渥美清こもろ寅さん会館にて「男はつらいよ・葛飾立志篇」35㎜フィルム上映

文・鎌田浩宮
動画撮影・竹原Tom努
写真・大島Tomo智子/鎌田浩宮

久々に、
寅さん本、
出ました。

「寅さん」こと渥美清の死生観
寺沢秀明 著
論創社
1600円+税
2015.6.30発行

今でも出版される、寅さん本。
渥美さんの身近にいた人が書いた評伝は、彼の付き人だった篠原靖治さんの書いた本が素晴らしかった。
若き頃の結核の治療痕を見られたくない渥美さんと、唯一一緒に風呂に入ることを許される篠原さんが、彼の背中を流しながら、癌に侵されるその体を労わる箇所は、読んでいて涙が出てくるんだった。

篠原さんの著書は、晩年の闘病についての記述が多いのだけれど、寺沢さんの新刊は、まだ渥美さんがお元気だった頃…小諸が舞台になった第40作「寅次郎サラダ記念日」辺りから、ひょんなことから聖教新聞の記者だった著者と親しくなり、渥美さんに誘われ、映画や観劇、はたまた花見や、なんと心霊スポット巡り?までを共にし、渥美さんの茶目っ気やユーモア、ごく親しい人にしか見せないプライベートの人間味溢れる彼への著述に多くを割いている。

そもそも、渥美さんが新聞記者と親しい間柄になるのが驚きだったし、しかも宗教系の新聞だ。
そんな寺沢さんと、一緒にアパート探しをし、場末の蕎麦屋で昼ごはんを食べ、幽霊が見たいとその手で有名な所へ行く。
そこからにじみ出る渥美さんの芸術観、女性観、戦争への思い、友情。
読んでいて、楽しい。
気持ちが、豊かになる。

そして最晩年、死の迫る渥美さんがいつ倒れてもおかしくない状態になってしまい、寺沢さんをわざわざロケ地に呼び出し、死とは何かを問う。
仏教者である彼が、それに答える。
僕は創価学会員ではないけれど、このくだりはこの本でしか読めないもので、貴重な記述だと思う。
ぜひ、偏見を持たずに読んでもらいたい。
なぜなら、渥美さんに関する出版物は、ゴシップ誌ならともかく、全てに松竹とご遺族の方が目を通して、許諾の上で発刊しているからだ。

ちなみに、渥美清こもろ寅さん会館ができた際の、オープニングセレモニーでの話も書かれている。
我々にとっては必読の書だ。

この写真、グランドキャニオンかい?
それとも、中国大陸の奥地かい?
雄々しい、崖のように切りだった山々。

これは、東京からバスで小諸へ向かう途中の、風景なんだよ。
今は廃線になった、釜めしで有名な横川から軽井沢への道中、こんなに険しい山なのさ。
この、日本らしくない垂直の線形は、毎月通っていても、見ていて飽きないのさ。

前日、9月11日(金)に到着し、早速間髪入れず小諸駅前にて、僕らスタッフは上映のビラ配り
受け取ってくれる人、走って逃げる人、やんわり断る人、様々さ。
何しろ東京と違って、普段はビラ配りもティッシュ配りもない街だからさあ。

怪しまれないよう元気な声で配り、時には笑顔で会話もする。
受け取ってくれない人が続くと、心が折れそうになるスタッフもいるのさ。
スタッフの中には、先日テレビに出たばかりの、轟屋いっちーもいる。
あの日以来、テレビで観たわよと言われる事もあるそうだ。

さあ、この中から、何人の人が、明日来てくれるかな?
正直に書くよ。
ここ数カ月、お客さんの入り、悪いんだ…。

茨城、栃木、宮城などに恐ろしい猛威を振るった台風の去った直後。
9月に入って、久々に見た太陽。
2015年9月12日、土曜日。
911のテロから、14年が経ったんだ。

昼11時45分に、会館前集合。
都合が合わず欠席するスタッフも多少いるものの、10人以上が集まった。
その中には、小諸市の広報でのボランティア募集で来てくれ、今では中心スタッフとなったトムさんの、高校生の息子さんもいる。
渥美さんの事もそんなに知らないだろうに、よくぞ来てくれました。
心根の素晴らしさは、顔を見れば分かる。
実際、力仕事も息子さんとトムさんで百人力。
いつもよりも断然早く、会場設営が完了した。

息子さん、今度はお客さんで来てね。
もちろん無料で、特等席、用意しとくからさあ。

僕はと言えば、会場設営の他に、地元タウン・クーポン誌の方がお越し下さり、我々ココトラも記事を掲載していただくよう打ち合わせをする。
先方はこの暑さの中、きちんとスーツでお越し下さった。
小諸でスーツ姿の人を見かけるのは、割合少ないので新鮮だ。

お客さんが、入り出した。
さあ、どのくらい、来てもらえるかな…?

2時半になった。
今回は、上映前のお楽しみコーナーの代わりに、地元テレビ局・コミュニティテレビこもろで放映されている、「寅さん全作フィルムで観よう会」
CMを上映。

いっちー、演技、上手くなったなあ。

そして次に、本作の劇中歌「さくらのバラード」を皆で合唱しようという、男性客も多い中、かなり強引な企画。
最初、いっちーが壇上に上がりアカペラで歌う。
が、なんといっちー、歌詞を忘れる!
そこがウケて、笑いが起こり、お客さんの方もほぐれたところで、皆で歌った。

それにしてもこの歌、歌詞が一部、笑ってしまうところがある。
「兄のいない 静かな街」
だ。
兄がいると、どんだけ騒がしくなるんだよオイと突っ込みたくなる!

さあ、3時を過ぎた。
上映、開始。

まずファーストシーンは、お馴染み、夢の話。
今回は、西部劇だ。
ここで、飛び上がりそうになった。
なんと、ガンマンに扮する渥美さんが、巻き煙草を吸っているのだ。
渥美さんは、若き日の浅草ストリップ小屋のコメディアンだった時期に、当時死の病とされていた結核にかかり、片肺を摘出している。
それまで飯の代わりというほどあおっていた酒も煙草もやめ、節制を尽くしていたのだ。
山田監督もそれを知っているはずで、渥美さんが煙草を吸うシーンはおろか、走ったり激しい所作をするシーンもあまりない。
だから、驚いたなあ。
渥美さんが演技で煙草を吸っているのを見るのは、テレビ版「男はつらいよ」最終回以来だ。

そして夢から覚めるシーン。
なんとそのロケ地が、小諸という事が、上映の直前になって判明した。
それが証拠に、寅さんが乗っている馬の荷車を引くおじいちゃんは、小諸馬子唄を唄っている。

さらには、今回のマドンナ・樫山文枝さんのご両親は、なんと小諸出身。
たまげっぱなしさあ。

それにしても大画面で観られて嬉しい、当時17歳の桜田淳子さん。
この年のオリコン・シングルレコード年間売上、マルベル堂のブロマイド売上、『月刊明星』の年間人気投票において、いずれも女性歌手部門の1位というんだからすごいもんだ。
あの、百恵ちゃんを抜いているんだもの。

17歳の幼さと、17歳らしくない凛とした大人っぽさが同居している。
欲を言えば、作品の最後の方でもまた登場して、寅さんと再会するシーンとか、作られなかったものかなあ…?

それに負けちゃあいないのが、倍賞さんの可愛らしさ。
草野球のシーンで、ヘルメットをかぶった倍賞さんがもう、たまらない!
当時34歳なんだが、あの少女のような微笑みは、なんなんだろう。

それに比べて笑っちゃうのが、当時47歳の渥美さんの学生服姿。
あり得ないはずなのに、段々東大生に見えてくるから不思議。

 

恋愛は、
頭が
良くても、
悪くても、
難しい。

 

この作品は、全48作の中でも、傑作という部類ではない。
でも、しっかりと、心に染みるものが、ある。
学問ができる人でも、頭のいい悪いは関係なく、恋愛というのは、なぜにこんなにも難しく、すれ違い、お互いの思いも通じず、苦しいものなんだろう。
これを読む誰もが、失恋したことがあるだろう。
なぜ、フラれたのか。
自分のどこが悪かったのか。
どう考えても、100%の正解が出ない時が、ある。
相手の心が分からない、どんな学問よりも分からない。

苦しみのあまり、死んじまいたい時だってある。
その代わりに、寅さんと教授は、旅に出るのだ。

上映後、ほの暗さが残る余韻のライトで、いっちーと僕が語り合う。
帰らずに、それを熱心に聴いて下さるお客さん。
そして、お客さんと会話をする。
「中3トリオの中で、誰が1番好きでしたか?」
「桜田淳子さん!」
「大きな銀幕で観られてよかったですよね!」

恋愛。
お互いに信頼し、気持ちを寄せ合い、腹の底から話はできる。
しかし、恋愛の成就までには、至らない。
僕も、そんな人生ばかりを、送ってきた。

次回予告をするいっちーと僕。


来月10月10日(土)は、シリーズ17作「寅次郎夕焼け小焼け」
これは、掛け値なしの傑作です。
なんてったって、1976年キネマ旬報ベストテン第2位だもん。
ぜし、小諸までお越し下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 


2015.09.14