弐千弐十弐年乃御挨拶似候

今年は寅年!猫年ではないはず!

2018年から翌19年にかけて、同い年(当時50歳)の友人が2人亡くなった。やり残したことの有無に関わらず、急にある時点で活動が強制終了となる。自分も9回裏が終わりゲームセット、試合終了だと思った

ライターの仕事も辞めた。毎日が隠居生活になり、暇になった。今まで素通りしていた物事が、目につくようになった。地元三軒茶屋の駅そばに、高層マンションが2棟建つことを知った。商店街の理事長と情報交換するようになり、建築主・スターツCAMによる第1回説明会の開催を知ったのが、2019年11月。

評論家の芹沢俊介さんはかつて、中学校の頭髪自由化といった市民運動に参加していた。僕は試合終了の身ではあるが、1つくらい社会のためになって死にたいとも思った。一部の僕の友達は、仕事や私生活で社会貢献にいそしんでいるのに、僕はなまけていた。音楽や映画を作ることで、社会に対し表現すればいいのだと思っていた。

建設予定地周辺に住む方々の、不安を聞かせてもらった。世田谷区役所、マンション問題に長けた法律事務所、ビル風や駐車場の専門家や大学教授、区議・都議らに協力を仰いだ。スターツCAMへの様々な交渉は、営業マンとして民間企業に約9年勤めた経験が、役に立ったつもりだ。

遂につぶしがつかなくなって、就職した。33歳。東京は用賀、株式会社イーソク。この齢じゃ誰も雇ってくれないだろうと、工場スタッフ求人に応募したのだ。面接での仕様もないペラッペラな僕の喋りを「営業職なら雇ってやる。嫌なら帰れ」と社長。

頭ペコペコ、営業マン。世界中で最もやりたくない仕事だった。しかし、2001年当時は大不況。ほぼ初就職の30代が、仕事を選べる世の中ではなかった。それからリーマンショックで会社が傾くまで、外回りで靴をつぶした。得意先も社内の上司も、僕より年下だ。僕のような馬鹿野郎に、沢山のことを教えて下さった。

53歳の隠居初老が、よせばいいのにマンション問題に首を突っ込み、ストレスで眠れない日が多くなった。営業マンの頃に戻ったようだ。そこに、新型コロナウイルスが出現した。昔からの馴染みである地元の店々が、閉業の危機となった。

2020年4月に、店々を支援するクラウドファンディングを起ち上げた。金銭が集まらないというストレスは、こんなにも苦しいものか。経済的な理由で自殺に追いやられる人の心理を味わった。「コロナ太り」という現象を報道で知って、がく然とした。俺、どんどんやせているぞ。

しかし、ここでも営業マンの経験が役に立った。企業を回り、支援金を募ったのだ。結果として、クラウドファンディング終了後も継続して店を支援下さる、貴重な企業と出会うことができた。その会社のおかげで、ある店は閉業をまぬがれた。その企業のおかげで、僕の目的も達成できたのだ。社長、心からお礼を申し上げます!

隠居初老は、東京新聞をよく読むようになる。東京新聞以外は物足りなくなる。2019年11月、紙面で知った公開授業にお邪魔する。都内、とある朝鮮学校。子供達の笑顔がたまらない。日本人の支援者・先生方・オモニの会の方々で構成される「友の会」へ参加、支援に携わらせてもらうことに。

ライター仲間を頼り、新本書籍・古本・CD・DVDを集め、これまでに134点を寄贈できた。コロナ明けには、子供達と会えるかな。すごく楽しみ!ライター仲間の皆さん、心からお礼を申し上げます!

隠居初老は、平日の昼間に遊んでくれる人がありがたい。友達のお母さんの何人かが独り暮らしをしているので、ここぞとばかり遊びに行く。昼から呑む。多めに作った料理を、タッパーに詰めて渡す。クラウドファンディング参加店のテイクアウトを、手土産に渡す。秋田は横手の果物を、送りつける。

僕の親世代は、70代後半から80代半ばだ。認知症も大きなテーマであるけれど、親の暴言癖がひどくなり苦しんでいる友達も多い。実は、僕もその1人である。母とは1年以上、会うのを避けている。

新聞を読めばすぐに分かる通り、こうした問題は家族間だけでは解決できないと思った方がいい。近所の人々や自治体やNPOの助けがなければ、耐え切れないほどの負荷が子供にかかる。「いや、昔は解決できていたじゃないか」という意見もあるだろう。昔は多くのケースで、3世代同居。嫁が、その負荷を一身に受けていたのではないか。

僕は、気ままなものだ。ただの、ご近所さんだ。ビールのついでにレモンサワーのお代わりを企んでいるような輩だ。ワクチンを接種した理由の1つは、友達のお母さん、マンション問題で接するご高齢の住民、「友の会」に集う方々に、僕が摂取しないことで生ずる余計なストレスを与えないためだ。体良く、レモンサワーをくすねるためだ。

僕がもう少しなまけ者でなければ、僕の貴重な友達に倣って、若い頃から色んなことができたかも知れない。でも、もう遅い。強制終了となるならまだしも、痴呆がペラッペラ進んでいくのだ。来年は、こんな御挨拶さえ書けなくなるかも知れないぞ。

2022年 元旦
ウェブマガジン改めブログ・エプスタインズ非代表取締役社長・鎌田浩宮

2022.01.01