第九話「アジの開き」 <前編>

 

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マスター(小林薫)のもとに朝の六時を回った頃、二日続けて朝ごはんを
食べに来た老婦人がいる。名前は八千代(りりィ)。好きなものはアジの
開き。店の常連客の一人、ストリッパーのマリリン(安藤玉恵)は巡業先
から帰ってきていたが、顔を合わすうちに八千代と意気投合、
「マリリンちゃんの踊りが見たい」という八千代の一言で深夜のクラブ
にまで一緒に行くことに。マリリンの手を離れ、ひとりで踊り始める
八千代。八千代とは一体何者?同じく常連客の一人、
忠さん(不破万作)は、どこかで見た顔と思うのだが・・・。

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『深夜食堂』キャスティングの素晴らしさ
 
開始される上映。流れだす新宿の街。
 鎌田「さあ、はじまりまーす!」
 倉田「僕は結構この回、しっとりとしていて好きだったんです。
    多分、りりィさんの落ち着きが妙に好きで」
 鎌「うん。本当に各回いい役者さんを選んでいてウマイよね。
   第八話のでんでんさんにしてもね」
 倉「そうですね。この回もりりィさんのお陰で成功していますし」
 鎌「りりィって歌手の印象なんだけどね。雰囲気十分だったけど、
   決して元ヌードダンサーではないと(笑)」
 倉「実は僕、りりィさんを存じ上げませんでした。このドラマは
   舞台出身の方と、歌手の方が大勢出演されていましたよね。
   あがた森魚さんなども。非常に良いキャスティングに思います」
 
食事の一服をする八千代(りりィ)。何処も吸いにくくなったと嘆く。
 鎌「その通りだ!」
 倉「(笑) しかし生っぽい話し方をされるな、りりィさんは」
 鎌「俺は煙草をやめたけど、喫茶店でも分煙してるとこあるでしょ?
   バカじゃないかと思う」
 倉「本当に。コーヒーと煙草は一緒にやりたいです。じゃなきゃヤダ」
 鎌「酒に煙草はつきものっていう人もいるしね」
 
食堂で八千代と出会う、ストリッパーのマリリン(安藤玉恵)。
 倉「ようやく彼女が主役の回となりましたね」
 鎌「あ、ちゃんと敬語で話したこの子。何か感じたのかな?」
 倉「第一話目で鎌田さんはこの子をブサイクと言いましたが?」
 鎌「その印象は変わっていません!(笑) 申し訳ない!(笑)」
 
 
“俺、「お釣りいいから!」ってやった事ないんだよね”
 
全く出ないマリリンは、颯爽とパチンコを打つ八千代の姿を見る。
 倉「着物姿でパチンコは格好イイですねえ」
 鎌「逆にカタギじゃない感じがプンプンするけどね(笑)」
 
ここで用意した「アジの開き」を食す、鎌田と倉田。
 鎌「結構美味しいよ。こう、焼いただけっていう、あまり俺の手が
   加わってないものは特にね(笑)」
 倉「程良い塩加減と焼き加減ですよ」
 鎌「炉端焼きっていう居酒屋あるでしょ?ああいう店はどうかと
   思う。焼くだけじゃない?(笑)。んで結構な値段を取る(笑)」
 倉「そうですねえ(笑)。でも店によっては自分の所で干物にして
   いる所もあると思うんで。それ以外はダメだとは思います(笑)」
 
マリリンと八千代は酒を交わしてゆく。
 倉「僕、八千代さんのような女性となら飲めますね」
 鎌「うん」
 倉「粋な女性です、りりィさん」
 鎌「(マリリンがお釣りはいいからと帰るシーンにて) あ、すげえ。
   俺、“お釣りいいから!”ってやった事ないんだよね。ある?」
 倉「一回くらいですかね? でもお釣りといっても50円とか(笑)」

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同性同士の偏見
 
マリリンは、八千代に自分の働く劇場を見せて・・・。
 鎌「この間ゴールデン街行ったんだけど、こんな踊り子さんの店
   あったかなあ?ゴールデン街の向かい側なのかな?」
 倉「マリリン、自分がストリッパーだと言うのを隠さなかった事、
   素晴らしいなあと思いました。偉いなあって。多分女性同士でも
   結構言い難い事だと思います。その職を自身ではどう捉えていた
   としても、聴く側としては難しく思う職でしょうから」
 鎌「確かに同性って、同性なのにそういうとこ見るのは
   きつかったりするんだよね」
 倉「そうですよね」
 鎌「多分、俺の母も水商売をやっているとは言えない事が
   多かったんじゃないかな?」
 倉「言葉は悪いですが、女性が男性を楽しませるという職に
   従事している方は引け目を感じやすいものなんでしょうね。
   その点、男は何も考えていないですよね。ほんとバカです。
   その点は男女のあまり良くない差だな、なんても思います」
 鎌「俺がクビになった前会社の、もう亡くなった女社長なんだけど、
   同性だから女性に親切な待遇をするかと思いきや、
   トイレ掃除は女、お茶汲みも女と、ちゃんと差別をしてた(笑)」
 
カメラマン小道登場。売り出し中の若手俳優を連れてきて・・・。
 鎌「出たよ!(笑)」
 倉「またコイツが連れてきたんですよね、問題児を(笑)」
 鎌「そうです(笑)」
 倉「最悪だコイツ(笑)」
 鎌「食堂には脇を固める役者陣が揃ってるなあ。
   マリリンもまた、演技も上手いよねえ」
 
 
“次に来るときは、肩書きなんて置いてきな” by マスター
 
昔の女であるマリリンを侮辱する若手俳優。八千代は俳優を一喝する。
“ストリッパーのどこが悪いんだい!?”と・・・。
 鎌「(このタイミングで八千代の正体を口にする小鈴に)
   うわっ!?タイミングわりい!(笑)」
 倉「ここで言わなくてもいいのに(笑)」
 
八千代が伝説の踊り子「ローズ美千代」と分かり、話に花が咲く食堂。
 倉「(八千代達がまだ店内に残っていて) ああ、良かった・・。
   ここで居なくなってたら凄くイヤな話になってましたよ(笑)」
 鎌「小鈴さんや忠さんがローズ美千代を尊敬してたから良かった
   けど、あのタイミングでだとね(笑)」
 倉「(ローズから色気を学んだと言う小鈴に) そういう意味でも
   ゲイである小鈴さんがここに居てくれたのは救われますね」
 鎌「うん」
 倉「深夜食堂には、さっきの様なイヤな客も来ますけど、誰もが
   平等になる為の、過不足ないメンツがそろっているという、
   不思議なコロニーですよね」
 鎌「その回その回で脇に出ている人間に意味があるんだよね」
 
外で俯く若手俳優に、マスターは言う。
“次に来るときは、肩書きなんて置いてきな”と。
 鎌「そうやってビールを渡すマスター、憎いな・・・。
   もう往年の西部劇のようだね。本当に惚れ惚れするよ・・」
 倉「そうですねえ。マスター凄いです・・」
 鎌「(俳優の隣にいた小道に) そしてもうお前は店に来るな!(笑)」
 倉「ほんとお前、ちゃんとしろよ!と言いたい(笑)」

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“あんたは誇りをもっていいんだよ” by 八千代
 
去っていく八千代。マリリンに“誇りをもっていいんだよ”と告げて。
 倉「このお祖母ちゃん、本当に色気あるなあ・・・。
   そして去っていく姿。本当にいい絵ですね」
 鎌「着物の背筋が本当に綺麗だ。後ろ姿がしゃんとしているというね」
 倉「何か、マリリンに言った言葉を体現していますよね」
 鎌「一方、マリリンはちょっとだけ姿勢が・・・(笑)」
 倉「その対比もなんともまた(笑)」
 
ゴールデン街で舞うマリリン。その表情には・・・。
 鎌「この妖精のような衣装がまたなんともいいな。
   みんなに何か妖精の粉を振りまいているようでもあるよ」
 倉「魔法、なんですかね」
 鎌「ないしは、幸せを・・」
 倉「マリリンの表情が、堂々としたものに見えます」
 鎌「うん。そう思えるように作ってあったね今回」
 倉「あの・・僕は行った事なんですが、実際幾らくらい
   掛かるんですか?ストリップ劇場って」
 鎌「どうだろ?俺の友人の○○は何回か行った事あるみたいだけど」
 倉「・・・・書けないですよ(笑)」
 鎌「(笑)」
 倉「僕はこの回のような、先人がいて、後に来た者が学ぶ、
   こういうストーリーラインが結構好きなんです」
 鎌「俺も改めて観て、いい話だと思った」
 倉「僕も久しぶりに観ました」
 鎌「俺も最近再就職をしてね、営業マンなんだけど会社の人数が
   少ないからしょっちゅう工場の方にも駆り出されて、一日中
   ケーブルを切ったりという単純作業をしたりね。そんな時、
   “嗚呼、俺って何やってんだろうな・・大学まで行かせて
   もらったのに・・・”と思うんだよ。でもこういう先人に
   出会えて、“お前の人生、それでもいいんだよ”なんて言って
   もらえたらちょっと嬉しいね」
 
“あの”エンディングテーマが流れ・・・。
 鎌「今ね、深夜食堂を愛する、深夜食堂の感想などを書かれている
   ブログなどにお邪魔したりしているんだけども、
   このエンディングテーマのブーイングはかなりのものだね(笑)」
 倉「(爆笑) いやあ、皆さんが同じ様に思われてて嬉しいです!」
 鎌「ほんとに!(笑)」

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第九話<後編>へつづく・・・




2010.11.01