対談 深沢涼子・鎌田浩宮

伝説の雑誌・ビックリハウスで
編集担当だった深沢涼子さん。
映画「マラソン・マン」について
鎌田と対談です。

 

1974年から1985年までパルコ出版から発行された、雑誌「ビックリハウス」。
サブカルマガジンの先駆けとして、当時並走していた「宝島」が、パンクカルチャーに偏りすぎ、ちょっとイモ臭い感じがあった一方ビックリハウスには、糸井重里らといったカルチャーのエッジを走っている者どもが、これでもかこれでもかと斬新な企画を繰り広げ、そこには歴然とした差があった。「センスのいい奴はビックリハウスを読んでいる」という見方があったと記憶している。

そのビックリハウスで、アッコちゃんこと高橋章子編集長(女)と共に、ぶっちぎりの記事を編集しまくっていたのが、イノリンこと深沢涼子さん。旧姓が井上さんだったためそのあだ名がつき、そうそうたる執筆陣から可愛がられていたのだった。

2004年、創刊30周年を祝いかなり大きなイヴェントが開催された。その際、コーフンで顔を紅潮させた鎌田がイノリンさんに声をかけた時から、親しくしていただいているんです。

前作「続・鎌田浩宮 福島・相馬に行く」など鎌田の作品を観続けてきたイノリンさん。今作は、彼女の眼へ一体どのように映ったのか。

イノリンさんと鎌田の対談です。

 

写真は鎌田の所蔵物。宝物です。

 

鎌田
ビックリハウスと仲の良かった映画監督っていらっしゃいましたか?

深沢
私ではないけど、石井聰亙監督とアッコちゃん(高橋章子)は仲よかった気がします。あと、ハウサーでその後監督になって有名なのがいる。

鎌田
犬童(一心)さん!

深沢
そうそう!フォトコンとかでも名前載ってる。
もちろん、かわなか(のぶひろ)先生達実験映画の人たち。寺山さん。

鎌田
かわなか先生はお元気ですか?

深沢
お元気よ。咽頭がんで声帯取っちゃってタバコやめたけど、お腹から声出してる。創作も毎年発表してるよ。

 

 

深沢
感想を言うと、音楽と映像は良かった。
ただ、もっと破天荒な人物かと思ってたら、常識人。
いわゆる中産階級の好人物。どこにでもいる中年。
失礼。私、ドキュメンタリー好きなのよね。
ただ、もっと凄く困った人や努力してる人を追う方が感動する。
前の相馬のおっちゃんの方が面白そう。
(編集部注:「鎌田浩宮 福島・相馬に行く」2部作の主演・杉本紀男さん)

鎌田
ありがとうございます!その点を指摘なさる方がいなかったので、とても嬉しいです。さすがイノリンさんです!
前作の相馬、あれは僕にとって有利でした。原発事故を題材にしておけば、まあ文句や非難は受けないんです。
作り手の考察がある程度甘くても、受け取ってもらえる。
杉ちゃんのお父さんも素敵な人です。キャラが立っている。和夫もそうですが、彼も協力的にとても喋ってくれる。カメラを回しさせすれば、もうそれで十分なんですよね。

 

 

深沢
ごめんね、せっかく作った作品にケチつけて。
でも映像や構成は面白かったよ。洞穴や雪のシーン挟んだのも好き。
NPOの映像はやりすぎかな?彼のセリフだけでわかればいい。

あと、テロップは新ゴシック体かな?
でかい文字乗せたセンスは若々しくてカッコいい。
でも前の人がいると読みにくかった。
センター下より左右端がありがたいかな。
読まなくていいのかもしれないけど、読みたい。

それと、導入がわかりにくかった。
彼とインタビュアーの関係がわからないから、なんでこの人が主役なのかずっとモヤモヤ。
難しいのだろうけど、最初に親友とわかってた方がすんなり観れた。
パンフ読んでたらわかったのかな?すみません、予習してなかった。
でも見せたいことは伝わりました。

鎌田
和夫は、若干とがっているものの、まあ小市民です。どこにでもいる常識人。ただ、僕にとっては魅力に富む常識人です。
僕の仲間には、非常識で破天荒な者も沢山います。しかし残念な事に、僕を含め彼らの多くは自己満足的な行動に終始し、社会の改善にはつながっていません。加えて、人の心というものに働きかけるといった作業が下手なんです。
かえって、和夫のような常識人こそが、実直に計画を練り、人々の心を動かしていくのです。

 

 

鎌田
名もなき庶民を描く殊に関しては、小津安二郎監督のように、ごく普通の娘が嫁ぐだけの映画を撮っても、傑作になる。あれは監督の力量です。
僕のような未熟な者が、敢えて大きな事件を扱わず、ごく普通の庶民を扱うのは、自分にとって挑戦でした。これでいい作品が撮れれば、自分を評価してあげてもいいんじゃないか、と。

深沢
想田和弘監督の精神とか凄いよね。心療内科に通い詰めて患者と仲良しになって、1年間撮らせてもらったやつ。医者も素晴らしいし、患者さんもすごいなと泣いたよ。中には撮影後に自殺しちゃったうつ病患者もいたらしい。

鎌田
今回庶民を扱うその理由の一つに、安倍政権が庶民を軽視していることが挙げられます。50年生きてきましたが、ここまで庶民を軽視した政府はなかったと思うんです。
であれば、庶民の底力のようなものを描きたい…山田洋次から是枝裕和までが行なっている作業です。想田監督もそのくくりだと思っています。
ただ、イノリンさんのようなご感想が出てくるという事は、僕の挑戦は失敗しているんだと思います。これは、次回作への課題ですね。

 

 

深沢
なるほど庶民派ね。わかるわかる。
安倍政治の酷さしわ寄せは、弱いところに来てるもんね。うちだってそうよー。大企業の役員たちには嬉しいんでしょうが、株もやらない平民にとってはね。

でもね、長山さんだっけ?彼はまだいい方だと思う。
残業ももっとひどい人いるもの。

しかも今は子どもの世話してないんでしょ?
養育費とかは大変かもしれないけど、もっと厳しいよ。

鎌田
ここでは伏せますが、彼も子育てでは苦労をしているんですよ。詳しくお話しすれば、イノリンさんや観客も、なるほどと思ってもらえると思います。

 

 

深沢
「家ついて行っていいですか?」は、一見普通でも壮絶な過去があったりしてる。
私の教え子でも、働けない親の代わりに長男で頑張って通信来たけど、稼がなくちゃならなくなり、休学。
弟も心の病だったと言うので、大黒柱にならざるを得なかった。
息子と同い年だったので、親近感あってツイッターで繋がってた。それが5年前。資格取って契約社員で頑張ってた。最近ツイートないなーと思ってたら、小脳梗塞で亡くなったって妹さんからの連絡。

 

 

深沢
享年35歳。独身。すごくいい子だったので泣いたわ。働きすぎだと思った。家庭の事情もあったと思うけど、頑張りすぎた。
なんであんないい子が。今も泣ける。
そういう子の為にも、働きかけるのはいいことだと思う。
やばい内閣、何を言ってもかなわない。嘘がまかり通る。顔も声も聞きたくない。
そういうのに立ち向かう君は素敵です。

鎌田
教え子のお話、ありがとうございます。そこに描かなくてはいけない被写体があれば、なんでもかぶりついていこうと思います。その一方で、先にも書きましたが、凡庸に見える市井の人々を描き続けたいという欲求もあるんですよね…。
もしくは、今作のような画風で、もう1度福島の映画にトライしたいという構想もあります。

 

 

深沢
求めているものが違うかもしれないけど、でも浩宮君はすごい監督になれるような気がしました。
テーマじゃない?友達ではなく人を撮って欲しいです。
生意気言って失礼しました。でもずっと応援したいです。
もっとハードル上げてくれたら嬉しいわ。
ネタさえ見つかれば、浩宮君の仕事はすごいのできっと面白いものになると思う。頑張ってね。また上映の機会があるといいな。

鎌田
とんでもないです!その角度からのご指摘は、欲しかったくらいです!

深沢
こちらこそ偉そうにごめんなさい。単なるおばちゃんの感想です。
庶民の味方目指して頑張ってね!

 

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2018.11.19