第十三話「あさりの酒蒸し」

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マスター(小林薫)の止めるのも聞かずに、「あさりの酒蒸し」を肴に、店で飲み続けるおレン(馬渕晴子)。おレンはいい年をして結婚の話のない息子の丈(宇梶剛士)に悪態をつきながら、今夜も酔いつぶれ、背負われ家に帰っていく。空手道場で指導をし、生徒の子供たちからも慕われている丈は、母とは違って酒を飲まず、その人格は幼な馴染みの永井(甲本雅裕)からも一目置かれている。気がかりなのは母の体調だが、丈は、苦労しっぱなしだった母から酒を飲む楽しみを奪えない。マスター相手にそう話す丈の心に、幼い日の母との思い出が蘇る。(公式サイトより抜粋)

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母と息子の長き旅路

冒頭のキャストテロップを見て…
鎌田「あれ?平田薫、出ねえじゃねえか。レギュラーのはずじゃ…」
倉田「あれ、そうですねえ。残念…。と思ったら第一期の
   あのヒトが!!!」
鎌「それに今回の監督は、映画『毎日かあさん』の小林聖太郎だ」
倉「ですねえ」
鎌「倉田君は、この映画に批判的だったよね?」
倉「内容というより構成演出について、ですよ」
鎌「あ、ダメだよ、同業だからって抑え目に喋っちゃ、ハハハ」
倉「ま、今回も思う事はありますから期待して下さい(笑)」

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ヌード小屋の新しい踊り子とはしゃぐ常連客。
鎌「マリリン、帰ってこないかなあ!あのちょいとブスな顔の方が
  深夜食堂にはぴったりなんだけどなあ」
倉「ホントに鎌田さん、マリリンへの言葉キツイですね~」
鎌「そう?大体、今のAV女優とかってすごく美人じゃない。アイ
  ドルも女子アナもAVもレベルに差が無くなっちゃったくらい
  だよ。それに比べて、昔三軒茶屋にあったポルノ映画館に貼っ
  てあったポスターの女優、ブスだったものなあ。やっぱりブス
  が似合うよ、この作品は」
倉「しかし今のAVの実態は凄いですよね。世の男、いや男になる
  前の少年は色々勘違いしてしまいそうです。女性を見る目さえ
  どうなって行っちゃうのやら?と心配してしまいます」

表で泣いている猫。
鎌「ああ、今回もSEが繊細だ。表で猫が泣いてる。第二話の猫ま
  んまの娘が戻ってきたのかな。そうであってほしいなあ」
倉「時折、顔出してるんですかね・・・」

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演出はTBSドラマの黄金期を勉強していないのか

謎の男・カタギリ(オダギリジョー)が深夜食堂に戻ってくる。
鎌「唐突だなあ、演出がヘタクソだよ。情感が一切ない」
倉「最重要とは言わないまでも、第一期やラストでの空気が既に存
  在している訳で。しかも松岡監督が実写化に対し、足したオリ
  ジナルキャラなんで、もう少し神経配って欲しいです」
鎌「でもね、小林監督が観てるかどうか判らないけど、この唐突さ
  は久世光彦の『ムー』と同じだね。そうやって観直すと嬉しい
  よ。郷ひろみが家のトイレを開けるといきなりディスコになっ
  てて近田春夫が待っている感じと同じ。だって宇梶剛士がビー
  ル瓶を真っ二つに割って、それをオダギリが素手でキャッチ
  するんだもの。こんなヘンチクリンなナンセンス、今のクド
  カンでも描かないよ。」

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倉「確かに飛んだ演出はありましたし、鎌田さんの様にある種の
  優しさをもって観たとしても、これまでの深夜食堂と比較する
  と、普通のテレビドラマ演出や構成が多く、情感の持たせ方に
  ついては色々失敗している様に僕は感じましたね」
鎌「その通り。ただ、こういう暴力的な挿入があると、やっとラス
  トでいきなり福原希己江が歌いだすのも馴染んでくるね」
倉「でも今回の歌は本編内というより、レシピコーナーででしたが」
鎌「『ムー一族』だっていきなり酒場で日吉ミミがストーリーと
  全く関係なく、名曲『世迷い言』を歌いだしたからね。
  とりあえずこのままTBSドラマの黄金期を踏襲してほしいね」

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丈の空手の教え子に、赤いウインナー付きカレーをふるまうマスター。
鎌「意外だけど、子煩悩なマスターが嬉しいね」
倉「物凄く意外で、でも凄く嬉しい気分になりました」
鎌「子供にはぶっきらぼうじゃないんだよ。子供の頃銭湯で俺を
  可愛がってくれたやくざのおじいちゃんみたい」
倉「怖い顔した人ほど子供に優しかった記憶が僕にもあります」

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モノクロームの海岸。死を背負う母、お腹が空いた息子。
倉「全体の演出は落ち着いていましたし、こういう静止画の演出も
  嫌いではないんですが、今回は尺の使い方が普通の1時間ドラ
  マのような演出が続いていたので、あまりこの演出は効いてい
  なかったようにも思います」
鎌「同感。全然感情移入できないんで困ったよ」
倉「ただ、ここがあの親子の結び付きの収束点でしたし、死のうと
  していた母が、あの日息子が食べまくったあさりの酒蒸しを、
  夜な夜な食べ続けるのには色々考えてしまいます」
鎌「なるほど。倉田君の注釈がなければ、演出の力量不足で
  見逃す部分だったよ」
倉「あの日からずっと、丈も大きくなり、年老いた自分が迷惑を
  かけているのは分かっていても、それでも息子の為に生きよう
  としていた現われがあの酒蒸しなのでしょうね…」
鎌「大切な命。そして生命力。それそのものがあさりの酒蒸しなんだね」

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丈の手術をする主治医に、母は・・・
倉「今回、目を引いたのは、馬渕さんの瞳でしたね」
鎌「僕なんて馬鹿だよ。鰐淵晴子と勘違いして観てた」
倉「“殺すよ”という言葉、母という位置の人間が使うと、物凄く
  意味が厚くなるものなのだと知りました」
鎌「そうかあ…。僕は、親が“殺す”という言葉を使うのに抵抗が
  あったかな…。ましてや1度子供を殺めようとしてたわけで…」
倉「そうなんですよね。だからこそ“殺す”という言葉が非常に
  重く、複雑に見えたんです。馬渕さんだからかもしれませんが。
  素晴らしい女優さんです」

退院した丈と母は二人でカウンターに並び・・・
倉「良かったね、というオチで終わりましたがどうでしたか?」
鎌「正直、何も感じないまま終わっちゃったんだよ」
倉「親子とは死ぬまで続いていくものなんでこの終わりも間違いで
  はないとは思いますが、なんだかこれまでの話と異なり、観終
  わって小一時間考えに耽る、という感じには僕はなれなくて」
鎌「脚本家が第一期と変わっちゃったのかなあ。あ、今回は第一期・
  僕が大好きな『タマゴサンド』の回と同じ真辺克彦だね。ちなみに
  僕と倉田君が大好きな『猫まんま』の回は向井康介です」
倉「やはり尺の使い方が巧くないのかな、という感じでした。
  前回ではシークエンス多く詰め込んで“さや”の心情は深く見
  つめられなかったし、今回はさほどシーン多くないのに情感を
  生み出す演出は足りていなかった。“殺すよ”の馬渕さんの表
  情が無ければ、全く評価できないところでした」

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マザコンは、駄目な生き方なのかい?

鎌「視聴者の感想を見かけると、親子話は感動するなあというものが
  多かったんだけど、誤解を恐れずに言えば、今回は
  マザコン息子と、息子大好き母さんの話なんだね。
  ファンはそこまで読み取ってほしいなあ」
倉「まあ現在の否定的な“マザコン”という言葉や真意からは少し
  異なるものではあるでしょうね」
鎌「俺とうちの母の半生に瓜二つなんだもの。そのうち『キャマダ
  の、ジデン。』にも書くけれど、うちも、女と出て行った父の
  せいで金がなくて、夜になると呑んで母が暴れるんだよ」
倉「そうだったんですか…」
鎌「ああ、一生この人の面倒を見ていくのかな、俺を必死になって
  育ててくれた母だもの、当然だろう、って思っていたよ」
倉「そうですよね。今まさにそれを感じているところです」
鎌「昔、俺が女と付き合っていた時のデートでね、『あ、ごめん、
  次の映画はおふくろと観に行こうと思ってるんだ”』と言った
  ら唖然とされたよ。当たり前だよね」
倉「ん?そんなに不自然ですかね?あれ、僕もマザコン??」
鎌「でもおふくろは1人で、昔あんなに大好きだった映画を今じゃ
  誰とも観に行けないんだもの、と思ったら、もう可哀想になっ
  ちゃって。もうマザコン全開よ、ガハハ!」

倉「ウチは兄弟が多く、同級生の母と比べたら年齢高かったからか、
  できるだけ母に付いて回りましたけど。なんだろう?母を取り
  巻く環境や子供では知っていけない事が多かったから、刺激的
  だったからかもしれません。30年ほど介護関係の仕事をして
  いた事も、母の話や視線が面白かったからかも」
鎌「そうなんだ。でもね、勿論今だったら、間違いなく母を捨てて
  女を取ります!」
倉「それはもちろん!(笑)」
鎌「でもこの間テレビで観たら、韓国の男性はマザコンが当たり前で
  彼女と一緒に母へのプレゼントを買いに行くみたいよ」
倉「ほお!」

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親の終の棲家は、施設がフツー。

鎌「いいか悪いかはどっちでもいいんだけど、日本はマザコンに
  厳しいよね」
倉「育ててもらった親を大事に考えたり、その為に取ったりする行
  動と、全てを親に捧げて、いつまでも決定権さえ委ねるような
  甘えたモノ、それもこれもぜーんぶ纏めて“マザコン”と日本
  ではされてますよね。それはちょっと違うと思います」
鎌「だから今回の丈だって、近所じゃマザコンだって話のタネにさ
  れちゃってるよ。今回感動した視聴者の多くも、実際に身近に
  こういう親子がいたらどう思うか…。だって今は皆、
  施設に入れちゃうんだから」
倉「僕には兄弟も多いですが、父が亡くなったら、僕が母の面倒を
  見るのが一番いいんだろうと思っています。母がどう思うか
  は分かりませんが、世話になったからそれが普通だと思ってい
  るので。施設の事は色々思う事はあります。今まさに」
鎌「そうかあ。そんな簡単に施設に入れちゃう今の流れに風穴を
  開けたのは、リリーさんの『東京タワー』だと思う。マザコン
  でいいじゃん、と堂々と謳った作品。大好きです」
倉「そうかもしれませんね」

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正解のジンセイ。不正解のジンセイ。

鎌「今僕は敢えて仕事に就かず、猫の浪の看病に専念してるけど、
  将来母が倒れたら同じことをするのかな、ってたまに考えるよ。
  母の余生が短くて、母もそれを望むのなら、母に寄り添って生
  きるのかな?って」
倉「そうですね。僕の方も母が望むなら、ですが」
鎌「ジンセイに不正解は沢山あるかもしれないけど、実は、正解も
  ないからね。正しい生き方なんて、誰が決めるものでもないから」
倉「今の世の中は理系思考というか、あるか判らない“正解”を
  探す事に躍起になっていると思います。勝ち組/負け組なんて
  発想も正にそうで」
鎌「その通りです」
倉「はっきり判る事は“ある男女のつがいから生まれた事”。
  それからの発育はそれこそ人それぞれ異なるでしょうけど、
  それでももしも近くに生んでくれた親がいるなら、支えるとい
  う事は普通に考えるべき事と思います。自己の精神や生活を守
  る事がヨシとされ過ぎる世界では、親から子が生まれる理由が
  失われてしまいます。だからと言って、自分以外の者の人生に
  乗って生きてもいけない。難しいものです」
鎌「はあ…第一期の『深夜食堂』に惚れ込んで始めたこの連載だけど、
  どうも第二期は乗りきれないなあ。僕が変わってしまったんだろう
  か…。考えてもしようがないから、美味しい酒蒸しを食べようか!」
倉「そうですねえ。美味い時期ですしね!」
鎌「んでもって、うちの母にはこれからも旨い酒を呑んでもらおう!
  酒癖が悪いのには参っちゃうんだけどさ」

第十四話に続く・・・



2011.11.11