日本人の忘れもの

文・名無シー/鎌田浩宮
写真・映像/鎌田浩宮

 

コロナウイルスの影響で
ようやく全国ロードショウとなった
ドキュメンタリー映画がありまして。

戦争が終わって75年もの間
こんなに知らないことだらけ
知らないことが山盛りすぎて
驚いてしまう映画です。

ラーメン二郎の「マシマシ」で例えると
野菜のマシマシが巨大すぎて
麺にたどり着けないぞ
といった感じでして。

上映日も残り少ないのであるが
ぜひご覧いただきたいので
よろしくお願いします。

 

 

日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人

監督 小原浩靖
企画・製作 河合弘之
撮影 はやしまこと
ナレーション 加賀美幸子
音楽 吉野裕司
主題歌 甲田益也子

出演
赤星ハツエ 新垣イノセンシアユニコ イネス・マリャリ
岩尾ホセフィナ 加藤マサオ 加藤ヤエコ カワカミ・ピエダ
オオシタ・フリオ 川上ホセフィナ 重富フアニタ 副島マサエ
高良アントニオ 照屋光子 寺岡カルロス トマサ・ヘラルデス
メルビン・スワレス 山本アンヘリータ 矢島美津子
池田澄江 佐藤陽子 佐藤勇吉 高野宮子
福安芹江 森実一喜 矢嶋克子 三上貴世
大久保真紀 安原幸彦 小野寺利孝 望月賢司 大野俊
アナ・マリー・フランコ エミー・ビリョネス
猪俣典弘 石井恭子 高野敏子 田近陽子
ほか

公式HPはこちらです

 

 

はじめに…

あまり知られてこなかった太平洋戦争によるフィリピン残留邦人の問題を、中国東北部の残留邦人との対比で、全体像が見えるように描いたドキュメンタリー映画。

戦前の頃から、ハワイ・ブラジル・満州などへ多くの日本人が移民として移住していました。しかし、フィリピンに多くの移民が渡り、しかも太平洋戦争の後も帰国できず、さらに未だ無国籍のままで、さらにさらに日本政府は放置したまんまという事実は、びっくりするくらいに知られていません。

当時無国籍児だった移民2世は、すでにご高齢です。その子供たち孫たちといった、3世4世の方々もいらっしゃいます。

なお、このテーマを扱ったNHKドラマ「マンゴーの樹の下で〜ルソン島、戦火の約束〜」とドキュメンタリー「マンゴーの樹の下で〜こうして私は地獄を生きた〜」も2019年に放映され、度々再放送もされています。どちらも、素晴らしい内容です。

そこで、いつもの2人で、この映画を喋り倒します。
映画評論家・名無シー(アラン・スミシーから来てるのね)と、耄碌似非隠居・鎌田浩宮です。
初老、喋り倒すのか、くたばって自倒するのか。
では、お読み下され…。

 

 

5人でなのか

 

鎌田浩宮
フィリピンで放置されている方々の日本国籍取得は、本来は日本政府が行うべき。でも、何もしてくれないので、NPO法人PNLSCが発ち上がって…。NPOにもっと潤沢な資金が国から援助されれば、スタッフをもっと増やせるわけですよね。本当に大変です…。NPO法人PNLSCは、映画にも出ている猪俣さんを含め、5人じゃなかったかしら。少ないにもほどがあります。

名無シー
あの探偵のような照合作業とか、歴史に埋もれるものが息を吹き返すようで凄いなと思いましたね!


ですね…。ファミリーツリーの家系図制作は、僕も手伝わせていただいた事があります。


おお!その作業が生き別れた家族を繫いだ訳ですね。人と人の間に橋をお架けになった。


いえいえ、恐れ多い!僕は、いただいた下書きを基に清書をした程度でして…。ただ映画にも出てましたが、スペイン語読みでは発音しないアルファベットを日本人名に当てはめ、本名を解読していく点は、当時勉強になりました。


あのシーンは面白かったですね。記録媒体の特徴を理解していないといけないという。

 

東京・ポレポレ東中野の館内では、当時の写真が展示されています

 

国家を描くという野心

 


先ず明確に近代的国家を撮ろうという野心は観る前から感じていました。いきなり斬り込みましたが。


斬り込み歓迎!近代的国家を撮るとは、どのようなことなのでしょうか?日本人が移民としてフィリピンを渡り始めたのは、確かに19世紀までさかのぼります。19世紀の1868年に明治維新があり、その後間もなくといったところですよね。

ちなみに、僕と名無シーさんは1968年生まれ。明治維新から100年後に生まれました。まあ、この100年間には色々あった。


近代国家と言うのは、当時のヨーロッパで盛行していた民族的国民国家主義の国家で、日本では薩長が倒幕の過程の中で、当初の攘夷思想から現実的には勝てない強い欧米に習う形で、とることにしたアンビヴァレントな民族主義的国家の形ではないでしょうか。


攘夷思想は、学校で習いましたよね。排外思想です。


米は変形的ですが、先住民を敵に設定することで結果的にワスプを民族に該当するものとしていたところがあるかも知れません。民族主義という以上本来はやっぱり攘夷ですが、その思想すら欧米から植え付けられた節があります。

 

 

ナショナリズム=国民を保護する

 


民族的国民国家主義を、もう少し分かりやすく教えてもらえますか?いわゆるナショナリズム・国家主義・帝国主義とは異なるんでしょうか?


ナショナリズムです。ドイツの成立などは理解しやすい例だと思います。そう言う国家は、本来、その構成員である国民を保護する事になっています。それは国土を治める大義名分として謳われるのではないでしょうか。国家が、国民を護るのではなく攻撃するとすれば、その国家の存在の大義名分は無くなってしまうでしょう。


ヨーロッパやアメリカのナショナリズムは、何やかや色々あったけれど、国民の保護を維持できていた…ということでよろしいでしょうか?


国民国家は歴史的には必ずしも今日的意味では国民を護っていたとは言えないところもあり、寧ろ国民を国家のために隷従させ、犠牲にして来たでしょう。ただし、看板としては、主に他の国家からの侵害等から国民を護る看板を掲げていて、その大義名分が国家の存立理由の柱となっていて革命や反乱を許さない原理にもなっている。


日本の場合、沖縄とアイヌを差別的に侵略・併合させ、その足取りは朝鮮半島にも及んでいきました。


ですので、この国民の保護は極めて重要な看板となっています。朝鮮についても、併合した以上は、当地に対する保護責任が生じるわけです。


日本の場合、征韓論などを進めつつも、自国民を保護しきれず、移民が発生しますね。

 


封切初日、2020年7月25日土曜日。ポレポレ東中野にて舞台挨拶。

 

国は保護しない

 


名無シーさん、この映画の感想をすぐさまツイートしていましたね。これだー!

「中国残留邦人の方々が最近取り組んでいる終活の取材シーンは、国よりこっちの方が余程本来の国家の姿だなという印象を受ける。」

とつぶやき始めて、

「国家は、国民保護の看板を掲げながら、実際にはそれは看板だけで、その看板を利用して利権を奪取独占しようというものが、役人や議員として群集まって権謀術数の将棋を指していると言うのが実情で、NGO等の活動や世論の高揚が無ければ、中国東北部でも、フィリピンでも、ドミニカ入植地でも国は民衆を捨てて平気な顔でいる。」

とあります。その通りなんだよなあ。当時から現在まで、どんどん民衆を捨てていく。福島で、辺野古で、捨てていく。満州帰国者のお世話をしているのは、日本政府ではなく、彼らのお子さんお孫さんです。彼らが、老人介護施設のスタッフなんです。冒頭に言ったけど、フィリピン残留邦人の日本国籍取得だって、NPOに任せっきり。日本政府は何もしない。

 

 

自分で考えなきゃだめだろう

 


名無シー、まだまだツイートしてます。

「国とはそう言う理念も一体性も無い滅茶苦茶な塊だという前提で、この映画に出て来る弁護士の方々は戦っている訳だが、一般市民は看板が謳う幻想のもとに生活していたりするので、五輪のボランティアでも何でも国策にホイホイついて行く。」

核心突き始めてるよ!何を最優先にすべきか、どこから着手すべきか、自分の頭で判断できなくなっている。幻想という看板がデカければデカいほど、盲従しちゃう。go to キャンペーンなんぞ、その予算を、ホテル・旅館に直接分配すればいいだけのこと。実際に人が訪れれば、感染者は増えるに決まっている。

で、名無シー、もっとツイートしてくれ!

「嘗ての各国への入植者の方々も国策に踊らされて、結果その代償としては余りにも酷い目を見てきたのだ。国家などという実体の無い幻想は捨てつつ、庶民のための道具として使える法や制度はフル活用して行かなければ未来に辿り着くことは出来ない。」

そのために、映画を完成させた。字幕をつければ、世界中の人にご覧いただける。映画祭にだって、出品できる。使えるシステムを、フル活用する。先日2020年9月1日のポレポレ東中野は、公開から1カ月を越えて、遂に満席だったそうです。

封切初日は7月の3連休でした。大変だったそうです。感染者が急増したので、外出を自粛するよう都知事が会見しました。それはニュースとなり、繰り返し放映されます。3連休のポレポレは、1回の上映につき、10数名も予約キャンセルが続出。

関係者の皆さんの苦しみは、いかほどだったでしょう。フィリピンの皆さんへ、どう伝えればいいのか…。

 

 

この特集、こちらへ続きます。
この次は、モアベターよ。

 


2020.09.02