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第二十七話「しじみ汁」
文・鎌田浩宮
土曜日の朝、平賀良男(ベンガル)と、その妻・みずえ(永島暎子)が店に朝食を食べにくるようになってからもうひと月くらいになる。穏やかにマスター(小林薫)のしじみ汁を飲む二人は微笑ましく映り、サヤ(平田薫)ら常連客の間でも仲の良い夫婦として話題にのぼる。
ある日、珍しく一人で店にやってきた良男。孫が生まれるために、みずえが広島の実家に戻ったようだ。ただ、その孫は良男の孫ではなく、過去の夫と血の繋がった孫である。良男はみずえにとって三番目の夫だった。マセていて色気のあるみずえに、同級生だった中学の頃から良男はずっと憧れてきたのだが、みずえの過去にはよくない噂もあった。
トラブルが続いたことで、みずえはなかなか東京に戻ってこない。徐々に疑念を募らせていく良男は、店で出会った囲碁の記録係の女性・勅使河原真梨子(作間ゆい)に惹かれはじめていく。
(公式サイトより抜粋)
一粒
残さず
食べるのだ。
しじみ汁、二日酔いの時に飲むといいさ、なんて作ってもらうものだけれど、この夫婦は、素面で元気に早朝散歩して、しじみ汁を食べにやって来る。
そういう僕も、子供の頃から、しじみ汁、大好きだった。
今晩はしじみ汁と知ると、うきうきしたもんだ。
子供の頃、家が赤貧だったからかは分からないけれど、お米1粒残さないように躾けられた僕は、しじみも1身残さず食べたものだった。
あれ、食べ物じゃないから残していいよ、って考え方、あるでしょ?
僕には、解せない。
立派な、命。
立派な、食べ物さ。
あの、老境に差し掛かった夫婦が、このんでしじみ汁を食べるなんて、どういうことだろう?
二日酔いで散歩してるわけ、ないじゃない。
じゃあ、健康のため、アンチエイジングのため?
いやあ、これまでのジンセーの砂を、吐いているのかもねえ。
東京乾電池
と
コント赤信号、
久々の邂逅。
永島暎子が変わらず美しいのはもちろんのこと、ベンガルと小宮が並んでめしやで呑むシーン、少し感慨深かった。
片や東京乾電池、片やコント赤信号で、同じ時期テレビに出始めた。
それが、今から約35年前、両者とも20代じゃないかなあ。
フジテレビ系「笑ってる場合ですよ!」で切磋琢磨、冷や汗脂汗かいて奮闘しながらの共演も、あったかも知れない。
それがめしやで、妻や子や孫の話。
味わい深い、初老の2人。
漫才ブームが終わり、番組も終わり、テレビ界からポイッと捨てられやしなかったか、いや、そこからの努力が実を結んだ。
息の長い芸能生活となった。
最後の恋は、
全てを赦す。
百戦錬磨、バツ2の妻が、昔の男と再会している。
男の誘惑に、女は乗らない。
女は、今の夫を、最後の男と決めているのだ。
この男と、死ぬまで添い遂げると決めているのだ。
色男でもない、地味で、真面目だけが取り柄のような男を。
一方その、色男でもない、地味で、真面目なはずの夫は、道を踏み外す。
妻と出逢うまでは独身だった、多分色恋も不得手だったその男は、行きずりの女と、いい齢こいて情事に走る。
これがパトリス・ルコントの作品だったら、いや、誰の作品であろうと、男はたった1度のあやまちで妻の信頼を失い、2人の最後の恋は破綻し、男は死ぬまで独りだろう。
これがペドロ・アルモドバルだったら、相手を殺すところまで行っていたかも知れない。
だけれども、この妻の覚悟は、違った。
もう、次は、ない。
これが、最後の男。
何があっても、添い遂げる。
夫のあやまちも、赦す。
僕がこんなに尊い恋路を、歩けるだろうか?
人格がまるでなってない僕は、まったく自信がない。
男同士の友情に置き換えても、もちろん男女の友情にしても、僕には寛大さがまるでない。
情事を含んだ嫉妬は、全てを壊しちまう破壊力がある。
ただ、結婚式で神やら仏やらの前で誓いを立てる時は、ここまで添い遂げる覚悟があっても、いいのかも知れない?
最後の恋だから、どんな試練があっても、乗り越える。
いずっぱこの伝説を、信じながら。
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