第二十話「ギョーザ」

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「出来るもんなら、作るよ」が営業方針でやっているマスター(小林薫)だが、「ギョーザ」だけは、専門店を営む村田(リリー・フランキー)のギョーザを出していた。村田は妻の桃子(黒谷友香)と家庭を持っていたが、その桃子は、店の常連客のカタギリ(オダギリジョー)と、過去、深い関係にあった。評判になっているギョーザを出前しにやってきた桃子は、店の表で彼とすれ違ってしまう。今では別々の道を歩いていたはずの彼らは記憶を呼び覚まし、思い惑う。
(公式サイトより抜粋)

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最後の夜。それでも続いてゆく、深夜の食堂。

倉田「とうとう第二期の最終回ですね」
鎌田「最近のテレビドラマは何でも1クール。ヘンだよね」
倉「第一期とは異なる印象で進んできた本シリーズでしたが、
  それでも終わってしまうのはやはり寂しいものです」
鎌「ただねえ、今回に限っては、1度区切った方がいいかもねえ」
倉「第二期は、昔、僕の映画に出演した平田薫ちゃんがレギュラー
  参加した事も本当に嬉しかった事でした」
鎌「ネットでもあちこちで『あの素敵な娘は誰だ』って噂になってるよ」
倉「さてさて最終回、松岡監督はどうされるのか!?」
鎌「映画監督がテレビをやると駄目だ、なんて言わせないようなものを
  お願いします」

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2011年から、ろうそくは、違う。

逃亡中のカタギリ。季節は冬。
鎌「冒頭にろうそくが映る。なんだろう?って思う」
倉「ろうそくは今回引っかかりましたね。冬に、ろうそく・・・」
鎌「大震災の前と後では、ろうそく1つでも、見方が変わってくる。
  話が進むにつれ、これは指輪を隠した所にあるろうそくだって事
  は分かるんだけど、震災後の停電の時に深夜食堂が灯したろうそ
  くのようにも見えてきたんだなあ」
倉「8年前との事でしたが、僕にも阪神大震災、そして昨年の東日本
  大震災をイメージさせました。どちらも冬でした。多分、松岡監
  督にも同様のイメージがあったのではないでしょうか」

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サウンドトラックの、考察。

鎌「そしてピアノの曲が流れる。とてもいいね」
倉「深夜食堂では少し珍しいくらいでしたね」
鎌「サントラというものはこういうものこそを言うんだね。深夜食堂
  のサントラっていうと、アコースティックギターでブルージーな
  メロディーだったり、ホンキートンクなピアノや、ジャジーなサ
  ックスだったり。あまりにも受け手の想像力を喚起しない、ステ
  レオタイプでありがちな音楽で辟易してたんだよ」
倉「少し見た目に縛られたサントラではありましたね全体的に」

鎌「映像に映っていない物事を表現するような音楽こそが、優れた
  サントラの1つだよね」
倉「音楽家の鎌田さんが言われると非常に説得力あります」
鎌「あ、そういえば、僕も倉田監督の映画にピアノ曲を書いたことが
  ありましたね(CD『太陽へ手紙』6曲目に収録)
  http://epstein-s.net/archives/385
倉「アレこそ、あのピアノ曲がどのようなモノか、誰がなんの為に
  書いた曲かは一切明かしていない上での、メインテーマでした
  から、ああいったワルツのピアノの映え方は当時本当に勉強に
  なりましたし、今でも名曲だと思っております」
鎌「でもあれも未熟だったかな…あの時は懸命に書いたんだけどね」
倉「それは僕の方です…いやはや。それこそあの作品は10年以上前
  の作品になりますから。今回のカタギリのようです…」

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鎌「ピアノ曲をうまく音楽家に書かせ、映像に豊かさを増させた監督
  というと、今は亡き市川準を思い出すね」
倉「市川監督は音楽の使い方は丁寧でしたね。というか全てに神経
  入れているのがよく分かる監督でした」
鎌「演出家ならば、音楽家に対して、ああいう音楽を書かせなくっち
  ゃいけない。でも、このピアノ曲は、音楽担当の佐藤公彦の作品
  ではなく、ありものを挿入したんだね。残念だなあ」
倉「あら、そうだったんですか…オリジナルじゃないのですか…」

鎌「『市川準の東京日常劇場』という連続テレビドラマがあって
  あのピアノ曲は好きだったなあ。板倉文が音楽担当なんだね。
  僕、実はサントラにピアノ曲のみ、って好きじゃないんです。
  ピアノのみの曲って、素朴さ、静謐さが過剰に出ちゃって、作曲家
  としては楽なんだけど、きちんとアレンジメントに精を出して
  オーケストラでやらないと、画面に豊かさが膨らまない。
  でも、市川準はピアノ曲だけでも豊かなんだよ。うまかった!」

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しまいこんだままの、指輪。

逮捕される寸前、指輪を隠すカタギリ。
鎌「女の人に、指輪をあげたこと、ある?あ、そんな質問はあまりに
  品がないよね、ごめんね。答えなくっていいからね」
倉「ありましたよ。それは結婚的な意味は無くて、でしたが」
鎌「僕もね、あるよ。もう2度と逢う事もないかもしれないけど、
  彼女が今でも独身なら、結婚してもいいかなあ」
倉「いいですよね。僕には今そういう想いのある女性は…」

鎌「そう思わせる女性って、今までの出逢いの中でも、僕は少ない
  なあ。といっても、彼女も元気なら、もう53歳か…」
倉「僕も少ないですよ。僕もまた、僕の不甲斐無さがいつも別れを
  呼び込んでいたと思っています。それらを棚に上げる事がそろ
  そろイヤになって、今は誰にも想いを寄せる事を拒否している
  ようです。ちょっと人間不信にもなっているのかも」
鎌「僕の場合、年齢のせいか、恋愛欲が少なくなっちゃって。もー、
  枯れ木です。駄目です、この輩」

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見知らぬ人に、分けてあげよう。

村田が出前で持ってきたギョーザを、美味そうに食べる常連。
鎌「最終回も、唐揚げの回の平田薫、出てくれたねえ、嬉しいねえ。
  そして、男の常連が、隣の常連の平田に、当たり前のように自分
  のギョーザを渡す。いい男だね」
倉「僕はよくやりますよ。狛江の聖地“ミートステーション”で(笑)」
鎌「僕も酒場であるよ、そういう事。見知らぬ人ですが、美味しそう
  でしょ?ちょっとつまんでみない?って。悲しいことに、大体相
  手は男かな、ハハハ」
倉「あら意外!僕は女性にも何度かしましたよ。見知らぬ方にでも」
鎌「うわ。お茶漬けシスターズさえギョーザを頼んでるよ。目ぇキラ
  キラさせて。これは深夜食堂始まって以来のカクメイテキな出来
  事だ」
倉「そうですね、考えてみれば珍しい光景ですね」

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みっともないけど、しょうがない。

カタギリの桃子への思いを諭すマスター。
鎌「カタギリが子供のように見える・・・」
倉「これまでのカタギリ像を覆す姿です。いいですね」
鎌「子供のように諭され、子供のように神妙に聞いている。子供も
  大人も、恋い焦がれる時は同じ目をする。いい演技じゃないかな」
倉「少年の瞳でしたね。カタギリの“みっともないけどしょうがない
  じゃないですか”という台詞。恋愛の渦には理性も常識も歯向か
  えないと言っているのがカタギリらしいです。というか、僕もい
  つもこんなです・・・幼いもんです」
鎌「恋愛をしている時は少年に戻れる。素敵じゃないかな」
倉「8年前、カタギリを待つ桃子のカットから、マスターのカット。
  マスターのカットは現代のカタギリに向けた視線。でも多分に
  二人への視線。面白い時間移動のカッティングで好みです」
鎌「お、なるほどなあ」

食堂にやってくる、ギョーザ屋の村田。
倉「リリー・フランキーさんは卑怯ですねえ(笑)」
鎌「同じ意味で『バターライス』の回のあがた森魚も卑怯だった(笑)」
倉「リリーさんの、生粋の役者では出せない一般市民役は素晴らしい
  と思います。同時に、人の心引っ張るよな声もいいんでしょうね。
  ラストも知ってか知らずかの演技もグッときます」

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羽田は、行った方がいい。

桃子とカタギリの逢引きの現場。
鎌「ああ、羽田だね。倉田君は羽田界隈、行ったことある?」
倉「僕はよく自分の映画で飛行機をよく映すので行きますが、あの
  界隈自体は行った事ないですね」
鎌「僕はバンドのメンバーが羽田近くに住んでて、彼の家を訪ねるま
  では知らなかったんだけど、昭和がそのまんま残っているいい町
  だね」
倉「羽田にそんな所があるなんて考えてもいませんでした」
鎌「空港の近くっていうと、ものすごくモダンな町かと思ってたんだ
  けど、こういう場所こそ開発されないで済んだんだ。城東のいわ
  ゆる下町よりも、遙かに味わい深さが残ってるよ」

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あんたの人生、あんただけのもんじゃない by マスター

雪の残る街。桃子の誕生日。男と女。娘。
倉「桃子の中にもずっと燻りがあったんでしょうね。現在が幸せで
  あっても、人は過去の光を取り戻そうとしてしまう生き物なんで
  しょうか。彼女が別段弱いとも思いません。愛とは根深く、時間
  すら壊せてしまうんでしょうね」
鎌「そうなんだよね」
倉「マスターのセリフが重く聞こえました。そして桃子とカタギリが
  見つめる中、村田と娘が帰ってきた時の混濁した空気。素晴らし
  かったと思います」
鎌「ケーキを差し出す娘とリリーの演技が淡々としてて、
  そこがいいよね」
倉「このシーンの、正解というものの無さ、人と人の間に流れる河、
  それが人の世、という感。その息苦しさ。これが第一期であった
  空気だったなと思い出したようでした」

鎌「最終回は、ずばり、愛がテーマなんだね。恋愛って難しい。イン
  モラルも浮気も不倫も略奪も全てオーケー。法で罰せられること
  もない」
倉「そう、なんでしょうね…」
鎌「僕がそういう恋愛ができないのは、モラリストでもヒューマニス
  トでもなんでもない。度胸がないだけなんじゃないかな」
倉「僕には度胸だけでなく、モラルもないです…」

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お父さん、風船おじさん。

鎌「夫と子供を捨てさせ、その女性の人生をしょいこむわけでしょ。
  エゴのまま突き進むわけでしょ。あ、僕の父がそういう人だった
  わけだ、ハハハ。父は欲望のまま生きていたからね」
倉「この深夜食堂対談でも、本当に多くの事例で鎌田さんのお父様の
  お話が登場しましたが、僕にはやはり否定も肯定もできない訳
  で。それは私が他人だから、身勝手に考えてはいけないと思って
  いるからです」

鎌「でもね、そんな父を“風船おじさんなんだよ”と解説してくれ
  た友人がいたなあ」
倉「あの“風船おじさん”ですか??」
鎌「そう。安住できる場所をいつも求めて色んな女とできちまって、
  でも結局どこにも安住できないで、妻である母の元に戻ってくる
  んだけど、また出て行ってしまう。風船に拠り所を求め、空に消
  えちまった風船おじさんなんだと」
倉「安住の地を求めるのは誰でもそうだと思うのです。鎌田さんのお
  父様に関らず。僕もまたそうだと思いますよ。僕の方が色んな方
  に迷惑をかけているかもしれません」

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エリセ、アゲイン。

鎌「最終回と似たストーリーの映画というと、ビクトル・エリセ不朽
  の名作『エル・スール』があるね。あれは素晴らしかった」
倉「エルスールですか!それは考えていませんでした」
鎌「あれにはちょっと及ばないかな、最終回は」
倉「しかし、グダグダだった第二期の最終回としては締めてくれたか
  な?とは思っています。今回がこういった形で無ければ、第二期
  は凡作だったと思っていますし」

鎌「僕もこの先、恋愛に悩むことがあったら、カタギリのような子供
  の目をするのかな。邪気のない、しかし、何かをさらに起こして
  しまいそうな、子供の目。でも、晩年の寅さんのように、何か達
  観したかのように穏やかな感じもいいかなあ」
倉「僕は永遠に寅さんにはなれませんね。あんな優しさを持てません」

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全ての客に、分け隔てなく、聖夜と、蟹。

鎌「あれやこれと批判もしてきた深夜食堂だけど、皆でカニをほおば
  っているラストシーンを観ると、じんと来るね」
倉「そうですね。なんだかホッとしました。そうだよなぁ、って(笑)」
鎌「上前をはねに来るのがヤクザなのに、毎年クリスマスにカニを差
  し入れてくれるんだもんね。夢の館だ。ヤクザもオカマもストリ
  ッパーも、差別も偏見もなく、寄り添いなごむのが当たり前の店」
倉「あの脚本家も、逃げ出していた小説家の娘もいましたね。こうい
  った感覚を忘れていました。なんだか第二期は深夜食堂は別の店
  でしたしね。みんなの笑顔がやはり嬉しいのです」

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深夜食堂・第二期を振り返って。

鎌「倉田君は、どの回が印象に残った?僕は、多くの視聴者と同じく
  『煮こごり』かな。次点で『再び赤いウインナー』」
倉「僕は一番は『再び赤いウインナー』、次点で『煮こごり』。その次
  が今回の『ギョーザ』です。決して第二期の一話目だから、では
  なく第二期で一番ボロボロ泣いたのは『再び赤いウインナー』だ
  けでした」
鎌「はずれ者が、はぐれ者が、世の中からはじかれることなく幸福を
  つかむ話、それこそが深夜食堂」
倉「特に上記の二話はそういったお話でしたね。そして心を揺さぶら
  れる想いの塊がありました」

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鎌「もし次回作があるのだとしたら…それは30分ドラマではなく、
  映画の方がいいのかもしれないけれど、従来のドラマが多くテー
  マにした、不倫だの家庭崩壊だのと、手垢にまみれたテーマを
  扱うにしても、深夜食堂でしかできない味付けをして提供して
  くれなきゃ意味がない」
倉「映画もいいのですが、やはり30分、一話完結の連続ドラマとい
  うこの形だから良かった、成功した部分もあったはずです。
  しかし第二期はそうは成らなかった。第一期で目指した部分と
  第二期で目指した部分は異なるのでしょうが、新たに生み出され
  た部分はほとんど無かったように思われます。そして結局、
  第一期で掴んだもの、観客が魅了されたものが真だったように
  思います」
鎌「第二期は怪談やスラップスティックにも挑戦したけど、不発
  だったね」

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倉「僕としては第一期は奇跡的な作品だったと思っています。今後
  第三期、または劇場版が生まれたとしても、第一期の煌きは
  手に入らないのではないかと思います。それでも尚、深夜食堂が
  永遠に続き、あの架空の登場人物達の憩いの場、オアシス、アジ
  ールであって欲しいと願っています」
鎌「さあ、今夜もビールは3本まででおいとま、としましょ。
  それではこれからも、深夜食堂とエプスタをよろしくお願いします。
  おやすみなさい…」
倉「おやすみなさい…」

倉田ケンジ・鎌田浩宮の、鎌倉コンビより…




2012.01.20