第十八話「冷やし中華」

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人一倍寒がりのひとみ(酒井若菜)は、若い男に貢ぐだけ貢いでは捨てられていた。ある日ひとみは、ペットショップで出会った五十過ぎの男・橋本(芦川誠)と恋に落ちる。橋本が好きなのは「冷やし中華」だ。暑がりの男と冷え性の女は、週末になると揃ってマスター(小林薫)の店を訪れ、冷やし中華を食べていた。そんな中、店に定年間近の刑事・犬塚(塩見三省)が現れる。「粘りの犬塚」とその名を轟かせた犬塚だったが、20年前、追いかけていた犯人を目の前で逃したことがあった。犯人の手がかりは、「あいつはホント冷やし中華が好きだった」ということ。犬塚の話を聞き、橋本の過去を疑い始めるひとみだったが…。 (公式サイトより抜粋)

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残り、三夜。深夜食堂の奇跡は・・・

倉田「もう第二期も十八話ですか。今回入れてあと3話ですね」
鎌田「早いねえ。大好きな深夜食堂に、もう会えなくなっちゃうのか」
倉「今回も監督は小林聖太郎さんですね。今回こそは期待したいです」
鎌「びっくりしたあ!この人、お父さんが上岡龍太郎なんだね。そして、
原一男の門下生でもあるんだね。原監督の『ゆきゆきて、神軍』は
大傑作で、『またの日の知華』は大失敗作だった…」
倉「ごめんなさい、ウソ付きました…」
鎌「ん?あ、今回も期待してないって事ね。でも小林監督はね、
市民団体「みんなで決めよう『原発』国民投票」にも参加してて、
原発の賛否を問う住民投票条例の制定を東京都と大阪市に求める
署名活動を始めてるんだよ。応援します!」

倉「鎌田さんは冷やし中華、お好きですか?」
鎌「5月くらいから食べ始めちゃうくらい、好きだよ」
倉「ボクも大好きなんですよね。元々酸味の効いたものが好きなん
ですよね。とか言いながらほとんど外では食べませんね。自宅で
自分で作るか、コンビニの冷やし中華になってしまっています」
鎌「僕もここ10年、家庭で作ったものしか食べてないね」

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倉「一度だけ中華街で冷やし中華を食べた事があります。冷やし中華
って日本のモノらしいじゃないですか?だから食べてみたんですが、
紛う事無き、日本の冷やし中華でした(笑)」
鎌「前に話した、今はない環八沿いの沖縄料理屋で、女将のみなちゃんが
子供をおんぶしながら、沖縄そばを使った冷やし中華を作ってくれて
ね、美味しかったなあ」

倉「酒井若菜といえば!」
鎌「木更津キャッツアイ。最も好きなテレビドラマの1つです」
倉「ビール!ビール!」
鎌「完結篇の映画はなくてもよかったけどね」
倉「完結篇もキライじゃないですよ。しかし酒井さんはもうモー子の
イメージが強すぎて(笑)。実際、あの作品から彼女はアイドルか
ら女優に移行できたようにも思います。クドカンさんも好んで彼
女を起用してますよね」
鎌「素晴らしい俳優です。そして地声は意外と低いのもいい」
倉「地声!さすが、そこまでみていましたか!」

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深夜食堂にやってくる、寒がりのひとみ。
倉「“寒がりの女は可愛い”とマスターが言ってますが、その辺の
ご経験など鎌田さんあります?」
鎌「寒がりの猫は可愛いよ」
倉「寒がりというより、低体温の女性が僕はニガテです(笑)。
では主人公のひとみの様に貢いだり、貢がれたりした事は?」
鎌「僕、ヒモだったこと、あるからね」
倉「ええ?!ヒモ!?いいなあ…僕は無いです。
貢いだ事はあるかも…。いやあ、誰かに貢がれてみたいもんです。
誰か貢いで下さい!貢ぐから!(笑)」
鎌「スリムクラブの内間の奥さんはすごいよね。あんたは売れなくていい
私が稼ぐって言ってたそうだよ。こういう話は『クリームシチュー』
の作家の奥さんとダブってくるね」
倉「そうなんですか。そんな人と出会いたい…」

橋本(芦川誠)と訪れる、ひとみ。
倉「付き合う人間によって、容姿、食や音楽の趣味、言動や考え方まで
変わっちゃう、染めちゃう人間っていますよね?」
鎌「僕は猫と付き合って、自分のジンセイも変えちゃったなあ」
倉「それはそれで、付き合ってる二人が幸せならいいんですけど、
ぶっちゃけた話、僕にはそういう付き合いは滑稽に思えます。
人間なんて違うから付き合おうと、違いを好むもんだと何処かで
想ってるんでしょうね僕は。だから悲しい恋愛ばかりになっちゃ
うのかもしれないですけど(苦笑)。逆にそういう風に入れ込める
人間に憧れがあるのかもしれません」
鎌「ジョン・レノンも、実はそういう人だったよね。ヨーコの影響が
もろかぶりだった」

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寒い冬に冷やし中華を食べる、ひとみと橋本。
倉「ん~」
鎌「なに?」
倉「後でも出てきましたが、冬に冷やし中華ダメですか?
僕はいつでも食べたいですけど!」
鎌「ざるそばなら冬でもいいんだけど…不思議なもんだね」
倉「冷やし中華をもらうひとみ役の酒井さん、頭悪そうでイイですよね。
こういう可愛らしさ上手いんですよね酒井さん」
鎌「もっと評価されていい俳優です」
倉「でも、一つの皿の冷やし中華を二人でつつくという絵はあまり
見た事がないので、何か新鮮でしたね」

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孤独を金で埋める人間。孤独を他者で埋める人間。

倉「橋本とひとみの出会いはペットショップでしたね」
鎌「僕も先日までは、買い物で頻繁に行ってたんだね」
倉「初めて橋本を見た時のひとみはほとんど一目惚れの顔でした」
鎌「あ、そう?」
倉「彼女は若いダメ男性に貢ぐオンナでしたよね。それでペットショ
ップに通って、そして橋本を見初める。もしかしたらひとみは潜
在的に“弱い者”の味方になりたがる、弱者を好む習性があった
のかもしれませんね。それは自分も弱く、孤独だからなのでは」
鎌「なるほど、素敵な見方だね」
倉「だって金もないのに、一人でペットショップに通うなんて。
買われるまで、誰かに愛されるまで、檻の中で待っている動物達
ですよ。自己投影しているのかもしれませんね」
鎌「僕はペットショップに行っても、可哀想であまり動物は
見なかったよ。狭くてとても孤独そうなんだ」

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週末の度に、冷やし中華を食べにくるひとみと橋本。
倉「後半の話を抜きにしたら、週末に冷やし中華を食べに来る歳の差
カップルなんて、微笑ましいではないですか。僕は二人の笑顔は
好きでしたよ。対照的に当てられたマスターの顔も(笑)」
鎌「その通りだね。橋本役の芦川誠は、そこらの50代にはない不思議な
いい笑顔をする」
倉「後半での話は原作通りでしょうから仕方ないとは思いますけど、
こういう金持ちでも、凄く幸福でもないカップルの、こういう
一瞬の幸福を、丁寧な感で見たいです。前回の鎌田さんじゃない
ですがそういうのを僕も深夜食堂で求めてるんだと思いました」
鎌「そういうことなんだよねえ」
倉「多分、第二期はドラマティックにしようとして、30分に要素を
詰め込みすぎているんだと思います。だから消化不良、主人公の
心情が伝わらない、第一期のような観客の情感を鷲掴みにする感
も全く失われているんだと想うんです」
鎌「第一期はそこが実に素晴らしかった」
倉「今回の話がそれらが顕著に出ていると思います。犯罪者を追い、
逮捕する流れなど普通の刑事モノで見せればいいのに、深夜食
堂でやってしまった。しかも深夜食堂ならではの情感を打ち出せ
なかった。尺のせいもあり、何の悲哀も観客に与えられなかった。
原作の話の選び方等、今回は特に問題が大きいでしょうね」

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定年間近の刑事・犬塚(塩見三省)が現れ・・・
倉「結局、そうはなりませんでしたが、もしも犬塚の描写が潤沢だっ
たらば、今作はまた違うようになったとは想いません?」
鎌「それは僕も思ったんだけど、さっきの論理でいくと、なおさら
30分では収まりきらなくなるかなあとも思ったの」
倉「確かに。しかし必要なものが足りずにドラマは成立しません。
もしも、犬塚の人となり、刑事人生、そして橋本を追った軌跡、
それが観客に重く響いたら、もう少し垣間見えたら、定年間際で
橋本を掴まえる行為だって、犬塚目線でも何か深く感じ取れたは
ずです」
鎌「それはそうなんだけどね…」
倉「せっかく塩見さんというベテランで匂いのある俳優さんを
こんな脇レベルの役に落とすなんてもったいない」
鎌「そこをどうやって30分で表現する?」
倉「カット割り、画角一つでもその匂いは出せます。変に1カットに
こだわったり、さりげなさの為にあんな記者とのツーショットの
まんまにしてたり。この監督はやはりあまり演出が上手いとは思
えません。監督とはただ話を繋ぐのではないと想うのです。監督
とは俳優の演技やカット割りで作品一話の情感の波を操作する
ものだと思います」

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犯罪。生活。言葉。人間の真相はどこにあるの?

公園のブランコの上で告白する橋本。
倉「うーん…なんでしょうね…こんなにセリフで過去を吐露するなん
てただの二時間ドラマじゃないですか。しかも普通の内容。こう
いう内に抱えた事柄の表現こそ、深夜食堂は変えてきたんではな
いかと想うんです。原作通りと言われたらそれまでですけど…」
鎌「類似した内容で、山田洋次監督の『遙かなる山の呼び声』という
映画があるね。やむなく罪を犯してしまい逃げる高倉健と、事実を
知り驚く倍賞千恵子。二人の哀感がたまらない感動を呼ぶ。若い
監督って、山田洋次のようないわゆる『大御所』を否定する事から
始める人が多いけど、小林監督は、ああいう傑作を勉強している
だろうか…」
倉「夢から醒める想いがしますわ…救いは“私が毎日冷やし中華を
作ってあげる”と引きつって言う酒井さんの笑顔だけです…」

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食堂前で逮捕される橋本。そして食堂内へ・・・
倉「ベテラン刑事犬塚の“相変わらず冷やし中華好きなんだな”と
いう言葉も響きませんでしたよ…。変に絵は映画っぽく撮っちゃ
ってんのに。最後に食堂で食わしてやるのは犬塚の心意気や人生
も絡んでいるからのはずなのに、この再会の言葉は空虚ですよ」
鎌「ちょっとありがちな台詞回しだったね」

倉「最後、犬塚は二つ冷やし中華を頼みますよね?」
鎌「二人のために、二つだったね」
倉「僕ならば、ベタでも三つでした。犬塚もここで食べる事で、ある
種の決着の感を犬塚が持てる気がするからです。もっと言えばこ
こで犬塚が食べない理由が見当たりません。ずっと橋本を追って
いて冷やし中華を食べ過ぎたから?そんな理由くだらない!」
鎌「ほほお」
倉「冷やし中華を食べながら泣く橋本に、何も感じない。それが一番
悲しかったです…仮にも深夜食堂なのに…空虚だ…
画角もなんでこんなブサイクなんだろう…」

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橋本逮捕後、ひとり、食堂で鍋焼きうどんを食べるひとみ。
倉「最後に、ひとみはいい子だったと思いますよ。不器用だし、
オトコを見る目もないんでしょうけど、悪い子じゃないんだと思
います。その意味ではキャスティングは良かったと思っています。
一人で鍋焼きうどんを食べる酒井さんのカットは良かったと想
うんです。せめて、あのカットを長回しにして欲しかったです。
最低、あと三倍の長さくらいに。それだけでも評価はかなり変わ
ったと思います…」

倉「僕は前回の不倫ネタよりも、犯罪ネタを使ってしまった事の方が
本当にショックでした。それが深夜食堂ならでは、となってたら
そうは想いませんでした。しかし、どこにでもあるドラマに
近かった。しかも焦点も定まっていなかった。ひとみの事を
描きたいのか、橋本とひとみの悲恋なのか、橋本の過去なのか、
橋本を追う犬塚なのか。何を描きたかったのか。全員が脇役でした」
鎌「どれかに感情移入できないと、ドラマはきつくなるね」
倉「冷やし中華ですら、逮捕のキーでしかありませんでした。最初
の寒がり暑がりのネタはどこへ消えたのか?あれは特殊な相手
を求める、相性の難しさの象徴だったりしたはずで。その表現が
冬の冷やし中華ですよね?もう何がなんだか…」
鎌「しかもマスター自身が最後に『真冬に冷やし中華なんて、食べるもん
じゃないよね』って独白までしちゃうのよ。あれは驚いた」
倉「はい。あの台詞もマスターが言うべきセリフなんでしょうかね?
今回は本当に褒める点がほとんど見つかりませんでした。作品を
批判だけするのは、僕は作家としても、だいっ嫌いな事なんです
けど、今回はちょっとムリでした。これでも実は抑えた方です。
しかし、何も心に浮かばない作品ほど罪なものは無いです」
鎌「大好きなドラマなのに、第二期は批判ばっかりが続いちゃった。
これ以上の批判はつらいから、この連載も休載しようかと思ったほど
だったんだよ」
倉「僕もです。今回は「…」(三点リーダー)ばかりになってしまい…
ラスト二話に期待します…ああ、又使ってしまった…」

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2011.12.16