渥美清こもろ寅さん会館にて「男はつらいよ・私の寅さん」35㎜フィルム上映

文・鎌田浩宮
動画撮影・竹原Tom努/鎌田浩宮
写真・大島智子/鎌田浩宮

渥美清こもろ寅さん会館
復活への
新たなる
旅。

 

その前の晩、東京は雨だった。
明日は、遂に始まる「昭和のレトロバスで行く 寅さん全作フィルムで観よう会」バスツアーだというのに、明日も雨だったら、せっかく来てくれるお客さんに申し訳ない…。

そして、当日の朝。
小降りにはなったものの、東京は、雨。
小諸も雨だ、とココトラ本部から連絡が来る。
旅の中で、1番邪魔になるのは、傘だ。
雨が止めば荷物になるし、降ればバスの中で濡れていて鬱陶しい。

8:15に東村山を出発した銀河鉄道のバスは、予定より45分も早く、新宿に到着していた。
乗車はしない若者のバスマニアが、小雨に濡れながらバスをカメラに収めている。
ありがとう!

新宿から乗車予定のお客さんは、ほとんどが到着予定時刻だった10:15には乗車完了。
予定通り、10:30に新宿を出発。

 

あの
バス
よりも
混んでいる。

 

見ておくんなせえ、この写真。
空席、わずかに3席。
感慨深い。
参加者が10人にも満たず、数週間も気が狂いそうだった長い日々。
僕らココトラと、銀河鉄道の広報担当兼バスガイドの村井優子さんが、必死になって集めた43人を乗せた車内。
マジカル・ミステリー・ツアーの始まりだ。

1981年製造のバス、RC-701P、乗り心地、いいぞ。
古さを、感じさせない。

 

プロの
予想を
超えた、
渋滞。

 

僕は車内で無料サービスのお菓子を配ったり、録音や撮影をしながら、慎重に道路状況を見つめていた。
毎月バスで小諸へ通っているので、判る。
かなりの渋滞だ。
なんと、工事渋滞だった。
練馬ICの高速に乗るまでに、45分もかかってしまった。

運転手でもある銀河鉄道社長・山本宏昭さんは
「予定だった13:30到着は難しい。30分から1時間遅れるかも知れない」
と嘆いた。

はい、こちらは二元中継。
会場設営をあらかた終えた、渥美清こもろ寅さん会館地下、ココトラ小諸本部の重鎮たち。
「一体鎌さんたちのバスは、いつ頃来るだい?」

14:30に小諸に着き、そこから昼食を取ったのでは、15:00から始まる上映に間に合わない。
僕は小諸で会場設営をしている、ココトラ本部の轟屋いっちーに何度も電話をし、確認を取り合った。

そんな中、今回だけ?それとも毎回?のゲスト、娯楽映画研究家・佐藤利明さんによる寅さんトークを楽しむ参加者。

そのごく一部をお送りするよ。
後半は参加者の自己紹介コーナーだ。
これも聴いてて楽しい。

茨城からわざわざ遠回りをして、新宿から自腹で乗車してくれた、植木寅次郎さん。
1人1人のお客さんの名前を訊いて、その名前のお札を作ってくれるという。
もちろん、無料。
ただ、午前中のこの時点で植木さんが、日本酒のワンカップをほぼ飲み干していたのは、内緒だぜ!

他にも、葛飾柴又寅さん記念館のスタッフの方も乗車して下さっていたり、皆さん遠方から応援がてらお越し下さっている。
皆さんにとって5800円という代金は、汗水たらして働いて得た大金なんだ。
本当に、ありがたいぜ!

とにかく、お客さんを不安にさせないことが大切だ。
埼玉に入った辺りから、雨が止んできた。
バスのマイクも借りずに地声で、皆さんにアナウンスをする。
「皆さんのおかげで、雨がやみましたよ!やりましたね!東京では散ってしまった桜が、小諸では咲き始めの時期ですよ」

高速道路は見る間に渋滞がなくなった。
都会から田んぼの田園地帯へ、そして山間地域へ。
「皆さん、この風景、素晴らしいでしょ!中国大陸の奥地のように、切だった崖のある山々。ここは釜めしで有名な横川です。軽井沢に向かっています。昔は特急あさまが通っていましたが、長野新幹線になって、この辺を通らなくなってしまいました」
今度はマイクを借りて、皆に教える。
これだけは、この43人の中で、僕だけが知っている風景さ。

小諸ICを降りる。
最初の信号の所で、バスマニアの方が、このエプスタインズを読んで知ってくれたのか、カメラを持って待ち構えている。
なんて嬉しいんだ。

巻きに巻いて、結局予定時間より15分だけ遅れて、13:45に小諸懐古園に到着。
すると…。

 

走ってる。
ココトラの
皆が、
走ってる。

 

会場設営で忙しいはずの、ココトラのメンバーが待っていてくれておるじゃないの!
歓迎の、看板持って。

ずらりと1列に並んで、大きな声でいらっしゃいませと言ってくれている。
皆で握手しあったり、写真を撮り合ったり。

こんな風に、ね。
彼は、バスツアーの参加者、ちび寅くん。

さあ、ひるめしだ!

 

TOKIOの
蕎麦と
こんなに
違うのか。

 

懐古園に入ってすぐ。
渥美清さんがこよなく愛したお蕎麦屋さん、古城軒
車内から綿密に連絡を取り合い、到着する頃に面が茹で上がっているようにお願いしてあるよ。
「歓迎 銀河鉄道様」の立て看板、嬉しいねえ。

僕はここで何度も蕎麦を食べているけれども、この日の蕎麦が1番、断トツに美味しかった。
茹でたてだからだよ。
しかもねえ、お願いしてもいないのに、お漬物、かたくりの草のおひたし、かき揚天ぷら、チヲビタドリンク、これ、全部無料で出してくれるのよ。
たまんねえなあ。

それにしても、東京の蕎麦と、何もかもが、違う。
手切りの麺は太く野性味があり、コシが圧倒的にあり、のど越しがたまらない。
ちょこっとしか量がない東京のお上品なせいろと違い、盛りもよく、腹一杯になる。

皆、食べ終わると、店内に沢山飾られている、渥美さんが珍しくにっこり笑っているプライベート写真や、直筆の葉書などを写真にパチリ。
その後は、ほんの少しの時間だけれど、懐古園の中を散歩。

そして14:30を少し過ぎ、会館へ到着!

 

田舎の
手作り感、
こんなにも
溢れてて。

 

この手作り感。
さすが、ココトラ。

入口で待つ、ココトラ最年少、20歳のかっくん。

歓迎の立札の回りには、こんな飾りつけ。
お金をかけてない分だけね、これだけっつったって、時間がかかってると思うんだよ。

参ったねえ。
予約席、38人分。
本来はバス目当てで乗車したお客さんもお1人いらしたんだけれど、映画も観に来て下さいました。
僕は、ココトラの皆とハグをして破顔。

ホッカイロも、無料で用意してあるよ。

さあ、書く時間はあるか?

いやいやいや、書いてってちょうだいよ。

既に、上映前のお楽しみコーナー、地元音楽家の大内壽惠麿(すえまろ)さんによる、ハーモニカ演奏が始まっていた。
38人のツアー参加者と、我々関係者5人、そーっと入館します。

一気に会場、ほぼ満員。

ココトラのメンバーが各自、わざわざ自分の家から持ち寄ったストーブが数台、会場をさらにあっためてくれている。

売店コーナーには、ココトラのメンバー、元松竹衣装係・本間邦仁さんが、寅さんの衣装も縫ったその手で作った、スマホケース。
本間さんは、これに煙草を入れている。
これが、売れるんだよ。

だけど、800円じゃあ、ココトラの赤字は解消されない。
やけのやんぱち日焼けのなすび、1円でいいから入れてってくれよお!

会場の模様を、Ustreamで生中継しているのは、小諸市広報に掲載されていた我々ココトラのボランティア募集欄を見て、毎回来てくれているトムさん!
すげえ嬉しいぜ!
愛してるぜ!
俺のバンド・舞天(ブーテン)のライヴCDも買ってくれたんだよ。

そして上映直前、ココトラ代表・轟屋いっち―こと一井正樹のご挨拶にて候。

一方その頃、2階屋から見下ろしているのは、映写係を担当してくれている、上田市にある山川視覚教材社の方だよ。
いつも優しい人でさあ、35㎜フィルムに対しても愛情があるんだよ。

一方、その頃バスは長旅の疲れで、休憩中。
咲き始めの、信州の桜と共に。

一方、その頃キャマダは会場に入るや否や、いつものココトタスタッフとして音響・照明係を担当していたのであるが、バスの中で立ちっぱなしだったため、上映中足がつってしまう。
激痛に耐えながら、この記事に載せる写真を撮影。

一方、その頃植木寅さんは、バスの中で約束した、参加者の名前にちなんだ札を制作中。
酔いも醒めたようで、いつものいい人に戻った。
映画を観る時間は、ないのだ。

おやまあ、今日のコヤは札止めかい?
しゃあない、来月また来ようか?

今日はなんでも、東京からエラい人数、来てるだにい。

おや?
あの金色に輝いてるのは、寅さんじゃないかい?

なあさくら、東京からこんなに小諸へ人が来たのは、いつ以来だい?

せっかくだからさあ、柴又のおいちゃんおばちゃんにも、このバスをさあ、映像で見せてやれよ。

小諸も朝は雨だったんだぜ。
それがどうだよ、この青空。

さあ、上映が終わったよ。
マイクに、スポットライトが、灯された。
トークショウの、始まりさ。

さあ、今日はゲストが、一杯いるよ。
早くしないと、帰りのバスの時間になるぜ。

僕よりちょっと年上の、本日の運転手にして社長、山本宏昭さんだ。
今日は時間との闘いで、本当にお疲れのことだっただろう。
寡黙さが、かえって雄弁だ。

トークショウは、30分を越えてもまだ終わらない。
本間さんが東京から招待した、こんなお客さんも壇上に上げちゃおう!

森崎東さん監督、中井貴一さん共演の映画「ラブ・レター」(1998年)主演俳優の耿忠(コウ・チュウ)さん。

この映画、切なくってよかったなあ。
当時流行った、外国人との偽装結婚。
そうすれば、日本国籍を得ることができるからだ。
彼女も、中井さんとそうした偽装結婚をする役。
でも、彼女は日本で死んでしまう。
彼女が中井さん演ずる「偽の夫」に書いた、ラブ・レターとは…。
泣けるよお!
森崎さんは「男はつらいよ」第3作の監督でもあり。

そしてもう1人、ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」(2007年)監督の李纓(リー・イン)さん。

この映画は、当時話題になっただよ。
右翼の街宣カーが映画館に来ちゃって、上映を妨害しようとして。
テレビのニュースにも、散々なった。
「でも、いい宣伝になりましたよ。よかったです」
と、温厚で素敵な李さん!

さあ、名残惜しいけれど、そろそろ帰んなきゃよ。
ゆうめしも食わずにバスを飛ばしても、帰りは夜中だぜ。

お別れに「男はつらいよ」をハーモニカで吹く、かっくん。

ココトラのメンバーは、本当に心優しい。

また、帰っておいでよ。
寂しいからさあ。

僕は、ココトラの皆と抱き合って、別れを惜しみ、帰路に着いた。
帰りは渋滞もなく、3時間で新宿に到着。
轟屋いっちーが皆に差し入れてくれた信州のお菓子のおかげで、空腹にならずにすんだよ。
僕は、最後の挨拶をした。
「田舎の人っていうのは、心にゆとりがあって、温かいんです。今日だけでも小諸の温かい人々に出会えましたが、まだまだ皆さんに紹介したい人々、居酒屋、スナック、民宿、温泉、渥美さんが愛した風景、まだまだ沢山あります。毎回来てくれとは言いません。なんで渥美さんは小諸を愛するようになり、病気にさえならなければ、永住の地とさえ決めていたのはなぜだろう?と思い出したら、また小諸に来て下さいね」
皆さんが、拍手喝采してくれた。

これを読んでいる読者の皆さんも、もしよかったら、小諸に来てね。
渥美さんが、空から見守ってくれていますよ。

次回上映は、5月9日(土)です。

[ご予約・お問い合せ]銀河鉄道株式会社 予約センター
TEL:042-398-0088
FAX:042-398-0009
メール:reserve@gintetsu.co.jp


2015.04.13