第一話「赤いウインナーと卵焼き」

 

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飲み屋の並ぶ片隅にある古い食堂。夜の十二時から朝の七時頃まで、こわもてのマスター(小林薫)が包丁を握り、「豚汁定食」のほかは、材料さえあれば、何でも作ってくれる。常連客は長年ゲイバーで働いている小寿々(綾田俊樹)や、ストリッパーのマリリン(安藤玉恵)ら。夜毎、常連客が語り合う。
ある日のこと、ヤクザ者の竜(松重豊)が、手下のゲン(山中祟)と連れ立って店にやってきた。「エスカルゴ」「燕の巣のスープ」、難癖をつけるゲンの言動に店が一触即発になった時、マスターが作った「赤いウィンナー」を食べて感動した竜は、以来、時々店に顔を出すようになった。客たちの内で竜が特に親しかったのは、大の卵焼き好きの小寿々。一つの皿を仲良く分け合う二人だったが、「赤いウィンナー」には、それぞれ忘れられない思い出が詰まっていて・・・。  (公式サイトより抜粋)

 

深夜に集う者たちへ

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作品内と同じ食事を作り、食べながら鑑賞する、音楽家・鎌田浩宮と
映像作家・倉田ケンジ。
 鎌「うまいねえウインナー!卵焼きは・・ああ、ちょっと味薄いな」
 倉「食べ過ぎると作品で食べ物が登場する前に無くなります!(笑)」
 鎌「・・だよね(笑)」

舞台である新宿を流れていく映像で綴られたオープニングシーンにて。
 鎌「・・・この冒頭のシーンがね、この前も書いたんだけど、ちょっと
   信じがたいくらいに・・ちょっと何か・・・美しいんだよね・・」
 倉「松岡監督って東京出身でしたっけ? 僕は東京の人間ではないんで
   すが、このOPを観た時、ひどく余所者の目線に感じたんです」
 鎌「へえ~面白いねえ」
 倉「東京では余所者である僕が見てる新宿に似ていたんです。だから
   スッと作品に入れたんです。松岡監督も地方出身者なのかな?」
   (※松岡錠司監督は愛知県一宮市出身でした。倉田正解!)

「めしや」のマスターが開店準備をしている風景。
 倉「新宿を流れる映像から、豚汁を作るまでの流れがOPですけどここ
   最近のテレビドラマでこんなOPは無いですよね」
 鎌「特典映像で語られていたんだけど、ここまでずっと無言にしている
   作品と言うのは本当に珍しいらしいよ」
 倉「そうですね。だから作り方が通常のドラマ的じゃないなと感じられ
   て、一つ落ち着きをもって観られたっていうのがありましたね」
 鎌「(店内の値段表を見て)ビール・・・高くなったよね・・」
 倉「ビール大が600円は高いですよね」
 鎌「豚汁が600円なんだよね。ビールとおんなじなんだよな」
 倉「他が安いからビールで元取らないといけないんですよ(笑)」
 鎌「結局、この店名前はないんだよね。「めしや」としかない。
   それって凄いよね。そういや、俺の子供の時からある三軒茶屋の長
   崎ちゃんぽん屋が、この前とんねるずの「きたなシュラン」ってい
   うのに出たのね。でも店の名前がないんでテレビ局側に勝手に
   「長崎」って名前付けられてたんだよね(笑)」

「めしや」の常連、マリリン松嶋が恋人を語るシーンにて。
 鎌「なんだろう?何か割と無名に近い俳優が沢山出ているんだけど、
   何処でこんなに見つけてきたんだろう?」
 倉「そうですね。後半の話では知名度のある俳優も出ますけど」
 鎌「本当にいい俳優さんが揃っているよな。彼女、踊りもウマイよね。
   踊り子さんだったりしてホントに!」
 倉「でもかなり色々な映画に出られている女優さんみたいですよ」
 鎌「へえ~」
 倉「鎌田さん、こういう女性好きですか?」
 鎌「いやあ、ブスだなあって思うよ」
一同「(爆笑)」
 鎌「いやでも凄いリアルでしょ?愛着のある顔っていうか、愛嬌のある
   顔だよね。この作品のせいなんだろうけど」
 倉「普段、その辺に居る美人ですよね」
 鎌「う~ん・・・僕は美人とは思わない!」
 倉「ん?ブサイクですか?」
 鎌「俺、この人が職場にいても全然欲情しないもん(笑)」
 倉「あ~あ~、それは僕も(笑)」

「めしや」の常連、ヤクザの剣崎竜登場。
 倉「この辺は、松重さんの使い方は手堅い感じですね」
 鎌「うん、バッチリ!「ちりとてちん」では割と優しい一般的な
   お父さんの役をやってたね。主人公の女の子の」
 倉「最近、松重さんも色んな役やられていますよね。あ、もしかしたら
   キャスティングは有名どころというよりは、舞台出身の方を多く起
   用したのかもしれませんね。松重さんもそうですし」
 鎌「なるほど」

当たり前のように迷惑料込みの代金をヤクザに請求するマスターに、
 鎌「どうなんだろう?本当にこんなヤクザと渡り歩ける店のオヤジって
   いるのかね。それを考えるとゾクッとくるシーンだね」
 倉「最終話の方ではこのマスターの過去が匂うところがありました
   よね?だからマスターも元々はカタギの人ではないのかな?という
   気はしていました」
 鎌「だから、マスターは(ヤクザに)そこを感じるんだろうね」
 倉「鎌田さんは音楽家ですけど、もしも何処かで誰かと出会って、
   その出会いが最悪でも同業者って分かった瞬間に、許すというか、
   了承してしまうって事ありません?」
 鎌「あるある!」

「めしや」の常連、ゲイママの小寿々さん(綾田俊樹)登場。
 倉「小寿々さんって!可愛い名前だなあ(笑)」
 鎌「そそそ!(笑)あ、彼は劇団東京乾電池だよね。俺ねぇこの第1話
   で一番言いたいのは綾田さんのゲイの演技が秀逸な所なんだよね。
   なんだろ、気持ち悪くないの。普通、気持ち悪さだったり、わざと
   らしさだったりが鼻につくパターンがこういう芝居って多いんだけ
   ど、そういうのが無くて、すごい自然でね」
 倉「それはもしかしたらこの作品の設定が、ゲイやヤクザ含めて特殊な
   職業と映さないようにしているからかもしれませんよね。ゲイって
   普通のドラマでは扱いが難しいじゃないですか」
 鎌「そうだよね。あとは綾田の演技力なんだろうな。凄いと本当に
   思った。それでね、小寿々さんなら普通に一緒に酒飲めるもんね」
 倉「そうですね。でも鎌田さん好かれちゃいますよ、絶対(笑)」
 鎌「(爆笑)」

卵焼きを語る小寿々さんと、常連のカメラマン小道(宇野祥平)に、
 倉「関東は卵焼きは甘いんですか?」
 鎌「そういう区別、わかんないんだよね」
 倉「僕んとこは、だし巻きが多かった気がしますね。塩気があって。
   でも東北の方みたいに醤油バァーとはかけませんけど」
 鎌「あ、今言ってた!寿司屋で食うのが卵焼き、蕎麦屋で食うのが
   だし巻き、だって。じゃあ日本全国そうなんじゃない??」
 倉「え~~?(不審な目で)」
 鎌「違うの?」
 倉「これは調べてからの掲載ですね(笑)」
   (※関東地区では惣菜や江戸前寿司のネタに使う場合は、砂糖で
    味付けをするのが一般的。関西地方では出汁を加え焼き上げた
    出し巻が主流、らしい。)
 鎌「またカメラマンのかけだし感、よくこんな俳優見つけてきたなあ」
 倉「(禿げた彼に)あのヘッドは簡単には作り込めないですからね(笑)」
 鎌「(爆笑)でもほんとね、無名の役者が輝いているんだよ。この後の話
   でも彼はちょこちょこ出てきては、生意気な料理評論家を連れてき
   たり、ストリッパーをバカにするダンサーを連れてきたり、結構
   ダメな奴なんだよねこのカメラマン。でも、憎めないんだよね」

夜が明けても「めしや」で飲んでいた小寿々さんに、
 鎌「(しみじみと)朝まで飲んでんだ・・そういう人生なんだな・・」
 倉「(店を去る小寿々に)綾田さん、いい背中の芝居ですよね・・・・
   朝方の背中、ですよね」
 鎌「朝方の背中かあ。いい事を言う・・」
 倉「現実に戻っちゃう瞬間じゃないですかお酒を飲んでいて帰るって
   いう時は。しかも彼女(小寿々)でいいのかな? 彼女の環境を考え
   ると、どうしても重くリアルな背中に見えてしまうんですよね」

竜の事件を伝える新聞が激しく回転する昭和的演出にて。
 鎌「あは!懐かしい演出!(笑)」
 倉「今見ない演出ですね(笑)」
 鎌「特典映像で語られてたんだけど、往年の久世光彦のドラマを意識し
   たところもあったらしいよ」
 倉「あ、そうなんですか!そうなると僕も鎌田さんも久世さんの作品が
   好きじゃないですか。僕はかなり幼少の記憶ですけど。だから
   「深夜食堂」に惹かれたのかな?」

病院の屋上でお弁当をすすめる小寿々と、ヤクザの竜。
 倉「このシリーズを通して思うんですが最近深夜で、いや深夜じゃなく
   てもですね、テレビドラマでこれだけ1カットの長さが長い作品も
   本当に少ないですよね。あとFix(固定撮影)が多いっていうのも。
   今テレビドラマって、せわしなく動かなきゃいけないじゃないです
   か、悪い意味で」
 鎌「そうかあ。そういう事なのか」
 倉「この作品はどこでもそれだけで絵になるじゃないですか。こういう
   やり取りをこれだけ1カットでやれるってやはり相当の演出家の自
   信が必要なのかなって思ってしまいます。映画じゃないとこういう
   カメラワークは出来ないかもしれない」
 鎌「うん」
 倉「・・しかし、小寿々さんとこの無口なヤクザ(竜)は互いに何を
   見たんでしょうね?」
 鎌「そうだねえ・・・」
 倉「語らない人間に共感を覚えるっていうのは、自身にも語れない事が
   沢山詰まっているからなんでしょうかね」
 鎌「切った張ったの世界にいるじゃない?なんか邪気のない人に久しぶ
   りに会ったのかもね、ヤクザの彼は」
 倉「はい。そして小寿々さんはゲイ稼業ですけど、彼もその職業しか選
   べなかったんじゃないのかな、なんて思います。行く道を選べるか
   どうかは今の世代と比較したら本当に少なかったんではないかなっ
   て。そしてそれはヤクザの彼にも。二人とも同じような時に、人生
   の分岐点があったのかな?なんて思っちゃいますね・・・」

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思い出を蘇らせながら食べるという行為

 鎌「(本編終了)あっという間だねえ!!いやあ、ほんっとイイ!!!」
 倉「最近のドラマって、シリーズ通しての作品テーマがあるのは当たり
   前として1話内だけのテーマ、キャラクターを深く描く為のキャラ
   のテーマもあったりして、実はテーマまみれだったりすると思うん
   です。ストーリー、テーマ、キャラクター充実させようとしすぎて
   てんこ盛りなのかもしれません」
 鎌「そう、それを考えると30分でよく構築したなと思うんだよなあ」
 倉「そうなんですよね。今は話しながらだったんで短く感じましたけど
   心の充実度では1時間ドラマと同等になっていますからね」
 鎌「そうなんだよ!なってんだよ!それが驚きだったんだよこの作品」
 倉「その効果を生んでいるのも、この「食べ物」を置いた事にもあると
   思うんです。観る側に食べ物への思い出や情報を使わせ、作品内の
   キャラのバックボーンを想像させて、補完しているのかな、とも」
 鎌「ふむふむ」
 倉「例えば、あのヤクザが何故あの赤いウインナーなのかという点を考
   えると、彼にはやはり子供時代に何かがあったのかなと思えるんで
   すね。だって赤いウインナーって普段いつも食卓に並んで食べる物
   ですか?それよりは遠足とか運動会とかお弁当とか、少しだけ特別
   な時のイメージが僕にはあります」
 鎌「そうだね、赤いウインナーは子供のイベントの食べ物だよね」
 倉「そして卵焼きもですよね。だから共通していたんだと思うんです、
   小寿々さんとヤクザの竜は」
 鎌「多分幼い頃、食べたい頃には満足には食べられなかった、と?」
 倉「はい。二人は直接のやり取りも観客には見せますけどこの食べ物で
   の共通して想起させる部分もある。だから複合的に観客に想像させ
   るように上手く創られていると思えるんですよね」
 鎌「ヤクサとオカマ・・」
 倉「そしてウインナーと卵焼き。実は一話目のタイトルだけですよね?
   二種なのは」
 鎌「そうだね」
 倉「竜にこれまで何があったのかはさすがに想像しきれませんがウイン
   ナーに対し、僕は自分の経験から繋げてしまうんですけど憧れなん
   じゃないのかな?と。安心かな?憧れと安心が入ってるよな」
 鎌「自分の経験?」
 倉「ええっと僕自身、赤いウインナーを食べた事が無くてですね」
 鎌「え?」
 倉「はい、小さい頃」
 鎌「なんで??」
 倉「僕が子供の頃、ちょうど「カラダにイイモノを食べよう」みたいな
   ブームがあった頃ですね。だからこのウインナーはウチではNGで」
 鎌「あったね。そっか、そういえばこのウインナーは悪い方にされたよ
   ね。そんな悪いモノ入ってたんのかな?」
 倉「だから今でもこの赤いウインナーには異常な憧れがあります。体に
   悪いと言われても憧れを持ち続けてたんです、こんな歳まで(笑)」
 鎌「いやぁ人間てカラダに悪いモノ多少食べないとダメみたいよ?」
 倉「・・・どんな悪い食べ物ですか?」
 鎌「あのね、中学の俺の好きだった理科の先生がいて、ハシバちゃんて
   いうんだけど、赤ちゃんが下痢がちの時は、床を舐めさせろっつう
   んだよ」
 倉「はああ?!」
 鎌「床に色んな菌があって、そん中には人間がトイレで大便をして、
   お尻を拭いてリビングとかに戻ってくるじゃない?その時、大便の
   カスというか菌がね、多少リビングにも落ちるらしいんだよね」
 倉「まあ・・・そうでしょうね」
 鎌「それは免疫になるわけ。それは理科の先生が言っているから本当だ
   と思うの。そうすると下痢が治るんだって。だからね俺はラーメン
   が好きなんだけど多少はねカラダに悪いモノも取らないと現代病に
   なっちゃいますよ!ってな事(笑)」
 倉「そうですね、抵抗力の弱い子にはなりやすいかもしれませんね。
   あ、鎌田さんは、卵焼きや赤いウインナーに思い出あります?」
 鎌「卵焼きは結構頻繁に作ってもらったな。母は今でも作るね。
   ちゃちゃちゃと作れちゃうからね。俺とニューパパは「これって
   朝ごはんのメニューなのにな・・」って思ってるけど。 だから
   全然、卵焼きは現役選手」
 倉「僕は卵焼き、ウインナーともお弁当のおかずなんですよね。だから
   さっき言った小寿々さんやヤクザの彼は遠足とかに行ける環境じゃ
   なかったのかな、とか。それとも運動会で親と一緒にお弁当という
   経験も手に出来なかったのかな、とか。ヤクザの彼は孤独な幼少期
   例えば親がいないとか、そんな経験をしてきたんではないかな?そ
   れは小寿々さんも同じで」
 鎌「両方ともがそういう事を抱えていると・・・」
 倉「幼い頃、ウインナーって贅沢、高級なイメージでしたか?」
 鎌「いや、庶民的な食べ物だったと思うよ?」
 倉「じゃやはり、飲み屋でこれだけを頼むっていうのは結構大きな事で
   すよね。だってヤクザ屋さんてお金持ちですよね?イイモノ食べて
   ますよね普段。敢えてあそこでコレを頼む理由って、相当思い入れ
   がないとしないですよね」
 鎌「そうだね・・・。深夜食堂って0時から始まるけどさ、夜にね、
   その時間になって、このウインナーと卵焼きというメニューを
   食べるってのは辛いよね・・・」
 倉「辛い・・・」
 鎌「優しい思い出があるから、それに浸れるから、優しい思い出に戻り
   たくて食べるのか。それはわかんないけど、その行為って辛い行為
   じゃない?食事にそれだけの思い出を蘇らせながら食べる行為って
   何か辛い事なんじゃないかって。100%辛いばかりじゃないのかも
   だけど、少しだけそんな気がする・・・」

 

ホワイトソースの湖

 鎌「僕は、よくミノルおじさんのところに預けられた時にコーンスープ
   とシチューとグラタンの湖に埋もれていく夢をよく見てたのね」
 倉「ほぼ、ホワイトソースの湖ですね(笑)」
 鎌「それはね、ウチの母に作ってもらいたかったメニューなんだよね。
   で、あれが食いてぇなあ、みたいな感じで、それに埋もれてく事を
   妄想して楽しんでたっていう。それは別に今は悲劇としてではなく
   て、それは今が幸せだからなんだけれどもそれが今も尚、自分のち
   ょっと切ない思い出として残ってしまってるんであればそれを今、
   0時過ぎに深夜食堂に行って食うっていうのは何かね・・・」
 倉「じゃ鎌田さんが深夜食堂に行って頼む物はホワイトソースもの?」
 鎌「うん。コーンスープちょうだい、とか言ってね」
 倉「鎌田さん言われた様に、思い出のモノを疲れていたり、ベロベロに
   酔った時に頼むというのは、過去に対して向いていますよね」
 鎌「そう。そうなの。過去に向いているのがね・・」
 倉「僕もまだそれほど年がいっている訳ではないんですけど、結構
   ヘヴィーに飲んだ後とかに食べたくなるものって、ただ美味しい物
   とかじゃなかったりしますよね。なんてことないモノなんですよ」
 鎌「うん、そうかもね」
 倉「この作品の全ての話がそういう意図であったり、キャラクター全員
   が過去の経験だったりから料理を頼んでいるじゃないですか」
 鎌「うんうん」
 倉「その時間に自分の過去と向きあう、みたいな。それは辛いです」
 鎌「ちょっとそれって、ほろ苦い味がすると思うの・・・。ちょっと
   だけね・・。それが温かい優しい思い出に包まれて、その幸福な時
   に戻れるんなら、そんなことはないのかもしれないんだけど」
 倉「そこでいうと、小寿々さんはヤクザの男が頼んでいるウインナー、
   多分彼の過去や分岐点が滲み出しているような物を見てしまって、
   彼は彼で顔色も変えずに食べている事に、何かすごく惹かれたんで
   しょうね。ヤクザの彼はもう自分の為だけに食べてて、喜びとかじ
   ゃないんでしょうね。ただ心の何処かを満たすだけのような。そう
   考えると僕も胸が痛いです・・。だから全話食べ物が美味しそう
   なのに、辛く匂う、さっき鎌田さんが言われた“ほろ苦い味”と
   いうのが的を得ていると思います」

 

差別される生業のひとびと

 鎌「特に10話ある中で、ヤクザとゲイってとても差別されている生業の
   人たちじゃない?この作品をみて登場人物いいなと思う人でも、
   ヤクザやゲイは嫌いっていう人は多いと思うのね。だけど、この
   作品は他のヤクザやゲイが出てくる作品に似つつ劣らず、見る角度
   が違うものだったと思うのね」
 倉「1話目にこれが来ている理由も、深夜食堂に色んな人間が集う、
   っていうところ。でも実はゲイの現場/職場、ヤクザの現場/職場の
   部分は描かれていないじゃないですか。ま、最後刺されるシーンは
   ありましたが。僕は嫌われやすい職業の描き方として、その職業の
   現場を映さなかったという事、食堂に来た二人の姿を中心にしてい
   るというところが、この作品のテーマ、どんな人間でもこの場所に
   集って、別け隔てなく付き合ってくれる人間がいて、その意味で、
   1話目にした理由があったのではないかと思うんです。一番特殊な
   特殊だと思われやすい職業の人間を二つ並べて、というのがどんな
   変わった人間でも来ますよ、大丈夫ですよという入りなのかなと」
 鎌「だってこれ最終回でヤクザがカニを沢山持ってきて、クリスマスに
   みんなで食べるんだよ。わーい!カニだー!って喜んで(笑)。俺は
   願わくばこの深夜食堂に集ってきている人間(観客)にはね、ゲイ
   やヤクザに対して作られている壁がなくなってくれる事を祈るね」
 倉「どう・・でしょうね」
 鎌「さっきも話したミノルおじさん家に預けられた時にお風呂がなくて
   銭湯に通っていたんだけど、その銭湯にはヤクザのおじいちゃんが
   いつも来ていて。背中には彫り物があってね。それでおじさんに
   「これ入れ墨だよね?」って言ったら、おじさんに「ひろあき!
   バカな事いうんじゃない!ヤクザだっていい人も悪い人もいるん
   だ!」みたいな事を言われて。それがなんだろう、僕の根幹を成し
   ていると大袈裟な言い方になるけど、その人を生業で差別しないと
   いうところは頑としてあるんだよね」
 倉「ミノルおじさんの言われた事って、マスターの立ち位置ですよね」
 鎌「うん、そうなんだよね」
 倉「おじさんも、過酷な人生を歩まれてきたからじゃないんですか?」
 鎌「う~ん・・過酷な人生にはとても思えないんだけどね(笑) 単なる
   車寅次郎みたいなおじさんだから。でもミノルおじさんとウチの母
   は継母なんだよ。それは関係しているかな?かなり継母にはイジメ
   られたんだって。継母は自分の子供にはお弁当作るけど、ミノルお
   じさんとウチの母には全然作らないみたいな。そんなのは日常茶飯
   事だったみたい」

 

 「黄金時代のTBSドラマ」のようなドラマ

 倉「じゃあ、そろそろシメを・・」
 鎌「いやあ、語りたい事がまだいっぱいあるの!一話目思い入れが多す
   ぎるんだよ!とにかく、綾田さんの演技だったり、演出サイドから
   の作り込みだったりとかが凄いなと思えて・・。大袈裟に言えば、
   こんな清純なゲイを見たことがない!という」
 倉「う~ん。ま、清純じゃないゲイというのにも出会ってないですけど
   (笑)。出会いたくもないですけど(笑)」
 鎌「(笑)」
 倉「僕はこの第1話目で、食べ物が人の過去と繋がっているという事、
   それがこの作品の根幹に即している事が嬉しく思えました。そして
   僕も思い出のある赤いウインナーだったので、いい想像の仕方ので
   きるドラマが始まったなと思えました。多くは与えられず、こちら
   の持っている過去であったり経験をもって観られるドラマって久々
   だったなあ、というのが本音です」
 鎌「僕はねこのドラマは視聴率は望めなくとも「木更津キャッツアイ」
   じゃないけど圧倒的な人気や相当な事になるんじゃないかと思って
   たんだけどねえ。結果そうならず、今のところ来ているけど(笑)」
 倉「僕ももう少し評価されるべきだと思っています。最終話の時も言い
   そうですけど、こういう作品がゴールデンタイムというか、多くの
   方が観られる時間や場所でやって欲しいと思いますよ。それくらい
   目の覚める部分の多い作品でした」
 鎌「昔は色んなタイプのドラマがあったじゃない。人情モノあり、
   ホームドラマあり。それが今や刑事モノ/サスペンスモノ、それか
   恋愛モノか、コメディモノか。ぶっちゃけたら3種類くらいしかな
   いんじゃない??各局凌ぎを削って3種類のドラマだけを作ってい
   るような、もう散々な状況だよ(笑)。ホントは昔はこういうドラマ
   ゴールデンでやってたんだよ。だって久世光彦さんとかがやって
   たんだもん!」
 倉「そうですよね・・」
 鎌「有名な「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「ムー」「ムー一族」と
   来て、ちょっと久世さんが一旦第一線から離れられたりしたんだけ
   ど、その後もなんともいえない、傑作じゃないにせよ、こういうホ
   ームドラマ続けてて。またその後向田邦子さんと再び作ったり」
 倉「そうか!僕はこれまで意識していなかったんですが、言われてみれ
   ば久世作品、というよりは向田邦子さんの脚本や小説、そんな大好
   きな向田さんの回し方に「深夜食堂」は実は似ていましたね!」
 鎌「特典映像でマスター役の小林薫さんが「黄金時代のTBSドラマの
   ようなドラマだ」って言ってた!」
 倉「まさにそうですねえ」
 鎌「あの頃、「ドラマのTBS」ってみんな真顔で言っていたもんね」
 倉「ドラマはTBSか日本テレビって感じでしたよね。フジなんて・・」
 鎌「その頃のフジなんてロクな番組作ってなかったもん」
 倉「そうか。鎌田さんがコレを気に入った理由は久世さんの・・」
 鎌「いや、そういう訳でもないんだけどね。往年の、今や作られなくな
   ってしまったジャンルのドラマが出てきたなあって」
 倉「ぶっちゃけ僕は「水戸黄門」なんぞやるくらいなら「深夜食堂」
   続けてくれた方がじいちゃんばあちゃん、これから老いる人々にも
   イイ気がしちゃいます(笑) 心にも身体にも(笑)」
 鎌「そだね!」
 倉「では、この辺りで終わりますか?」
 鎌「はい!ありがとうございました!」

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第二話へつづく・・・

2010.07.24