エプスタ編集長が観劇『今、伝えたいこと(仮)』前編

写真/文・鎌田浩宮

今回は、
映画じゃなくって、
舞台劇なんです。
もう、
どうしても
エプスタ読者の皆さんに、
伝えたくって。

エプスタに度々沢山何度もガシガシ登場する、僕のダチの杉本敏之君は、福島県立相馬高校の出身なのであるが、彼の後輩である相馬高校の生徒たちが、すんごく興味をそそられる芝居をやっていて、なんとありがたいことに東京公演があり、しかも!それをもって彼女らの最終公演となるというので、何を差し置いても行ってきましたど。

「今、伝えたいこと(仮)」という題名のその劇を、僕はずっと前から新聞かネットで知ったのだけど、現役高校生であることを考慮して、youtubeには1つの映像もアップされていないし、一体どんなストーリーなんだろう?

知っているのは、実際に震災や津波や原発事故を体験した生徒たちが、その経験を元にオリジナルの脚本を創り、反原発を訴えているということ。

でも、それだけの情報で、充分。
被災、被害に遭った10代の、生の声を聴ける。
すっかり、観たくなっちゃった。

行ってきたぞよ、2013年3月17日、日曜日。
東京都渋谷区の、笹塚ファクトリーというスペース。
昼の12時半開場、1時開演、全席後払いカンパ制の自由席ということで、一体どのくらい早く並べばいいのかしら?

ということで、12時少し過ぎに行くと、よかった!1番乗り。
しかし僕が並んでからすぐに行列ができ始めた。
皆、入れるといいなあ。
前日16日との2回公演なんだけど、前日は、開場4時間前から来ていた人もいたそうで、僕、ラッキー。


(1番前に並んでいる、の写真)

 

どこで知ったか
老若男女、
10代の生の声を聞きに。
満員。

 

約220席ある会場はすぐに満席。
毎週金曜の首相官邸前デモもよく見かけるけれど、こちらも50代以上の年配の方が多い。
でも、若者も少なからず見受けられるのが、嬉しい。

いずれにしても、フェイスブックなどのネットによる口コミの重要性を感じる。
なぜなら、この公演を観るには、「こくちーず」というサイトで予約をしないといけないシステムになっていたからだ。
パソコンに疎い年配の方や主婦の方でも、ネットを活用しないといけなかったのだ。

予約をしないで来た人は当日券扱いとなり、予約者の後の入場になる。
全ての人を収容できるかはその人数による。
今回は皆入れたみたい。
よかったね。

観客の中には先生の引率でやって来た、原発のある宮城県・女川中学や、他の中学校、合わせて約50人の中学生も。
皆、制服じゃなくって私服なのが嬉しいな。
堅苦しいことを言うつもりはないけど、制服は、学校への隷属の象徴だからね。

歌手の加藤登紀子さんや、脱原発区長で知られる保坂展人世田谷区長も観に来ていた。
前日も満員だったそうだ。

公演後、実際にこの芝居のスタッフである相馬高の生徒さんにインタビューしてみると、この劇が生まれたきっかけというのは、以前同じ場所・笹塚ファクトリーでイヴェントがあり、その際に同校放送局が制作した音声ドキュメンタリー「緊急時避難準備不要区域より」を発表した際に、その内容が好評で、次は生の声を伝える演劇を創ってみないか、と関係者から持ちかけられたそうで、演劇部に声をかけ実現したとのこと。

僕はてっきり、校内の文化祭か何かでの発表がきっかけだったのではないかと、浅はかな想像をしていた。
それがなぜ浅はかなのかは、後述しようと思う。

場内が暗くなった。
劇の前に、若松丈太郎の詩「みなみ風吹く時」の朗読を音声のみ、4分。
そして、音声ドキュメント「緊急時避難準備不要区域より」を音声のみ、7分。
また上演後には、同じく放送局の制作による映像「Girl’s Life in Soma」を、8分。

「みなみ風吹く時」は、福島原発事故のずっと前、1992年に書かれた詩で、1978年から町に咲く花に異常が見られたり、コバルト60が検出されたり、しまいには自分の頭髪が一気に抜け落ちることさえあった、しかし全て原発との関連性は認めてもらえなかったというショッキングな詩だ。
(こちらでその全文を読むことができます)
それを、相馬高放送局の生徒さんが朗読している。

僕も、自身のバンド・舞天での
「親愛なるりんだへ」
という曲では、敢えて2007年にあった新潟中越沖地震で起きた柏崎刈羽原発の火災事故を歌うことによって、311の前兆は既にあったのだと訴えている。
311以前から、反原発を歌ってきたという自負も、ある。
だから、この詩を選んで朗読する思いは、強く伝わってくる。

「Girl’s Life in Soma」は、相馬高放送局が制作したドキュメントヴィデオで、311以降の相馬高の生徒たちの心の動きを描いている。
最後のカットでのモノローグに救われる。

「放射能なんて怖くない。
本当は怖いけど、怖くない。
差別なんかされてらんない。
差別されても負けない。

何が何でも楽しく生きてやる。
だって、女子高校生だもん。」

大丈夫かな?
僕の前の席の中学生の後頭部、うなだれている。
昼食後に暗闇で音声だけ、というのは厳しいのかも。
興味がなくて、うとうとしているのか…。

それとも。


(写真はもちろん、マナーを重んじ開演前の客入れ時のものです)

 

全ての表現者は
飾らず、
素直な、
言葉

表現

学ぶべき。

 

そして、劇が始まった。
舞台には、折りたたみ椅子が3つだけ。
照明も、シンプル。
出演者も、3人だけ。

でも、訴えたいことを、なんの装飾もせずに、素直に脚本にし、素直に演じているから、いくらだってシンプルでも、全く遜色がないのだ。
まるで鍛えに鍛えたプロの劇団が、そぎ落とせる部分を極力そぎ落としたかのような、音楽で言えば、ピアノと歌だけの弾き語りでもぐいぐい引きつけるかのような、力強さ。
その力強さは、ハードロックのように叫んだり力んだりして生まれる強引なそれ、ではなく、あくまでも素直さから出てくるもの。

放課後、3人の女生徒が談笑している場面。
ただゲームをして遊んでいるだけなのに、いつの間にか震災の話をしている。

「私たちは結婚できるのか?子供を産めるのか?」
「ネットゲームをしていたら『福島の奴か、放射能、うつすんじゃねーよ!』って書き込まれた」
「今まで原発のおかげで潤ってきたと思う。でも、警戒区域外だからってこっちは何の補償もされてないんだよ」
「国のお偉いさんは『収束した』の一点張りしているけど、私たちの中では終わってないよ」
「こんな世界にしたのは私たちの世代じゃあないのに」

こういった台詞やエピソードは、創作ではなくおそらく彼女らが実際に体験したことを、一切飾り付けずに表しているんだろう。
演劇上の特別な技術だとか、技巧の上手さは、要らないのだ。
だからこそ、プロの名作と同じくらいに、胸を打つのだ。

僕は、ハンカチで涙をぬぐった。
周囲のあちこちから、鼻をすする音が聞こえる。
それは、花粉症のせいか。

それとも。

その他にも、劇中1番ショックだった場面があった。

この項、つづく・・・

さて、この劇を見逃した読者の皆たち!
この芝居を生で観られることは当分なさそうだけれど、DVDの上映会が続々とあるでよ。
まずは今週末の、こちらを紹介。

http://blog.goo.ne.jp/peach-crc/e/06e340cb532026db128a6783302fa273

■日 時:2013年3月23日(土)18時半~21時(開場18時)

■上映作品:
◇演劇DVD「今 伝えたいこと(仮)」《2013年3月南相馬公演版(予定)》
◇ラジオドキュメント「緊急時避難準備不要区域より」2011年6月制作
◇テレビドキュメント「Girl’s Life in Soma」2012年6月制作
・・・ほか3.11以降、制作された作品

■ゲスト:渡部 義弘 教諭(福島県立相馬高校放送局顧問)

■参加費:500円(学生・20歳以下無料)

■定 員:100名【事前申込制・定員になり次第または3月22日締切】

■申込先:メール peach.crc@gmail.com または FAX 03-3654-2886

※お名前・連絡先(メール・電話番号)を必ず明記して下さい。

■問合先:090-3213-4575(大河内)

■会 場:文京区民センター:東京都文京区本郷 4-15-14
http://www.cadu-jp.org/notice/bunkyo_city-hall.htm
地下鉄 春日(大江戸線、三田線)駅すぐ、
後楽園(丸の内線、南北線)徒歩5分、
JR(水道橋)徒歩10分

■主 催:子どものための平和と環境アドボカシー(PEACH)/見樹院


2013.03.19