第五話「バターライス」

 

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三つ星や五つ星には縁のない深夜食堂。常連客の小道(宇野祥平)が、本当においしいものを食べさせようと、マスター(小林薫)のところに料理評論家の戸山(岩松了)を連れて来てしまう。グルメの知識をひけらかす戸山のせいで、店は嫌なムードに。
そこにやって来たのが、今や絶滅寸前の流しの歌手・ゴロー(あがた森魚)。週一回やって来る彼は、いつものバターライスを食べ、『函館の女』を熱唱する。戸山はその時から毎週やってきてバターライスを注文するのだが、今度はゴローの方が来なくなった。(公式サイトより抜粋)
 
 
バターライスの味は変わらない・・・
 
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いそいそとバターライスを作る鎌田。
 鎌田「ポテトサラダの時は仕込みに時間がかかったから、今回は
    楽でいいや!あがた森魚の曲で好きなものはある?」
 倉田「あまり聴かないんですが、赤色エレジーくらいでしょうか。
    その林静一さんとのアニメ作品は素晴らしかったです」
 鎌「アニメなら「うる星やつら」のEDも歌っていたね」
 倉「「うる星やつら」ですか!知らなかった!」

カメラマン小道が、料理評論家・戸山(岩松了)を連れて。
 鎌「(小道に) 出たよ!厄介な客を連れてくるダメなカメラマン」
 倉「今回の岩松さんは一番分かりやすく癖のあるキャラでしたね」
 鎌「うん。良かった!」
 倉「岩松さん、最近本当によく出られていますよね」
 鎌「(いらない情報を口にする評論家に爆笑)」
 倉「僕も料理をしますけど、飯でウンチク言いながら食う奴って
   本当に嫌いです(笑)」
 鎌「下品な笑い方もね(笑)」
 倉「逆の意味で、自身のステータスに酔えるっていいですよね(笑)」
 鎌「あ、バターライス美味いな」
 倉「僕・・ダメです・・まんべんなく混ぜれば良かったのかな?」

ゴローさん(あがた森魚)登場。
 鎌「あがた森魚って色々芝居やってたっけ?」
 倉「映画はよくやられていますよね。あとたまにドラマ。
   その他は・・舞台もやられているのかな?」

再びのお茶漬けシスターズ。
 鎌「(変わらないやり取りに爆笑の鎌田氏)」
 倉「こういう関係でいいんでしょうね(笑)」
 鎌「(お茶漬け二杯食べたという話に) 二杯は食べ過ぎだろ(笑)」
 倉「それでバターライスも食べたいとか。どんだけだよ(笑)」
 鎌「俺みたいになっちゃうよ。女で(笑)」

ゴローさんが店内で歌いだす。
 倉「あがたさんは演技が上手いという訳ではないですが、この作品
   では“流し”という役柄には口調も佇まいも非常に合っていて、
   いいですよね」
 鎌「あがたの事知らない人が観たら、本当に流しの人だと思うよ」
 倉「そうですね」
 鎌「俺はこの人に歌い方似ていると言われた事があるよ」
 倉「あがたさん、この年齢にしては声が若いですよね。若い男性の
   いい音が出ますよね。いい声されています」
 鎌「うん!あ、流しの人って見た事ある?」
 倉「ありますよ」
 鎌「え、ある?何処で?」
 倉「地元や東京でですね」
 鎌「地元で?!へえ~!そりゃ凄い!」

料理評論家がある高級店で試食中。大きなテーブルに戸山一人ついて。
 倉「この回って、この絵でも象徴されている様に、ご飯を誰と食
   べるか?という問いもありますよね。一人でご飯を食べても
   どんなに美味しくても、美味しいと感じられるかどうかは分
   からないじゃないですか。誰かと一緒に食べた、というのが
   今回のキーかな」
 鎌「そうだねえ」
 倉「(評論せず立ち去る戸山に) 感想言えっ!!!本当に評論家と
   か大っきらい!(笑)」

長い時を経て再会する、戸山とゴロー。そして・・・。
 鎌「バターライスの味は変わらない・・・いいセリフだ・・」
 倉「ここの胸に来る長回しは、シリーズ屈指だと思います・・」
 鎌「会えて良かった・・・」
 倉「ゴローと、戸山の姉リツコさんが函館の坂を下るカット、後ろ
   姿が現在の老いた背ではなく、若い頃の姿に見えませんか?」
 鎌「おお!そうか!」
 倉「ちょっとリツコさんもゴローさんも若い背に見えるんですよね?
   そういう意図的な演出なのかなあ?素晴らしいです」

レシピコーナーにて「♪おやすみなさい」と歌うあがた森魚。
 鎌「これを実際に深夜で観た時は、その言葉がグッと来たんだ」
 倉「レシピの所まで入れて、この回が良いと思えるのはコレくらい
   でしたね。最後にもう一度二人に会えたのが嬉しく感じました」
 鎌「そうだねえ」
 
 
人生は因果なもの

 倉「第三話はアレでしたけど、僕は四話、五話で盛り返しましたね。
   いやああがたさんが素晴らしいです」
 鎌「岩松了も作品によって差はあるけど、これは良かった!」
 倉「いい毒と素直さの出方がいいですよね。岩松さんの他作での使
   われ方では嫌な役柄も多いんですけど、これは彼らしい、良い
   部分が多く出ていたなと。評論家的な芝居も合っていました」
 鎌「そうだねえ」
 倉「しかし、凄い再会でしたよね。こんな再会、あるんだろうか」
 鎌「そんな事ってかなり無いんだけど・・信じたくなる力がこの作
   品には、この食堂にはあるよね」
 倉「因果なものですよね。戸山自体はゴローさんの家でバターライ
   スを食べていた訳だから貧乏って訳ではないと思うので、それ
   が大人になって美食家になって、それでバターライスで巡り逢
   うというのも凄いですよね」
 鎌「これを観ながら、また親友とこういった形で再会したいなって
   本当に思ったね・・・。もう42年も生きていると、もうこの人
   とは一生会えないんじゃないかという人はいっぱいいるからね。
   どうにも連絡先が分かんなくて、何処にいるんだからさっぱり
   な人だとか」
 倉「でもこの話って、実は戸山が会いたかった人とは少し違うじゃ
   ないですか。彼も会いたかったんでしょうけど、ずっと真に会
   いたかったのは戸山のお姉さんではないかと。未婚のまま暮ら
   す姉を傍でずっと見てきて、お姉さんと同化する様に、ゴロー
   さんをどこか探していた様にも思えるんです。その関係性も美
   しくて、この話が好きなんですよね。巧いなあと」
 鎌「よしんば、姉のリツコさんがゴローさんの事を待っていて独身
   でなかったとしても、いいんだと思う。色んな理由があって独
   身だったとしてもいいと思うんだ、人生って。そんなに四角は
   四角、丸は丸、そんな人生はないからね」
 倉「多分リツコさんにもその後、色んな話も恋愛もあったとは思い
   ますけど、幼い弟から見ていれば、一人身の姉の理由や寂しさ
   を感じていたんではないかと思います」
 鎌「倉田君にはどんな会えない人がいる?会いたいけど会えない」
 倉「基本的に、会いたい人はもうみんな亡くなっていますね・・」
 鎌「そう・・・」
 倉「小学1年から高校3年まで教えて頂いた剣道の先生には会って
   お礼を言いたかったです・・・」
 鎌「俺には沢山いるね。中学の先生、塾の先生、環八沿いにあった
   店の女将さん」
 倉「僕も東京で行き付けの飲み屋さんが突然消えたり、店長がいな
   くなったりした悲しい経験はありますね」
 鎌「何も残さず去る、去られたという、あの無常観というのは・・・
   ないよね・・・。リツコさんがどれだけ辛かったか・・」
 倉「リツコさんは自身にも負い目も、ゴローさんに去られても仕方
   無かった状況がありましたから、余計に辛かったでしょうね」
 鎌「そうだよね・・・」

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ファンタジーの生まれる場所

 倉「他の作品のポテトサラダや他の料理も美味しそうに見えていた
   んですが、この作品のバターライスは、実際に食べてみたらさ
   ほど美味しく感じ無かったんですよね。でもドラマ内で食べて
   いるのが美味しそうに見えていたという意味では、この回のバ
   ターライスがシリーズ通して一番そう感じられていましたね」
 鎌「ね!」
 倉「経験的に彼らと同じ様な事は少ないんですが、俳優の演技とス
   トーリーによって、誰にでも分かる、美味しいと感じられるも
   のに成り得ていると思います。この回は懐かしさと嬉しさの部
   分で食べられている点も、観ている側も嬉しく感じられている
   のかもしれません」
 鎌「いやあ、よくこんな米モノを考えるなあと思う」
 倉「バターライスって昔とかに食べた事あります?」
 鎌「ないよ!思いもつかないよこんなレシピは!」
 倉「僕も昔テレビで見た程度でしたね」
 鎌「食べた事ない」
 倉「でもこれこそが思い出の味なんでしょうね。完全に美味しくて、
   という部分が抜け落ちてますよね。その意味は美食家がこれを
   食べるというところからも。美味しいとは違う部分で食べてい
   るんだと思います。最後は秘書にも無理やり食わせてましたが」
 鎌「また俺の親友の話になるんだけど、俺は今ではそれほど大きな貧
   乏をしていないから、貧しい酒場ばかり回るという事もないんだ
   けど、昔、親友とは金が無い時はチェーン店ばかり行って、アイ
   ツとだけはどんな貧しい、貧素な酒場でも大丈夫だったね。
   それはいい時が過ごせれば、どんな場でもどんな食い物でも良か
   ったんだよね」
 倉「そう思います。僕も相手だけです重要なのは。僕がうん!と思え
   る相手なら場所も食い物も関係ないです」
 鎌「そうだね」

 鎌「でもさ、多分、会えない人っていっぱいるんだろなあ。
   俺もYahooやGoogleで何度色んな人を検索しただろうか」
 倉「ネットやメールが便利になってからは、出来るだけ所在を見失
   わない様にしていますが、それでも大切な仲間の一人とは連絡
   がどうにも付かなくなってしまいましたし・・」
 鎌「会えないというは本当に辛い時があるよね。10、20代の頃は
   死別や恋人との別れは別として、会えなくなる人がいると思っ
   て生きていなかった。楽観的な青年だっただけなのかもしれな
   いけど、そんな事があるとは思いもしなかった」
 倉「僕もそうでした・・・」
 鎌「だから、そういう寂しさを実現してくれたこの回は本当にファ
   ンタジーだったな・・」
 倉「だからこの作品を観た方も、自分にもそんな奇跡が起きるかも
   しれない事を信じて欲しいですね。なにか、二度会えないと思
   い込むよりかは、こういう事もあるかも?と思えていた方がち
   ょっと幸せかな、とも思います」
 鎌「またね、何十年という月日があると人間てね、デブになってた
   りブスになってたり、ハゲになってたり。そういったモノ以上
   に価値観や考え方、その人そのものが変わっちゃう事があるん
   だよね」
 倉「はい・・」
 鎌「俺も何十年かぶりに会えた人もいるんだけど、昔のこの人とは
   違うんだな、と思ったりしてね・・」
 倉「もしそういう、悲しい経験をしていた場合、再会への期待とか
   は持てなくなる事もあるかもしれませんね・・それは寂しい事
   だと思います」
 鎌「ゴローさんも、姉のリツコさんも、ものすごく幸運な事に、
   心の部分では変わっていなかったという奇跡があったのかな?」
 倉「はい・・。深夜食堂はファンタジーの生まれる場所ですね。
   まあ、そんな一筋縄な話ばかりでもないですけど」
 鎌「そうだねえ」
 
  
一つ失って、一つを得る

 倉「ゴローさんは若い頃ミュージシャンを目指していたんでしょ
   うね。それから流しになり、食えないから別に職を持ち、そ
   こで怪我をして、そこで再会。すごいタイミングの嵐ですけど。
   ゴローさんは怪我で音楽、音楽の志を無くしてから、再会して
   いる。それはものすごく象徴的な気がします」
 鎌「なるほどねえ」
 倉「リツコさんが親が勝手に決めた縁談で結婚するという事を知っ
   て、悲しくてか怒ってか、出て行ったのもあったろうし、ミュ
   ージシャンで俺は成り上がるぞ!という部分もあった時期だと
   思うんです。どちらが強かったかは分かりませんが。自分の夢
   に突き進んでいって、それを無くした時に、自身に立ち戻ると
   いうのも、非常に巧い構成だなと思います」
 鎌「一つ失って、一つを得るんだね」
 倉「凄いバランスで作品が成り立っているなあと思いますね」
 鎌「俺はね、決めたよ!」
 倉「何をです?」
 鎌「俺は(あるギターを指し)このギターを捨てます!」
 倉「あの・・・そのギター、僕が差し上げたものなんですけど・・・」
 鎌「(爆笑)」
 倉「僕も鎌田さんも一つ夢を追っているじゃないですか。もしそれを
   スパッと辞める、辞めざるを得ない時に、何と出会うのかな?と
   は考えますね」
 鎌「俺はゴローさんとシンクロするのかな?33歳にプロを辞めて
   サラリーマンになった時に、色んなモノを得る事ができたね」
 倉「僕は縋り続けているんで・・・分かってはいるんです。こう
   している事で見落としている事、手に入れていない事が多く
   ある事、それが有る事をよしとするかどうかは、辞めてみな
   いと分からないですね・・・どう思うんだろう俺・・」
 鎌「町工場で働くゴローさんと、今の俺の幸福度はほぼ同じだと
   言いたいね。更にゴローさんは次の場所に行けたんで、俺も
   それを夢みていきたいと思うよ」
 倉「この話の主役が幸せになって、それが本当に良かったと思え
   る話だったんですねコレは。他の回は悲しかったり、その後
   どうしていったかなとこちらで考える話が多い中で、いい顛
   末になってくれた事を、他の回の事も相俟って嬉しく感じて
   いますね」
 鎌「この事によって評論家の戸山もね、昔は良かった、ではなく、
   今を豊かに楽しんでいるというのもいいよね」
 倉「前向きな話なんですよね。だから少し救われたというか。
   第1話が思い出を蘇らせながら食べる行為は切ないという話が
   ここで出たじゃないですか?この話では少し、答え、じゃない
   ですけど、こんな風に消化できるのなら、思い出の食べ物と向
   かい合う事も悪くはない、とも思えたりして・・・」
 鎌「現実はね、再会できない人の方が多くてさ、後悔ばかりでさ。
   芸術の良いところって、夢を見させてくれるとこが素晴らしい
   んだよ。で実際、そう思って創っている作者、芸術家は多いと
   思うんだけど、中々その想いを具現化できる人は少ない訳で。
   これは本当に30分という短さの中で、夢を見させてくれたよね」
 倉「リアルな夢ですよね・・」
 鎌「うん・・・それでも・・俺には会いたい人がいるよ・・・」

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第六話へつづく・・・
 
 

 

2010.08.23