渥美清こもろ寅さん会館にて「男はつらいよ・寅次郎と殿様」35㎜フィルム上映

文・鎌田浩宮
動画撮影・清水mimo見守
写真・大島Tomo智子

 

「母と暮せば」
封切初日と
ぶつかってしまった。
お客さん、
来るのか。

 

この1カ月で、あまりにも多くの出来事があった。
原節子さん、水木しげるさん、平良とみさん、野坂昭如さんの訃報。
内地ではあまり報道されないけれど、とみさんの死去は悲しいものだった。
沖縄のおばぁは元気だから、カジマヤー(97歳の誕生日を祝う沖縄の風習)まで生きていてほしかった。

そしてこの上映と同じ日に、山田洋次監督最新作「母と暮せば」封切。
ついでに書くと、僕と世界中が待ちに待った「スター・ウォーズep7」も、来週封切だ。

だから最近は、山田監督が様々なテレビに登場する。
「これが、最後の作品になるかも知れない」
と、話す監督。
どきりとすると同時に、やはり、とも思う。
去年亡くなった高倉健さんとは同い年、「東京家族」に主演するはずだった菅原文太さんは監督より2歳年下だ。
死を、意識しない、訳がない。
原節子さんや水木しげるさんくらいに、これからも長生きしてくれればいいのだけれど。
監督の出演する番組を、永久保存にしておこうと思う。
監督に残された時間は、もう少ないのだから。

「母と暮せば」を観る前に、ぜひ観てほしいのが、黒木和雄監督、原田芳雄、宮沢りえ主演の「父と暮せば」だ。
日本映画ベストテンを挙げろと言われたら、この作品を推すなあ。
両作品は共に井上ひさしの原作で、対となっている連作。
ただ、「母」の方は、井上さんが構想の段階で死去なさったので、山田監督の原作となっている。
広島の原爆で亡くなった原田さん演ずる父が、りえさん演ずる娘の所に亡霊となって現れるという物語。
両者の演技は他の追随を許さない名演で、カメラワークや演出も素晴らしいの一言。

「わしの事は忘れて早う結婚せい!」
「私はお父ったんを見殺しにして、自分だけ生き残ってしもた。私は幸せになってはいけん人間じゃけん」

もう、涙が2ℓは出ますので、どうぞハンケチを忘れずに。

 

感謝
感激。

 

加えてとんでもない事に、この日は上映と同じ時間帯に、テレビ朝日系列で吉永さんがマドンナの「男はつらいよ 柴又慕情」が放映。
そして夜にはBS-JAPANで「男はつらいよ 寅次郎紅の花」も放映。
「母と暮せば」、小諸周辺では佐久と上田で封切している。
…誰がわざわざこの上映会に来るんじゃい!

35㎜フィルムの大スクリーンを暗闇で皆で観るのが、大好きな人達。
この寅さん会館に毎月来る事が、もう習慣になっている人達。
この初日よりも小諸の「寅さん全作フィルムで観よう会」を優先して下さった約50人のお客様には、感謝感激雨あられで一杯でございます。

紅葉の終わった、小諸。


スクリーンの回りに、クリスマスの飾りつけ。


そこかしこに。いかに安い予算で仕込めるかが勝負。


こんな飾りつけまで。イーゼルに乗せた、山田監督特集。
スウィッチ
、サイコー。


小諸のあちこちで、ココトラ上映前売券、売ってますど。


「母と暮せば」前売券、結構売れましたど。


ココトラ限定販売の、黄金のたい焼き。


さあ、今年も楽しく締めるぞ。ピース。

 

それは、
リハーサル
から、
生まれた。

 

上映前のお楽しみコーナーは、ゴスぺるん♪こもろによる、クリスマスミニライヴ。
この卓越したハーモニーは、すごい。
相当な練習を積んでいるはずだ。

曲の間には、なんとびっくり!「寅さんクイズ」をお客さんへなさってくれた。
「団子屋とらやは、後年名前を変えました。その名前はなんでしょう」
と、ある程度シリーズをきちんと観ていないと作成できない問題ばかり。
しかも、問題が書かれたボードまで作って下さって。
PCで問題を書いて、出力して、拡大コピーして。
かなりの労力がかかったでしょう。

ゴスペル好きの僕は、開場前のリハーサルの時、音響スタッフをこなしながら、いつの間にか一緒に口ずさんでしまっていた。
「鎌田さん、いいね!鎌田さんがジョン・レノンの精神を好きなのは、私も知っているの。キヨシローも好き。一緒に本番で歌いましょ!」
えっ!!
嬉しい…。

その曲は、ゴスペルにアレンジした、「happy Xmas(war is over)」。

僕の合いの手のシャウトに、ぽかんとするお年寄りのお客さん。
何が起きたんじゃ。
戦争は終わる、ってなんじゃ。
盛り上がりがピークに達する、僕達。
拍手が、鳴り響いた。

上映前に、この上映会の2016年上半期ラインナップを上映した。
こうして寅さん名場面集のように見てみると、また味わい深いもんです。
映像作成は、僕です。


 

今年
最後の
上映、
始まった。

 

真野響子の、初々しい若さと美しさ。
倍賞さんの、永遠の処女性。
銀幕に映えるアラカンは、喜劇なのにとてつもなく格好よかった。
この映画の3年後に逝去したとは、全く考えられない。


暗闇に照らし出される、お客さんの生き生きとした顔。

網走番外地」シリーズ。
看守と喧嘩になる、高倉健。
横暴な、看守。
そこで後ろから登場するのが、アラカンだ。
「わしは八人殺しの鬼寅じゃ。お前ら看守を1人殺すのが増えようと増えまいと、死刑は決まっとる!」
格好よく見得を切る。
たじろぐ、看守。
観ていて、惚れ惚れとする。
それが、殿様には健在なのだ。

 

ファンタジー
の、
具現。

 

山田監督は、ファンタジーを見せてくれているのだと思った。
君の住む町にも、殿様の末裔のような面白い人がいて、そんな面白い人がぽつんぽつんといる事で、その町に色彩が射し、味わいが出てくる。
地方創生なんて陳腐な号令ではなく、真から町が生き生きと息づいていく。
君の町でも、できるはずだよ。
監督と渥美さんは、そう訴えてくれているのだ。

さようなら、2015年。
来年こそは、この国がいい年になりますように。


2015.12.13