第十話「ラーメン」 <後編>

 

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ラーメンとビートルズ

 倉「今回はラーメンを中心にという話でもなかったじゃないですか?
   最後に息子と繋がるアイテムではありましたが。他の回と比較
   すると食べ物の位置付けは低いかなとも思いました。
   でも今回は、実は鎌田さんの思い入れのある食べ物としても
   『ラーメン』は重なっていたという訳なんですよね?」
 鎌「そうなんだよね。今日この対談用に作ったラーメンはね、
   ガサツなラーメンだけど、これが俺にとっては思い出の
   ラーメンでね。前々回『ソース焼きそば』でも話したんだけど、
   俺のオヤジが何処かに行っちゃったんで、小学1年から2年まで、
   俺と弟は、母の弟である“ミノルおじさん”の家に預けられてね。
   おじさんトコにも子供いたから、俺ら入れて五人家族となってね。
   ミノルおじさんは普段は一切ご飯は作れないんだけど、日曜の昼
   だけミノルおじさんが“サッポロ一番塩ラーメン”をデカイ鍋に
   五人分全部入れて、適当にキャベツをばっさり入れて、煮立てて、
   お椀に一人分ずつ盛ってくれて、“さあ、みんな食え!”って
   やってくれたんだよね」
 倉「ミノルおじさん、カッコイイ・・・」
 鎌「では頂きます!
   ・・・・・少し時間が経って麺の伸び具合もなんとも。
   この伸び具合が“ミノルおじさん”です(笑)」
 倉「(笑) では“ミノルおじさん”頂きます!
   ああ、何か久しぶりに塩ラーメンを食べた気がします!」
 鎌「ちなみに俺、昼ご飯もラーメンだったけどね(笑)」
 倉「鎌田さんのカラダは麺で出来てると。川島なお美!(笑)
   今でもこのラーメンを、思い出の為に食べたくなりますか?」
 鎌「どうなんだろう?単純に袋ラーメンの中でサッポロ一番は
   味噌も塩も味として好きなんだよね。
   それはミノルおじさんに刷り込まれたからなのかなあ?
   ビートルズもミノルおじさんから教わったし(笑)」
 倉「ビートルズと塩ラーメン!ミノルおじさんなんて事を(笑)
   じゃ鎌田さんの中ではビートルズが塩ラーメンを食べている
   映像が焼きついているんですね(笑)」
 鎌「そうそう(笑)。 歴史上では加山雄三がビートルズに
   すき焼きの食べ方を教えた事になってるけど、
   塩ラーメンはミノルおじさんがビートルズに教えたんだよ(笑)」
 倉「ミノルおじさん、結構歴史上の人物っすね(笑)
   今日、ゲストにお招きしたかったです」

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誰しものの人生が、第十一話
 
 鎌「今ね、ミノルおじさん、もう言葉があまり話せないんだ。
   ミノルおじさんの場合は、オヤジと似て非なるモノなんだけど
   パーキンソン病なんだよね。マイケル・J・フォックスとかと
   一緒のね。身体の筋肉が衰えてしまっていく病だね」
 倉「そうだったんですか・・・」
 鎌「うん。お喋りも上手くできなくなってしまってね・・」
 倉「当時、普段は全く料理をしないおじさんが、日曜日に
   ラーメンを皆に振舞ってくれたというのは、おじさん的に
   何かあったのでしょうか?」
 鎌「あったのかもね。俺から見ても
   “ああ、一家の大黒柱が豪快に振舞う”というのは
   いいものだなって見ていたよね」
 倉「ミノルおじさんとしても、それが大黒柱の在り方、姿というのを
   幼い頃に思われたんではないでしょうか」
 鎌「そうかもしれない。以前にも話したけど、ミノルおじさんを
   生んですぐ生みの母が若くして亡くなって。当時は男親一人で
   子供を育てるなんて有り得なかったから、すぐに次の母と再婚
   したんだけど。まあ、かなりその継母に虐められたみたい。
   俺の母とミノルおじさんの学校の弁当は作ってもらえなかったり
   とかは普通にあったらしいけどね」
 倉「失礼ではありますが、深夜食堂の第十一話としても
   成り立つ程のお話に感じます・・」
 鎌「倉田監督の所属するe.g.t.Filmの方々が撮ってくださった、
   tranquil overのDVD『airy tracks against all of war』のおかげで
   ミノルおじさんファンは巷に多いんでね。ありがたいよ」
 倉「あの場でミノルおじさんにお会いできた事、今のお話を聞かせて
   もらった事もあり、いいタイミングであったと思います」
 鎌「でもラーメンが“麺伸びてるよ!”なんて言ったら、
   おじさんにはぶん殴られるんだけどね(笑)
   “ヒロアキ!黙って食えっ!”って」
 倉「そんなぶん殴りキャラだったとは・・・イメージが・・(笑)」
 鎌「普通に口より手が先に出る人だったからね。怖かったよ(笑)」

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伝説のドラマ『すいか』
 
 鎌「我々が大好きなドラマで日テレでやっていた『すいか』。
   あれはアパートに集う人間模様だったけど、あんなアパート
   何処にも無いじゃん?でも僕達には想像力と創造力という、
   人間にはそういう力が備わっているんだから、じゃあ皆で
   作ってみよう!って『すいか』っていうドラマが生まれ
   『深夜食堂』っていうドラマが生まれ。
   そういうものなんじゃないかな?」
 倉「そうですよね。そうあるべきだと思います」
 鎌「“無い”から“創る”」
 倉「『すいか』は多分鎌田さんと最初に意気投合したドラマでした。
   僕の中でも未だにトップなんですよね」
 鎌「だねえ~」
 倉「一話完結に近い形を取った連続ドラマでしたが、僕は一話を
   除き、全話号泣してしまったんです。それが自分の中でも
   有り得なくて今でも驚きます。でもよく観ると一人一人の
   キャラに嘘がないんです。作られたストーリー上で動いている
   というよりも、キャラ内部から生まれた感情でキャラが
   動いている、そんな風に見える脚本と演出なんです」
 鎌「うん、生きていたねみんな」
 倉「視聴率はよくなかったみたいですけど、僕の中では奇跡とも
   呼べる作品でした。それで言うと『深夜食堂』もそれに近い、
   嘘の少ない、キャラの心から生まれるストーリーでしたので、
   『すいか』と同じ様なものを受けました」
 鎌「奇跡だったかもねあの作品も」
 倉「で、『すいか』放映が2005年。『深夜食堂』が2010年。
   良質ドラマは5年周期か。じゃあ次は2015年になりますね(笑)」
 鎌「オリンピックより長いね(笑)」

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ドラマの巨匠は何処へ・・・
 
 鎌「今のテレビドラマって恋愛モノかサスペンスしか無いんでは?
   って話したよね?後はその二つをまぜこぜにしたものか」
 倉「はい。ぶっちゃけドーデモイイドラマが多いです(笑)」
 鎌「だよね(笑)」
 倉「何か、一服の清涼感の為だけのドラマが多いというか、
   真っ当なドラマは日の目を見ないというか。
   昔は良質なモノは話題になっていたと思うんです。
   今はやっていても流れていってしまう。
   作り手側としても悲しい事になっていないのかな?とも」
 鎌「例えば、久世光彦さんのような方が現役バリバリだとして、
   “また連ドラでホームドラマやりたいんだ”って言って
   やらしてもらえるもんだろうか?」
 倉「倉本聰さんが2年ほど前にやられてましたよね」
 鎌「フジテレビの50周年記念ドラマ『風のガーデン』だね。
   その後、山田太一さんの『ありふれた奇跡』」
 倉「あれくらいの巨匠ならば“やる!”となれば企画は動くんでは
   ないですか?ただああいう方々も数字が取れないから
   年に一本という形ではやられない、やらせてもらえない、
   という事にはなっていそうですが」
 鎌「そうだろうね」
 倉「だから久世さんは特殊だったと思いますよ。面白い事もやりつつ
   社会的な事も入れつつ、数字も取れるという。すごく上手い方、
   ただ真面目じゃない、もっと越えた目線を持ってみえたからこそ、
   ヒットも飛ばせてメッセージも送る事が出来たのかも。
   僕個人は向田邦子さんとのタッグが好きなんですけど」
 鎌「山田太一さんが『ありふれた奇跡』終わった後、
   “僕はもう連ドラはやらない”って宣言してたんだよね。
   それは勝手な想像だけど、あれだけの巨匠でもやいのやいの
   視聴率だの言われて嫌気が刺したのかな?と思ったしね」
 倉「あの方々も若い頃は視聴率うんぬんで揉まれたんでしょうけど、
   今でもそれに振り回されるというのは、彼ら的には何か納得が
   いかない部分もあるでしょうね。何か、文化事業的な意味合いは
   テレビのドラマからは消えつつあるんでしょうかね」
 鎌「残念な事だよね・・」
 倉「実際『すいか』の脚本家・木皿泉さんも、凄い脚本が書ける方
   なんですけど、売れっ子作家として毎年1本は連ドラを書く、
   みたいな事にはなっていませんし。その辺は悔しい気持ちは
   湧きます。良いものを書ける方がよく映る場所にはいない。
   これが今の日本の、観客と作り手、管理者の思想なのかと
   想うと・・・」
 鎌「木皿さんは惜しいよね・・」
 倉「クドカンさん(宮藤官九郎)なんかはどうなんでしょうかね?」
 鎌「そういやクドカンを、ここで日記書いてる若女将のけい子(仮称)
   も大好きみたいだけどね。この間書いてたよ」
 倉「あ、そうですか。いやあファンの方多いですよね。
   『タイガー&ドラゴン』は様々な熱いメッセージ篭ってましたが
   あれは視聴率どうだったんですかね?」
 鎌「悪かったんじゃないかなあ?」
 倉「いつものクドカンさんのよりはやはり少なかったんでしょうね。
   それでも名前や、最低ラインの視聴率が取れるという点では
   書かせてもらえているんでしょうね。この間の『うぬぼれ刑事』
   が、メッセージ色ぶっこぬいて作られてる様に見えたので・・・」
 鎌「徹底して笑わせる事に専念してたよね、『うぬぼれ刑事』は・・」
 倉「素晴らしい作家陣を骨抜きにしてはいけない。そう思います」

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素晴らしいドラマを僕らは待っている!
 
 倉「で、結論は・・・いいドラマを観たい!って事なんでしょうね」
 鎌「うん!なんなら創るのに・・・」
 倉「僕、連ドラはずっと興味あるんですよね。2時間のドラマでは
   出来ない事が多いので。積み重ねる事で見える、感じる人間像、
   それは2時間映画では生み出しにくいモノです」
 鎌「倉田監督の作品でDVD化もされている『緋音町怪絵巻』も
   脇役が豊富なんで、連ドラでやりたいって言ってたよね」
 倉「そうですね。元々は長編で、DVD化されたのは中編です。
   でも長編のネタは10時間分あるんで、10話くらいには
   なるんですよね(笑) それこそ久世さんぽい世界観でしたが」
 鎌「というわけで、これを読んでいるテレビ局、並びに映画関係者、
   こちらはいつでも創るんで、いつでも info@epstein-s.net に、
   お便り下さい!」
 倉「・・・・・お願いします!(土下座レベル)」
 二人「(爆笑)」
 鎌「これにて『深夜食堂を褒めちぎる』の対談を終了します!
   全十話、お付き合い下さいましてありがとうございました!」
 倉「本当にありがとうございました!感謝感激!」
 二人「(大拍手)」
 

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おしまい





 
 
 

2010.11.22