渥美清こもろ寅さん会館にて「男はつらいよ・奮闘篇」35㎜フィルム上映

撮影/文・鎌田浩宮

シリーズ第7作
「男はつらいよ・奮闘篇」
マドンナ役
榊原るみさん
娯楽映画研究家
佐藤利明さん
ご来場、実現。
至福の
1日。

興奮で、眠れなかった。
完徹のまま、朝7:50新宿発小諸行きの高速バスへ。
新幹線で行くより1時間余計にかかるこのバスは、かつて汽車の中で食べることができた釜飯で有名な横川から碓氷軽井沢までの、そう、新幹線が開通する前は特急あさまが通過していた辺りの山の中を駆け抜けていく。
垂直に切り立った崖のような山々は、まるで雄大なアジアの山脈のようだ。
11月8日、土曜日。
紅葉が見事で、山々が美しく、眺めていて飽きず、眠気も来ない。

この風景、鈍行列車が好きだった寅さんや僕のような者だけが、観られるものなのかも知れないなあ。

 

毎月第2土曜は、
小諸へ
どうぞ。
あったかくして、
待ってます。

 

11時、小諸に着く。
蕎麦で有名な小諸だけれど、ゆっくり蕎麦屋さんによる暇は、ない。
いつもの駅前の立ち食いそば屋で、東京でも食べられるような、ごく普通のかき揚そばをかきこむ。

ガムテープで、その会館名を、ふさがれ。
鍵で閉められたまんまの渥美清こもろ寅さん会館。
その地下にある、やすらぎ会館へ。
普段は、本来の目的ではない合気道の練習などに使われている。
そこを、本来の映画館に設営し直す。
机や椅子を並べ、早くも晩秋の肌寒い小諸でも、汗だくになる。

 

来られない
全世界の
皆さんへ。
ユースト、
始めました。

 

しかも。
今回から、USTREAMによる生中継(全世界同時生放映!)を試みるため、スマホさえ普段触ったことのない僕が、インストールから撮影までを全て手探りで行なっていく。
2時の開場までに間に合うのか?
通常の僕の担当である、音響のセッティングと同時並行でこなしていく。

この動画は、そのUSTREAMで生中継したものを、youtubeにしたものです。

ちなみに、USTREAMの僕らのサイトはこちらです。

こちらも、試験を兼ねて撮影したものです。
こんな会館で、毎月上映してるんですよ。
スタッフは僕(46歳)なんぞまだ若手で、年輩の方々も懸命に力仕事をしています。
町おこし、村おこしという言葉をよく聞くけれど、本当に大変なものです。

 

寅さん全作フィルムで観よう会
の、始まり、
始まりぃ。

 

なんとかかんとか、2時に開場。
そして今月の上映前のお楽しみコーナーは、地元小諸のご当地アイドル・ツインズのミニライヴ。
この模様は、USTREAMにて生中継されました。
それでは、その模様をちびっと。

僕は5歳から中学入学直前まで、プロダクションに入り子役をやっていたので(全く売れなかったです)、ゲーノー界の厳しさを肌で覚えております。
可愛い女の子は掃いて捨てるほどいる、だからこそ、自分達にしか出せない個性を磨いて、頑張れよ!

そんな彼女たちが3曲歌っている間に…遂にやって来た!
榊原るみさん!
佐藤利明さん!
なんと、本編上映前に挨拶をして下さるという。
その音声です。

渥美清こもろ寅さん会館が休館になってしまい、それから僕らココトラは、幾度となく復活アピールのためのイヴェントや上映を重ねて来たけれど、これほど会場が熱くなったことが、あっただろうか?
割れんばかりの拍手とともに、開映のブザー。

これから約1時間半、一緒に銀幕を見つめ、笑い、涙できる幸せ。
もう、一生ないのかも知れないのだから。

前半、ミヤコ蝶々さんと渥美さんの、火花が飛び散るような名演。
その後、遂にスクリーンに、当時20歳の榊原るみさんが登場。
僕は、歌舞伎のように「いよっ!」と掛け声を上げたくなるのを、抑えた。

るみさん演ずる、泣きじゃくる花子。
犬塚弘さん演ずる、怒鳴るのをやめ、花子を何とかして故郷に帰してあげようとするおまわりさん。
そして、花子の涙を止め、笑顔を取り戻してあげる寅さん。

会場の皆は笑いながらこのシーンを観ているんだけれど、僕は切なくて涙が止まらなかった。
「この娘はちょっと頭が足りない」と言われる、天使のように無垢な少女を、金も知恵もない男2人が、懸命になって救おうとしている。
これこそが、無償の愛なのだ。
見返りなぞ求めない優しさに、久々に触れることができた花子。

これを観ている観客は、寅のように無償の愛を、見知らぬ人に捧ぐことができるだろうか。
道端で困っているお年寄りがいても素通りする現代。
笑うだけでは違う、と思ってしまうのだ。

全48作の中でも、屈指の名シーンだ。

そしてこの後のスペシャルトークショウでもるみさんがおっしゃっているんだけれど、花子を温かく見守る故郷青森・鰺ヶ沢の先生役・田中邦衛さんの熱演が素晴らしい。
この頃はまだ青大将のイメージが強かったのかも知れないが、もう既に演技派・名優の片鱗たっぷり。
そしてこの名演が輝くからこそ、先生が連れて帰った花子のいない悲しみを演ずる渥美さんが涙を誘う。
偏見も差別もなく、マイノリティーを愛した寅さん。
無償の愛はいつしか恋愛に変わり、こちらも無垢な愛の成就を夢見てしまう寅さん。
何と切ない恋の終わりだろう。

映画が終わり、鳴り止まない拍手。
僕は「るみさんお見事!」と叫んだ。

さあ、待ちに待ったスペシャルトークショウ。
るみさん、利明さん、そしてココトラのメンバーでもある元松竹衣装部・本間邦仁さんの3人が登場。
こんなすごいの、東京でも見られないよ。

それでは、ノーカットで音声をお聴きあれ。

後藤久美子さんは満男にとってのマドンナなので、寅さんへのマドンナ役としては最年少の、るみさん。
当時から山田監督の演出は厳しかった、私が落とすみかんにさえ演出をした、と当時の苦労を語るるみさん。
当時は今よりも、このようなマイノリティーへの教育・福祉などのテーマを、喜劇に取り入れるのは難しかったろう、と語る3人。

そして、娘さんであり俳優でもある、松下恵さんも登壇。
お母さんの出るこの映画をスクリーンで観たのは初めてで、感慨深そうでした。
彼女は「3年B組金八先生」に学級委員・伊丸岡ルミ役で出演していました。
また、るみさんの姪っ子さんである、イラストレーターの榊原菜穂子さんも登壇。
既にココトラの活動を知っていたそうで、嬉しい限りです。

そして、寅さん会館復活のために、渥美さんのために駆けつけたんだと話して下さった、るみさんと利明さん。
毎月この上映を観に来て、復活のため力を貸して下さいと、僕らの代わりにるみさんがおっしゃって下さった。
そこで、また割れんばかりの拍手。

ああ、ずっとこの時が続けばいいのに。
スタッフの僕も、お聞きしたいことは山ほどあった…。

るみさん、利明さんは、打ち上げには参加されず、お帰りになった。
結局、るみさんとは直接お話しできなかったけれど、俳優として鼻高々な気取りのない、人間味のある気さくな方だった。
益々好きになってしまった。

ココトラスタッフだけで打ち上げをした。
その時のビールの旨かった事!
充実感たんまり、胸一杯。
流した汗と疲労も、吹っ飛んだ。

http://jupiterboo.blog.fc2.com/blog-entry-414.html

こちらは、るみさんと恵さん、そして愛犬ジュピターのブログでして、上映にいらしたことが書かれています。

最後に、僕らココトラへ下さった、るみさんのサイン色紙に、なんて添え書きがあったか、教えちゃいますね。

「いつまでも花子!」

また泣けてしまう…!

このお礼に、今度もしるみさんがお越し下さることがあったら、その時は必ず会館を復活させておきます!

次回は12/13(土)昼3時より
シリーズ第8作
「寅次郎恋歌」。
これも、傑作。
さくらの旦那さん、博が主役!
そして
志村喬の、
名演。

ぜひ、来てね!


2014.11.10