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私の2016年映画ベストテン 鎌田浩宮編
2016年に
映画館で
観た映画は、
24本かな。
少ない。
少ないです。
今回の審査には、
2016年公開、
僕の監督作品
「続・鎌田浩宮 福島・相馬に行く 敏之が結婚」
は入ってないです。
1位
団地
東日本大震災以降、ようやくではあるけれど、喪失感をテーマにした映画が増えてきた。
その中でこの作品は、2016年の僕のベストワンです。
星新一のショートショートのような突拍子もないストーリーに惑わされがちなんだけど、こんなに悲しく寂しい結末はない。
もう、この世に未練はないよ。
愛すべき隣人も友達もいないよ。
息子の逝ったあの世へ行くよ。
でも、10分に1回は笑わせる場面があって、その抜き差しは、さすが阪本順治、さすが藤山直美。
「どついたるねん」から、ずっと追いかけてきてよかった。
ここまで書いてびっくりしたのは、この作品、キネ旬ベストテンには10位までにも入ってないのね。
キネ旬、駄目だなあ。
さて、ここでお詫び。
阪本監督のもう1つの2016年作品「ジョーのあした」を見逃してしまっています。
どこかで必ず観ますので、お許し下さい。
1位
ソング・オブ・ラホール
同率1位は、バングラデシュの伝統音楽家たちのドキュメンタリー。
イスラム過激派が政権を摂り、音楽演奏がご法度になり、食うための手段を奪われてしまった演奏家たちが一念発起して、ニューヨークへ渡りジャズミュージシャンとセッションしようと奮闘する話。
この映画を薦める人と、少し違うところが気に入ってしまった。
それは、彼らの表情です。
バングラデシュの演奏家が、セッションが全くうまくいかず途方に暮れる。
その時の表情が、緊張が極まりすぎて、笑顔にしか見えないことがあるのだ。
彼らはなんでこんな時に笑っているんだ?
本気でやっているのか?
このど田舎ミュージシャンめ。
言葉が違うから、表情を読み取るしかないんだけど、その表情は、ニューヨーカーが決してしない表情であり、彼らの表情を理解できない。
そうなると人間というのは、相手が何を考え感じているかを想像し、配慮するしかない。
NYのミュージシャンから、その配慮が伺えるのもいい。
今、人種や宗教の違いから、世界は不信に溢れてるでしょ?
ムスリムを排斥したり。
そんな世界への、最高の清涼剤です。
3位
恋人たち
これは2015年公開の映画だけど、観るのが遅れたのでごめんなさい。
その年の賞を総なめだった。
それは間違っていなかった。
「団地」と同様、喪失感と絶望を描いている。
殺された愛する人たちは決して帰ってこない、そのことに対する、この国のシステムの、そしてこの国の人々の、あまりにも血の通っていない対処。
その主人公へ救いの手を伸べようとするのが、元極左のテロリストというのが、設定の素晴らしさだ。
ただ、ラストが「団地」と異なり、希望を臨める終わらせ方なんだけど、その持っていき方が雑じゃないかな?
だから、2015年に観たとしても、この作品は2位。
「野火」の1位は、揺るがない。
4位
怒り
沖縄で、米兵が少女をレイプするシーンを、目を背けることなく、リアルに、克明に描いている。
ここだけでも、観てほしい。
こんなに残虐で「怒り」しかない事件が、戦後直後から70年以上も断続的に多発しているのだ。
しかも、そのトラウマから警察へ届け出もできない女性のあまりにも多いこと。
そして、この映画が優れているのは、そこから先を描いていることだ。
その少女に対して、何もしてあげられないという絶望感。
そこから、人はどう動くか。
同情や憐みから、左から右へと振り幅は真逆へ進むのだ。
その少女を、少女の隣人を、沖縄を、あざ笑い蔑視するという真逆の感情に変わってしまう登場人物。
これは、あまりにこの国の情勢を憂うためにマイノリティー蔑視へと転じる、ネトウヨの心理に共通している。
ただ、「レヴェナント」も然り、坂本龍一さんの映画音楽は、どうなってしまったのだろう。
様々な装飾を排除した上で残ったものだけをスコアにする、ということなのかな。
そうすると、もう明確なメロディーはなくなってしまって、大袈裟に言えば伴奏のみ、和音の白玉だけになってしまう。
メロディーメーカーとして坂本さんは天才なので、そういった従来の作風によるサントラを聴きたいです。
5位
シン・ゴジラ
日本の政治・行政にリアリティーを持たせたのはもちろん、リアリティー追求のため遂に着ぐるみをやめCGにしたゴジラ。
本来は特撮好きである庵野監督の勇気に、拍手。
このゴジラに、1954年の伊福部昭のサントラがかぶさると、もう震えてしまうほど、いい。
日本を壊滅状態に陥れる。
福島原発事故の暗喩。
であればさ、「恋人たち」同様、なんで希望を持たせるラストになっちゃうの?
「太陽を盗んだ男」みたいな、「コインロッカー・ベイビーズ」みたいなラストがいいのにね。
そちらの方が、より現実に寄り添っているでしょ?
ここまでリアリティーを追求した映画だったら、そうすべき。
6位
マイケル・ムーアの世界侵略のススメ
日本のドキュメンタリー映画監督は、笑っちゃうくらいマイケル・ムーアを嫌う。
僕は、大好き。
演出過多とか、扇動的とか言うんでしょ?
馬鹿馬鹿しい。
彼の視点は、愛情に溢れていることに気づこうよ。
そんな彼の新作は、やはり今までと同様、アメリカを分析していくんだけど、経済・政治・教育、何から何までアメリカのモノマネをしている日本にとっては、学ぶところのとっても大きい作品だった。
だって、塀のない刑務所がある国なんて、かなり興味をそそられるでしょ?
7位
あん
これも2015年公開の映画だけど、2016年に観ました。
僕は河瀬直美の映画が若干苦手だった。
奈良の自然などを描きつつも、アタマで創っている、観念的な感じが嫌だった。
頭でっかち、というのかな。
それが、この作品を観て驚いた。
頭でっかちじゃ、ない。
抽象的ではない、明確なストーリーがある。
8位
永い言い訳
西川美和監督は、ひとひねりある。
311があって、喪失感を描きたいけれども、喪失感を持てなかった人を描いてみたらどうなんだろう?という監督の視点。
あと、子役が素晴らしいのに驚いていたら、監督は元々是枝組だったんですね。
9位
日本で一番悪い奴ら
東映っていうと、ヤクザ映画じゃない?
その東映が、警察の映画を創る、しかも、それがヤクザよりも悪い奴らなのが面白い。
このカラーは、やはり東宝でも、まして松竹でもなく、東映だよなあ。
ここまで警察の悪事を描き切ってしまって、刺されたりしないか?ってなほどの筆致力。
これを観れば、誰でも警察を嫌いになれる。
綾野剛って、ただのアイドル俳優だと馬鹿にしてたんだけど、すごく力演してて驚いた。
10位
ヘイトフル・エイト
歴史改ざんシリーズとでもいうのかな、それともアフロアメリカン西部劇シリーズともいうのかな、絶好調タランティーノの新作は、なんとウルトラパナビジョン70、いわゆるシネラマスコープ!
しかし、今このサイズで上映できる映画館が、日本にはないのだ。
昔はテアトル東京とか、あったのになあ。
でもって、今回はありもののサントラを使わない。
モリコーネがスコアを書いてしまった。
本来はこれまで通り、ありもののサントラをコラージュする方がタランティーノ的でいいのだけど、モリコーネに書くと言われたら断れないだろうし。
タランティーノが描く暴力は、なんでこんなに楽しいんだろう。
映画的だからだろうか。
映画でしか作れない快楽が、そこにはあるからだろうか。
次点
海よりもまだ深く
傑作だった「そして父になる」と比べると、どうしちゃったの?という作品の続く是枝監督。
僕の映画もそうだけれど、ダイナミックなドラマを排除し、それでもカタルシスを獲得するという作業は難しい。
もういくつ寝るとお正月。
早く来い来い来年のお正月。
まだまだお正月でいたいわあ。
生産を一切しない、そんな素敵な日々。
さて。
まだ僕は「この世界の片隅に」も「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」も観ていない。
これは2017年に持ち越し。
また、キネ旬ベストテンに入っている話題作でも、興味がなくって観ていない作品もあります。
ちなみに、他に観た映画を列挙しましょうか。
「家族はつらいよ」「レヴェナント:蘇りし者」「ひそひそ星」「ヘイル、シーザー!」「高台家の人々」「ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン」「AMY エイミー」「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」「FAKE」「ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK-The Touring Years」「ハート・オブ・ドッグ~犬が教えてくれた人生の練習」「続・深夜食堂」「ブリスフリー・ユアーズ」です。
ワーストワンも挙げようかと思ったけれど、やめます。