- 2021.01.02:第三十四話「オムライス」
- 2020.12.25:第三十三話「トンテキ」
- 2020.12.16:第三十二話「アメリカンドッグ」
- 2020.12.14:第三十一話「タンメン」
- 2016.12.06:続・深夜食堂
- 2015.03.11:映画「深夜食堂」
- 2015.02.11:第三十話「年越しそば」
- 2015.01.26:第二十九話「レバにらとにらレバ」
- 2014.12.16:第二十八話「きんぴらごぼう」
- 2014.12.09:第二十七話「しじみ汁」
サブ・コンテンツ
- 2023.03.26:[Radio] walkin’ to the beat everlasting⑦
- 2023.03.04:[Radio] walkin’ to the beat everlasting⑥
- 2023.02.26:[Radio] walkin’ to the beat everlasting⑤
- 2023.02.25:[Radio] walkin’ to the beat everlasting④
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第十五話「缶詰」
大学の映画サークルで、自主映画を製作しているゲンキ(森岡龍)とユウキ(前野朋哉)。八王子の鑓水峠でロケハンの最中、史跡らしきところに積まれていた「パイナップル」の缶詰を失敬し、マスター(小林薫)のところに持ち込んだ。どこか不気味なところもあるものの、マスターにパイナップルの入った酢豚を作ってもらい、それをきっかけで、彼らは店に来ていた菊乃(早織)と知り合う。二人は暗くて寂しそうで、しかし綺麗な菊乃を、自分たちの映画のヒロインにと御願いするのだが…。菊乃は撮影の日に現れず、ゲンキとユウキは、柚木(史朗)という初老の男から、鑓水峠が心霊スポットで、かつて殺人事件があったと教えられる。(公式サイトより抜粋)
缶詰につめられた想い
鎌田「事前に言っておくと、今回、視聴者の感想を調べてみたところ
かなり厳しい意見が多くございまして」
倉田「やはりですか…」
鎌「“深夜食堂の世界観を壊してしまっている”という意見がすご
く多いんだね。これだけ批判が多いと、さあ逆に何を語ろうか
と迷ってるんですが」
倉「そうですね。ちょうどシリーズ中盤なので、この辺でちょっと
雰囲気を変えてみようという意向だったのでしょうね。でも
成功していたようには僕にも思えませんでした」
鎌「今回の演出は僕が1番好きな『タマゴサンド』の回の山下敦弘。
もう、期待で胸の鼓動とかいろんな所が高まっちゃう」
倉「僕は山下監督の長編作品は『リンダリンダリンダ』くらいしか
観ていないんですが、鎌田さんは観られています?」
鎌「観てないです。不勉強です」
倉「『タマゴサンド』も『リンダ~』にも共通するのは俳優の自然
さや飾らない演出が巧い人なんだろうなという点でしょうか」
森の中をロケハンしていくゲンキとユウキ
鎌「今回は大学の映研の話でしょ」
倉「そうですね。この辺も意外なセレクトですよね深夜食堂では」
鎌「僕も、このエプスタインズの『玉音ちゃんradio』に時々登場
する大友太郎と学生時代に自主映画を撮っていたから、微笑ま
しく観てました。わあ、この子たち、ちゃんとロケハンやるん
だあって」
倉「え?ロケハンしなくて撮ってたんですか!?」
鎌「うん。大友はひどかったよお。全部大学の校内で撮っちゃうん
だもん」
倉「え?全部?例えばどんなシーンなどを?」
鎌「戦争のシーンなんだけどね、なぜか校内に野球場ほどの空き地
があるのよ。そこに数十人がかりの人海戦術で、がれきを拾っ
てきてぶちまけて、廃木をガンガン燃やして。文句を言わない
学校側もどうかと思うんだけど(笑)阿呆みたいに迫力のある絵
が撮れて、皆で『製作費100億!』とか爆笑しながらラッシュ
を観て」
倉「それは…学生にして凄まじい撮影です。環境もイイですね(笑)」
鎌「あと、この子たちもそうだけど、俳優選びは大変なんだよね。
大学生って20代前半だから人脈もないし」
倉「そうでしたね。僕も色々駆けずり回った記憶あります」
鎌「だけど、それを差し引いても大友の女優選びは全くセンスがな
くて、俺達スタッフ間でも大ブーイング、毎度こき下ろしてた。
映研の人間を使うのはありがちなんだけど、自分の恋人とかを
主役級に使っちゃうんだ。あとは妹の友達とか、自分が通って
いる教会の子とか」
倉「恋人を使うという事は僕の周りでもなかったですね(笑)」
鎌「それでも何とか、ぴあフィルムフェスティバルのグランプリの
ノミネートまで残ったんだ。で、結果発表のイヴェントで、司
会の今関あきよしさんと大友が壇上に立って『あなたの作品は
キリスト教的なものが感じられるのですが』って大友に尋ねた
のね」
倉「すごい講評ですね」
鎌「で、よ~く見るとあいつ、こんなフォーマルな場なのに、『経
堂北教会』って書いてあるトレーナー着てるんだよ、俺達スタ
ッフ全員、客席で卒倒しちゃって(笑)。もう、今関さんが質問
するまでもないという」
倉「(笑)」
鎌「この瞬間グランプリをきっぱりと諦められました!あ、大友君
もしこれ読んでたら、気分を害さないでね。僕、あの頃の事は
全て宝物だよ!」
鎌「なんだかこれだけ自主映画のことについて書いてたら、今回の
深夜食堂も、そちら側にもう少しシフトした話にしてもよかっ
たのかな?って思えなくもないかな。あの大学生の描き方が、
ちょっと雑なんだよね。だから話全体が薄くなっちゃう」
倉「今回は三つの目線の構成でした。ゲンキ&ユウキの目線。
菊野の目線。そして過去の事件の目線。多分、自主映画の中の
出来事なのか、現実なのか、殺された女性の亡霊なのかなどを
観客に惑わせる手法だったのかもしれませんが、ちょっと上手
く機能してませんでしたね。尺が厳しかったかもしれません」
鎌「うん。でも作り手は、尺のせいにしちゃいかんもんね」
倉「だから鎌田さん言うように、いっそ自主映画を作る学生の方を
濃い目にするなどもありだったかもしれません。それか菊野
をより中心に据えるとか。それかやはりこの手の話を原作か
らは選ばないとか(笑)」
鎌「そうなのよ。ところで、今回のヒロイン役、『帰ってきた時効
警察』で隠れた人気を誇ってた、マカデ君役の早織なんだよ」
倉「そうなんですか。僕はケータイ刑事のイメージがありました」
鎌「印象が変わってて、びっくりしちゃった。調べたら23歳なん
だね、彼女。自主映画に担がれる年齢だ。自主映画出身の俳優さん、
もっと出てこないかなあ!」」
自己を乗り越えるための何か
橋の下へ飛び降り、自殺しようとする菊乃。
倉「今回は褒められる部分は少ないのですが、このシーンの絵は
非常に美しかったと思います。それはシーンとしてというより
単体の絵としての意味ですが。深夜食堂にはない画調を観たか
らかもしれません」
鎌「昔の日本の怪談が、他の国の怖い話と違うのは、『もののあは
れ』とでも言うのかな、情緒があるんだよね。お岩さんの話1
つとっても怖いだけじゃなくって哀しみや人情や愛情がある」
倉「そうですね。怖さの中に必ず情が混ざっていますよね」
鎌「でね、その固有の『情緒』を意識したのか、このシーンを始め
として、ヒグラシの音をひどく大きめに挿入してるんだけど、
うっとうしかったです…。SEをあんなに慎重に扱う深夜食堂が、
今回はどうしちゃったのかなと思ったよ」
倉「ホラー的な雰囲気付加というのもあったんでしょうが、自主映
画のわざとらしさという部分も考慮されていたのかもしれま
せん。全体的に観客が掴みにくい不思議なカット挿入などが序
盤からあり、どれが現実でどれが映画内かを掴ませないように
もしていましたから」
鎌「かもしれない。確かに、すでに出来上がった劇伴(もうサント
ラとは言いたくないね)が、あまりにわざとらしいホラー映画
っぽいものだったから、他に足す音がなかったのかも知れない
けど、そこは引き算で行かないと。このSEと音楽のあるなし
で、だいぶ深夜食堂ファンの印象は変わっただろうね」
倉「何を意図してそうしていたか、ですね」
ボランティアの旅から深夜食堂へ帰ってきた菊乃。
鎌「ここで、自分が過去の恋愛から立ち直った理由に、被災地のボ
ランティアを挙げてるね」
倉「僕は唯一、そのネタに触れた点は評価したいです。ドラマとし
て正解かどうかはなんとも言えませんが」
鎌「ここは、ナーバスな話題を敢えてストーリーに取り入れたこと
は、勇気にさえ値することだとは思うけど、受け手である視聴
者の方が、まだこの話題をどう咀嚼したらいいか分からない段
階なんじゃないかなあ」
倉「そうかもしれません。唯一の現実の話でしたしね」
鎌「本当にボランティアをやって、自分の悩みなどちっぽけなもの
だったと自分なら言えるかどうか、僕らには判らないんだよ。
だって自分はボランティアには行っていないし、メディアから
の情報も乏しくて、疑似体験もできていないんだもの」
倉「ボランティアを経験していないと判らない…」
鎌「うん。それに加えて、震災の事、ボランティアの事を考えると
いう事は、自分自身の倫理観や道徳心を覗きこみ、自分自身を
見つめるという深いところへいってしまうんだよね。だから、
安易に『うん!理解できる』とか『いやあ、感情移入できない
よ』とかが、その人のモラルを問われて、とても言いづらい。
となるとね、視聴者があたかもボランティアの疑似体験を脳内
に喚起しうるほどの描きこみがないと、震災を描くということ
はまだ説得力を持てないんじゃないかなあ」
倉「ある意味、この時期だからこそ、それを問いたかったのかもし
れませんね。しかし今回の話に最適だったとはあまり感じ得ま
せん。今年の震災を考えるに、今回の話で挿入すべきだったか
は。できるなら真正面から扱って欲しかったと思います」
鎌「だから、平たく言っちゃうと、この程度の描き込みだと、
『震災と恋愛を同じ天びんにかけること自体がおかしい!』な
んて怒る人さえいるかも知れない」
倉「今年ならば特にそういう方もみえるでしょうね」
鎌「実際僕の親友がね、離婚して子供を相手に取られて、ひどく落
胆しつつも東北へボランティアに行ってきたんだけど、子供の
いない苦しみは癒えていないんじゃないかなあ」
倉「多分、自分というものを見直す、ちっぽけなものと知る、全然
違う世界に行き、体験して、自己を乗り越えるという意図があ
の場面では必要であったと思いますが、震災があった今年に、
ボランティアでそういう事を成し遂げるという方向は、ちょっ
とストレートには捉えづらいものでしょうね」
鎌「今回は、即座に批判してもよかったんだけど、敢えて震災を盛り
込んだ勇気は評価したいです。それと、日本の怪談はいい話が
多いし、いい映画も多いので、そこも踏襲した内容であればよ
かったのにと思います」
倉「そうですね。ある意味実験的に精力的に色々盛り込んだ点はわ
かりますが、纏め切れていない上に、情緒も生み出せなかっ
た。そしてボランティアネタでは違うモヤモヤも与えた。シリ
ーズを抜きにしても、もう少し落ち着いて構成や演出、視聴者
の存在は考えるべきだったでしょうね」
鎌「そう言えば何度も例に挙げてるTBS傑作ドラマ『ムー』には
『お化けのロック』って挿入歌があったね、♪おいらに何がで
きる 見守る他に ってね。いいフレーズ。ハハハ…」
倉「すいません、知りません(笑)」
第十六話へ続く・・・
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