第十話「ラーメン」 <前編>

 

shinya010_01

 

いつもは兄貴分の竜(松重豊)と一緒に店に来ていたゲン(山中崇)。
その夜、一人で現れたゲンはマスター(小林薫)にラーメンを注文する。
帰り際、ゲンがマスターに見せた不安気な笑顔。
ゲンは敵対するヤクザの若頭を刺し、姿を消した。以前、暴力団同士の
抗争で竜を守れなかった事を気に病んでいたのだ。警察からもヤクザ
からも追われる事になったゲンだが、そんな中、小学生の男の子・健太
(中村咲哉)が、この店に来れば父親に会えると思ってやってきた。
  
 
思い出の味、「ラーメン」
 
流れ、ながれゆく夜の街。最後の新宿。
 鎌田「第十話『ラーメン』の回。最終回!!」
 倉田「とうとう最終回ですか。
    この最終回は、第一話目とリンクするお話でしたよね」
 鎌「そうだね。だからこの回も松岡監督の演出」
 倉「今回は鎌田さんの思い出の『ラーメン』の回でもありますね」
 鎌「うん。今日は思い出のラーメンを作れて幸せだよ」
 倉「是非そのお話は後でじっくりとお聞かせくださいね」
 
街の片隅で、占い師から前世を聞かされる謎の男(オダギリジョー)。
 鎌「前世かあ・・・あんま考えた事ないな」
 倉「あれ?結構鎌田さんはスピリチュアルなお話お好きですよね?」
 鎌「細野晴臣さんが“認めていない弟子”としてね(笑)」
 倉「それでも前世などは考えないですか?」
 鎌「どうにも出来ない事は考えないね。このオダギリジョーの様に
   前世で人を殺めていたとしても、現世で変える事はできない。」
 倉「僕は逆にどうにもならない事の方が興味あります。
   “どうにもなる”というのは頑張れば出来ると思っているので
   物語を書く上では“どうにもならない”にどう向かうか、の方が
   物語として興味を抱けるので。勝てそうなボクサーが頑張って
   勝つ、よりも全く勝てなさそうなボクサーが頑張る、の方が
   ドラマとしては重みを感じる、というか気持ちが動かされる気が
   するので。そんなこんなで、僕は前世とかも興味あります(笑)」

shinya010_02

 

“やっちまった事、なかった事にはならねえよ” byマスター
 
食堂に集う面々。カメラマン小道の姿も。
 鎌「このバカカメラマンと会うのもこれで最後かあ・・・」
 倉「いや、またDVD見直せばいつでも彼に会えますよ(笑)」
 鎌「アハハハ!そうだった(笑)」
 倉「ま、彼に会う為のDVDではないですがね(笑)」
 鎌「このバカカメラマン、表情を作らない演技がいい。
   ・・・いい役者さんだなあ」
 倉「多分・・・作れないんだと思います(笑)」
 鎌「脇役が勢揃いして・・・久世光彦作品ぽくていいんだよな・・」
 倉「久世さんだと、この辺でみんなで温泉旅行とか行きそうです(笑)」
 鎌「(笑) そして清水健太郎だけがトレンチコートで来るとか(笑)」
 
父を尋ねてきた少年と、謎の男(オダギリジョー)。ピーナッツで出来た
ソロバンを眺めて、“同じ形のピーナッツ探したの?”と少年は問う。
 鎌「(“気が遠くなるぜ”と呟く男に) 西部劇っぽい(笑)」
 倉「ハハハ。なんだかカッコイイ!これで彼がずっとピーナッツを
   割っていたことの意味が判明する訳ですね(笑)」
 
小鈴の店に潜伏していたゲンに会いに来るマスター。
“やっちまった事、なかった事にはならねえよ”と語るマスター。
 倉「この辺は・・・マスターじゃないですよね」
 鎌「ドスが効いているよな・・いい演技するなあ・・・」
 倉「この台詞と、マスターの顔の傷がリンクするようでもあります」
 鎌「(“行く前に店に寄れ”というマスターに) 鳥肌が立つよ・・」
 倉「はい・・・」
 
 
バカヅラ・サイレントナイト

shinya010_03 

出頭する父であるゲンに、事情を知らない少年はまた手紙を書くという。
マスターは“今まで通りここに送ればいいんだよ”と少年に伝える・・・。
 鎌「カッコイイ・・・」
 倉「再び深夜食堂でミラクルが起きたという事ですかね・・」
 鎌「『深夜食堂』ファンの間では最終回について諸々の意見があるん
   だろうけど、この“ここでいいんだよ”という台詞で、最終回と
   いうのはいいよね。この回自体は、ファンの方でも戸惑いが
   あったみたいだけど」
 倉「さっきのドスの効いたマスターと、今のマスター。
   この真逆の感が、本当に凄いですよね。シリーズ全体からすると
   作りが全然違う回なんで、“えっ?”と思う回でもあるかも
   しれませんね」
 鎌「でもさ、不破万作さんの“住所はここだからな!”ってのも
   観ている俺達に言ってくれてるようでもあるね・・・」
 
時は過ぎ、今日はクリスマス。食堂に集う常連客達。
執行猶予が付いたゲンと竜も蟹を持って現れる。皆で黙々と蟹を食べる。
 倉「クリスマスの日に・・・バカヅラばっかだ(笑)」
 鎌「全員バカ面だ!!(笑)」
 倉「ヒドイな。もうちょっといい顔すればいいのに(笑)」
 鎌「(蟹をもらい“サンタはいたんだ!”という忠さんに)
    サンタじゃねえよ!バリバリのヤクザだよ!(笑)」
 倉「しかも蟹だよ!クリスマスだよ!(笑)」
 鎌「・・・・・みんなありがとう。素晴らしい芝居をありがとう!」
 倉「しかも、一言も喋んねえし(笑)小鈴さん、食い方キタナイ!(笑)」
 鎌「(マスターの“サイレントナイトだ”の呟きに) うまいっ!」
 
 
世の中は さすらい迷って 戻り川。 人生、なめんなよ。
 
謎の男・オダギリジョーとマスター。二人の関係が垣間見えて・・・。
 倉「このシーンがこの回の最後に来ている点が、観ている方に
   よっては難しく感じてしまったかもしれませんね・・」
 鎌「まさにそこみたいだね、ファンの戸惑いは。
   ファンであればあるほどこのシーンは迷ったのかもしれない」
 倉「クリスマスシーンの前にこのシーンが来ていれば、もう少し
   連続ドラマとしてすんなり見られたのかもしれませんね」
 鎌「確かに」
 倉「いきなり重厚な感が来てしまうからでしょうかね?」
 鎌「当然、松岡監督も分かってやっているとは思う。
   しかしラストシーンは、どう考えても倉田監督の意見の方が
   ハマリがいいと思うし、そうあるべきなんだよ。
   そこを敢えて違和感のある終わり方にしたようにも思えるね」
 倉「まあ僕もそれがベストかどうかは分かりません。
   オダギリ君の事は置いといて、マスターの過去を途中ではなく
   最後に置いたというのも分からなくはないんです。映画として
   捉えたら、やはりこうなるかな?とも。
   でもシリーズ全体を通してみれば、やはりラストシーンは
   逆の方がやはり座りはいいかなとも思います」
 鎌「このシーンを最後にすると、続きがあるように・・なんだろう?
   深夜食堂はこれからどんどん続いていくんだよ、
   “戻り川”なんだよ! あわよくば続編を作りたいんだよ!
   と、そんなのがあるんだろうか?」
 倉「僕は松岡監督が、二時間の映画を撮る監督ならではの、キャラの
   存在理由を無しには終われない、最重要人物の事を最後に置く、
   それらは理に適っているので分からなくはないです。
   しかしそれは連続するテレビドラマ的ではないんでしょうね。
   だからシリーズ全てを観ている方からすると、主役はマスター
   だけど、マスターじゃない、というこれまでの流れがあったので
   こういう置かれ方をすると驚くというのはあるでしょうね」
 
OPテーマ・鈴木常吉の『思ひ出』が、エンディングで流れていく・・・。
 鎌「おめでとうございます。ついにエンディングテーマが違います」
 倉「実際、オンエア時もこうでしたっけ?」
 鎌「いや、覚えていないな」
 倉「(しみじみと曲を聞き)・・・そう、こういう事なんだよ(笑)」
 鎌「うん(笑)」
 倉「このエンディング観ると、他の回のエンディングは間違って
   入っちゃった曲みたいにも見えます(笑) これが普通です」
 二人「(鳴り止まない拍手)」

shinya010_04

 
奇跡の結晶、『深夜食堂』
 
 鎌「『深夜食堂』の公式サイトBBSにも“是非続編をっ!”という
   熱いメッセージは凄く寄せられててね」
 倉「はい。このPの方とは別件で何度か会う機会があったので、
   直接、続編のお願いもしましたけど。結構本気で(笑)
   その方もやりたいとはおっしゃられていましたよ」
 鎌「是非に!」
 倉「丁寧、且つ考えさせる話、というドラマは久々だったと思います」
 鎌「『相棒』というヒットドラマが、元々はテレビ朝日の土曜ワイド
   劇場から始まった訳でね。あんな形でもいいから2時間ドラマ、
   いやその方が視聴率取れんじゃねえかなあ?」
 倉「そうかもしれませんね」
 鎌「小林薫が出て、いいゲスト来て、2時間バーンとやれば。
   21時からの時間帯の方が、ウチのお袋の世代とかも取り込め
   そうだよね。いい視聴者がやってくると思う」
 倉「しかし、『深夜食堂』終了後に、こういうドラマまた出て
   こないかな?なんて思っていましたが・・ついぞ・・でしたね」
 鎌「ねえ・・・」
 倉「そう思うと、物凄く特殊なドラマだったんだなと思います」
 鎌「その後この局の深夜ドラマは『三代目明智小五郎』とか
   『土俵ガール』だっけ?
   どちらも10分で観るのをやめたからね・・・」
 倉「『三代目~』もそうでしたが、『土俵~』はもうタイトルで
   お腹いっぱいですよ(笑) 悪い意味で。せっかく『深夜食堂』で
   ドラマというものに目覚めたファンの行き着く場所が即座に
   無くなったという現状には・・・ガッカリです(笑)」
 鎌「あの枠は硬派なドラマ枠にしても良かったよね・・」
 倉「そう思います」
 鎌「TBSは特にかな?ドラマで苦戦してて。僕の大好きな
   『タイガー&ドラゴン』でもイチかバチかで2時間単発でやって、
   すぐにDVD化してその売れ行きで連ドラ化して下さい!と編成部に
   お願いして、ようやく、らしいからね。そんなだからねえ」
 倉「特にオリジナルのドラマは厳しいでしょうね。映画でもなんでも
   今はそうでしょうが・・。それでいうと『深夜食堂』は原作も
   ありますからね」
 鎌「企画としては通りやすかったと」
 倉「はい。まあ他局でも原作モノはやってますけど、ここまで原作に
   配慮し、しかも独自性も盛り込んだ作品というのもないですね。
   他は似てる似てないの粗探しされる作品ばかりですから。
   『深夜食堂』、僕は一つ突き通したなあという感ですね。
   松岡監督などが居なければ無理だったでしょうが」
 鎌「かもしれない」
 倉「硬派で、ある意味色気のない作風、渋いキャスティング、
   普通は許してくれないでしょうから、監督や企画された方々が
   相当に頑張られた結果だったと思います。本当に感謝です」

shinya010_05 

 

第十話<後編>へつづく・・・





 
 
 

2010.11.15