緊急連載「有志連合と協力して」③

文・鎌田浩宮

彼は
口を滑らせて
「罪を償わせる」
と言ったのでは
ない。

 

後藤さんの殺害を報道で知った先日の日曜日、悲痛さからなのか、怒りか、絶望感か、虚脱感か、言葉にならない感情で胸が一杯になり、鬱状態に入ってしまい、その日の予定をすべて取り止め、布団の中に籠った。
何もする気が起こらず、3食カップ麺で過ごした。

2001年の911米国同時多発テロ以降こんな風に、鬱にさせられる事が時々起こる。
最近だと、仲井真が辺野古移設を承認した時だろうか。

まっぴらだ。
もう、まっぴらだよ。

やり場のないもやもやを、どこかにぶつけたくなる。
最も好きな映画の1本「Do the Right Thing ドゥ・ザ・ライト・シング」のラストシーンを思い出す。
アフリカ系アメリカ人の主人公の、同じアフリカ系アメリカ人の友人が死んでしまう。
やり場のない怒りで、その直接の死因ではない白人の経営するピザ屋を、放火する主人公。
今、その気持ちがよく分かる。
さらに言えば、主人公とネトウヨの心境とも、だぶる。

そこから、この連載を決意するまでには、相当の気力が必要だった。

 

国連軍を
教えてくれた
学校が、
懐かしい。

 

僕が小学生化中学生の頃、社会科の授業で、こう教わった。
第2次大戦の反省から、国連が軍隊を持ち、国際紛争や戦争が起きた場合は、国連軍が間に入って仲裁をする、と。
世界中の国が集まって国連を作って、世界中の国が国連軍を作るのだから、それを上回る存在はないんだなあ、子供でもそう理解できた。

でも、実際はどうだろう?
国連の忠告など無視をしやがって、アメリカが単独で、または多国籍軍を組んで、アフガニスタンやイラクに戦争を仕掛ける。
世界の警察は俺だ、と世界のど真ん中でティンパニーを鳴らして、殺人者がパレードをしている。
それは正義のための戦争じゃなくって、軍産複合体として利潤を追求する、金儲けのための戦争なのだ。
戦争がなければ、兵器は売れないのだ。

安倍も、同じ。
自民党を支える経団連、経団連を支える東芝、日立、三菱が造る兵器や原発も輸出を可能にし、さらには集団的自衛権で自衛隊が武器を海外で消費できるようにする。
その3大企業の造った兵器が、イスラム国の手に渡らないなんて、誰が保証できる?

安倍は、口が滑って「罪を償わせる」と言ったのではない。
軍需産業に貢献する機会を、見失わなかっただけだ。
すぐに国内の軍需産業へカネが回らなくても、アメリカの軍需産業に貢献する事はできる。

アベノミクスの効果がない事は、僕らよりも東芝・日立・三菱の方が遙かに詳しく予測しているだろう。
洗濯機も冷蔵庫も何もかもが、国内でも海外でも、売れない。
さらには、国内での原発の需要もない。
ならば、新商品を開拓するしかないのだ。
それは、兵器。

 

有志連合

払わなかった
から。

 

先日、菅官房長官が「身代金は払わなかった」と言って、善良な人々の怒りを買っている。
ただ、その事実は身代金を要求された際に、細かくニュースを観ていれば分かっていた。
「身代金は払うのですか?」
というマスコミの質問に、政府関係者は、欧米と協議します、との趣旨を語った後に、
「欧米と足並みを揃えるという事ですか?」
と尋ねられ、そうです、と答えたと記憶している。
アメリカはこういった中東などでの誘拐・拉致などのケースの際、身代金を払った事は1度もない。

だが、僕の親友で、つい先日まで東北で復興関連の仕事に就き、エプスタインズにも度々インタビューなどへ応じてくれたワオ君(仮名)は、湯川さん殺害の前に、こんな便りを返信してくれた。

 

 

本当に悲しいことです。
殺人も勿論、誘拐も脅迫も、絶対に防ぎたいことです。
僕は、誘拐、脅迫事件については、犯罪そのものを否定する言説しか述べるべきではないと考えます。
こういう事件を人命第一で解決するとしたら、身代金を払わないと発表しながら、うら取引で何らかの支払いをするしかないないと思います。
人命第一の交渉をしたとしても、どんなことをしたにせよ、交渉プロセスや結果を発表しようがないのです。
交渉には、本当に多くの人が、関わり、血のにじむような努力をしている人もたくさんいるでしょう。
今回のような事件の場合、交渉に直接携わらないならば、ひたすら無事を祈るしかないないと思います。

 

 

ワオ君は東北復興支援と言う仕事柄、官公庁の役人や政治家から、村役場の役職のない職員まで、よく内情を知っている。
僕なんぞより、よほど経験が豊富だ。

一方、東京新聞ではいち早く2015年2月2日、後藤さんが殺害された翌日の朝刊で、菅官房長官が「(2億ドルの身代金について)交渉しなかった」と発言、イスラム国側との接触もなかった述べた事を報じていた。
ただ、この誌面で真実の所在を巡るのは、あまり意味がないのでやめておこう。
その代わりに、今日の締めは、「大竹まこと ゴールデンラジオ!」(2014年9月23日放送分)の音声を掲載します。
後藤さんがゲストとして出演しています。
後藤さんを偲びつつ聴いてもらえたら、と思います。

後藤さん「(前略)私どもは自己判断、自己責任っていうのが基本ですので、行って、撮ってきて、こんなの撮れたんだけど、どうですか?って言って、買っていただくこともありますけれど…(中略)たとえばここで日本が、アメリカの空爆を支持する。安倍さんがたとえばこれから国連でやる演説の中で、もうそこまで具体的に言ったりなんかしたら、もう日本も同じ同盟国と見られて、いろんな所に今旅行に行っている日本の方々が、テロとか誘拐とか、そういうのに気をつけなくちゃいけない」

 

 

「麦は踏まれて強くなる」というブログを拝見させていただきますと、このラジオの直後に、このような報道がありました。
シリア日本大使館が、イスラム国による湯川遙菜さん拘束の情報を得たのは、2014年8月16日。

 

首相「空爆でイスラム国壊滅を」 エジプト大統領と会談 (2014/9/24)

安倍晋三首相は23日午後(日本時間24日朝)、エジプトのシシ大統領と会談し、米軍による過激派「イスラム国」掃討を目的としたシリア領内での空爆について「国際秩序全体の脅威であるイスラム国が弱体化し、壊滅につながることを期待する」と述べた。大統領は「国際的な努力は支持したい」と応じた。

(日本経済新聞電子版より)

 

報復は、報復しか、生まない。
911で、既に学んだはず。
エプスタインズでは、様々な人から原稿を取り寄せ、一昨日から集中連載をしています。


2015.02.04