緊急連載「有志連合と協力して」㉒

文・鎌田浩宮

読まず
に、
論じないよ。

 

とても長くなったこの連載で、後藤さんを擁護する人も批判する人も、たくさん投書をくださいます。
しかし、実際どれだけの人が、彼の魂と同等の、彼が心血を注いで出版した本を読んでいるのでしょう。

例えば映画監督を論じる場合、その人の映画を観ないで批判するのは、明らかに片手落ちですよね。
音楽家を論じる場合、その人の曲を聴かないで批判するのは、明らかなお門違いです。

ですから、後藤健二というジャーナリストを論じる場合、彼の作品である著書を読まずに語るべきではないと思うのです。

 

後藤さん
には珍しい
先進国の
取材
とは。

 

2007年に出版された「エイズの村に生まれて ‐命をつなぐ16歳の母・ナターシャ」を読了しました。
全97ページ。
例によって活字は大きく、難しい漢字にはカナが振ってあり、小学生高学年で充分読解できる「です・ます」調の優しい文体で書かれています。
僕も後藤さんに倣って、僕らしくない「です・ます」調でこの連載を記しています。

後藤さんというと、戦争・紛争の地域への取材が多いのかと思っていたんです。
しかしこの本では、かつて旧ソ連だった北欧・エストニアを取材しています。
内戦もない、先進国です。

後藤さんも、こんな平和な所で、住民の9割がエイズに感染している村があると聞き、我が耳を疑いました。
彼の行動力がすごいのは、ホテルも押さえずに、すぐにその村へ行くところです。
ロシア語は通じても、英語が通じないのです。

僕もモンゴルへ2度行ったことがあるんですが、英語が全く使えないと、本当に困るのです。
「OK!」
と僕が言っても、モンゴルの人は「ちんぷんかんぷんだ」という表情しか見せてくれません。
ロシア語なら彼らも解るんですが、逆に僕は全く解りません。
こうなると通訳がいないとどうしようもなくなるんですが、英語とロシア語両方が巧みな通訳を見つけるのは、後藤さんがそれまでに行ったアフリカや中東で通訳を見つけるよりも、難しいことです。
彼はなんとか通訳を現地で見つけ、取材するんです。

 

プレゼント

大切さ。

 

ロシアとエストニアの国境の村・ナルヴァ。
なぜ9割の住民がエイズなのか。

先進国にもかかわらず、事情は複雑でした。

この地域はロシア語圏なんですが、商工業の中心はエストニア語を話せる中央の地域になります。
言語による流通がないために、ナルヴァでは商工業が栄えません。

自分の村に仕事がない若者は、麻薬に手を出します。
ロシアから、酒よりも安い価格で麻薬が買えるんです。
なので、麻薬を常習するのは、ギャングや不良ではないんです。
労働者、警官、軍人、職のない人、そんな人々が、村に希望を持てず、酒を飲むように麻薬を楽しみます。

その麻薬は、仲間たちで注射針を使い回して摂取されます。
これが、爆発的にエイズが増えた原因です。

そして遂に、エイズキャリアの母親、しかも16歳の少女が妊娠・出産してしまい、エイズである可能性が非常に高い赤ちゃんが生まれました。
エストニアで初めての、母子感染者です。
後藤さんは、その少女を取材しました。

彼女は貧しい病院に入院していました。
そんな施設しかないのが、現状なんです。
病院食は、一切れのパンにバターとチーズひとかけ、キャベツとニンジンがほんの少し入った薄いスープ。
天井のペンキは剥げ落ちています。
潤いがほしくなって、後藤さんは赤ちゃんに、くまのプーさんに出てくるピンクの豚のぬいぐるみをプレゼントします。
その時の少女の笑顔と言ったら…。

少女は、自分と赤ちゃんの命の短さを、既に知っていたかも知れません。
しかし、嬉しかったのです。

 

希望

見い出せない
日本

先進国。

 

日本も、自分の住む所に希望を見い出せないという点では、胸を張れやしないと思います。
国民の過半数がおかしいと思っていることが、なぜか次々と行われています。
原発再稼働、秘密保護法、集団的自衛権、辺野古基地移設、韓国・朝鮮やアイヌの人々へのヘイトスピーチの容認、いつまでも上がらない景気、非正規雇用。
書き切れない。
戦争やテロに突き進んでいく国へ、子供たちは特に希望を見い出せないでしょう。
また、こうした状況は、日本だけではなく、アメリカや他のいくつかの先進国でも同様でしょう。

後藤さんは、エイズのリハビリ施設の人から話されます。
「私たちの町は小さい。しかしこの炎が小さいうちに消さないと、世界中に広がってしまう。ここから車で2時間も走れば、ロシアの大きな都市へ着く。そこから世界中へ行ける」
では、この小さな町に関心を向けさせるためには何が必要か、と後藤さんは問います。
「世論を巻き込む必要がある。そして情報を交換し、互いに支援し合うことだ」
後藤さんは、その一端を担いたいために、取材をしていることが分かりました。

後藤さんは、他の国に比べ、日本のエイズへの無関心や、キャンペーンの曖昧さを不安視していました。
確かに日本では他の国のように「コンドームを使おう」という直接的なキャンペーンは避けがちです。

報復は、報復しか、生まない。
これからも、後藤さんの志を、継いでいきましょう。

引き続き、この連載に関するご意見ご感想をお待ちしています。
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エプスタインズでは、様々な人から原稿を取り寄せ、2月2日から集中連載をしています。
連日更新が途切れないよう、皆さんよろしくお願いしますね。
後藤さんの殺害が安倍政権により、憲法9条改悪に利用されてしまう、大変な時です。


2015.04.10