「山田洋次監督50周年記念展」へ、行く。後編

取材/文/一部撮影・鎌田浩宮

そして大船撮影所の後には、
当時の録音機材、撮影カメラ、映写機が
どおんと展示されている。
見ている時は、
「他に展示するものが乏しいのからこんなものまで」
と思っちゃったんだけど
今振り返ると、
これも監督にとっては血肉だったわけです。

100202

監督のコメントが貼ってある。
「映画はサイレントからトーキーへ、
白黒からカラーへ、
フィルムからデジタルへ、
2Dから3Dへと、
目覚ましい技術革新をしてきた。
でも、
名作と言われるものは
’60年代までのものが多いのは何故なんだろう。
技術がいくら発達しても
映画そのものは発展していないのではないか。
僕はどんなことになろうとフィルムで撮影していくが
フィルムで上映できる劇場はそのうちなくなり
僕の作品も、デジタル上映されるようになるのだろう。」

003

そしてようやく、
「劇場(コヤ)に笑いがあふれていた」
というブースに入ります。
そう、やっと「男はつらいよ」の展示に入るんだけど、
その前に、壁一面目一杯に
山田作品に出演した喜劇役者の写真が貼ってあります。
戦前よりのスターから、今を生きる役者まで。

kanbe

おお。
神戸浩の写真もあるのが嬉しい。
かんべちゃんは、
竹中直人監督「無能の人」で一挙に開花して、
山田作品に起用されたと記憶してます。
特に「学校Ⅱ」での
障がい者学級の生徒役は素晴らしかったです。

そしてその次には何と驚いた。
柴又駅にある渥美清さんの銅像が設置されているのよ。

tora-dd3ae

あれえっ?
まさか柴又駅から引っこ抜いてきた訳じゃあるまいし
じゃあ、元々2像あったんでしょうねえ。
でも、どこから持って来たのかしら。

「おいら、銅像なんかにされるような人物じゃあねえからよお」
照れ臭そうに立ってます。

そして寅さん全48作・1作品ずつの紹介となるわけだけど
1作品に写真は1つのみ。
説明書きも簡潔で、ちと物足りない。
まあ、逆に言えば、
その分、震災や大船やフィルムへのこだわりが
強調されているわけです。

014

と、ここで、隣接会場での特別上映
「寅さんあなたは誰なの?」
の上映時間です。

300円とはいえ、別料金だし、
お年寄りは特に皆面倒臭がって、ガラガラなんじゃないかなあ、
と思い扉をくぐると、
なんと全75席、びっちり満員御礼じゃないの。
嬉しいなあ。

山田監督編集による30分の作品、とあるが
単なる寅さん全48作のダイジェストだった。
コメントなどが挿入されているわけでもなく、
編集が凝っているわけでもなく。
ちと、がっかり。

でも、やはり泣いてしまうのよねえ。
周りにも、少ないけれど、鼻水をすする物音が。
特に、あの有名な
「メロン騒動」のシーンは
何度観ても泣けてしまう。

tora-melon

くるまやの皆が揃って
いただき物のメロンを食べようと切り分けて出す。
そこへ寅次郎が帰宅する。
寅の分を切り残しておくのを忘れ
慌てる家族に怒り心頭の寅。
「どうせおいらはこの家族の勘定にも入っちゃいねえのよ」

公開当時このシーンは、
東京のハコでは爆笑に次ぐ爆笑だったそうだが
関西のハコでは
「そりゃあ寅さんが可哀想だわ」
と同情し、笑いはあまり起こらなかったそうだ。

僕も実は「関西派」でして
寅がみじめに家族へ当たり散らせば散らすほど
寅という人物の孤独さがたまらなくなって
涙が止まらなくなるんである。

というわけで、ハンカチで目頭拭きふき、部屋を出る。

020

おお!
なんと、大好きな横尾忠則によるポスター!
会場内だけじゃなく、池袋駅構内各所にも貼ってあったど。
買いたかったけど、売ってなかったです。

この後は、
「息子」「学校シリーズ」から
渥美さん亡き後の時代劇三部作、
「母べえ」「おとうと」
そして最新作の紹介へと入り、
最後に山田作品全80作の写真の展示で終わる。

恐ろしいことに、最も多忙な時で
1年に3本も公開しているのは驚愕です。
例えば1977年は、
「男はつらいよ 寅次郎と殿様」
「男はつらいよ 寅次郎頑張れ!」
「幸福の黄色いハンカチ」

また1980年は
「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」
「男はつらいよ 寅次郎かもめ歌」
「遙かなる山の呼び声」
と傑作ばかりが、3本、なんである。

009

優れた映画監督というものを考える場合、
ある水準以上の作品を量産しているかどうかも
判断基準の1つに入れるべき、という意見があって、
そういう観点からだと、
ウッディ・アレンなどと同様に
山田洋次は称賛されてしかるべき映画監督だと思うんです。

001

というわけで、
フツーの人が1時間で観終えてしまう内容を
数時間かけて舐めるように観てきました。

最後は山田作品絡みの書籍などの販売ブース。
その中で、最も手に入りにくそうだったのが、これ。

これは70年代の山田監督と渥美さんの対談が再録されてたりして
資料性に富んでるのよ。
でも、無職だし買おうか買うまいか悩んでいたら
最後の1冊を他の人に買われてしまいました。

.

さて、3週に渡って連載したこの遙かなる企画、
この記念展に行けなかった遠方の人も
楽しんでもらえたかしら?

実は、この記念展、
僕はある親友と2人で観に行ったのだけれど、
その親友が今、陸前高田へボランティアに行っていて
こんな写真を送ってくれました。

「かまちゃん 今日は黄色いハンカチの近くで作業です」

kiiroi-hankachi

ボランティアだから場所は選べないだろうに、
偶然は、素晴らしい…。

この記事、おわり・・・


2012.01.30