二番館へ走れ:第4回 『アウトレイジ』

茨城県守谷市のシネコン、ワーナー・マイカル・シネマズ守谷にて平日夜の回に客は二十人程度。北野武の映画は客が入らないと聞いていたが、状況が変わったのか?例外は『座頭市』でベルリンで賞を取ったらいつ行っても満員で入れなかった。けどこの映画、僕には露骨に海外賞狙いのいやらしい映画にしか思えない。その上あのラストである。多くの観客は勘違いをしてあれをビートたけしのギャグだと思ったんだろうが、あれはまぎれもなくオリジナルに対する強烈な悪意だ。リメイク映画でオリジナルへの悪意を表明するのは大変珍しく、いい度胸ではある。晩年の勝新太郎が映画に関われなかったことを惜しんでいる者としてはこの一本で北野武への評価がひっくり返ってもおかしくはない。という訳で僕は武映画のいい観客ではない。しかし今回は面白く見た。

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 親子も兄弟も同じ組員同士も関係なく殺し合うやくざの話である。不意打ち、騙まし討ちは当たり前で結果として登場人物はほとんど生き残らない。カッターナイフでの指詰め強要(もちろん痛いだけで指など落とせない。コンビニで売ってるあのカッターだぜ?)、歯科医のドリルで口中引っ掻き回す(そのあとでわざわざ治療中で何も口にできない状態の被害者を呼びつけて詫びの食事だと言いながら美味そうに飯を食う場面あり。あんまりだからだろう、殺し方はいたって平凡だった。)、調理場で菜箸を耳に突っ込み指を飛ばす(当然、指の入ったラーメンは客に出される。)、車中の人物にロープをかけてその端をガードレールに結び車を走らせ首を締める、というか千切る(頭から布を被せているので一滴の血も映っていない。予告編に出てくる印象的な場面だが、あんなすごいことしてたとは!)と感動的な場面が続き、銃の乱射というこの手の映画では花形の場面が実につまらないものに見える。

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 北野武は殺しのネタ帖を作りながら脚本を書いていたというが、自己破壊衝動がこんな形に結実するとはたいしたものだ。今からでも遅くないから是非ホラーを撮っていただきたい。真っ暗な傑作が出来ることだろう。これまでの武映画と比べて洗練されていないと戸惑う声があがっているらしいが、暴力をスタイリッシュに描いて何が楽しいのだ。

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 女性に対する無関心ぶりは見事なものであっけにとられる。また、俳優が映画を撮るとキャスティングに唸ることは多いが、今回は北村総一郎や小日向文世よりやっぱり加瀬亮である。あんな使い方があったとは!悪い奴だけが生き残る、そういう意味では確かに世評通り今の世の中を反映してはいる。

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2010.10.10