浪日記⑯  撮影・庫田久露武/文・鎌田浩宮

今年の夏は、
本当に、どこにも出かけなかったんでござんす。

泊りはもちのろんのこと、
日帰りで海だの山だの川だのも、無理。

まあ、外に出たって放射能だらけだし、
いいっちゃあいいんだったんでしょうけどねえ。

いつ嘔吐して苦しみだすか分かんねえし、
これ以上痩せないように、
常に傍にいてあげて、
水やご飯を口元に持っていってやって、
一口でも多く口にするようにしてたから。

何も食べない日が数日続くと、
今度こそ駄目なんじゃないかという恐怖に
絶望感に襲われちまって
いくら以前から死を覚悟してたって、
駄目なんでござんす。

お医者さんからは、
体重が3kgを割ったらまずい
とは言われてたんだけど
元々5.5kgあった浪が今や3.5kgであり、
既に骨が飛び出たような体つきになっちまってるのに
これ以上どうなっちまうんだよという恐怖もあったです。

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こんな具合で、
気分転換に常々誘ってくれていた友人も
次第に声をかけてくれなくなり
ああ、1週間浪としか喋ってなかったなあ
なんてことも多くて
映画「大脱走」の、独房で我慢するマックイーンてなもんでした。

逆に友人を招いたこともあったんだけど
あんなに人が大好きだった浪が
人が来るとじゃれて
甘噛みのできない子だから
血ぃ出そうになるくらい噛んでじゃれてた子が
オスのくせに女性よりかは
体臭のキツい野郎にばかりじゃれていた子が
ちょこんと友人の膝の上に乗って
気持ちよさそうにしていた子が
…来客を避けるようになっちまった。

人も呼べない。

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だから、ドライフードをわっしわっしと食べてくれるようになった時は
小躍りして喜んだんでした。

浪は元々子供ん時から
ドライフード派だったんです。

それが去年あたりから吐くようになって
より消化のいい缶詰をあげるようになったんでがす。
浪もそっちの方が美味えのか
ドライフードは一切食べなくなっていたので
生命力ってえのはすげえもんさなあ、と
小躍りしたんでした。

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夏、越せました。
今日は浪の調子もいいし、
今週も誰とも会って話していねえので
今日ばっかしは、行きつけの店で呑んでこようかな
と思ってます…。

浪、苦しいんなら言ってね。
苦しんでまで長生きせんでもいいかんね。

2011.10.21