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さよなら三軒茶屋シネマ
撮影/文・鎌田浩宮
それまで
あって当たり前、
あって悪いことなど
1つもなかったのに、
変わっていってしまう。
憲法も。
映画館も。
この度自分でも映画を完成させ、上映してもらおうといざ全国各地の映画館を探していると、どこもかしこも、もーシネコンしかないんである。
シネコン帝国主義なんである。
まるで安倍政権なんである。
シネコンでかかる映画は、松竹、東宝、東映などの大手製作・配給会社の作品だけなもんで、僕らのようなインディーズの映画は絶対にかけてもらえない。
そうなると頼みの綱は、単館系、二番館、名画座になるんだけれど、これがまたガンガン減ってしまっている。
例えば僕らの映画は、東北の被災地を舞台にしているので、どおおしても東北で上映したいんだけれど、何と東北に単館系は、福島市と仙台市の2館しか残っていない。
あとは、東北6県、どこもシネコンしかないのよ。
皆、アナ雪しか観ないのよ。
しかも今や、シネコンでさえ頭打ちで、増館に歯止めがかかっちゃっているとニュースでやっていた。
三茶には
昔、
映画館が
あったんだよ。
僕が子供の頃、三軒茶屋には3館も映画館があるのが、自慢だった。
三軒茶屋映画劇場は、文芸ものやアート系の二番館で、映画好きが遠くからも三軒茶屋を訪れていた。
三軒茶屋中央劇場はポルノだったけれど、ごくたまに「スター・ウォーズ」と「キタキツネ物語」の2本立てなんかをかけたりして、喜び勇んで行ったもんだった。
小学生の住む街に、おっぱいを放り出したフケンゼンな女性のポスターがあちこちに貼られているのは、全くもって健全なのだった。
その2館ともなくなってしまい、残るは三軒茶屋東映と昔名付けられた、三軒茶屋シネマだけになっちまった。
ここはかつて東映系だっただけあって、エンターテインメント系の二番館。
僕の作曲した発車チャイムが流れる「阪急電車」も上映されたりした。
1階と地下はスーパー・肉のハナマサ。
昔はシヅオカヤという、グリーンスタンプをくれるスーパーだった。
屋上はバッティングセンターで、その狭さと古さから、かねてからよくテレビに出たもんだ。
ちなみに、そこでもらえる映画の割引券が、これ。
ホームラン賞は、映画の無料券だった。
その建物の2・3階に、三軒茶屋シネマはある。
定員155席。
本当かどうか知らんが、ドルビーシステムのロゴも貼ってある。
映画
よりも
怖い
天井。
1954年にできたこのコヤに、何度足を運んだだろう。
最も命の危険に晒されたのは、20年以上前だったろうか、なんと天井が腐って落ちてきたことだ。
後ろの席に座っていた僕は、間違いなくそれを目撃したんだけれど、前の方に座っていた客は、いきなり暗闇の中で後方からドスンという音がしたので、何が起こったかも分からなかったので、そのまま映画を観続けたという…。
とにもかくにも客がガラガラだったので、誰もいない所に落ち、けが人も出ずに済んだのだよ。
あれは笑ったなあ。
天井は、その部分だけ改修されてたよ。
そうかと思えば1996年には、沖縄の人々が初めて自分たちの手で、沖縄からの視点で、沖縄戦の悲惨さと苦しみを描いた、沖縄戦終結50周年記念映画「GAMA 月桃の花」を単独上映したりもして驚かせた。
普段は他愛のない娯楽映画しかかけないのに、しかも大手の製作・配給でもない映画を、採算度外視で上映してくれて、沖縄好きの僕は心から嬉しかった。
この公式サイトを見ても、そんな映画、本当にあったっけ?という人がほとんどだろう。
そんな映画も上映してくれたコヤだった。
http://www.toukoueiga.com/sancha/index.html
この度、三軒茶屋シネマは、2014年7月20日をもちまして閉館致します。当館は1954年の開館以来60年間に亘り、邦画、洋画を幅広く上映して参りました。しかしながら、設備の老朽化、近年の市況の厳しさ等、諸般の状況から長期的な展望の見通しが立たず、誠に残念でございますが、閉館を決定した次第でございます。60年のご支援ご愛顧を賜りましたことを、従業員一同心より御礼申し上げます。
(公式サイトより抜粋)
このニュースを知った時、単純にやめないでくれ、続けてくれとは言えなかった。
だって、僕ら地元の者がもっとこのコヤを愛し、通い詰めていれば、赤字にはならなかった。
僕らにだって、責任はあるのだ。
それにしても、細々とフィルム上映をしてきたコヤが、ハードディスクによるデジタル上映の波に乗れず、次々と消えていく。
このコーナーのタイトルにもなっている「二番館」そのものが、全滅しかねない。
少なくとも、この三軒茶屋から、映画館が全滅するのだから。
その三軒茶屋シネマが、先日から特別上映を始めた。
二番館としてではなく、最後にふさわしい名画の番組を組んだ。
6/28(土)~7/4(金)は「イタリア映画・不朽の名作2本立て」と題して、
「ニュー・シネマ・パラダイス」
「ひまわり」
7/5(土)~7/11(金)は「モノクロ・サイレント映画の傑作2本立て」と称して
「街の灯」
「アーティスト」
7/12(土)~7/20(日)の最終上映は
「そして父になる」
「のぼうの城」。
イタリア、サイレントと来たら、最終上映はもっと映画ファンを唸らせる不朽の名作で締めてほしかったが、それは贅沢が過ぎるというもの。
早速、7/1に行ってきました。
この日は映画の日なので900円。
でも、受付のお姉さんは、800円でいいと言う。
毎週火曜はメンズデーで、男性は800円だったのだ。
ちなみに金曜は、レディースデーです。
ドア
の
ない
トイレ。
番組のよさからか、閉館のせいか、続々とお客さんが入ってくる。
お年寄りも、若者も、サラリーマンも。
僕も、ここに来たのは10年ぶりか、それ以上か。
子供の頃から全く変わらない、薄暗くてくすんだ、ほのかにかび臭い場内。
コンクリの床は一部がはげていて、でもうわ薬のおかげでピカリと輝いている。
トイレの入口は、男女共に、暖簾がかかっている。
暖簾だもんなあ、女性に不案内だよなあ。
それまでも、微笑ましく。
そのトイレの窓からは、少し前に休館してしまった中央劇場が見える。
懐かしい。
胸が、一杯だ。
客の入りは、平日にもかかわらず、7割は入っているかな?
そして、映写機がカタカタと音を立て始めた。
技師さんは、女性だった。
デ・シーカの作品を、フィルムで観られる素晴らしさ。
ニュープリント・デジタルリマスターだそうだが、フィルムはそこそこ痛んでいて、そこがまたいい。
イタリアの色彩は、フィルムに限る。
黄、緑、映える。
ああ、小津の赤も、フィルムで観たいなあ。
僕は小諸で「男はつらいよ全作フィルムで観よう会」に参加しているけれど、フィルムの色彩というのは、たまらないものがある。
「ニュー・シネマ・パラダイス」は何度も観ているし、それほど好きな映画でもないので帰ろうかと思ったが、違う席でこの銀幕を眺めたくなり、席を替え、再び居座った。
いつ入ろうと出ようとどこに座ろうと構わないのが、昔のコヤのいいところ。
この映画は、反則だった。
このコヤと、映画がだぶって見える。
僕が生まれるずっと前から、愛されたコヤ。
消えていくコヤ。
席のあちこちから、鼻をすする音が聞こえる。
同時に、椅子のきしむ音。
そう、このコヤは古くって、座る姿勢を少し変えるだけで椅子がキイキイ言うのだ。
くらやみの中から、ちびの蛍光灯が、ぽつりと灯った。
終映。
もぎりのおばさんやお兄さんとひとしきり話をして、また来週も再来週も来ますと言って、コヤを出た。
客が、すれ違い続々と入っていった。
今、映画は、デジタル化によって、タダのような予算でできてしまう。
僕らの映画だって、そうだ。
今、文化庁が力を入れなくっちゃいけないのは、映画製作の助成じゃなくって、映画館への助成だ。
フィルム上映からデジタル上映に設備投資するのに、1200万もかかるのだという。
間違いない。
二番館が、日本から全滅するよ。
駅前にあるのは、古い商店街じゃなくって、資本系のスーパーに、チェーン店のファミレスと居酒屋。
立ち食いそばや、靴の修理もチェーン店。
そして、その中に、シネコンがある。
そんな街には、住みたくない。
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