渥美清こもろ寅さん会館にて「男はつらいよ・寅次郎恋やつれ」35㎜フィルム上映

文・鎌田浩宮
動画撮影・竹原Tom努/鎌田浩宮
写真・大島智子/鎌田浩宮

小諸にも、
初夏が、
やって来た。

天気予報を
見ると、
気温は
東京より
2℃低い
だけだ。

短パンに
雪駄で、
行こう。

朝5時に起き、雑務を片付け、朝7時に三軒茶屋を出発、高速バスで11時に小諸着。
はあ、ちぃとだけ涼しくって、気持ちがいいやあ。
小諸名物の美味しい蕎麦屋に寄りたい気持ち、ぐっとこらえ、駅前の立ち食いうどんを急いでかっ込み、渥美清こもろ寅さん会館へ。

今日は、我々ココトラが会館の管理・運営権を小諸市から獲得してから、初めての上映になる。
パチパチパチ。
会館のリニューアルオープンを来春に予定し、急ピッチで計画を練る。
予算も、我々で捻出せねばならない。
細密な計画書も、市に提出せねばならない。
とにもかくにもやらなきゃならんことだらけなのだが、この毎月第2土曜開催の「寅さん全作フィルムで観よう会」も、手を抜きません。

11:45、皆でエイエイオーをしてから、地下1階のホールを映画館に設営する。
重たい椅子と机を運び出し並べ、館内を飾りつけし、売店や受付を設置し、音響をセットする。
スタッフの誰が、こんないいアイデアを、思い浮かべるのだろう。
壁に、鯉のぼり、飾られた。
そこらの映画館にも負けない装飾だ。

 

馬鹿が
バスツアーで
やって来る。

 

先月は東京からバスツアーが組まれ、約40人のツアー客が来場したが、今月はなんと茨城から別のバス会社がツアーを組み、やって来るのだ。
なんてありがたい話なんだろう。
「馬鹿が戦車(タンク)でやって来る」とはハナ肇主演・山田洋次監督の作品だが、全国から、寅さん馬鹿が、やって来る

茨城在住、植木寅治郎

先月もわざわざ遠回りし、東京のバスツアーに乗って来場してくれたのだが、今月は自らがツアーを組んでやって来てくれる事になった。

なんとその数31人。
その中には、栃木在住の人もいるらしい。

よくも集めて下さったもんだ。
にしても植木さん、今月は車内でワンカップの酒を、何本空けて来るのやら…!

一方、順調に進んでいた会場設営だったが、今年に入ってから始めた、協賛者のCM上映に使うために借りてきたプロジェクターが、ランプ切れで使えないことが判明。
参った。
映画本編の前に地元のお店のCMが流れるだなんて、本当に二番館のようで大好きな企画なので、至極惜しい。

そんな中、僕が旅の道中何も食べてないんじゃないかと慮ってくれたスタッフがパンとおにぎりをくれる。
トム!智子!サンキュー!

そんな事も露知らず昼2時過ぎ、茨城から約3時間かけてバス到着!

コスプレしている人までいるぞ!

しかも源ちゃんが2人もいる。

蛾次郎さんは、双子だったのか。
アフロすぎて、後ろの人がスクリーンを観られないぞ。

 

小諸の、
乙女は、
カンレキだに。

 

2時半、今月の上映前お楽しみコーナーが始まった。
地元有志・乙女倶楽部による銭太鼓。

銭太鼓というのも聞いたことのない太鼓だが、乙女って本当に乙女なんだろうか?
お年寄りの多き田舎町・小諸に大量のうら若き女性が白魚のようにか細い手で太鼓をぶんぶん叩きまくる絵が、想像できないのだが…。
60代くらいの乙女だったら、毒蝮三太夫みたいに絡んでやるぞ。
ないしはギュンター・グラス作「ブリキの太鼓」みたいに叫んでガラス割ってやる。

銭太鼓とはお金の入った筒の事だった。
5曲、演奏された。
東京音頭にソーラン節、最後は小諸ドカンショでマグネシウムどーん。
茨城の源ちゃんもこの爆発力にぱっかーんだ。


東京音頭。


ソーラン節。


小諸ドカンショ。いずれも音響室から僕の掛け声が漏れ聞こえている。

 

小諸で、
1番、
自由な
場所。

 

なんだ、このアナーキーさは。
館内の無秩序さがフラクタルのように心地良いではないか。

僕はマイクを握って喋った。
この会館は、小諸一自由な場であってほしい。
大いにくつろぎ、茶をすすり、井戸端会議をし、ゲイノージンのゴシップから政治の話に花咲かせ、携帯電話はマナーモードになんぞせず映画を楽しんでほしい。

渋谷東急文化村のルシネマへ先日ウッディ・アレンの「マジック・イン・ムーンライト」を観に行った際に、僕は激高したのだ。
場内ではペットボトルなどのふたのついていない飲料はお飲みにならないで下さい、とアナウンスがあったのだ。
全席指定だの入替制だの映画泥棒だのだけで相当に息苦しいのに、飲み物まで制限しやがる。

寅さん会館は、ケン・ローチの「ジミー 野を駆ける伝説」でありたい。
アイルランド独立内戦の頃、主人公のジミーが建てた、ただの多目的ホール。
そのホールで庶民は、歌を歌ったりダンスをしたり手芸をしたり塾を開いたりした。
だが、当時の巨大な権威であるカソリック協会に「反体制的だ」とされ壮絶な攻撃をされる、実話に基づく映画だ。
ちなみに山田監督は、ローチ監督の作品をいつも賞賛している。

 

会館に
行けば、
自由が
ある。

 

いつでも好きな時に、ぶらりと訪れてほしい。
ここに、いつ来てもいいんだ。
居心地の良い、憩いの場。
寅さん会館は、笑いと涙の途絶えない、渥美清さんの志を継承した自由の場。
渥美さんが最も愛した小諸の中で、最も自由な場。

映画が、始まった。

吉永小百合演ずる歌子も、真の心の自由と独立を求め、単身で伊豆大島の養護学校に赴任する。
寅さんはフラれる訳でもフる訳でもなく歌子と別れるという、全48作の中でも珍しい終わり方だ。

宮口精二演ずる歌子の父と、歌子が遂に和解する。
「おい、何をぼーっとしてやがるんだ、酒だ、酒を用意しろ!」
精一杯の祝いをする2代目おいちゃん・松村達雄の最後の涙。
場内が、すすり泣く音で一杯になる。

13作までやってきて、小諸のお客さんは、会を増すごとによく笑い、泣くようになったように感ずる時がある。
最初の頃は、こんなに大きな声で笑って泣いていただろうか?

それは、この場が、自由の場であるという事が、浸透してきた証しなのかも知れない。
ココトラが汗水たらして、それに全国から人が集まって、浸透してきた自由の場。
僕はその事を、誇りに思う。


上映後のトークショウ。
出演・一井正樹、植木寅治郎、佐藤利明、2人の源ちゃん、他。


終了後、アンケートを懸命に書いてくれる観客。嬉C!


茨城へと帰るバス。見送るココトラ。また来いよ。達者でな。

この「寅さん全作フィルムで観よう会」も、先月で1周年。
全12会ご来場下さったお客さんが3名いらしゃった。
お礼としてココトラから、この上映の無料鑑賞券をプレゼントさせていただきました。
3名の皆様、ありがとうございました。


2015.05.10