を捧げることを、遙か昔から今なお続けている人々の記録を観て、多くの人が胸を打たれている。

 

 

4位
スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス 3D
監督・ジョージ・ルーカス
出演・リーアム・ニーソン、ユアン・マクレガー、ナタリー・ポートマン

小学4年生の時にスター・ウォーズと出逢い衝撃を受けた者としては、この6作品を3Dで観られることが狂喜でして。
数年前のロードショウで、このエピソード1を観た時は、なんて駄作なんだとガッガシしたもんだけれど、最初のカット、満天の星が広がる宇宙を3Dで観た時ゃあもうプラネタリウムにいるみたいで、そこから2時間はもう夢心地でした。

 

 

5位
ライク・サムワン・イン・ラブ
監督・アッバス・キアロスタミ
出演・奥野匡、高梨臨、加瀬亮

彼の映画は映像美を挙げられることが多いけれど、僕が驚いたのはサウンドデザインだった。
街の中に存在する「音」や「ノイズ」をそのまま録音せず、いかに映画の中で「再生」するか。

言語の異なる日本人への演技のつけ方も、同様に繊細だった。

ある評論家が書いていたことをそのまま書いてしまうが、911以降、世界は崩壊したのではなく、崩壊した後も世界はだらだらと続いているのである。
その世界を生きていかねばならぬことの困難さを、この映画は描いている。

 

 

6位
この空の花 長岡花火物語
監督・大林宣彦
出演・松雪泰子、髙嶋政宏、猪股南

どの若手の映画監督よりも、彼のような大御所の方が遙かにアバンギャルドで実験的なのはなぜか。
今の若手に、目を見張るような個性的な作家性を持つ者が、見当たらない。
スポンサーやプロデューサーの
「稼げる映画を創れ」
に迎合するだけの若手が多すぎる。

この映画には、大林監督独特のアイデアが、どの過去の作品よりも盛り込まれているように思える。
唯一残念だったのは、311以降という設定であり、しかも原爆もテーマに盛り込みながら、原発にはほとんど言及していなかったこと。
大林にも、タブーは存在するのだ。

 

 

7位
ル・アーヴルの靴みがき
監督・アキ・カウリスマキ
出演・アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン

山田洋次監督が新聞広告でお薦めしていたので、観てきました。
人情というものが、いまのEUに残っていたら、という意味でのファンタジー。
フランスの港町の長屋横丁は、かつての日本のように貧しく、人情に厚かった。
そして最後の2つの奇跡に、ほろり。

 

 

8位
ミッドナイト・イン・パリ
監督・ウッディ・アレン
出演・オーウェン・ウィルソン、マリオン・コティヤール

その監督全ての作品を含めてトータルな評価をするならば、ウッディ・アレンは相当な上位に位置するだろう。
そんな彼の作品を、傑作・まあまあ・いまいち で評価するなら、この作品は
まあまあ
に位置するんだけれど。

パリでフランスワインの試飲会があり、アメリカのセレブ爺が
「やっぱりカリフォルニアワインが世界一だよな」
と言うカットがある。
ウッディの、アメリカに対する痛烈な皮肉を味わえた。

 

 

9位
あなたへ
監督・降旗康男
出演・高倉健、田中裕子

僕は健さん世代ではないのに、
「幸福の黄色いハンカチ」
「遙かなる山の呼び声」
で、すっかり健さんファンになってしまったのよ。

いい意味で不親切な演出なので、観客に伝わっただろうか。
この映画のテーマは、
「私が死んだら私のことは忘れて、貴方の人生を生きて下さい」
という、新しい人間関係の提示。
ただ、僕はそれを、受け止めきれなかったけれど。

健さんは、常に全力。
だからこそ、夕焼けのシーンでCGなどは使わないでほしいなあ。
健さんに失礼だ。

 

 

10位
誰も知らない基地のこと
監督・エンリコ・パレンティ、 トーマス・ファツィ

世界中に配置されている米軍基地。
沖縄と同様、その多くで反基地運動が起こっている。
この監督はイタリア人。
イタリアでも反対運動が起きている。

なぜこんなに沢山世界中に米軍基地があるのさ?
それは、アメリカの軍産複合体が、オスプレイなどの兵器を造り続け、売りさばくためには、米軍基地が増え続ける必要があるからさ。
ということを分かりやすく説明したドキュメンタリーで、沖縄での取材映像も豊富。

 

 

次点
ひみつのアッコちゃん
監督・川村泰祐
出演・綾瀬はるか、吉田里琴

こういう映画も、観ます。
コメディエンヌとしての綾瀬はるか、素晴らしいと思う。
原作漫画の当時を意識した、60年代風にアレンジされたファッションも、いい。
フジテレビのドラマのような、恋愛一辺倒ではないストーリーもいい。
現代は、時代が殺伐としているせいか、こういうほのぼのとしたメルヘン作品、意外と少ないんだよなあ。

最後に。
このランキングに、森田芳光の遺作
「僕達急行 A列車で行こう」
を入れたかったんだけれど、残念ながら、秀でる箇所の見つけにくい映画でした。
逆に言えば、いい意味でのプログラム・ピクチャーだし、続編さえ観たいくらいでした。
合掌。

やっぱし、映画は、映画館で、です。
フィルムからデジタルに変わって、画質の劣悪な映画も増えたけど、それでも、暗闇の中で皆が銀幕に息をひそめるのは、いい。
今年も、よろしくお願いします。


2013.01.15