エプスタ編集長が観劇『今、伝えたいこと(仮)』後編

写真/文・鎌田浩宮

仙台、
石川県や
京都府でも、
上演された。
その、
最終公演。

僕らが
その
思いを
引き継いで
いかねば
ならない。

劇は、放課後の教室、3人の女子高生がゲームをして談笑するシーンで始まる。
次第に話題は震災の話になる。
彼女たちの本音が、芝居という形を借りて次々と発せられる。

その中で1番ショックを受けたのは、廊下を通りがかり彼女たちの会話を聞いた生徒が、
「震災の話をしてる人がいる!」
と言いながら去っていくシーンだった。

僕は最初、そういう「ネクラ」な話をしている彼女たちを「キモイ」と揶揄している場面なのか、と思った。
しかし、そうではないかも知れない。
どうしても、真意を、訊きたい。

公演後、スタッフの生徒さんにインタビューできたので質問した。
その生徒さんは、どこのアヤシイおっさんと避けることもなく丁寧に答えてくれ、はっきりとした口調で否定した。
「学校の中では、震災に関する言葉は、全てNGです!誰の家族が震災で亡くなったか分からない、震災を話題にして、誰が傷つくかも分からない。絶対に喋っちゃいけないんです」

!!

学校というものは、会社とは違う。
自由に友と語り合い、そこから真のコミュニケーションが始まり、友情が生まれ、その中には、生涯の友になる仲もできるだろう。

しかし、彼女らの中には、タブーがある。
1番本音で語り合いたい、自分の将来の根幹に関わることが、話せない。
そこは生き生きとできない、息をひそめて過ごす、歯がゆい、息苦しい空間になってはいないだろうか。

本来は、長い人生の中で、最も闊達に過ごす時間なのに。

だから、文化祭でも、そんな劇を発表するはずがないのだ。
校外でこんなに評価され、新聞やテレビでも取り上げられている劇は、校内では上演されないのかも…。
彼女たちは校内で、どんな日常を生きているんだろう?

 

「頑張ろう」
「希望」
「絆」
という言葉を、
使うことの
危険さ。

 

劇中、3人の中で、1番陽気で朗らかな望美が、遺書もなく自殺してしまう。
なぜ死んでしまったの?
残された2人は、次第に隠れた事実に気づく。
望美の自宅が原発の警戒区域にあって、家族が全員津波で亡くなっていたこと、酪農家の親戚の家に預けられて、慣れない生活で悲しい思いをしていたこと、誰にも言えずに悩んでいたこと、さらには原発事故による将来の不安、ネットによる差別 が追い打ちをかけた。

35分の劇は、このようにハッピーエンドでは終わらない。
「誰かお願いです!私たちの話を聞いてください!子供の訴えを無視しないでください!今ある現状を忘れないでください!望美のように死ぬほど苦しんでいる人がいるのを忘れないでください!」

このアンハッピーエンドに関しては、放送局顧問の渡部先生が、日経ビジネスの取材でとっても簡潔に語られているので、敢えて転載しますね。

「やはり内容は衝撃的だった。被災して苦しんでいる人の声は、まだまだ世の中に届いていない。私の担当は、前向きではない人々の声を多くの人に聞いてもらうことなのかなと思い始めた。完成する前、『復興に向けて頑張ろう』というような内容だったら嫌だなと思った。もしそういう言葉があったら、それは大人たちに利用されることになってしまうかもしれなかった。結果として、『頑張ろう』という言葉が出てこない作品になった。何よりも、政治家や大人たちに悪用されない芝居ができたことが、本当に良かったと思う。生徒たちのありのままの思いが表現されたこの作品を通して、福島に住む高校生の心の奥底に触れてほしい。高校生は同じ世代として受け止めて、大人はもう一度自分たちの住む日本という社会について考える機会にしてほしい」

中日新聞の取材に、出演者の1人もこのように答えている。

「未来に向けた明るい劇じゃなく、あえて私たちの不安をぶつけた。文句を言われるんじゃないかって、大ブーイングがあるんじゃないかって、そう覚悟してつくった劇。だから、受け入れてもらえるのはうれしい。福島の今の気持ちを広めるチャンスだと思う」

並べて恐縮だが、僕らのバンド・舞天のライヴもそうだった。
全6曲中、半分の3曲が反原発の歌。
どの曲も、そこに希望を見出すものはなく、崩壊しちまった社会になおも生きていかねばならない困難さを歌った。
この選曲は、バンドのメンバーにも反対された。
でも、僕は意志を曲げなかった。

35分の劇は終わり、長さも短さも感じず、素晴らしい劇を観終わった後だけにある、濃密さが残った。
僕は拍手だけでなく、
「よかったよ!」
と歓声を上げた。
続いて他の席からも、声が飛び始めた。

舞台袖に去る彼女たち、その声を聞いてから、笑顔だった!


(この写真ももちろんマナーを重んじ、上演前の客入れ時に撮ったものです)

 

思い出す
だけで、
つらくなる、
記憶を、
演ずる。

 

その後、キャスト・スタッフ・渡部先生らによるトークタイムとなった。

「最初の頃の上演では、怒りをぶつけていた。でも、公演を重ねていく毎に、この思いを共有してもらえていると感じるようになった。この劇のタイトルに(仮)とついているように、芝居の台詞はどんどん膨らんでいき、丸みを帯びるところも出て来て、最初の脚本からどんどん変化していったんです」
と答える彼女たち。
ああ、それはよかった。

「この芝居は、やっていてとてもつらいんです。いつも、辞められたらって思います。でも、終演後の拍手を聞くと、嬉しくなるんです」
そうだよね。
様々な意味合いで、つらいよね。
芝居する度に、忘れてしまいたい震災当時を思い出してしまう。
怒りや願いを演ずるには、多くのエネルギーがいる。
さらには、無礼なバッシングや批判もあるだろう。
こういった芝居を校外で行えること自体が、苦労だろう。
教員同士、PTA、教育委員会等々、いい顔をしない人もいるかも知れない。

 

観客との質疑応答になった。
涙ながらに言葉を詰まらせながらお礼を言う年配の方や、沢山の人が思いを伝えたくて、時間はどんどん過ぎていく。
司会の方が投げかけた。
「ぜひ中学生にも感想を聞きたいんだけど…」
誰も手を挙げなかったらどうしよう?
その不安は杞憂だった。
しっかりと挙手をし、男の子が答えた。
「僕は原発のある女川から来たんですが、僕らももっと原発のことを考えていかなければならないと思いました」
しっかりとした口調に、拍手が沸いた。
最初の頃うつむいていたあの子も、しっかりと前を向いていた!

最後に
「こうした子供たちが、矢面に立って闘わなくてはいけない現状を考えてほしい」
と先生が語り、
「これからも闘っていきます!よろしくお願いします!」
と笑顔でお辞儀をして、去って行った彼女たち。
僕は拍手と共に、また歓声を上げた。
「お疲れ様!ありがとう!」
直後に、あちこちの方から歓声が上がった。

しかし、最後の挨拶が僕の胸に重くのしかかるのは、すなわち、一緒に闘っていきましょうというメッセージだからだ。
彼女らだけに闘わせるなどと、呑気なことを言ってはならない。
僕らも、長い時間をかけて闘う良心はあるのかという投げかけなのだ。

 

大人か。
子供か。

 

彼女たちはこの春3年生になり、受験勉強に専念する。
この芝居をまだ続けたいという思いもあるだろうし、形は変わってもこうした思いを将来も伝えたいだろうし、一方で大学で人生を謳歌もしたいだろう。

僕は自分の高校時代を思い出した。
顧問の先生は、僕らを子供扱いしなかった。
「義務教育ではない、もう働いている者もいる年齢だ、子供扱いされることを怒るようでなければならない。70年安保の時には、学校を変え、社会を変えようと、高校生も全共闘に加わっていたんだ」
と言い、指導することを極力嫌がった。

僕はそんな中で音楽や映画や学校新聞を創ることに熱中し、大学進学に意味を見出せず、3年生になっても受験勉強はせず、自分の中から生まれる表現せずにはいられないものを、夢中になって創っていた。
笑ってもらってほしいんだけど、僕らは卒業式の数日後にも、校内で芝居の公演を打ったくらいだ。
当たり前だけど、生徒の客は10人も来なかったんじゃないかな。

おまけにうちの都立新宿高校は、校内敷地を削られ道路を建設するという問題が起こり、僕らはそれに反対する委員会を作った。
特に教師の支援もなく、孤独な闘いを矢面に立ってやっていたんです。

学力的には圧倒的に落ちこぼれ、一浪して三流大学に入るんだけど、僕は後悔していないというか、こういう不器用な生き方しかできない人種なんだと呆れてます。
大人扱いして突き放してくれた教師にも感謝しています。

一方で、相馬高校の彼女たちのように、社会と闘いつつも、自分の人生をしっかりと豊かなものにしようとし受験に励む姿を喜ばしく思います。
そして、ネットに代表されるようなバッシングやプライバシーの損害から身を挺して守ってくれ、道案内をしてくれる先生がいることも嬉しく思います。

人生というものに、正解はないからね。
ただ、相馬の彼女らも、僕も、人生が楽しく豊かであらんことを目指しているだけなんだよね。

僕は、開場前に回ってきた、彼女たちへのメッセージボードに、こう書きました。
「僕は無責任に『頑張って下さい』とは言いません。この困難な世界を『共に』頑張っていきましょう」

さて、この劇を見逃した読者の皆たち!
この芝居を生で観られることは当分なさそうだけれど、DVDの上映会が続々とあるでよ。
まずは今週末の、こちらを紹介。

http://blog.goo.ne.jp/peach-crc/e/06e340cb532026db128a6783302fa273

■日 時:2013年3月23日(土)18時半~21時(開場18時)

■上映作品:
◇演劇DVD「今 伝えたいこと(仮)」《2013年3月南相馬公演版(予定)》
◇ラジオドキュメント「緊急時避難準備不要区域より」2011年6月制作
◇テレビドキュメント「Girl’s Life in Soma」2012年6月制作
・・・ほか3.11以降、制作された作品

■ゲスト:渡部 義弘 教諭(福島県立相馬高校放送局顧問)

■参加費:500円(学生・20歳以下無料)

■定 員:100名【事前申込制・定員になり次第または3月22日締切】

■申込先:メール peach.crc@gmail.com または FAX 03-3654-2886

※お名前・連絡先(メール・電話番号)を必ず明記して下さい。

■問合先:090-3213-4575(大河内)

■会 場:文京区民センター:東京都文京区本郷 4-15-14
http://www.cadu-jp.org/notice/bunkyo_city-hall.htm
地下鉄 春日(大江戸線、三田線)駅すぐ、
後楽園(丸の内線、南北線)徒歩5分、
JR(水道橋)徒歩10分

■主 催:子どものための平和と環境アドボカシー(PEACH)/見樹院


2013.03.20