第二十八話「きんぴらごぼう」

文・鎌田浩宮

「きんぴらごぼうあるかしら?」颯爽とした印象の女、市川千鶴(つみきみほ)が店に入ってくる。驚いて目を見開く、常連客で地回りのヤクザ・ゲン(山中崇)。千鶴は、ゲンの高校時代の英語の教師であり、部活の顧問、そして憧れの女性だった。有頂天のゲンは、その晩千鶴と飲み明かし、千鶴に「愛してるぜー!」と叫ぶ。
千鶴は教師の仕事を辞めたあと、通訳の仕事でニューヨークに渡っていた。帰国は10年ぶりとなる。時間を惜しむように昔の仲間や世話になった人と会う千鶴。その理由をマスター(小林薫)にだけほのめかす。そんなことは知らず、千鶴との時間を待ちわびるゲン。高校を辞めて上京するときに千鶴が持たせてくれたきんぴらごぼうの味を思い出しながら、千鶴のために堅気の男になろうと誓っていた。
(公式サイトより抜粋)

 

第3シーズン、
屈指の
名作。

 

今回、第1シーズンの傑作たちと同じように、深く胸に刻まれた。
第3シーズンの中では、1番好きな回になった。
僕が好きな「深夜食堂」は、10代や20代の、いわゆる思春期や青春時代に連れて行ってくれる時が多い。
第七話「タマゴサンド」の切なさは、秀逸だった。

チンピラだって、少年時代がある。
思春期だって、ある。
憧れの先生に惚れて、未だにきんぴらごぼうをつついている。
そこに、同じきんぴらごぼうを注文した女性が現れる。
もう、これはファンタジーだ。

 

アンチエイジング?
そんなこと
しなくたって、
美しいよ。

 

ずっと昔の話になるけれど、僕はつみきみほさんが、というよりかは、つみきみほ的なゲーノー人が苦手だった。
「元気印」というかつての流行り言葉にプロダクションが乗っかり、売り出していくあの感じが、苦手だった。
本人は、元気じゃない時だってあるよなあ、と子役経験者は思うのだった。

久しぶりにブラウン管へ浮かび上がったつみきさんの魅力に、驚いた。
調べてみると、43歳だそうである。
僕の、3歳下。

僕の友達を持ち上げる訳じゃあないけれど、僕の40代の女友達は、魅力的な人、多いんである。
つみきさんと同じ、眼がいい。
衰えていそうで、まだしわに深く刻まれていない、顔つやがいい。
もちろん、心根がいい。
大人の女性の美しさと、心のバランスが、調和している。
一体、どんな10代、20代、30代、そして40代の今を過ごしてきたんだろう?
興味を、そそられる。

アンチエイジングなんて流行り言葉、くそっくらえだ。
40代女性の、美しさ。
つみきさん、もっと作品に出てくれるといいな。

 

もう、
逢えない、
人。

 

エプスタでの連載「キャマダの、ジデン。」にも書いたけれど、中学校では、徳田美喜子先生と仲が良かった。
つみきさんほど美女で、目力があった訳じゃあないけれど、とっても魅力的な女性だった。
僕が15歳で、徳ちゃんは30歳手前だったんじゃないかな。
「鎌田君、週刊プレイボーイ、読んでる?」
いきなり訊かれたものだった。
慌てて一応否定しておくと、
「私の旦那がね、鎌田君の学校新聞に書く記事が、週プレっぽいって言うのよ」
と言うのだ。

今の週プレを読んでいないのであれなんだけれど、当時の週プレは、ちょっとサブカルっぽいところもあれば、社会派の記事もあった。
僕はサブカルにも学校自治にも文才を奮っていたので、そう言ってくれたのかも知れない。

徳ちゃんは僕と共に学校の管理教育と闘い、僕と共に挫折し、旦那さんの転勤をきっかけに教職を辞め、アメリカに行ってしまった。
しばらくは文通が続いていたんだけれど、いつの間にか不通になった。

徳ちゃんと今再会して、徳ちゃんがもし旦那さんと別れていたら、ほんの少しだけれども、女性を意識するかも知れない。
まさか、徳ちゃんがもう、この世にいなかったら。
ゲンと同じように、暴れ狂うかも知れない。

 

素顔

知る
人。

 

僕は幸いにも、酒を酌み交わすことの出来る元恩師が、いる。
子供の頃にはする由もなかった、先生自身の恋愛の話を聞いていると、楽しくってぞくぞくしてくるものだ。
えっ?先生、浮気してたの?今でもボーイフレンドがいるの?

ゲンには、そんな恩師が、もういないのだ。
チンピラではない、素顔のゲンを知る数少ない人、ゲンの素顔を見ることを許された人が、旅立ってしまったのだ。

説明過多の、顔のアップばかりのテレビドラマの中で、引きの良い画と台詞が多かった今回。
ラストのカット。
公園で、無言で、佇む先生と、ゲン。
あれは、ニュー・ヨークの、セントラル・パークだ。
2人の幻想が、ファンタジーが、画に具現されたのだ。

40代の女性は、いつまでも、いつまでも、美しい。
いつまでも、だ。




2014.12.16