私の2021年日本映画ベストテン 鎌田浩宮編

2021年は邦画・洋画合わせて43本を映画館で観ました。その前、2020年のベストワンは「風の電話」でした。「偶然と想像」「さよなら、ティラノ」「エッシャー通りの赤いポスト」「逆光」「かば」「愛のまなざしを」は未見。今年に持ち越し。こんなんで審査できるのか。

1 水俣曼荼羅

1位と2位に、ほとんど差はありません。いずれも、映画の新しい地平を探り当て、描き切っています。そのアイデアだけに偏らず、表現は豊かさを増し、観客の心を動かします。

敢えて1位にしたのは、そのスタッフの少なさ、しかしながら製作時間の長大さ、さらに膨大な被写体の量です。取材対象はどんどん増えていくのに、どの人に対しても、奥崎謙三や井上光晴と同じくらい魅力的に掘り下げている。そのスタッフの数で?あり得ないのです。それをやってのけているのです。

以下、原一男監督もお読みいただいた文を、転載します。

水俣市民全員を取材するのか。海も地も空も全て取材するのか。原一男監督は、その誰をも見事に活写しきる。誰の追随も許さない傑作。辺野古や福島に通ずる、棄民と司法の構造。上映時間6時間12分はタフだったが、1分たりともカットできない事が分かる。生駒さんの初夜の話で涙止まらず。

これだけ苦しい時代に、辛いテーマの映画を観るとどうなってしまうのか、不安だった。だが、観終わった後の自分に、力がみなぎっている事に気づく。コロナ以降、このような力を与えてくれる映画や音楽や小説は、世界を見渡しても本当に少ない。これも、原一男監督にしかできない事だ。

2 ドライブ・マイ・カー

まだ新しい映画を作ることができるんだな、と感嘆。しかもそれは、最新技術に頼ったものではない。演技論、手話、海外の手話、録音された音声、劇中劇のあり方、被写体を映さない照明の考え方、海外特にアジアとの意思疎通と融和。

3 すばらしき世界

是枝裕和監督からの継承も感じられる、西川美和監督。そして「孤狼の血」でぶっちぎりだった役所広司が、ここでも唯一無二の演技。西山組への参加を楽しみにしていたそうだ。分かる。多くのスタッフやキャストが、老いも若きも、西山組に参加してみたいのではないか。

4 スパイの妻

ここでも濱口竜介さんが。

当時の日本人は、どのように会話をしていたのか?戦前の日本映画を参考にし、考察を始め、登場人物を構築していく。

不正と告発は、現代における赤木さんの問題と重なる。「万引き家族」も本作も海外で激賞され「新聞記者」が日本アカデミー賞を受賞。安倍や麻生は、ますます映画嫌いになる。馬鹿な野郎だ。

5 キネマの神様

前作「お帰り 寅さん」が素晴らしかったので、本作は大丈夫かなあ…とやや不安でした。永野芽郁さんに注がれる山田監督の視線が、かつての寅さんシリーズで倍賞千恵子さんに注がれる監督の視線と似たものを感じ、とても嬉しかったです。

そして、主人公のゴウが映画仲間の前で朗々と映画の話をするシーンは、くるまやで家族やマドンナやタコ社長の前ではつらつと語り通す「寅さんのアリア」を踏襲していることも嬉しかったのです。

山田監督が助監督時代だった頃…1950年代の松竹大船撮影所の様子を再現。こんなことをできる映画人は、もうそんなに残っていないのです。それだけでも非常に価値のある作品ですが、その上に、とってもシンプルなラブストーリーが重なる。初々しい恋愛です。それが良かったです。

6 生きろ 島田叡-戦中最後の沖縄県知事

凄い。主人公である島田叡さんなのだが、映像はおろか音声さえひとつも残っていない。写真でさえ、2枚のみ。こうなると、2時間前後の作品をナレーションと、 彼を知る生存者のインタビューで構成するしかない。それでも圧倒的な筆致力で最後まで見せ切るのは、佐古忠彦監督の力量である。ジャーナリストとしての取材力だけではなく、映画監督としての力量が、過去作「米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー」を超えている。

彼の師は、筑紫哲也さんなのだと思う。筑紫イズムの継承。それは上映後の舞台挨拶や、その後のサイン会で分かる。一人の観客に、腰を深く折ってお礼を言う。熱を帯びた観客の感想に、一言も漏らさず聞き入り、丁寧に言葉を返す。

その姿は、筑紫さんと重なる。ありがたいことに37年前、高校生の時に筑紫さんと少しだけお話させていただくことがあった。だから、その姿をしっかり覚えているのだ。

僕の高校にとある問題があったので、どうしたらいいか筑紫さんに伺った。筑紫さんの笑顔は、本当に温かかった。その思い出を、そのサイン会で佐古監督にお話した。監督も、同じような笑顔でお聞き下さった。

37年が経ったのだ。

7 したくてしたくてたまらない女 2019

「あみこ」で大好きになった山中瑶子監督の短編が観られるというので、下北沢映画祭を訪れた。主演は金子由梨奈監督だし、もうやりてえ放題やってぶっ放してくれりゃあいい。冒頭、安倍の名前が出てきたっけ。どんどんぶっ放してくれりゃあいい。

8 眠る虫

でもって立命館大学の映研が面白いと知ったのは、ポレポレ坐で公開した「そんなこと考えるの馬鹿」(監督・田村将章、出演・金子由梨奈ほか)だった。ポレポレ東中野の上の階にある、喫茶店の奥を囲った部屋。20人ほどの客。密やかな集まり。

以降、彼らの映画を観るようにしている。本当に面白い。かつての立教大学にあった熱量を思い出す。

僕らは、東京学芸大学で学生映画を製作していた。先輩に金子修介監督がいて、ほんの少しだけお会いしたことがある。監督が福島原発事故直後に作った「青いソラ白い雲」は勇気に満ち、素晴らしかったです。

9 梅切らぬバカ

「男はつらいよ」シリーズで大好きな三平ちゃん・北山雅康さんが出ているというので観に行った。北山さんはあの「岬の兄妹」でも好演していて、見逃せない方なのだ。

僕自身、従兄弟と友人がグループホームで生活していまして、身近な話として観ていました。安易なハッピーエンドにはならないんですが、とりあえず近所の家族とは仲良くなれて終わる。地域住民に対し卑屈過ぎず、対抗しすぎずといった母の人物設定が良かったはずなので、その点を掘り下げるとさらに映画が深まった気もします。

10 ゾッキ

竹中直人監督。傑作「無能の人」から最近作まで、撮る度に悪くなるので残念に思っていたが、本作は意外にもまあまあ観ることができた。

2022.01.09