2001年7月26日(木) 星から来た二人

文・鎌田浩宮

「浜崎あゆみ、4大ドームツアー大成功!
彼女の歌に観客、号泣の嵐!」

若者が、「あゆ」の歌詞に共感し、
「あゆ」のファッションに共感し、
「あゆ」の次の泳ぎを、固唾を呑んで待ちこらえている。

美しい風景、である。
何かに熱中没頭するものがある事は、とってもいい事なのさ。
それがセンセーの奨めるベンキョーか、スポーツか、
或いはアイドルか、の違いなだけよ。

たださ、ここで言っておきたいのは、
ファンとして、もっとブッチギるべきじゃねーのー、ってことです。

(*^.^*)(*^.^*)(*^.^*)(*^.^*)(*^.^*)

僕は小学生の時、世界中いや宇宙が認めるほどの
「ピンクレディー」ファンであった。
僕はファンの鑑であった。

1・朝夕ピンクレディーのポスターに向かって礼拝。
(神格化)

2・極貧の家庭環境に負けず、なけなしの貯金からLPを購入。
当然、ファンクラブに入会。
1ヶ月300円の会費が支払えず、号泣しながら脱会。
(限界までの喜捨)

3・同時に、校内にピンクレディー親衛隊を結成。
ピンクレディーに対して批判、批評をする同級生
(主に沢田研二ファン)を鉄拳制裁。

4・それどころか、ピンクレディーの下敷を使用している者を発見すると
「失礼なことをするな!それは下に敷くものではなく上にするものだ!」
と、制裁。
ノートの上に置くことを強要。
(コペルニクス的転回の奨励。ただ、それでは勉強できないぞ鎌田)

5・「鎌田はどっちのファン?ミー?ケイ?」
呼び捨てで呼んだ者に、制裁。
(敬称の統一)

6・「失礼しました!ミーちゃん?ケイちゃん?」
またもや、制裁。
真のファンは、両者を等しく愛さねばならない。
(二神教崇拝の徹底)

7・「許してくれ鎌田。ピンクレディーは日本一だ。」
繰り返し、制裁に次ぐ、制裁。
日本という概念では狭すぎることを教育。

8・「それ以上殴られたら死ぬ。解った、世界一だ!?」
瀕死に至る制裁。
考え得る最高の概念を規定することを教育。
つまり、宇宙一である。

9・「鎌、鎌田、お詫びにピンクレディーのサインを
(真似して書き、鎌田に)差しあげるので許して下さい!」
挙げ句、粛清。
偶像(イコン)複製の禁止。
振り付けをしながら真似して歌う事も同様である。

いやー、凄い。
この頃の自分に、酒鬼薔薇聖斗を重ねてしまう。
ガンガン自分で自分にルールを作り上げていくのね。
その徹底化が更に興奮を産んでいく。
自分の中に概念の宇宙ができあがる。

ただ、僕のは、スターリニズムとか、そっちの方に近いかしら?
酒鬼薔薇聖斗は、呪術的、古代的な神秘主義に行く訳である。

(*^.^*)(*^.^*)(*^.^*)(*^.^*)(*^.^*)

僕も尋常でなくブッチギッていたが、
ピンクレディー御本人も、相当にブッチギッていた。
この前TVで、ミーちゃんが当時のことを話していたが、
デビュー1年目の給料は、スペペ。
月5万円だったそーだ。
絶頂期の2年目で10万円。
100万以上になったのは
解散前の1,2年だけだったそーだ。
以下の彼女の言葉を信じなくともよい。
彼女は、今も尚、ブッチギれちゃってるのかもしれないのだから。

「歌えるだけで、よかったの。お金のことは、考えたことが、なかったの。」

TV局から局への移動の車中で取材やインタビューをこなす
深夜に至る番組収録の後、そこから朝まで新曲のレコーディング
そして再び幾つものTV番組への出演が始まる
何時になったら眠れるのか 1日の切れ目ももはや判らない
スケジュール帳には、27時00分、28時00分、29時00分とのメモ

今、僕の手元に、
「星から来た二人」
というLPがある。

絶頂期に創られたこのLPには、
シングルとしてヒットした曲は
1曲も入っていない。
彼女たちが出演し、自ら歌ったCMソング、
TV番組の主題歌だけが収録されている。
「シャワラン」
「金鳥電子蚊取マット」
「キャッチリップ」
「日清焼きそばUFO」
「アサヒ玩具おしゃれ人形」
「神州一即席味噌汁」
「キャロン肌着」
「学研中一コース」
「日清ラーメンめんくらべ」
「ナショナル ペッパー」
「ウイニー SHOW」
「それゆけクール」
「サインはレッド」
等々・・・・・。
他に、番組主題歌では、
「2001年愛の歌」(NTV24時間テレビキャンペーンソング)
「スーパーモンキー孫悟空」(あのドリフがやってた番組だ)
等々を収録。
CMにしてもTV番組にしても、
アーティストの元から制作してある楽曲を
タイアップとして2次使用する現在とは違い
この頃は全てその為に曲を創っていた訳で、
しかもそれは通常レコード化もされない。
とても気の遠くなるような
丁寧な作業がされていたことになる。

以上の曲や、彼女たちの通常の楽曲
(「ペッパー警部」「ウォンテッド」等のシングル曲)
の殆どを作曲していた
都倉俊一の作曲量にも当然驚嘆。

しかし、最も見つめるべきなのは、彼の曲そのものだ。
現在の多くのJ−ポップのように、
ハウスやヒップホップのビートに
支配されることのない豊かなリズム。
特定の年齢層をマーケティングしていない、
色彩がぴょんぴょん飛び跳ねるようなダイナミックなメロディー。
そこに、阿久悠のどすごい歌詞がドッキングする。
だって、「愛」だの「友情」だのしか
題材になり得ない現代のJ−ポップに比べて、
「サウスポー」だの、「UFO」だの、「透明人間」だぜ。

スマートでない、ということはこの場合、豊かなことなんだと思う。
老若男女が一緒になって楽しめるということなんだと思う。

今や、もう、そんな歌謡曲も、なくなってしまったのかしら。

いや、確かに、つんくプロデュースの
一連の作品には、僕は一目置いてみたりする。
前述したリズムや、メロディーや、歌詞を
(無意識に)継承している気がする。
スマートではない、洗練されていない、老若男女が楽しめる
「非−J−ポップ」を(無意識に)手探りしている気がする。

つんくよ、オリジネイターの都倉&阿久コンビに、リスペクトを。

(*^.^*)(*^.^*)(*^.^*)(*^.^*)(*^.^*)

このLPのタイトル曲「星から来た二人」は、
ミーちゃんとケイちゃんが
ピンクレディーとしてデビューするまでの
半生を描いたアニメ番組
「ピンク・レディー物語 栄光の天使たち」
の主題歌である。
後にも先にも、アイドルの半生がアニメになリ、
高視聴率を取るなんて事があり得るんだろーか。

そして彼女たちはその後、消費され尽くすまで、
遂に歌い抜き、踊りまくった。
今、彼女たちがその事に自覚的であるかは、この際、無視したい。
そして、本当に彼女たちは、星から来た二人だったんじゃないか、と今思う。


2012.02.20