東北の人と「あまちゃん」を語る

構成/文・鎌田浩宮

今、これを書いているのが
2013年9月28日、土曜日。

「あまちゃん」
の最終回が、放送された。

僕自身は、
多少の不満はあるものの、
総じてとても楽しくこのドラマを観ていたんだけれど、
僕の周りではわずかながら

「ダメ」
の声が聞かれた。

ならば、
被災した東北の人たちの、
生の感想、聞いてみよう。

それが1番いいなあ、
と思ったんです。

お相手は、エプスタにちょくちょく登場してくれる、福島県相馬市在住、杉本敏之君のお父さん・紀男さん
齢の頃、70歳くらいかな。
すんごくいいおじさんで、僕も相馬へ行っては酒を酌み交わす仲。
放送終了後、すぐに電話でインタビュー。

 

難しくは、
観ない。
福島は、
福島で、
色々
あるから。

 

お父さんはNHKの朝ドラ、毎回観てるけど、「あまちゃん」は観てた?

「毎日観てたよ。でも、今日の最終回は観なかったなあ」

あらま。で、今回の朝ドラは面白かった?

「まあ面白かった方じゃないかな。でも、今再放送をやってる『おしん』の方がいいなあ。感動するよ」

感動と言えば、僕は震災後、北三陸鉄道の一部区間再開のめどが立って、大吉っつあんがスナック梨明日でスピーチしながら号泣するシーン、あそこは泣いたよ。少しだけでも復興が前に進んだ時、東北の人が苦労した分どれだけ嬉しかったかが、伝わって来たなあ。

「でも、実際はあの鉄道も、駅が破壊したりしたんだよ。そういうのは映さないじゃない?」

実際に震災の傷跡を映すとトラウマに苦しむ人もいるから、観光協会のジオラマが壊れたカットを映して、という演出にしたんだよね。

「あと、本物の海女さんは、ウニを獲って海面へ戻る時に、口笛みたいのを鳴らすんだよ。そこまで演技はできなかったんだろうなあ」

そうかあ、そういうディティールが気になるんだね。で、「あまちゃん」で特に笑えたシーンや泣けたシーンはあった?

「ないなあ。感動も、励まされたりとかも、ないよ。福島は福島で色々あるから」

そうだよね。相馬市では400人を超える方がお亡くなりになったけれど、「あまちゃん」の舞台になった久慈市は、岩手でも被害が少ない方で、お亡くなりになった方もお2人なんだよね。それに、何と言っても福島には原発事故があったし。

「NHKの番組はどれも難しくは観ないよ。真剣に観ると頭に来るし。ちゃんと本当の事は言わないしなあ」

本当は岩手でも放射能の被害はあるんだよね。原発事故は避けてほとんど描かれなかったことについては不満はなかった?

「不愉快には思わないよ。NHKだからしょうがないんじゃないかあ。原発事故を描けば反対する視聴者もいるだろうし」

続いては、これまたエプスタ常連、仙台を中心に復興支援の仕事に携わるワオ君(仮名)
40代のナイスミドル。
彼ともしこたま呑みます、仙台で、東京で。
電話でのインタビュー、語りおろしだど。

 

朝ドラで、
死体を映すより、
必要な、
こと。

 

「岩手県観光課の人と名刺交換してもあまちゃんのイラスト入りだったし、僕の職場の人たちも皆観てたよ」

ワオ君はマイレージがあったらなあと思うほど岩手に行ってるもんね。そんな君にこそ訊きたかったのは、「あまちゃん」の震災の描き方なんだよ。

「例えば、日本の報道だと、震災で死体は映さない。だけど、海外では映すんだよ。それを、規制と解釈するか、被災者のトラウマへの配慮と取るか。これに近い話題なんじゃないかな」

その通りでね、例えば「あまちゃん」には「原発」という言葉は一切出てこなかったんだけど、違和感を感じる?

「地震、津浪、原発、風評被害、これらを包括的に描くわけだけど、舞台になった久慈市と福一との距離は、東京と福一との距離よりも遠いんだよ。放射能による被害はかなり少ないので、原発のエピソードを入れる方が奇異に見えるんだよ」

そうなんだ。詳しい人に訊いてよかった。じゃあ、震災で亡くなった人や、仮設住宅で苦しんでいる人を極力抑えた描き方はどう思う?

「東北には、実際身近にそういう人が沢山いるんだよね。現実の世界で嫌というほどそれを見続けているので、ドラマで再度それを見る必然があるとは思えないんだよ。朝ドラというのは、多くの人が観て楽しめるのが役割。被災した人で、このドラマを楽しんだ人、希望を持てた人はとても多いと思うよ」

誰よりも被災した人にとっての「あまちゃん」であってほしいから、納得できる話を聞けてよかったよ。では、「あまちゃん」の中では、2012年にウニが豊作になり、海女カフェが再開できて、北鉄も一部再開できて、スムーズに復興が進む方だと思うんだけど、東北には復興がスムーズに進まない地域も沢山あるよね、そういった人たちはどう観るのかなあ?

「復興が遅れている所もあるけれども、進んでいる所を見て励まされたり慰められる人は沢山いると思うよ。『あまちゃん』で、嘘は描いてないんだよ。実際に震災から5日後に三陸鉄道は運行したし、逆にそこで嘘を描いても、皆が知っていることだからすぐにばれちゃうんだ」

うんうん。そんな中で、クドカンは台詞のあちこちに、事実や思いを懸命に散りばめてるんだよね。例えば…

弥生さん「やっと獲ってもよ、震災の影響で東北で獲れる海産物は危ねえんでねえかって…ふ、ふ、ふう」
大吉さん「風評被害か?」
かつ枝さん「んだ」
弥生さん「ふ、ふう、ふざけるなー!何度も何度も水質調査して安全だって証明されたから おらたちは潜ってるつうのによぉ!」

アキ「頑張ろうとか、1つになろうとか言われても、息苦しいばっかりでピンとこねえ…」

アキ「東京でテレビ見でだら、あまりに問題が山積みで、何万人のデモ行進どか、何百万トンのガレキどか、正直、おら1人じゃ、どうにもなんねえって気になっちまう」

これらの言葉にとても共感できたし、ここまで踏み込んで描いてくれたクドカンに感謝さえしてる。NHKのことだから、企画段階で既に「原発」はNGワードだったんだと思う。それを承知で、さらには僕らのような批判めいた反響もあるだろうということも全て承知で、このドラマに挑んでくれたんだろうと思う。エプスタで既に書いたけれど、僕も二次被災者なわけで、「頑張ろう」というメッセージの押し付けは本当にしんどかったから。

2人とも、心から、ありがとう。
「あまちゃん」の観方が、広がりました。

この6カ月、幸福でした。
好きなシーンは山ほどあるけれど、今浮かぶのは、ユイへの慰めを送信した、アキの変顔です。
こんな素晴らしい友情は、「頑張ろう」とか「絆」ではくくれない豊かなもの。

とにもかくにも、忘れないでいます。
東北のことを。
被災者のことを。
「あまちゃん」を。

さあ、僕も、立派な「あまロス」に、なります。
真っ向から、震災前の東北と、震災後の東北を描いた「あまちゃん」の皆さんへ、感謝しつつ。

この2人の話は、まだまだ続くど。

次回、
「東北の人と『楽天優勝』を語る」
「東北の人と『東京五輪』を語る」
「東北の人と『消費税』を語る」
を待て!

ここまで読んでくれて、サンキュー!
つづく!



2013.09.28