第十二話「唐揚げとハイボール」

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カウンターの片隅で、目を閉じ、微笑むような口元で眠るサヤ(平田薫)。サヤはいつも「唐揚げ」を注文しては、常連の男たちに見守られ、店の中で眠り込む。その寝顔は一見幸せそうだが、起きている間は、よほど疲れることがあるらしい。マスター(小林薫)は、ビールがダメというサヤに、普段店では出さない「ハイボール」をすすめる。
サヤは、お笑い芸人の章介(永岡佑)とつきあっていた。売れない芸人の章介に、お金を渡して尽くすサヤだったが、章介の態度は冷淡だった。ある日、店の中でサヤを責めたてる章介に、竜の子分でヤクザのゲン(山中崇)が激怒。店の前で喧嘩を始める。そこにやってきたのが刑事の野口(光石研)と部下の足立(足立智充)だったが、サヤを見て足立は驚く。(公式サイトより抜粋)

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さあ、待ちに待った第二期の第二話です!何故かと言うと今回の主役・平田薫は倉田ケンジが監督を務めた映画「緋音町怪絵巻」の主演俳優であり、僕らにとって思いの深い人なんです。
その話は倉田君に存分に語ってもらいたいですねえ!
http://www.catvy.ne.jp/ymf/festival/2006/movie-n/nominate_09.html

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深夜の眠り姫。観音様の笑み。

鎌田「僕は平田との関わりはほんの少ししかないけど、
それでも今回彼女の演技を観て、涙腺が緩みかけたからね。
倉田君はいかほどでしたか?」
倉田「もう、なんでしょうね。彼女が14、15歳の頃に一緒に作
品を創りましたし、僕の大好きな深夜食堂に出るという事
でなんとも不思議な気分、というか姪っ子の今を見てしま
う気持ちでテレビの前にいたと思います(笑)」
鎌「そうなっちゃうかあ。でも今までに出た他のテレビドラマ
より、彼女の良さをぐんと引き出してもらえてたのは嬉し
かったな」
倉「はい、無理の少ないドラマシリーズですしね。
彼女は生まれて初めて演技するという状態で私の監督作、
『緋音町怪絵巻 – Mystery of Akane-cho -』にやってきて
くれたんです。それもいきなりほぼ主演級の位置で。
というか僕がある写真で彼女の飾り気ない可愛らしさに
惚れ込んで、無理いってお願いしたんですけどね」
鎌「彼女の初めて出た雑誌だっけ?」
倉「はい。だから今、こういう演技方向ではこんな感じにやる
ようになったかぁ、とかしみじみと見てしまいました。
なんだか偉そうなんですけどね(笑)」

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深夜食堂のカウンターで眠る、足立さや。
鎌「本編に話を移そうか。最初のカットで足立さや(平田薫)が
うたた寝している所にマスターの“どう?眠っているなん
て思えないだろう?”というモノローグ。観音様の様な
平田の穏やかな表情がかなり印象的だったね」
倉「深夜食堂でも珍しい、静かな幕開けでしたね」
鎌「それと同じくらい印象に残るのは、うたた寝の演出だね」
倉「はい。静止させてましたね」
鎌「こくりこくりと首を傾げさせたり、少しうつ伏せ気味にさ
せたりという演出の常套手段を使わない分、とても不自然
なんだよ。それでも真正面を向かせ静止したまま眠らせた
のは、さやの観音様のような穏やかな人となりを寝顔で表
わしたかったんじゃないかなと思うんだ」
倉「原作を知らないので分かりませんがそうなんでしょうね」
鎌「ビールが飲めない、ってヘンだね。なんでだろう?」
倉「ビール、というか酒というものに対してもどこかで贅沢、
悪いもの、節制すべきものとか思ってたのかもしれません
ね。ま、ハイボールも酒ですけどね(笑)」

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そこに在る音が、そこにちゃんと有る。それが深夜食堂。

鎌「マスターがハイボールを出す所で、鈴虫の音がかすかに
聴こえてるね。ゴールデン街にもしっかり生きている
秋の虫たち」
倉「日本人の内面を描く際、周囲の音は非常に必要不可欠な物
だと思うのですが、最近は環境音に意識あるテレビドラマ
は本当に少ないと思います」
鎌「そうだよね。深夜食堂、そして演出陣は本当にSEに気を
配ってる。料理する音、咀嚼する音、まるで箸のこすれる
音まで聴こえるようだよ。音によっては別録りして足して
みて、心地よい音にしている。それはもう、上質の音楽な
んだよ。だから、下手なサントラは要らなくなるんだ」

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倉「ミュージシャンの方に言われると説得力違いますね。僕も
昨今のサントラ重視のドラマにはハテナしかないです」
鎌「でね、今回挿入歌が良かったって感想をよく聞くんだけど
僕は無くってもよかったなあ」
倉「ああ、あの本人役として弾き語りしていた福原希己江さん
の歌ですね。なんか唐揚げの歌とかwikiにはありました。
僕はあまりやらない演出ですし、今回は何気に要素多めの
話だったんで、歌は少し過剰な感は受けましたね」
鎌「第一、僕というヤツは歌詞がどんなに良くっても、まずは
“音”として頭と心に入ってくるんだよ」
倉「僕も全くそうです。歌詞はかなり後に入ります(笑)」
鎌「僕、街を歩く時も、ミュージシャンのくせしてiPodを外
す時がある。いっけんどんな騒音、ノイズでも、それは豊
かな音楽であるんだよね」
倉「僕も環境音やそこでの会話する生物全般の声は拾うように
しています。だって音楽はいつでも聞けますが、一度しか
聞けない音は必ず、そしていつも飛び回っているので」

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さやの彼氏でお笑い芸人の章介、登場。
鎌「さて一方、バカ芸人でさやの彼氏・章介(永岡佑)が舞台に
登場する所、ゆっくり歩いてきてまるっきりオードリーの
真似でしょ?」
倉「あ~僕もベタ、というか練ってないなあとは思いましたね」
鎌「なんであんなベタな演出するのかなと思ったんだけど、そ
れだけあの芸人の駄目さを表したかったのかな」
倉「ダメさの表現はネタの中身で見せて欲しいものですが、尺
を考えると登場シーンでなんでしょうね。後は最近の若手
お笑いが、ネタより登場や第一印象に気合入れているのが
多いのも事実ですから、ある意味その批判とか(笑)」
鎌「うーん…色々分かるけどね、もう少し違う演出なかったの
かなあ」
倉「舞台外ではダメ人間、でも舞台上でのネタは対照的に
紳士/聖人的な内容だったら、余計に章介のダメさ加減も
浮かび上がるのにとも。ネタは相方が書いている前提で」

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刑事の兄と唐揚げを食べるさや。そして・・・
倉「カウンターに兄弟が並んで座り、黙って唐揚げを食べる。
涙を浮かべながら。これぞ深夜食堂の真骨頂ですね」
鎌「うん」
倉「悩みながら、ただ懸命に、少し盲目に、働きかけながら
生きていたさやの姿が、演じる薫ちゃんの事の様にも勝手
に思ってしまい、余計胸が苦しくなりました。薫ちゃんと
さやは全然違う人間なんですけどね(笑)。ああいう落ち着
いてじっと捉え続ける演出にそう思ってしまったんでし
ょうね」
鎌「平田自身も俳優修業で苦労してるだろうし」
倉「でも何故、あの兄弟はああなったんでしょうね?」
鎌「些細なすれ違い、だったかも。分からないけど」
倉「僕にはこの二人に父親の影が匂いませんでした。父親は
早くに亡くなっていたんではないですかね?それか出て
行ってしまっていたか」
鎌「どうなんだろうね?」
倉「僕は母と兄と妹という小さな家族だからこそ、近すぎて、
だから大事すぎて、兄は父代わり的に余計な心配や詮索を
しすぎて、妹の中には反発も生まれたんではないでしょう
かね。でもそれも意味のない反発、反抗なのはさやも分か
っていたような気がします」
鎌「近すぎて、大事すぎて、か…」
倉「夢で兄に唐揚げを取られるなんて可愛いじゃないですか。
兄を嫌っているのではない現れですもんね、これは」
鎌「…」

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倉「しかし今回、主役はさやなのに、ちょっと登場人物が多か
ったりやけにサブシークエンスが多くて、さや本人の描き
がかなりもの足りない印象がありました」
鎌「歌もそうだし」
倉「さやの唐揚げに対する想いというか、今の心底を、兄との
関係での心底、あのダメ芸人に貢いでしまうさやの心底を、
もう少し想像できたり、匂わせてくれたら、という想いは
ありました」
鎌「ヤクザの子分ゲンが、そのさやの気持ちを拾い上げて行動
した事は良かったけど、そのせいでさや自体の気持ちの掘
り下げは薄ったかもね」
倉「はい。だから兄と唐揚げを食べる所までに客側の気持ちを
高める要素が揃っていたら、もっとグッと来たように思い
ます。特に兄との食事後に、ゲンがダメ芸人を連れてきて
後日談的に別れたという流れでしたが、もう完全に芸人と
別れた後で、兄と唐揚げを食べた方が、テーマ的にも兄弟
の関係的にも、あの兄の台詞さえも、もっとストレートに
観客に伝わったんでは?とも思っちゃいましたね」
鎌「兄の“俺はどんな時でもお前の味方だ”という台詞か」

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倉「僕も兄弟がいますし、兄弟だけでの食事というのは大人に
なればなるほど濃い時間に感じるんです。だから二人の背
負っている心をもう少し感じたかったです。兄弟という
物凄く近くにいた存在、そして離れていく存在という物
をより丁寧に描いて欲しかった」
鎌「芸人彼氏に殴られている所に刑事の兄が偶然現れる、
というところも引っかかるの?」
倉「だから色々もったいないなあ~という印象でしたね」
鎌「じゃあ引っ越して、髪を切ったさやは良かったのかな?」
倉「そうなんですよね。しがらみが解けた、穏やかで自然な
笑みがたまらなかったです。あのラストの演技で薫ちゃん
が進むといいんだろうなって思う演技や作品方向が見え
たような気さえ思いました。また偉そうですけどね(笑)」
鎌「あの笑顔が良かった?」
倉「良かったねさやちゃん、って思えましたもん。そう思わせ
られた薫ちゃん、成長したなあ~」
鎌「しかし唐揚げって面白いね。居酒屋では常に上位ランクで
酒に合うメニューのはずなのに、この兄妹のように、
おふくろの味としても上位に挙げられるんだから」
倉「ラーメンやカレーのように、唐揚げもまた家族の間が似合
う、家庭の味になるものなんですよね。再発見な気分です」
鎌「一瞬でも大盛りの唐揚げを食べる、取り合う幼少期の二人
の姿が挿入されても、今回ならば良かったのか?」
倉「そうかもしれません。今回の様な詰め込んだ構成だったら」

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いつでも、いつまでも、君の味方

鎌「今回のテーマは明確だね。刑事である兄が妹に言った
“俺はどんな時でもお前の味方だ”なんだろうね」
倉「明確ではありましたが、さやとダメ芸人の関係の話から、
そっちへ行くとは、ぶっちゃけ思えない流れでしたが」
鎌「いや。兄の台詞は一見チープに感じられる、手垢のつい
たものだったけど、僕にとっては人生の上でどれにも増し
て重要な言葉でね」
倉「味方で居てくれる、強い存在、ですかね?」
鎌「うん。これには僕の中で3つのエピソードがあってね」
倉「是非どうぞ」
鎌「倉田君も知っているエピソードだけど、その1つは僕が
10代の頃から一緒にバンドをやっていた親友がいたんだ
よ。他のメンバーが就職しちゃって2人きりになって、
それが遠因で僕が大病を患ってしまってね」
倉「大病…、そうだったんですか…」
鎌「その時もその親友がずっと看病をしてくれてね、枕元で
“鎌田、曲を創ろう”と言ってくれた無二の存在だったん
だ。もう、こっちゃあ男惚れだね」
倉「僕、もう泣きそうです…そんな言葉…」
鎌「こいつと死ぬまで音楽を頑張ろうと思ってた。それが30
歳になる頃ある日突然、彼は農大を受験して人生をやり直
すと言い出したんだ」
倉「えっ?!」
鎌「うん、飛び上がって驚いた。気が狂ったのかと思ったよ。
勿論俺はすがるように説得したけど、仕舞にゃ音信不通に
されちゃってね。それから何年も経ってからあいつに言わ
れたね。“俺は懸命に努力して農大を受験した。どんな時
でもお前の味方だって言ってほしかった“って。俺は泣い
て詫びて、自分の愚かさを嘆いたよ。今でも殆ど会ってく
れないんだ。人生の伴侶だったのに…」
倉「なんとも言いようが…。僕もまた仲間は次々と映画を辞め
ていきました。僕も辞めるなと言いました。でも最近にな
って、どんな人生でも応援してあげたいと思えるようにな
りました。それは、僕は映画をやっている親友が大事だっ
たんではなくて、そいつ自身が大事だったんだと分かって
きたからだと思います。遅いんですけどね…」

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鎌「もう1つは、俺の友人同士が恋仲でね、いつか幸せに結婚
するんだと思ってた。それが、男の方が浮気して相手が身
籠った。それで、責任を取って結婚するって言うんだ」
倉「なんだかもう深夜食堂が始まりそうですね…」
鎌「そうかも。女の友人の方は心労で病気になっちまうんじゃ
ないかというほど衰弱するし、俺は彼女とも古い友人な訳
だから、男を責めに責めたよ。男はあやまってばかりだっ
た。でも、俺はバンドの経験があったから、数年経って彼
にあやまった。お前は四面楚歌で孤独で辛かったろうに、
味方になってやれなくてすまなかったと。彼とは友情を戻
すことができて、心から嬉しかった。一生の間違いを犯す
手前だったからね」
倉「そうでしたか…。でも友情が戻った事本当に良かったです」

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鎌「最後の1つは最近の話。東北大震災があって、俺の家…
そう、あの有名なモナーク三軒茶屋410なんだけど家具は
倒れるし被害が大きくてね。加えてうちの猫、かの有名な
浪が衰弱して、このままじゃ1~2週間の命だってお医者
さんに言われて。仕舞にゃ俺も発熱して。で直後、きちん
と有休を取って3日休んだんだ。電車さえ止まっているの
に、それでも会社へ歩いてでも出勤しろと言い、俺は社内
でかなり気まずい立場になった」
倉「ちょっとあの時期ではありえないですねその会社も」
鎌「そう。そこで俺、疲労困憊して友人に相談したんだ。その
時の友人の言葉というのが“会社だって震災で大変なんだ、
会社には給料以上の奉仕貢献をしてこそ社員だ、そんな事
も分からないのか!?”というものだった…」
倉「ん~…」
鎌「俺だってサラリーマンを9年もやっていたわけだから、そ
れが正論だなんて分かり切っていた。でも、俺は彼からそ
んな言葉がほしかったわけじゃないんだね。“どんな事を
しても、どんな決断をしても、俺はお前の味方だ”と言っ
てほしかったんだ…」
倉「このお話は震災直後に聞かせて頂きました。僕は普通に電
車も動かない、そして有休を使うという点からも大きな問
題にはならないと、その際も今も思いましたし」
鎌「俺は孤独だったね。相談相手から突き放されて。鬱になる
ほど苦しかった。結局その会社が9万も月給を下げると無
茶苦茶な事を言い出し、その会社は辞めちまった。結局、
瀕死の浪も看病することができたし、最善の選択をしたと
思っているよ」
倉「ちょっと無茶苦茶すぎますよ、その会社」
鎌「だよね?だから、その友人よ、もしこれを読んでいたら、
すっかり許してやるから、早く俺に酒を奢れ、DVDも買
ってくれ、H君!こんな身近に震災の犠牲者がいるんだと
いうことでね、フフフ…」
倉「その方がDVD買ったら許すんですね。
少し良かったです(笑)」

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鎌「色々話してきたけどね、実際に『人を許す。赦す。味方に
なる』という行為は、思ったより難しいんだ」
倉「そう思います」
鎌「相手のためになって献身的に言っているつもりが、却って
相手を苦しめている。正論の1つよりも、相手の味方にな
ってあげられるかがどれほど大切なことか」
倉「でもそれに、その瞬間に気付けないのが、人間の器用でな
い所というか、身勝手さというか…」
鎌「うん、予測もしていないふとした時突然に、相手を受容で
きるかどうか、人は試されるんだよね。ああいうことが塵
も積もってとんでもないことになる事を僕は経験したん
だよ」
倉「僕もしょっちゅうです…いつも酷く悔みます…」

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レッ、レギュラー!?!? 祝レギュラー!!!

鎌「では最後に、平田薫のブログ!
http://ameblo.jp/kaoruhirata/
読んでみたら、彼女は今後もレギュラー出演しそうだね」
倉「そうなんですか!それは嬉しい!やったね薫ちゃん!!」
鎌「彼女の俳優としてまたもや開眼した姿を…いや、観音様は
目を閉じてるけど。新たな魅力を待ってるよ、薫、
お互い頑張ろうね!」
倉「そういえば観終わってすぐに薫ちゃんにメールしました。
また今度ゆっくり撮影秘話を聞こうと思います。『緋音町
怪絵巻』から随分経ちましたし、あの頃とは違う、一人の
女優さんとして、お話させてもらおうと思います」
鎌「ふ~ん」
倉「とか言いながら、直接会うと今でも14、5の頃の薫ちゃん
と全然変わってないんですよね。本当に朗らかで優しく、
初々しさを無くしていない、本当に良い子なんです」
鎌「そのままが映る俳優なんだね」
倉「そう思います!」

第十三話へつづく・・・



2011.11.04