第15便「標高1135.3mの村のトイレ」

取材/文/撮影・鎌田浩宮

伝説

落書き
現る。

 

皆さんは、JR小海線の野辺山駅をご存じだろうか。
日本の普通鉄道で、最も標高の高い駅。
その標高、1,345.67mでぇございやす。
教会風の立派な駅舎、訪れる沢山の観光客。

エプスタは、その駅へは、行かない。
その、隣の駅へ、行ぐ。

信濃川上駅。
標高、1135.3m。
日本で、4番目に標高の高い駅。

微妙な、順位だ。

しかも、川上村には観光名所もなく、別荘地でもなく、訪れる人は極端に少ない。
道を歩く人も少なく、夜は標高の高さゆえ涼しすぎて、蝉も蛙も鈴虫も泣いていない。
村にはコンビニはおろか、スーパーも八百屋も肉屋も魚屋もない。

そんな駅の、トイレが好きなのだ。

まずは三軒茶屋から新幹線で、軽井沢へ来ましたよ。
ここまで、1時間50分。

陽射しは東京と同じだけど、風が涼しい。
それにつけても、軽井沢は、東京都から、いくらカネもらってるんだず?

軽井沢から、しなの鉄道で小諸駅へ。
乗り継ぎ時間は省いて、その間、24分。

小諸から、小海線という単線のローカル線に乗り換えます。

小諸駅から信濃川上駅まで行く汽車は、2時間に1本といったところ。
そして乗車時間は、約1時間半。
札幌へ行くよりも、那覇へ行くよりも、遠い所。

ひどい映像で、本当にすみません。
線路と田畑の間には柵も無く、線路のぎりっぎりまで田畑が耕されています。
農家の人、轢かれたりしないかと本気で心配です。

車内の広告。
本田翼は、東京発のモデル/俳優ですね。
テレビ東京の深夜ドラマ「ヴァンパイア・ヘヴン」、可愛かっただず。

小諸から7駅目の、岩村田駅で途中下車。
新幹線が通る佐久平駅の隣です。
駅舎の路線図に、標高が書いてあるの、素敵でしょ?

駅舎には、保育園児のとっても大きな絵。
気持ちが、和らぐなあ。
これは、いいアイデア。

駅から近くの、パン屋さん。

「アイスパン あるだにぃ~」
長野の方言ですね。
テレビ局が、取材に来てましたよ。

道端のごみ捨て場には、6か国語で、注意書き。
東京より、よっぽど国際的だにぃ~。

すんごくおどろおどろしいバーを、見つけちゃった。
田舎、なめるなよ。

ここも、すごかった。
神社の隣が、教会なのだった。
仲良く、やってるんだろうか。

再び、小海線に乗ります。
再び、ひどい映像ですみません。
千曲川に沿って、どんどん山を登って行く。
どんどん標高が高くなり、民家はなくなり、山の森の中。

すると、急に集落が現れる。
なぜ、こんな山奥に?

そこが、川上村です。

 

ディーゼル車で、
煙もくもく、
しゅっぽ、
しゅっぽ。
小諸から、
25駅目。
着いた。

 

ちなみに、この車両ではないんだけれど、1日に数本、日本中で小海線しかないという、ディーゼルと電気で走るハイブリッド車も走ります。
鉄道好きな人は、それを狙って乗車するほど。

信濃川上駅。
標高、1135.3m。

日本の駅で、4番目に高い標高の駅。

見事なほどに、シンプルな時刻表。

駅舎の中の、ベンチ。
冬、とっても寒いからかな、だからこうやって、マットが敷いてある。

こっちには、座布団。
親切だにぃ~。

8月14日、川上村の夏祭りのポスター。
どぶろっく、さらば青春の光。
すんごく有名なお笑い芸人、来るんだね。
テレビで人気の、戦隊ヒーローも、来る。
こんな山奥に、すごいなあ。

ちなみに川上小学校は、1学年1クラス。
1クラス、20人から30人ほどだそうだよ。

そこの先生のお母さんが、僕の母の姉と同い年だった。
約70年前、かつて、同じ川上小で、同じ学年。
お母さん、きっと今も覚えてるはずでしょう。

「列車利用の みなさんにお願い
当信濃川上駅の窓口で買われた乗車券の売り上げの一部は川上村に入ります。出来るだけ窓口でお求め下さい。(後略)
川上村」

要は、こんな山奥の駅でも、新幹線の切符などが買える訳ですよ。
僕も、東京までの新幹線の切符、信濃川上駅で買いましたよ。

この「広告」に、JRは広告料を徴収しているんだろうか?

ちなみに三軒茶屋駅だと、どんな小さなポスターでも、お金、取られます。

手書き、いいなあ。
しかも、改行が、逆です。

駅前の、映像です。
成田屋さんも、ゆくみやさんも、今はもう営業していません。
廃屋です。

この映像で走っているのが、さっき書いた、ハイブリッド車ですよ。

さあ、遂に。
駅舎の隣に、そのトイレは、あった。

木造。
素敵なデザインでは、ないか。

やはり、和式。

和式は、学界的には落書きし難いというのが定説になっているが、果たしてここは、どうか?
だけんじょ、学界って本当にあるんか?

予想以上に、落書きだらけ、だったのだ。

エロネタばかりだが、そのエロさが、素朴なのだった。
標高1135.3mの、落書き。
…と思ったのだが、この落書きを基によくよく調べると、この村ではレタス農家が研修生と称して海外から働き手を集めているのだが、その非人道的な扱いが問題となっているようだったのだ。
ここを訪れた時に知っていれば、村民に尋ねる事もいとわなかった。

「関東連合 ブラックエンペラー」
とあるが、その団体があったのは、最早、数十年前だど。

そして、不朽の名作。
「乱文 すいません!」

これ以上に美しい落書きを、今後発見することはあるのだろうか。
しかし一方で、外国人の働き手へ誤った扱いをしているのなら、こんな侮蔑はない。

 

追悼

放送

ある
村。

 

千曲川は、すぐそこ。
何時間でも佇んでいられる、素晴らしい川。
そして、神高い山々。

道端で休んでいたら、通りがかった学生さんが、こんにちはと声をかけてくれた。
僕も、すれ違う人全てに、こんにちはと挨拶した。

でも、撃たれちゃったりしてね。
「なんだ、ヒトだずか?クマじゃねえだか?」って。

この日は、8月6日だった。
村に点在する火の見櫓のスピーカーから、放送があった。

「間もなく、広島に原爆が投下された8時15分です。黙祷しましょう」

美しい村。
命を、思いやる村。

仲良くなったおばあちゃんから、もらったキュウリとナスと、帰りの切符。
東京の八百屋のより、うんと大きく、太くて、傷がちょっとついていて、たくましい。

東京に帰り、すれ違った人に挨拶する癖が、抜けなくなった。
それは、とっても、いい事なんだろうね。
それだけに、疑惑の真相が知りたい。


2013.08.19