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私の2017年映画ベストテン 鎌田浩宮編
写真/文・鎌田浩宮
日劇が
なくなる
前の年の
ベストテン。
2018年2月に閉館する、日劇の風景を撮った、下の写真。
僕は、このマリオンに日劇ができる前の旧日劇にも、小学6年生の頃、映画を観に来ていた記憶がある。
これを見ると、1980年に「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」は渋谷東宝で観たのかも知れないけれど「スペース・サタン」は日劇で観たんじゃなかったかな。
僕はかときんらとつるんで、小学4年生の頃から、親の同伴なしで友達と映画を観に行った。
1978年の「スター・ウォーズ」、1979年の「宇宙空母ギャラクティカ」に、クリストファー・リーブしかあり得ない「スーパーマン」に「銀河鉄道999」、1980年には「地球(テラ)へ…」。
以降、挙げたらキリがない。
今では映研のない大学も多いし、時はyoutuberだ。
いいんじゃない?
時代は変わる。
でも、おっさんは、映画が好きだぜ。
ってなわけで、今年も映画ベストテンです。
1位
わたしは、ダニエル・ブレイク
1位と2位の差は全くなく、どちらも1位。
素晴らしい映画に出会えた、いい年だった。
この映画が持つ社会性や今日性について語られる事が多く、それはそれで問題はない。
僕も、そこに強く共感した。
加えておきたいのは、主人公のダニエルが持つ、隣人への優しさだ。
人間が思慮すべき、普遍的な主題だ。
エプスタインズのこちらの記事に、たくさんたくさん感想を書いたので、読んで下さい。
2位
パターソン
「わたしは、ダニエル・ブレイク」とほぼ同率1位。
「ストレンジャー・ザン・パラダイス」で高校生の僕を揺さぶったジャームッシュが、帰ってきてくれた。
80年代から90年代にかけて、そのように「揺さぶって」くれた監督が、今ではあまり見かけなくなってしまった事が少なくない。
エプスタインズのこの記事に、こちらもたくさんたくさん書いたので、読んで下さい。
3位
メッセージ
00年代に入り、エレクトロニカというジャンルの音楽が勃興した。
音色の1つ1つにこだわるところは、それまでのアンビエントと同じなんだけど、そこに穏やかなビートを加える。
この映画が持つ、音へのこだわり、空気感へのこだわりに、エレクトロニカとの共通点を感じて、そこがとても心地よかった。
(実際、エンドロールに流れる音楽は、エレクトロニカだった)
宇宙船の中の、訪問者たちが過ごすエリアに主人公が入る。
その時だけ、主人公の会話などの「音」が、マイクをタオルで覆ったような音質になる。
その音質が、これまでの映画にはなかったような、こだわりのある音に聴こえ、とても感心した。
映画というものは、まだまだ面白くなっていくのだと感じた。
このように、穏やかではあるが、従来のアンビエントとは異なる響きを持った映画。
登場する地球人も、そして宇宙人も、ある種の穏やかさを携えた表情を保ち、ヴィルヌーヴ監督も、そのように演出する。
「2001年宇宙の旅」「未知との遭遇」よりもさらにエモーショナルな部分をそぎ落とし、穏やかで、抑制された感情を表に出す。
4位
ローグワン スター・ウォーズ・ストーリー
これまでも、アニメーションで「スター・ウォーズ」のスピンオフ、エピソードとエピソードを繋ぐ作品を観た事がある。
それらは「スター・ウォーズ」本編と同じテイストで描かれていた。
だったら、本編を観た方が面白い、となってしまう。
この映画は、本編と違うテイストで描かれていた。
その切り口が、面白かった。
リアリズムで描く、戦争映画。
フォースとは、自治と自由の象徴であり、そのために死を辞さない。
その中にいる、テロリスト呼ばわり、過激主義者と蔑まされる兵士。
フォースの能力はないのに、勝手流でその感覚に近づいていく、盲目のならず者。
ただし。
このリアリズムを「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」本編にまで持ち込んでしまったのは、どうだろう?
面白く観る事はできたが、1978年に僕が小学生の頃観た「スター・ウォーズ」から得た感動と同じものは、得られないような気がした。
5位
沖縄を変えた男
沖縄のスポンサーだけで、沖縄のスタッフ・キャストだけで、これだけの映画ができた。
それだけでも、大評価。
内地でのロードショウは、資金を集めるため、クラウドファンディングをしたほど。
東京では観られないのかな、とやきもきしていたので、上映を知った時は嬉しかったなあ。
舞台挨拶のある初日に行ったもん。
ほぼ大入り満員で、また嬉しかったなあ。
ナイチャーとの割合、どうだったんだろう?
沖縄水産の栽監督の常軌を逸した暴力指導で、甲子園に出場し、準優勝するまでの話。
アメリカの植民地政策、米軍による事件・事故、日本への復帰など、当時の社会情勢を盛り込もうとすればいくらでも盛り込めたはず。
だが、栽監督がそういった発言をしなかったように、映画でもあまりその辺を盛り込まない。
それはそれで、演出としては成功している。
脈絡なく突然栽監督らが踊りだすミュージカルのようなシーンもあり、娯楽作品として観てほしいとする意図が見受けられる。
主役を演じたゴリは、距離を取るため、撮影時には一切選手を演じる出演者と一切会話をしなかったそうだ。
そうすることで、栽監督が当時どれほど孤独だったか、身を持って知る事ができたと言う。
また、間が抜けて見えてしまう、威圧感を強調したいという事から、ウチナーグチを使わず標準語で演じたと言う。
そこはでも、ウチナーグチで演じてほしかったなあ。
戦後間もない頃からアメリカの圧政と闘い続け、投獄された後那覇市長や、戦後初の沖縄県選出衆議院議員を務めた、瀬長亀次郎さんを描くドキュメンタリー。
監督は、筑紫哲也さんとニュース23で沖縄への取材を重ねてきた、TBSテレビの佐古忠彦キャスター。
顔写真を見て、おお、この人なのか!となった。
筑紫さんの沖縄への思いを継ぐ人が、こうした映画を創る事が嬉しい。
当時の映像はおろか、音声もあまり残っていないため、ドキュメンタリー映画として成立させるために、どうしても写真などの静止画像と、ナレーションが多くなる。
しかし、それでも飽きることなく最後まで魅せ切る。
瀬長亀次郎さんが、政治家として、1人の人間として、キング牧師と重なって見える。
7位
希望のかなた
アキ・カウリスマキ監督・難民3部作の2作目。
「そんなに自国を批判非難するのなら、この国を出ていけばいい」と言う馬鹿はどの国にも、いる。
日本だけじゃなく、世界中に排斥主義者がいる。
この映画を、観ると分かる。
難民が、難民として渡った地で、殺される、もしくは自国へ送還させられるという恐怖と、常に背中合わせで生きている事を。
その事をカウリスマキは、オフビートという自身の作風を崩さずに、怒りをもって描く。
8位
彼女がその名を知らない鳥たち
主人公と同じくらい僕の家も汚くて、めしを食う時はこたつの上の物をよけて、できた隙間に皿を置く。
主人公と同じくらい恋愛に不器用で、恋愛対象に隷属する事でしか、コミュニケーションを取れない。
いや、待てよ。
これって、主人公と僕だけじゃなくて、自分もそうなのだと思い当たる人は、少なからずいるんじゃないかな。
だから、主人公に共感したという人が多いのではないかな。
恋愛対象への隷属というのは「男はつらいよ」でも見られる。
この人のためなら死ねる、とよく言うけれど、寅さん同様実際にそれを実行する人は、あまりいない。
だからこそ、このテーマで映画を創るのは、とても難しいのではないか。
その点が見事だからこそ、この映画に感情移入するのだ。
親友が若松(孝二)プロで活躍していて、白石監督と接するようになった。
それがきっかけで興味を持ち、監督の「日本で一番悪い奴ら」を観た。
ヤバい映画ばかり撮っている人だけれども、1年に1作、もしくはそれ以上作品を撮れる状況にある。
これは、すごい事だと思う。
9位
エルネスト
自分はどのように生き、どのように死ぬかを考える、あるいは夢見る、計画する。
そうした人は、多いはずだ。
しかし、自分がなぶり殺される事を想定して生きている人は、とても少ない。
ゲバラのシャツを着ている人も、ゲバラのポスターを壁に飾る人も、そんな風に人生を終える事を想定していない。
僕だって、そうだ。
革命を描いた映画だが、安易なカタルシスを排除していて、そこが良かった。
なぶり殺される事を覚悟して、革命に参加する。
革命に参加した多くの人は、無様になぶり殺されるのだから、安易なカタルシスはいらないのだ。
そういった視点が、阪本監督らしくて、好きだ。
10位
三度目の殺人
役所広司の演技が、素晴らしい。
拘置所の面会室という限られた空間で、あれだけの演技をしてしまう。
裁判では、誰1人として真実を語らない。
誰1人として、正義を体現しない。
日本の司法制度を、暴く。
勝手な想像だけで書いて申し訳ないのだが、是枝監督にまでなると、テレビ局という大きな出資者・依頼者が常時つき、1作終える時には次の作品を手がけなくてはならない。
そういったルーティーンの中で、自分が描きたいテーマを見つけ、及第点以上の作品を生み続けるというのは、とても大変なはずなのに、是枝監督はいつも表現に対する誠実さを失わない。
次点
人生タクシー
キアロスタミ監督の弟子であり、イランの名匠とされるパナヒ監督。
イラン国家により、映画を創る事を禁じられており、タクシーの中に隠しカメラを搭載する事で完成させた一作。
監督はタクシー運転手に扮し、テヘランで客を乗せ、会話する。
それだけの作品なので、ドキュメンタリーなのか、乗客は巧妙に仕込まれた役者なのかは、誰にも判らない。
しかし、生き生きとした街の人々を収める事に成功しており、ベルリン映画祭で金熊賞を獲得している。
日本初公開のパキスタン映画だというので、観に行った。
しかも、女性監督。
パキスタンは治安が不安定で、ロケそのものが難しいらしい。
突如エンターテインメントなカーチェイスシーンがあったりするけれど、素晴らしい映画だった。
オン・ザ・ミルキー・ロード
「ジプシーのとき」でこのクストリッツァ監督に圧倒されて以来、なるべく欠かさずに観ようとしている。
あの頃の繊細さはうっちゃってしまい、何だかどおくまん「嗚呼!!花の応援団」なヤケクソ感が際立っている。
我が道を往きすぎておるわけだが、反戦への思いは伝わってくる。
ブレードランナー2049
「スター・ウォーズ」然り、傑作作品の続編を創る場合、観る側としては、どうしても前作とは異なるテーマを求めてしまう。
テーマが同じであるならば、前作を越える事はできないし、新作を作る必要がない。
その点が微妙なのが残念なんだけど、ヴィルヌーヴ監督のヴィジュアルセンスを味わうだけでも、観ておいてよかったと思う。
2017年は、旧作5本を含めて40本弱の映画を、映画館で観た。
駄目な作品も、とても多かった。
観る本数が多いと、必然的にそうなってしまう。
でも、映画館で、大きなスクリーンで、いい音響設備で、暗闇の中で不特定多数と時を過ごすのは、とても楽しい。
他に観た作品、書いておきますね。
「世紀の光」新作ではないか…
「僕のごはんは明日で待ってる」箱入り息子の恋は傑作だったのに…
「変魚路」ウンタマギルーは傑作なのに
「antiporno」
「この世界の片隅に」
「沈黙 サイレンス」
「ハルチカ」
「ミツバチのささやき」旧作です
「ラ・ラ・ランド」主人公の持つ夢がくだらなくて感情移入できない
「母 小林多喜二の母の物語」教育映画ですね
「家族はつらいよ2」前作がひどすぎたので、これはまあまあ
「ハクソー・リッジ」自分が殺さないだけで、周囲の兵士が殺してくれる
「光」あん、で新境地だと思ってたのにな
「酔っぱらい天国」倍賞千恵子特集上映にて
「雲がちぎれる時」同上
「あいつばかりが何故もてる」同上
「star sand 星砂物語」歴史修正主義というか…
「ダンケルク」ラストシーンさえなければ…
「インランド・エンパイア」旧作ですね
「散歩する侵略者」黒沢監督、1年に1作はきついのでは?
「やさしくなあに」
「こいのわ 婚活クルージング」青いソラ白い雲は傑作だったのに…
「Ryuichi Sakamoto CODA」