続・東北で働き始めて

インタビューイ・ワオ君(仮名)
お盆の送り火の写真・杉本敏之
インタビュアー/構成/写真/文・鎌田浩宮

  • 2012年、ワオ君と行った仙台駅前の居酒屋。福島を含めた東北の地酒が豊富。

 

毎日、
煙草
ふかして
おばあちゃん。

 

先日、時間がぽっと空いたんで、
お酒買って、1人で公園で花見、してたんです。
現代の公園には珍しく、子供たちがた~くさん遊んでいて。

隣のベンチに、60歳越えたおばさんと、
80歳越えたおばあちゃん、座ってて。
どちらからともなく、お喋り。

おばさんの方とは、ほくそ笑んでしまうくらい、ウマが合って。
原発、反対。
石原、大嫌い。
アベノミクスは、必ずこける。
五輪誘致、反対。

五輪に関しては、
そげなお金があったら、老人の福祉に使ってほしい、とのこと。
僕は、そして被災地にも使ってほしい、と言いました。

沖縄米軍基地に関して、おばさんが
「基地で働いている人の職を失うから難しいわねえ」
と言うので、
「沖縄の北谷(ちゃたん)という街では、基地の跡地を若者向けのレジャータウンにして、かえって雇用が増えてるんですよ」
と、なるべく分かり易く説明しましたよ。

  • 2012年、新聞に折り込まれていた東京都水道局の広報紙。
    恐ろしいテーマをソフトにコーティングされてしまっている。写真モデルは早見優。

 

横で煙草をふかすおばあちゃんは、福島のいわき市生まれ。
「福島生まれの女は、芯がしっかりしてんだよ」
「親戚はまだそっちにいるの?原発事故で大変だねえ」
「ん…?私、30代で夫を亡くしてね、1人で子供3人育てて、大学まで行かせたんだよ」
「…すごいねおばあちゃん、お子さんも感謝してるでしょ」
原発の事は、よく解らないみたい。

おばあちゃん、今は息子家族と暮してるので、家に居づらくて、朝から日暮れまで公園にいるそうで。
1㎜の煙草だけど、1日1箱、吸っちゃうみたい。
「おばあちゃん、お酒呑む?」
「昔は仕事でよく呑んだんだ。じゃあちょっとだけ」

日が暮れて、帰っていきました。
2人とも、元気で長生きしてね。

 

今日

テーマ
は、
「風化」
です。

 

さてさて、またしても、
東北に引っ越し、復興支援の仕事をしている、
ワオ君(仮名)にインタビューしましたよ。
現地の生の声、聴いてみてちょ。

 

先日、東日本大震災から2年が経って、3月11日周辺にはテレビや新聞がこぞって特集を組んだんだけれど、その時に必ず出てくる言葉が「震災が風化している」なんだよね。でも、風化したなあって実感はある?
ワオ君(以下青字)「震災直後の、ものすごい数のボランティアが来てくれた頃と比べると、ボランティアの案件が減り、ボランティアセンターも多くが閉鎖しているので、ボランティアとして訪れる人は減っているよね」

確かに震災直後のゴールデンウィークとかは、高速がボランティア渋滞になったくらいだもんね。
「都会は常に人がいるけれども、こっちは田舎だから普段から人がいない。だから、例えばお葬式が終わって家に戻ってくると孤独さを実感するのと同じで、ボランティアの人が都会に帰っちゃうと、村に人がいなくなってね、寂しいっていうのはあるよ」

「でもね、誤解を恐れずに言うと、風化というのは、自然なことなんだよね」
それはね、よく解るんだよ。それは、風化とは違うんだよなあ。僕も、震災が遠因で、最愛の息子同然に愛した猫が亡くなって、死んじまいたいと思うくらい悲しかったし苦しかったんだよ。でもね、「人間には忘却という優れた能力を天から授かっている」って言うけれど、時が経つと、心の傷は少しずつ癒えていく場合がある。悲しむだけ悲しんで悲しみ尽くして、もう悲しむ心の許容量を越えちゃった、とでもいうのかなあ。もちろん、被災された遺族の方の中には、一生悲しみが癒えない人もいるでしょう。それは人それぞれであって、比較すべき問題じゃない。

「あの震災を忘れないようにしようよ、と僕らは思っているし、忘れないでね、と被災した人たちも思っている」
そう。僕らの多くは、決して被災者のことを忘れたくても忘れられないよ。あの時以来、この世界は変わってしまったのだから。
「風化させないで、とは言ってなくて、風化しないように私たちを忘れないでね、って言ってるんだと思うよ」
この前の3月11日前後に、サンドウィッチマンがテレビに出てて、「未だに沢山の人がボランティアに来てくれる。本当にありがとうございます」って言っててね。実際にはピーク時より減っているのにね。あの2人は言葉を慎重に選びながら、しかも笑いにくるめて、復興を懸命に後押ししてる。立派な芸人だなあと思う。

  • 2013年、東京・JR品川駅構内で見つけた看板。あまりにポピュラーな感じで驚く。

 

「例えば沖縄戦のことにしても、長くいつまでも伝えていくということが重要なんだよね」
戦後から現在まで、その間には学校の教科書に嘘の記述検定をされそうになっても、今でさえ思い出すのもつらい事を、伝えていくんだね。

「あとね、僕の中学校には『はだしのゲン』が置いてあったよ」
あれは漫画だね。それはすごい!うちの学校にはなかったなあ。校長の決断1つで変わるもんなのかなあ。

 

原発
事故
は、
明らか

風化。

 

「でもね、原発事故は、残念ながら風化しちゃってると思う」
原発推進の自民党が、選挙で福島でも圧勝しちゃったのは愕然としたよ。

「事故直後はあんなに反対してたのに、今や再稼働しても仕方ないって空気になってる。あの衝撃をそんなに早く忘れてしまってどうするんだ」
そう。あの時、東京だって水道水が危険となって、子供に飲ませるためのミネラルウォーターが店中からなくなって苦労したよ。
「計画停電で電車が毎日のように止まって、帰宅できるか判らなくって。そういうの、皆忘れちゃうんだよ」
皆、本当は原発反対なんだろうけれど、経済を立て直すことを最優先としてる。でも、経済不況は世界的なもので、どの国も逃れられない状況。日本だけ立て直せたら奇跡だよ。自民党は見世物小屋みたいなもので、いろんなものをあれやこれやと見せているけど、いつまでもつと思ってるんだろう。
「一方で福島の人々は、今以上に差別されていくでしょう。そしてマスコミは、福島原発の危険な部分だけを取り上げる」
被災者の救済を後回しにして、辺野古移設だの、TPPだの、改憲で軍隊を持つだの。まあ、アベノミクスはそのうちこけるから、その時国民も反原発を思い直すはずだぜ!

最後に、震災の風化について何かある?
「風化そのものは、自然の流れとして止むを得ないものだと思う。住んでいる所、家族や生活、仕事とのかかわりで、関心の度合いが違うことに、記憶が薄れていくことに必要以上のやましさを感じる必要性はないと思う」
なるほど。
「けれど、戦争や犯罪、災害のことの記憶や語りつぎは、大切にして行かなければならないこと。それが、より良い社会を作っていくことに必要なことだと思うからです」
そうだね。
「『戦争や犯罪、災害の記憶や語りつぎ』はシリアスなだけに、付き合っていくのは心の重荷になることがあります。そこに『やましさ』なんて要素が入るととてもややこしい。穏やかに、記憶と寄り添っていけるといいね」
その通り。
「『風化』の問題は、簡単に回答がないけど、向き合っていく必要があるテーマだと思っています」
今回も、忙しいのにありがとう!どうぞ過労で倒れないように!


2013.04.05