エプスタ編集長による番外編『青いソラ白い雲』

文/写真・鎌田浩宮

ひょっとしたら
今年ナンバーワンの日本映画、
見つけちゃいました。

911をテーマにした映画は、 Robe demoiselle d’honneur bustier
その作品の出来はまあまあ横っちょにおいといて、
マイケル・ムーアの
「華氏911」
よりも世界中の誰よりも早く我々が
「モナーク三軒茶屋410」
という映画を2003年に公開した!のであるが、
311をテーマにした劇映画は、先、越されちゃった。

311
をテーマにした、
世界で最初の
劇映画。

311を扱ったドキュメンタリー映画はちらほらと公開されているけど、
「ガメラ」シリーズで圧倒的な支持を得た金子
Ball Gown robes de mariée 修介監督の最新作
「青いソラ白い雲」は、311をテーマにした世界で最初の劇映画であり、
東日本大震災や原発事故を、大胆なコメディーに仕上げている。

でも、さすがにスポンサー、ビビッて逃げ出したのか、
この映画は東宝や東映などの配給でもなければ、
今流行りの委員会方式でもないわけです。

制作はスパイクエンタテインメント、
配給はヘキサゴンという、いずれも聞いたことのない会社。
相当な低予算映画でして、ビッグネームが出演しているわけでもない。
苦労、したんじゃないかな…。

311を、
モンティ・パイソンや、
ランディスのように
見つめてみる。

この映画を賛辞して「ドライなコメディー」と評する人が多いけど、
僕はモンティ・パイソンや初期のジョン・ランディスを思い出した。
彼らの角度から震災と原発を笑おうとしたところが
この映画の秀逸なところ。

例えば、携帯電話しか使ったことのない主人公のリエが、
公衆電話のかけ方が分からなくて途方に暮れていると、
「震災を経験して今、日本人は皆助け合わないとね」
と言いながら通りがかりの男が親切に教えるふりをして
リエのロサンゼルス行きの航空券を盗んで逃げてしまう。

そんなシーンがこの映画には多くあって、
「ケンタッキー・フライド・ムービー」の中で白人が
黒人の集団に紛れ込み「二グロ!」と叫んで逃げていく一節と
ダブるんだよなあ。

「絆」って標語、
使うの、
やめましょ。

この国では「絆」という言葉を皆好んで使っているけれど、
実際には、崩壊した家屋やスーパーから物を盗む事件も多発したし、
仮設住宅の中で、誰からも構われず孤独死する老人も現れている。

僕自身が震災直後、家の家具などの崩壊や、
愛猫・浪が死の直前まで体調が悪化したこと、
僕自身も発熱してしまったこともあって
有休を使って3日会社を休んだら
税込30万円の給料を21万円にすると言われ、
それまで仲間として振る舞っていた上司や同僚も
3日も休むなど自業自得だと誰も手を差し伸べてくれず、
結果21万円では生活が維持できないと退職した経緯があって、
震災直後のそうした解雇も多発したと報道されているし、
「絆」なんてありゃしねえよなあ、
冗談じゃねえよと強~く感じていたものだから。

 

予定調和な涙を、
311の映画には
求めていない。

恐らく今後日本映画では、
311を情緒的に捉えたドラマが増えるだろうと思うんだけど、
それだけじゃ僕らの心のパズルのピースは埋まらないでしょ。

事実を再確認させるだけの映画だったら、
僕ぁ家で大好きなザキヤマの出るバラエティーを観ますね。
つらさを一瞬でも忘れさせてくれる笑いの方が、親切さ。

それは同時に、あれから1年以上経ち
何事も解決したかのようにテレビも政治家も僕らも振る舞っているけれど
非日常は未だに続いていることを思い出させる映画でもあり。

リエの尻に敷かれっ放しだった恋人が震災の後、
しなやかすぎるほどに駆け回るボランティアに変わっていて
俺忙しいからさあとリエと被災犬を捨てていき、彼は
「震災で何もかも変わっちゃったんだよ」とクールに言い放つ。
非日常がこれからも続いていくこと、
非日常の中をずっと生きていくことを示唆するシーンだ。

被災者のパチンコを、
否定するなよ。

僕が好きだったどんなに優れたクリエイターやアーティストでさえ
「がんばろう日本」
「元気になろう日本」
「明るい日本を作ろう」
という言葉を使っている。

これは、いかにこれまでの僕らの日常が貧困であったか、
それゆえに、非日常が突如訪れた際に全く対応できないという証しなんです。

頑張る力が振り絞れないから、
被災地ではパチンコ屋で時間を潰さざるを得ない人が増え、
どうしても元気になれないから、
被災地ではアルコールに頼る人が増えているわけで、
そんな風に苦しんでいる人々に
「がんばろう日本」
という言葉は、苦しみを深めるだけじゃないか。

 

金子修介は、
言葉を、
発掘した。

だから金子修介は、そんな標語、一切使わない。
インチキや嘘を笑い飛ばすシーンの連続、、
そして主人公自身もインチキで嘘つきだと認識し、
最後のシーンで、その代わりになる言葉を、産み出した。
産み出したというよりかは、過去にある
楽しい=豊かな文化によって産み出された歌の中から、
それを抽出してみせたのだ。

これ、圧巻ですよ。
ああ、こんなに素晴らしい言葉、あったんだ、
ああ、僕らの文化も捨てたもんじゃねえなあ、
な感じです。

どんな言葉か、笑いながら映画館で味わって下さいね。

こんなに素晴らしい映画なのに、現時点ではたった1館、
東京・新宿の「K’s cinema」のモーニングショウでしか上映されてないです。
貧しいぞ、日本。

この映画の公式サイトと、ストーリー、以下の通りです。
http://anicot.jp/sorakumo/

東京都内に住む小林家は父親の小林寛一、母親の理沙、1人娘のリエの3人家族で、母方の祖母が同居している。父親は旅行会社の社長で、母親は専業主婦、リエは苦労知らずの高校3年生のお嬢様だ。

2010年のクリスマスイヴの夜に、リエの友達3人と、リエの彼氏である山崎翼が招かれ、クリスマスパーティーが開かれていた。年が明け、2011年2月14日のバレンタインデーに父親と母親は離婚し、母親はロサンゼルスに旅行に旅立つ。3月10日、リエは秋からロサンゼルスの大学に入学することが決まっており友達や彼氏と別れて、ロサンゼルスに旅立った。

3月11日、東日本大震災が発生する。3月22日、リエが東京に帰ってきた。手にはガイガーカウンターを持ち、自宅の周りを計測する。父親は詐欺罪で警察に連行され、自宅も借金のために差し押さえられた。山崎翼が被災地から被災した犬を連れ帰り、被災犬をリエに託し、去っていった。途方にくれたリエは、公園で野宿し、翌日、道を歩いている時に、高校3年生の時の友人である戸田梓と再会する。梓はストリート・ミュージシャンになっていた。梓の自宅に転がり込んだリエは、梓の兄という若林健人と出会う。ロサンゼルスに帰るための航空券を盗まれ、現金もなく、クレジットカードも使えないリエは、生活費を稼ぐためにアルバイトをしようとする。かつて読者モデルとして雑誌にも掲載されたことがあるリエは、モデルの仕事を見つけようとするが・・・。


2012.04.17