第二十九夜:「開かずの間」

diary_akazuno

お客様のお連れのお子様に
 
「開かずの間、ある?」
 
と聞かれて面食らった、ホラーやスプラッターはからっきしダメですが、
サスペンスやミステリーは滅法好きな、若女将けい子(仮称)です。
勿論、金田一耕介は古谷一行さん一択です!
 
さてさてその少年の質問なのですが、何故そんな事聞くの? と問うと、
名探偵コナンが好きで、探偵モノに興味を持ったらしく、
こういう旅館には必ず「開かずの間」があるはずだと。 だから教えろと。
ええっと、少年。 いいか?
名探偵コナンってのは必ず殺人事件が起きるよね?
そして「開かずの間」ってその現場になるよね、大体。
おい! ウチで事件が起こるのを密かに期待するな! やめてくれっ!
そんなん起きたらウチ全体が永遠に「開かずの間」になっちゃうだろっ!
 
 
 
ま、今の当館(新館、旧館共)には「開かずの間」はありません。
以前、旧館を直すまではあったそうです。 おお! 良かったな少年!
伝説の仲居頭の愛子サマが以前おっしゃっていました。
その中身はというと、先々々代のご主人のご趣味の部屋だったそうで。
趣味といえば聞えはいいですが、そこは数々の愛人と色々致す為の
専用のお部屋だったそうで・・・。
その先々々代が亡くなってすぐ、当時の女将(奥方でしょうね)が
胸糞悪いと永久に封印すると決めたそうです。
それからその部屋は何十年もそのままとなり、それは仲居の間でも
話題になっていたそうですが、多くの仲居が何の部屋かは知らなかったそうです。
だから当時でも「殺人があったのでは?」「呪いの部屋?」という噂は
出ていたそうです。 うんうん、いいね! 「女王蜂」みたいだ!
しかし、私がここに来る十数年前の大改修で、その部屋は潰したとの事。
 
いやあ、もったいない!
そんな横溝正史な淫靡な部屋は残しておこうよ!
 
 
 
平成になってから、日本風土を象徴するようなものが
次々と消えていっています。
「愛人の間」は特殊すぎますけど、なんでもかんでも現代の観念や
常識をもって過去のものを消し去る風潮、私は好きではありません。
元々、雑多な国民性を持つ日本人。 それなのに過去との共存は下手。
金閣寺やら大仏やらは残すが、現代的に価値がないと踏めばなんでも消す。
どうなんでしょう?
 
東京の表参道にあった「同潤会アパート」。
あれなんかも関東大震災後に、不燃の鉄筋コンクリートのものを
建てようという事で生まれたものだったし、景観としても
美しかったのに、何故壊したのか? 歴史的価値もあったろうに。
 
私は想うのです。
大体、取り壊しなどの激しい採決をする位置の人間の内には、
どこか個人的感情が働いているのではないかと。
同潤会アパートの取り壊しをOKした人間、
その人ももしかしたらそのアパートに昔住んでたりして、
そこで愛人騒ぎとかがあったりして、その過去消し去りたかっただけとか。
はい、いつもの邪推です。 すみません。
 
 
 
 
 
 
と、ここで書き終わろうと思ったのに・・・。
今、これを書いてたのは旧館の方の事務所だったんですが、
部屋を出ようとしたら・・・・・扉が開かないんです・・・・・。
さすがにボロい事務所だし立て付けが悪いだけでしょうが、
一向に開く気配がありません・・・。
 
 
ええっと、今アタシ、開かずの間に、います・・・・・。
 
 
だれか助けてぇぇ・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 

2011.03.09