続々・オシゴトキャマダ。

文・鎌田浩宮

感動なし。
笑えるだけ。
ちびっとだけ
ぎゅんと来る。
(きゅんと、じゃないよ)

今回は
家族や
友人を
紹介する。

 

我が弟、裕次郎

と、石原ファッキン慎太郎のよーな出だしだが、うちの弟の名ははPaco、舞天のドラムスである。
週に2日は一緒に呑むんであるが、ある夜のこと。
「職場の部下がさあ、家族にインフルエンザの人が出たから、自分も病院へ行って調べて出社できたら出社するっつーんだよ。病院って朝9時過ぎからじゃん?うちの職場、朝5時からじゃん?だったら病院行くまで仕事しに来いっつーの!ふざけんなよ」
さすがだ。
元世田谷区立駒沢中学校の番長は、言うことが違う。
ふざけてるのは番長の俺じゃねえ。
ふざけてるのは部下だ。
「だってその人がインフルエンザだったら職場の人にも感染しちゃうじゃん」
と言っても、聞かない。
感染率の高さも知らなければ、多くの同僚に感染したら職場が機能しなくなることも分からない。
我が弟は、新聞もニュースも見ないどころか、辺野古がどこにあるかも知らなかったし、トランプが大統領になるとどうして大変なのかも分からない。
弟の頭脳の多くの箇所は、中学校で止まっておるのだ。
僕らが中学生だった1980年代初めの頃は、インフルエンザではあまり大騒ぎしなかった。
弟は野球部だったが、インフルぐらいで練習を休むなんぞ許されなかったかも知れない時代だ。
今では信じられへんが、そんな時代だったのだ。
嗚呼、我が弟よ死にたもうことなかれ。
インフルうつされて倒れるなかれ。
インフルの感染力知りたまえ。
部下に「出社しろよ」と言うなかれ。

 

我が同僚、課長島耕作

嗚呼、約15年(少しブランクあるが)私が奢り続けた君よ。
嗚呼、君よ、課長島耕作、否、秋葉幸治よ。
君が奢ってくれる日が来るだなんて。
ベルリンの壁。
ソ連崩壊。
東欧の民主化。
アウン・サン・スー・チーさんが国の長に。
エトセトラエトセトラスイッチョスイッチョ。
そんくらいの出来事だぜ!
15年前、君と僕は同じ職場だった。
同い年で同じ三軒茶屋に住んでいたが、僕は正社員でマンション、君はアルバイトで風呂なしアパート。
君はボーダイな借金があると言って僕のライヴにも来ず、会社へは1時間弱歩いて通勤。
それが今では逆転したのだ。
僕はその会社をリストラされ今やアルバイトのライター、君はその会社に居続け遂に正社員。
居酒屋で奢られつつ、腹の底から猥談をする楽しさ。
同い年のよしみ。
16年間途切れず続いていた友情。
この間、オリンピックやサッカーのW杯が4回もあったんだぜ。
君のおかげさ、秋葉っち。

 

我が親友、カート・コバーン

先日ようやっと、舞天の昨年末のライヴのお疲れ会が催された。
セイシロウを含めたメンバーが僕の家に集まり、出来上がったDVDを鑑賞しながら泣き、叫び、うろたえ、自死に至るというソーゼツな集いだ。
ベースのデグチさんは沖縄在住なので、珍しい伊是名島の泡盛を持ってきてくれたのだが、これが旨すぎて、6時の打ち上げ会場のレストランに行くまでに、相当なヘロヘロ状態となってしまった。
しかし。
しかしだよ。
そんな時でも、タカツカさんはタカツカさんなのよ。
気づくと、僕の家に散らかしっぱなしだったオーディオケーブルを、丸く8の字に畳んでくれている。
気づくと、泡盛に使ったグラスなどを洗っておいてくれている。
もう、僕が女性なら、瞬殺で惚れている。
キャマダヘロノミヤと言えば気遣いの人として世間に名を轟かせておるが、その僕が瞬殺なほどの気遣いだ。
僕の気遣いが時給1300円のボンクラ雇われライターなら、君の気遣いは1行で100万円稼ぐ糸井重里だ。
ああ、アキオよ。
貴殿が親友で、よかった。
貴殿は、浪の曲を創ってくれたこともあった。
君の気遣いは、かれこれ20年の間断続的に、僕を号泣させ続けている。
その涙は既に1ガロンの一斗缶分になり、なおも増え続けている。
その涙は土を潤し、草木が生え、鳥が実をついばみ、彼方の地で種となることだろう。

 

我が小母、倍賞千恵子

うちの職場のトイレを掃除しに来て下さる70代の女性と、よくお喋りに花を咲かせる。
「お疲れ様です!」
「あらよく会うわね!」
トークde男子トイレ、だ。
どうだほれそこの若ぇ正社員、おまいらこんなに仲良くできねえだろう、ジンセーケーケンの差なんだよ、とこれ見よがしに長話をする。
若ぇ者どもは、しょうもないちんぽこをつまんで放尿するのみである。
「旅行に行ったら何をしているんですか?」
「そうねえ、酒かっくらってるかしらね」
若ぇ者は旅行に行けばスキューバだのパラグライダーだの、全くもって小賢しいのである。
旅に出たら、まずはその土地の酒だ。
その土地の肴があれば、なおよし。
それ以外、あり得ないだろうに。
そもそも、寅さんが全国を旅する時、スキューバだのなんぞ、しねえだろう?
旅の醍醐味は、そんなところにはないんである。
そのことを、掃除の小母さんも分かっているのだ。
便所掃除を、なめるなよ。


2017.02.13