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キャマダの、ジデン。⑬代官山
ありえないありえない。
キャマダに代官山、ありえない。
あんなオサレで、
あんなハイソで、
あんなロイシな所。
馬鹿ぁ言っちゃあいけねぇよぉ。
俺と代官山、
ここもワケありのとこなんだぜ。
何年か前の誕生日のこと、
おびただしい数の中から選んだ、
とっておきの素敵なガールフリエンド、
「りんだ」をつれて、代官山を歩いた。
そう、あの名作「モナーク三軒茶屋410」の主演女優にして、
キャマダのバンド・舞天の反原発ソング「親愛なるりんだへ」のモデル、
あの、りんだ、である。
誕生日にふさわしい、
懐かしい場所なんだ!
お?
三軒茶屋の寅次郎・キャマダだって
ガールフリエンドくらい、いるんだぜ。
あ?
りんだっつっても、日本人だぜ、
熊本生まれだぜ。
「へえ、ここでキャマダ、小学生の頃、 野球チーム入ってたのね」
そうよ、小岩から三軒茶屋へ戻ってきた小学2年の3学期から、
親父が代官山で働きだした縁で、
そこのチームに入ってたんだ。
親父はそこでコーチをやっててさ、
数少ない、僕と親父の思い出さぁ。
日曜になると親父と弟と3人で、
代官山行ってボール追っかけてたのさぁ。
当時の代官山って、
金持ちのイメージ、なかったなあ。
古い街だから、下町っぽくてさ、
神社にお相撲さんが来て、
ちびっ子相撲大会なんてあったよ。
駅前には森永のケーキ屋さんがあってさ、
駅のホームで電車待ってると、
甘くていい匂い、ぷーんとしてね、
何十分いても心地よかったよ。
今は、もう、しない匂いなんだけどね。
あ!
ここここ。
ここの印刷会社にうちの親父、勤めてたんだ。
懐かしいなあ。
りんだ、会社の人にちょっと声かけてみるね。
ごめんください。
うちの父が昔ここに勤めてたんですけど。
おばさんが出てきた。
楽しい誕生日だ。
思い出話を聞こう。
しかし!
優しそうなおばさんは、
なんでかしら申し訳なさそうな顔をするのだった。
何かあったんですか?
僕の心の中に、夕立の雨雲が立ち込める!
「あの人に、お金、貸しててね・・・」
夕立どころじゃない。
台風じゃないか。
あの、今、お金持ってますんで、
僕が代わりにお支払いしますが・・・。
そう、僕はノーマルなオトナ、
それなりの金なら財布に入っている。
しかし。
「簡単にお返しいただける額ではないと思うので・・・。」
気が変になりそうだ。
記念すべき誕生日で、
デートだりんだで、
それが雨風でグショグショだ。
りんだなんか、もー唇が蒼く失神寸前だ。
「いいんですよ、もう昔の話なので・・・」
おばさんに土下座寸前まで頭を下げた。
りんだまで必死に頭を下げている。
おばさんは会社に戻っていった。
一刻を争う心持で、ぼくとりんだは、
この街から走って逃げた。
ダメだ!
この街にもいられない。
これ以上借金取りに会ったら、
僕は来年の誕生日を
裁判所で迎えることになる!
逃げろ!
ブルースの歌詞そのままだ・・・。
それ以来代官山に行くことは
もちろんなかったのだが、
つい先日、
久しぶりに浪の体調がよかったので
恵比寿にラーメンを喰らいに行き
徒歩で帰った際に代官山の脇を通りがかった。
心地いい秋の日差しが肝染みる嬉しさ。
コシミハルの歌が頭の中でうずまき、
ああ、これは看病し続けた浪からのご苦労さんのプレゼント、
また、敢えて今無職でいるからこそ味わえる平日のご褒美。
そんな散歩道の代官山で、おならが1つ出た。
やはりボキは、シアワセとは無縁なのだろう。
43歳、既に締まりが悪い。
中身が出てしまった。
辺りは1杯1000円くらいしそうなキャフェと大使館ばかり。
トイレ貸せ!トイレ貸してけろ!
Sサイズ180円か治外法権でトイレ貸してくれないのか!
浪は、散歩さえも許してくれないのか。
甘えん坊の浪よ、でも帰宅するにも、
歩くのもタクシーも、どちらもきつい。
それにしても今思うのは、
あの印刷会社のおばさんさえも、
うちの親父と恋仲だったんじゃねえかっていう、
恐ろしい推測。
ああ、ジンセイ・・・。
2011.11.08