ダイロクでおしゃべり 第2回

お相手/呉英哲(オ・ヨンチョル)校長先生
文・写真/鎌田浩宮
一部テープ起こし/土井達夫


校舎の真ん中は吹き抜けになっていて、ここで体育の授業、朝礼や集会などが行われます。当日の合唱や舞踊も、こちらで行われました。

 

インタビューの合間に子供たちと会えば、
必ず笑顔で「アンニョンハシムニカ」
とあいさつしてくれます。
この笑顔が、かわいいんですよね。
邪気がない。
僕も「アンニョンハシムニカ」と返します。

それでは…
東京朝鮮第六幼初級学校の
呉英哲(オ・ヨンチョル)校長先生とのおしゃべり、
第2回です。
第1回は、こちらからどうぞ~。

 

 

比べものにならない…合唱と舞踊

この前の公開授業では、子供たちの合唱や舞踊なども披露され、さながらプチ学芸会のように盛り上がりました。びっくりしたのは、ものすごくうまいんですよ。日本の学芸会で、同じ学年の子の出しものを考えても、比較にならないほどなんです。かなり練習したんですか?

「高学年になると部活動があり、朝鮮舞踊のサークルがあるんですよ。合唱などは、授業を通じてやっています。」

編集部注:こちらの学校では、女子はバスケットボール部と朝鮮舞踊部、男子はサッカー部と音楽部があり、4年生以上は必ず2つのクラブに入るようになっています。
なお公開授業では、
4~6年生による合唱「扉を開いて」と「with your smile」
1~3年による合唱「焼き栗の歌」「ハッピーチルドレン」
朝鮮舞踊サークルによる「喜びの舞」
幼稚班によるうた「幼稚園大好き!」
全校生による校歌が披露されました。

合唱は、1番は朝鮮語、2番は日本語で歌って下さいましたよね。朝鮮語だと歌詞が分からず、テレビで見る北朝鮮のマスゲームを思い出してしまって。

「はいはいはい!」

でも、日本語でも歌ってもらえたので、日本の音楽の授業で歌うものと同じような歌詞なんだと分かりました。別に金首席を讃える歌詞でもなく、我々の学芸会と同じことを歌っていて…。

「朝鮮学校の生活のなかでのそういう歌とか、あとは昔の民族の歌とかそういう歌ですよね。」

歌詞が聴こえてきたとき、親しみが湧いてきたんですよ。もちろん朝鮮語だから親しみがわかないという訳ではないのですが、日本語の歌詞の内容がのびのびとしていて、のどかで、素敵で、すごく感動したんです。

「民族教育なので、朝鮮の民族性を表現する歌もあるし、日本に住む在日同胞たちをイメージした歌も沢山あるんですよ。だから、75年間の歳月というのは長いなぁと、僕も感じます。朝鮮の民謡も習うし、日本で作られたものも習うし、英語の歌を朝鮮語に直してみる場合もあるし。色んなのがありますよね。」

 

中には「学習まんが日本の歴史」などもあるんですよ。あと、年長さんの部屋には確か「ナウシカ」があったような…。

 

施設は十分かどうか、不十分でいいのかも問題

2階の廊下沿いに…図書室がわりにですかね、本が置いてらっしゃって。こうしたことは、実際にここへお伺いし、目にしないと解らない事だなと思って。日本の昔話もあったり、全て日本語で書かれた本ですね。

「日本の学習カリキュラムにのっとっているので、子供たちは日本の歴史も習います。しかも全ての授業は朝鮮語を使うので、源平合戦など日本の歴史を朝鮮語で習う。6年生になると公民の授業で、選挙制度や憲法を学びます。」

我々は何も知らないんですよね、図書室にどんな本があるのかさえ…。

「こういう本も、父兄たちから基本的に寄付していただいています。こうしてみると、普段から圧倒的に子供が目にするのは、日本語の書籍なんですね。」

こちら以外の朝鮮学校でも、図書室がない、音楽室と図工室を兼用で使うとか、そういうことがあるのでしょうか?

「いや、いや。そういうことは無いと思いますよ。新校舎ができたのが5年前の2015年なので、ちょっとコンパクトに作った部分もありますし。財政的なものもありますし。」

はい。

「教室も小さいじゃないですか。10人もしくは11人ちょっとのスペースですよね。これからの未来、これからの在り方も考えて、こんな設計になりました。」

日本の公立小は、1クラスの定員が35~40人。なので大きな教室が必要ですが、第六では将来を見越しても1クラス10人前後と考え、コンパクトな教室にしているわけですよね。

「図工室と音楽室、別々にあればいいんですよ。まあ、子供達には不便でしょう。もっと教室が大きければ…敷地があれば…とも思うし、完全ではないと思います。幼稚園なんかは、しっかり出来てますけど。耐震の補助も行ってます。同胞たちの力と寄付でできた校舎です」

でも、新しい校舎で、居心地がいいなと思いました。

「以前の校舎はコンクリートだったので、温かみがあったかどうか…。今は、同胞たちからの『学校を大事に守り、作っていきなさいよ』というメッセージを感じている子供たちもいると思いますよ。」

あと、プールがないんですよね。

「できれば、日本の学校のプールをお借りしたいんですが…。維持費が大変な事もあり、プールを持っている朝鮮学校は、1つもないんですよ。学校によっては、スイミングスクールを借り、講師をつけて授業を行っているところもあります。ただ、授業のカリキュラムとして取り込むまでにはなってないですね。」

50m走などの体育測定は、どうなさっていますか?

「多摩川まで行って、測定しています。でも、どうにかやりくりしながらやっています。」

僕の母は、戦後間もない長野の山奥で育ったので、プールもなく、たまに千曲川で泳ぐだけだったので、カナヅチでした。でも、水泳の授業はありませんが、その時間はほかの授業に割かれていたわけです。そうすれば、当然その分の才能が引き出されます。

当時は校庭に水をまけば、天然のスケートリンクです。母は子供の頃から、スケートが得意だったわけです。何かができないということは、その分ほかの何かに費やせるということです。何もかもが十分な施設であればいいのでしょうけれど、不十分だからといって、それがマイナスなんだとは思いません。

 

 

同じ日本に育っているので、いじめ・不登校も一緒

 

いじめの問題はいかがですか?

「子供達なんで、喧嘩もしますよ。子供達のうまくいかないもありますよ。学校だけで解決できない部分もあるんですけど、父母と一緒に考えて。必ず、父母と学校と学生と父母のトライアングルを作っています。日本に住んでいる子達なので、日本の子供たちと抱えている問題は一緒です。どこでも一緒ですよ。」

そうですよね。

「やっぱり落ち着くところは、朝鮮学校に通っている人間は、こんなに少ないんだ、それでお前ら揉めてどうするんだ、ということですね。」

不登校があるかも知れませんね。

「幸いこちらでは、そういう事例は見当たりませんが。家庭の環境も色々なので、子供たちの心にある様々なものを、ちょっと学校として引き出してあげる…ケアしてあげるというのは、常に先生たちの意識の中で持っています。完璧じゃないですよ。完璧なんてないんで。持っている問題は、一緒ですよ。」

そうですよね、同じ所に住んでいる、みんなで。同じテレビ見てネット見て。

「だけども、朝鮮学校の子供たちは、出てきた経緯があるので、学校を守ろうという意識を持ってますよね。学校を守ろうという親御さんたちの意志を、引き継いでいます。」

僕は先生と同じ51歳ですが、当時は親子2代同じ小学校って、多かったんですよ。そうすると、そういう「学校守るぞ意識」って高かったですよ~。

「ウリハッキョ(自分達の学校)というイメージが濃いので、友達を守るとか。自分の学校を守るとか。自分の家族を大事にするとか。そういう意味合いでの強さを持っている。守る。絶対に守らなきゃ。ただ…、人数も日本の少子化の波と一緒なので、生徒自体も少なくなっています。」

そうか…!だいぶ減られましたか?

「少なくなっているのもあるし、現在の子供たちは、授業料を含め基本的に補助がない状態なので、経済的な問題で入学を躊躇しちゃう場合もあります。定期代とかを含めたら、月に2万も3万もかかるんですね。公立の学校に通えば給食が出るし、公立ならさまざまなものが無償となるじゃないですか。」

地元の公立小学校に入学させると、イジメにあうかもしれない…という理由で、朝鮮学校を選ぶ家庭もありますか?

「どうなんだろう…?親御さんたちもこの中で育っているので『自分が育った所に入れなければダメだ』というのもあるし。通ってなかった親御さんでも、ここに来て、見て、聞いて、体験して『入れなくては、ダメだ』という結論になる家庭もあるし。」

そうなりますよね。僕の世代でも、自分が私立だったから子供も私立へ行かせるケースが、たくさんありました。

「今、朝鮮高校を卒業して、日本の大学へ通うというケースは沢山ありますから、自我が芽生える幼年期、初等教育前半ぐらいはウリハッキョに入れて、そこからまただんだんと完成させていくと…いう道を選ばれるという父母たちも多いですよね。」

第3回へ続く…

 


2020.02.06