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私の2016年映画ベストテン 名無シー編 邦画部門
新春後ろ向き企画 去年の映画よ、こんにちは
【邦画編】
①記憶の中のシベリア/祖父の日記帳と私のビデオノート
①記憶の中のシベリア/海へ 朴さんの手紙
久保田桂子監督のドキュメンタリー映画二本立て「記憶の中のシベリア」は、昨年観たドキュメンタリー映画の中でも白眉と言えた。
戦後のトラウマというと、アメリカでは「ランボー」なんかで認知度があるけど、日本でも戦後相当苦しんだ方は多いと聞く。 通院しなかった方でも、家庭の空気とのギャップの中で、家族にも語れない苦しみを墓まで持って行ったと言うような事は少なくなかっただろう。
久保田桂子監督のように、亡くなられる前にお祖父様の内面に向き合えた例は矢張り貴重だと思う。 それがお祖父様の魂の救いとまではならなかったとしても、お祖父様にとっても、話せる方が親族にいたことは大きかったと思う。
ご存知なかった方にはこんな記事、参考迄にどうぞ。
「戦後70年以上PTSDで入院してきた日本兵たちを知っていますか 彼らが見た悲惨な戦場」
③FAKE
監督 森達也、出演 佐村河内守
多分これ以上の説明は不要でしょう。
とても楽しく興味深い映画でした。
④太陽の蓋
フクイチ メルトダウンまでの官邸内外の様子を記録資料を基に再現したドラマ。
シン・ゴジラと趣旨が被る部分が多い。
ゴジラと違って、娯楽作品ではないけれど、演技はやはり演技っぽい。そして官邸の空転振りは悲劇なのに喜劇にみえてしまう。
どのように見るかと言う意味では、色々な事を括弧に入れたり、情報を自分なりに補足したりしながら見るので、ちょっと見方のバランスをとるのは誰にあっても考えなきゃならない部分かも知れない。
この映画、くだらないところでは、枝野官房長官役を耳たぶだけで選んだ様な潔さ、そして結構似てる感じは、ユーロスペースで予告編が流れた際、爆笑を誘っていたのが思い出される。
ま、大事なのはそこじゃないんだろうけど。
⑤風に濡れた女
日活の ロマンポルノリブートプロジェクト の内の一作品。
塩田明彦監督。
時代劇の決闘シーンの撮り方を使ったり、随所に笑いのポイントが鏤められていて楽しいロマンポルノだった。
個人的には、見えそうで、あ~、やっぱり見えない!みたいな感じだったら更にお色気ユーモアアップ出来たんじゃないかとも思うけど、そうなるとロマンポルノじゃなくなっちゃうのかな。いずれ、面白かった。
⑥牡蠣工場
想田和弘監督。
震災後の移住も含めた、現在の日本の牡蛎養殖の現場を追ったドキュメンタリー映画。
排外主義が擡頭する今日、その癖若者は誰も国内の第一次産業に従事しようとはしないわけで、矛盾は個々人の指向性中に既にあるのだけれど、皆そこには目を瞑っている。
この映画ではその辺の見ないようにしているものが見えてくる。
洒落た店で牡蠣や高原野菜等を口に運ぶとき、我々は一体何を食べているのだろう?
⑦貞子vs伽椰子
人間ではなく幽霊は、モラル関係無しに色々やってくれる。
フィクションってこう言う部分あるなと言うのを感じさせてくれる疾走感ある娯楽大作!
陰陽師のイケメンと子供のコンビだけ解せなかった。
⑧淵に立つ
深田晃司監督作。
見応えある日本映画。
幻覚の中の浅野忠信の病的な笑顔が、それを見ている者達の深い心の傷を表していた。
⑨クリーピー 偽りの隣人
黒沢清監督作。
フィクションなのに律儀に勧善懲悪に落としたのは残念だった。
車で引っ越しする、あの禍々しいシーンで終わりだったら最高だった。
⑩シン・ゴジラ
言わずと知れた娯楽大作。
「太陽の蓋」参照。
日本が突発的災害への対処能力が低い国だというのをコミカルに指摘した点は面白いかも知れない。
でも、ゴジラには話のエンディングはあるが、東北、殊に福島は終わり無い現実の物語の中で喘いでいる。映画のエンディングが無意識のうちにそこに蓋を被せて皆の意識に上らないものにするならば、それは悲劇だ。
邦画ベストに巷で人気の「この世界の片隅に」を入れなかった。
フィクションで人の心の痛み、悲劇を描く場合、今日ではそのバランス感覚は非常に難しい。
フィクションが描こうとするものが、何等かの真実になるかどうかは、現代ではメタフィクショナルな意識の審級と不可分な所があって、そう言う感覚がないフィクションというのは、実際の手記を読んだ方がいいんじゃないかと言う気分にさせるところがある。
個々のエピソードに分割すれば、様々な手記に残されていそうな、実際あっただろうという話を、じゃあ何故一つの架空の人格に仮託して一つの物語に組み上げようとするのか。そこが例えば橋田壽賀子みたいな作品と変わらないのなら、今わざわざ作る理由がわからなくなってしまう。
こんなことを想う一端は、先日酒の席での事だった。
若い友人が何だか沈鬱な表情だった。
みんな楽しくやりたいのに一人勝手に涙酒だ。
どうしたと問い詰めると、従姉妹が膵臓癌でなくなったという。
何でも、一人っ子だった彼には、従姉妹は本当の妹のように育った仲だったという。従姉妹が結婚を考えていた彼氏とも友人はよくサシで飲む仲なのだそうだ。そこからはもう全員が涙酒である。
しんみりとした中でもう一人の友人が、思い出して徐に口を開く。そうそう、おまえいってたっけな、ずっと一人っ子で子供の頃は兄弟のいるこが羨ましかったって……
親父もお袋も一人っ子だったから、一人っ子のサラブレッドだって…… ん?
そこからの怒りの酒宴に関しては説明は必要ないだろう。
何と言ったってこの酒宴自体今作った話なのだから。
つまりそう言う事である。古典的なフィクションで泣けることには、現代、人の心に内に疑義が呈されていて、フィクションもそれ自身の中に、そう言うフィクションの外側の意識を誠意を以てとりこむようになった。フィクションが真剣に真実と向き合うというのだ。
この映画評のスタートが、居もしない担当編集者まで登場する与太話のような語りだしなのはベストテンを選ぶそう言う意識への目が関わっているのだろうか?
さて、話を戻して、邦画の話。「君の名は。」カタストロフ的災害を描いていて、立ち入り禁止区域というものも出て来る。やっぱり東北の津波、福島の事が頭に浮かんだ。
この話では、災害での犠牲者がいない。ああ、よかったと言う感じ。この感覚が圧倒的支持を受けて興行収入記録を塗り替えたと言うことに違和感を感じる。
例えば東北で亡くなられた方々は絶対帰ることは無いし、生き延びた方々もサバイバーズ・ギルトに苛まれ、家族の喪失感に苦しみながら、仮住まいしていたりする。
挙げ句の果てに異郷で、教師生徒総掛かりのイジメにも遭う。
現実世界では我々が救い得るのは今現在と未来の中にいる誰かだけだ。でもそれさえままならないのが実際だ。
SFの知的さは、あり得ない様な設定で、寧ろ現実の本質的な何かを気付かせる時最大限伸張する。
そういう感じが何も無い話に触れた時の虚しさと言ったら……
しかもその話に皆喜んでいるというのだ……
等と最後は辛気臭い感じになりましたが、沢山の面白い映画がそれに負けないくらい色々な意味で楽しませてくれた一年でした。
ベストテン圏外では「灼熱(次点)」「ディーパンの闘い(次点)」「ドント・ブリーズ」「ソーセージ・パーティー」「ポバティー・インク」「光りの墓」「スラヴォイ・ジジェクの倒錯的映画ガイド2」「シリア・モナムール」「ホース・マネー」「ハート・オブ・ドッグ」「エル・クラン」「カルテル・ランド」「ニュースの真相」「トランボ」「シチズンフォー スノーデンの暴露」「オマールの壁」「パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト」「ソング・オブ・ラホール」「バナナの逆襲 第1話・第2話」「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」「TOMORROW パーマネントライフを探して」「ライト/オフ」等が思い出されます。
以上、ツィートの転載もあるため、語調が統一されていない所もある段、悪しからずご了承下さい。
では、本年も楽しい映画を沢山見てまいりましょう!
2017.01.11