キャマダの、ジデン。㊳続・泥の河

鎌田浩宮・著

何だかこの辺はね、
もー、乗って書いてます。
不幸なのに、書いてて、楽しい。
「あまちゃん」書いてるような、錯覚。

それでは、書きます。

「夜逃げ?!」
また、三軒茶屋から、人がいなくなる。
しかもそれは、無二の親友、戦ゴジくん家族だ。
かつては僕自身も小学4年の時、
両親の不仲で三軒茶屋を去った。
だけんじょ、1週間で三軒茶屋に戻る事ができた。
だけんじょ、夜逃げは、そういうわけにゃあいかんだろう。
これ以上三軒茶屋の人口が流出したら、過疎の村になるど。

故郷を捨てる戦ゴジくんを思うと、
涙腺が。

そして、その夜が、やって来た。
僕ら馬鹿丸出し軍団を含め、5人ほどの仲間が集まった。
おい、そんな集まったら、目立って夜逃げできなくなるど。

僕らは悲しくて
だけんじょ、大人のようにお金を持ち合わせてないので
ゴミ捨て場から拾ってきた
少年ジャンプだとかの週刊誌を持ち寄って
これ読んでくれよ!
と、車に積んだ。

ライトバンの後ろ扉の部分へ
ぎゅうぎゅうの家財道具と一緒に
成長期で160㎝ほどに伸びた体を
折り曲げて乗った戦ゴジくんは
窮屈そうで、不憫だった。

本当は、トラックでも借りたいところなんだろう。
そんなことしたら、ばれちまう。
ライトバン1台に、積めるだけ、積んで。
ちぎれるほど、手、振り合って。

車が、行ってしまった。
何も、してやれなかった。
あの家族は、どうなってしまうんだろう。
小栗康平監督の映画「泥の河」だ。
あの映画の続きが、
行ってしまった車の向こうにあった。

数日後、すぐに戦ゴジくんから手紙が来た。
小田原からだった。
それから僕と彼は、毎日のように手紙を送り合った。
封筒がちぎれるんじゃないかというくらい
びっしりと書いた何枚もの便せんを詰めて送った。

学校から帰ってくると
彼からの分厚い封筒が
毎日のように届いていた。

友達のいない寂しい生活、
それどころか、
地元の不良にかつあげされ
なけなしの金をふんだくられた事、
本屋さんが少なくて大好きな本が読めない事、
エトセトラエトセトラエコエコアザラク…。

夏休みになって、
親に許可を得て、
僕は小田原へ飛んで行った。
小田急線に乗って、
東京の外はこんなに遠いのかと思った。

戦ゴジくんの家は、
思いのほか、広かった。
小田原にいるお母さん方の
親戚の援助があってこそ、だった。
逆に言ってしまうと、
三軒茶屋の彼らのアパートが狭すぎた。
6畳と4畳半の2間しかなかった、
そこに親子4人住んでいたんだから。

小田原に、
お父さんはいなかった。
お父さんは、
借金のため、離婚したのだ。
キャマダ家のように
夫婦仲が悪くなって離婚するんじゃない。
迷惑がかからないように
お父さんが全てを負ったのだった。

晩ごはんに、
お母さんが刺身を出してくれた。
「刺身なんて、高いんじゃないですか?」
海が近いから安いのよ、
お母さんが、笑顔だった。

僕と彼は、布団を並べて寝た。
天井を見つめながら、
夜中までずっと語り合った。
戦ゴジくんが好きだった
片思いのあの娘は
三軒茶屋で元気にしているか。

そう、僕らは
思春期の盛りだったのだから。


2013.08.12