映画「モナーク三軒茶屋410」批判。連載⑤『泥の河』

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映像作家・西山亮が、
鎌田浩宮、松麿健夫とがっぷりよつに組み、
2001年、911テロの直後から撮影を開始し、
2003年のイラク戦争勃発直後にクランクアップした
アメリカン・グローバル・スタンダードに抗う反戦コメディー映画
「モナーク三軒茶屋410」
がDVD化したことを記念して
エプスタインズでは様々な特集を組んだ。

映画「モナーク三軒茶屋410」DVD、発売開始!
http://epstein-s.net/archives/3885

映画「モナーク三軒茶屋410」批判。連載①
http://epstein-s.net/archives/4044

映画「モナーク三軒茶屋410」批判。連載②
http://epstein-s.net/archives/4086

映画「モナーク三軒茶屋410」批判。連載③
http://epstein-s.net/archives/4135

映画「モナーク三軒茶屋410」批判。連載④
http://epstein-s.net/archives/4182

映画「モナーク三軒茶屋410」DVD販売ページ
http://epstein-s.net/archives/3779

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しかし、これ、売れ行きが伸び悩んでおりまして、
現在、訳あって無職の鎌田浩宮なんざぁ、頭抱えておりまして。

その時!
度々エプスタに寄稿してくれる
南国・奄美大島の民宿のおじさんにして哲人である
ジョオジ・akechi氏が
NHK-BSで放送された「山田洋次監督が選んだ日本映画の名作100本」
の中の1作「泥の河」にインスパイアされ、
新たなモナーク三軒茶屋410批判を繰り広げた!

それでは、以下、お読みください。

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映画「泥の河」あらすじ

朝鮮動乱の新特需を足場に高度経済成長へと向かおうとしていた昭和31年。
ある朝、食堂の息子、9歳の信雄は置き去りにされた荷車から鉄屑を盗もうとしていた同い年の少年、喜一に出会った。

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喜一は、対岸に繋がれているみすぼらしい宿舟に住んでおり、信雄は銀子という美しく優しい姉にも会った。
板壁の向こうで声だけがする姿の見えない母もいた。

信雄の父、晋平は、夜にあの舟に行ってはいけないという。
しかし、父母は姉弟を夕食に呼んで、暖かくもてなした。
哀しい家庭事情を忘れさせてあげようと、晋平は何度もマジックを披露する。

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子供達の交流が深まり始めたある日、終戦直後に別れた晋平のかつての女房の病変の知らせが届く。
信雄は真の理由を聞かされないまま、両親と共に京都へ前妻の見舞いへ行く。
不可解な人生の断面が信雄に成長を促していく。

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楽しみにしていた天神祭りがきた。
信雄と、信雄の分まで預かり初めてお金を持って祭りに出た喜一は、ズボンのポケットに穴が開いており、お金を落としてしまう。
しょげた信雄を楽しませようと喜一は強引に船の家に誘った。

泥の河に突きさした竹箒に、宝物の蟹の巣があった。
喜一はランプの油に蟹をつけ、火をつけた。
蟹は舟べりを逃げた。
蟹を追った信雄は窓から喜一の母の姿を見た。
裸の男の背が暗がりに動いていた。
舟は廓舟と呼ばれていたのである。

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次の日、喜一の舟は岸を離れた。
「きっちゃーん!」と呼びながら追い続けた信雄は、悲しみの感情をはじめて自分の人生に結びつけたのである。
船は何十年後かの繁栄と絶望とを象徴するように、ビルの暗い谷間に消えていく。

1981年 105分
監督:小栗康平
出演:田村高廣 藤田弓子 朝原靖貴 加賀まりこ 桜井稔 柴田真生子
初音礼子 西山嘉孝 蟹江敬三 殿山泰司 八木昌子 芦屋雁之助

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小説「モナーク泥の河1956」
著:ジョオジ・akechi

「少年しろゆきは、百円玉握り締めて国技館へ走った」
のかと想像してみました。

「お兄ちゃん、これも持っていって」
弟のしげひろが百円玉を持って、しろゆきを追ってきた。
「うん、しげひろ、こいつはいつかきっと返すからな」
「いいんだ、兄ちゃん、銀子さんが元気になるためだったら、僕百円なんか、どうってことないんだ」

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しろゆきは、きょう、関取の上北桜関と一緒に、銀子の入院している病室を訪れる約束をしていたのだった。
中入りの時間までに国技館に迎えに行くという男と男の約束だった。

タッ、タッ、タッ、タッ、
一番館の横を通り抜け、しろゆきは西へ走った。

額の汗を手の甲でぬぐい、ランニングシャツの脇腹を風になびかせ走った。
もう麦わら帽子は飛ばされ、とっくになくなっていた。
半ズボンのポッケがやぶれていないか、確かめ二百円を両方のポッケに分けて入れた。


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ナゼか、少年しろゆきは、神田川沿いの道を走っていた。
神田川は国技館近くの隅田川に注いでいるのだった。

日がだいぶ西に傾いたころ、先の方の橋で少女が手を振って、しろゆきに近づいてきた。
「よし子っ、よっちゃんじゃないか、どうしたの、よしこちゃん」
息を切らして少年は言った。

するとよし子「わけはあとで話すわ、だから、こ、これ持って行って、急いでるんでしょう」
よし子は、三百円をわたし、涙ぐみながら両手で、しろゆきの右手を握り締めた。

「ダメだ、よっちゃん、こんな大金、わけも聞かず受け取るわけには行かない。だって一個59円のバンバーガーが三個も買えて、それにまだおつりがくるじゃないか」
「そんなこと言っている場合じゃないでしょう。いいのノーミャン、いまはそんな計算している時じゃないわ」
「だって、よし子、ちゃんと聞かせてくれ。き、きみはまだわかんないのか、よし子」
「うちのパパの会社がね、倒産したの。だからもう合唱団どころじゃなくなったのよ、それで私、ベレー帽を売ったの。だから、これを銀子さんのために・・」
「よ、よし子、パパがとうさんなんて、君んちはママが二人もいるって聞いてたけど、パパも2人もいたんだ。いいなあ、僕んちなんか」

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「そうじゃないのよ、そんなことは、しろゆき君が知らなくていいことなんだわ、早く行って」
「あー、ぼくはなんて世間知らずなんだろう」
神田川の流れに浮かぶ桜の花びらを眺めながらしろゆきはそうつぶやいた。

あ、そんな場合じゃなかったんだ。
上北桜関との約束の時間が迫っていた。
よし子に、必ず返すと礼をいうと、しろゆきは再び走り出した。

タッ、タッ、タッ、タッ。
飯田橋付近へさしかかったところだった。
それまでの小雨が止み、霧も晴れ上がった。

すると、橋の上から手を振っている少女が現れた。
それは、なんと、りんだではないか。
「一体、どうなっているのだ」しろゆきは驚いた。

神田川は飯田橋を過ぎるとその先が暗渠になっていた。
暗渠に潜む、巨大な鯉に乗ってしろゆきは隅田川まで行く計画だった。
それは三年前、銀子の弟、喜一から教わった誰にも秘密の計画だった。

「わけはあとで話すわ」
そう言ってりんだは、しろゆきにおにぎりを3個わたした。
りんだの手が小さく震えているのをしろゆきは感じた。

「橋の上だから言うじゃないのよ、お箸がいらないようにおにぎりにしたの」
しろゆきには思い当たるフシがあった。
が今はそんなことを考えている場合ではなかった。

それぞれ違う具の入った3個のおにぎりのうち、一個を巨大鯉に与え、一個を自分で食べ、残りの一個を銀子さんにあげるように言われたりんだの言葉どおりにして、しろゆきは最後のおかかのおにぎりをポッケにしまった。

「あー、不思議なことばかり起こる」
りんだ、この仮は必ず返すからね、しろゆきは心から感謝した。

巨大鯉の背中に仰向けに寝そべって、人目につかぬよう口だけを水面に出して、神田川の流れに身をまかせていると、御茶ノ水の聖橋の上で「おーい」と呼ぶ声が聞こえた。

「なんだ!またか」
しろゆきは目を見張った。
三年前に消息をたったまま行方が知れなかった、喜一だった。

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「きっちゃーん!」三年前の別れを思い出ししろゆきは、ぼろぼろ泣いた。
戦後間もない貧しい喜一と銀子の暮らし、突然訪れた別れ。
あわい恋の切なさと、大人たちが教えな生きることの悲しみが初めてわが身にせまるのを知った9歳の夏の思い出だった。
銀子はやさしかった。
そして今・・。

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しかし、喜一の身なりは、3年前とは別人のように立派になっていた。
うどん屋のおじさんの薦めで、歌うマジシャンと反戦歌手としてデビューをめざしているという。
「吹雪 城かー、いい名だなあ」
「うん、人生の荒波にもまれても、起つんや城、言うて、あのおっちゃんジェットストリーム、よう聴いていたんやなー、そいで僕に、城にしいや言うて、おっちゃん新聞なんかもよう読んでだでー」

きっちゃんの用意したボートに乗り換え、二人は隅田川に入り、国技館を目指し土手を登ったところで、しろゆきはまたまた驚いた。
「よっ、早くこれに乗りな、ワケはあとで話す、国技館はすぐそこだ、上北桜関がお待ちだ」
「あっ、も、もし、もし間違ってたら僕あやまります。もしやや、あ、あなたは・・」

つづく

kaga-mariko

2011.09.27